転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十一話:外へ伸びる手

 

 外へ手を伸ばすというのは、単純な行為じゃない。

 

 内側から外側へ触れるとき、必ず摩擦が起きる。

 

 拒絶。

 利用。

 誤解。

 奪取。

 

 そして何より──

 

 内側の論理が通じない。

 

 朝。

 

 詰所は、珍しく全員が揃っていた。

 

 理由は一つ。

 

 外側への“途中”設置計画。

 

 ホワイトボードには新しく書かれている。

 

 外縁緩衝帯(仮)。

 

 ハルがそれを見て、顔をしかめる。

 

「また名前が硬い」

 

「正式名だ」

 

「通称は?」

 

「考えろ」

 

 ハルは腕を組み、少し考えて言った。

 

「……“外の途中”」

 

 黒狼が吹き出す。

 

「そのまんまかよ」

 

「分かりやすいでしょ」

 

 レゴシが小さく頷く。

 

「うん、分かりやすい」

 

 イオリが淡々と記録する。

 

「通称“外の途中”で登録します」

 

「軽いな」

 

「機能的です」

 

 ◇

 

 問題は、どこに作るか。

 

 内側の“途中”は地下だった。

 

 だが外側は違う。

 

 完全な地下は危険すぎる。

 完全な地上は干渉が多すぎる。

 

 そこで候補に上がったのは──

 

 南部外圏、廃水処理施設跡。

 

 半地下構造。

 複数の出入口。

 広いが見通しが悪い。

 

 良くも悪くも、外だ。

 

 ルイが言う。

 

「危険だな」

 

「だからいい」

 

 俺は答える。

 

「内側と同じ条件では意味がない」

 

 イオリが補足する。

 

「外縁緩衝帯は、外部との接触を前提に設計する必要があります」

 

 ハルが少し不安そうに言う。

 

「襲われたりしない?」

 

 黒狼が肩をすくめる。

 

「されるだろうな」

 

 レゴシが真顔で言う。

 

「守る」

 

 短い。

 

 だが、そこに迷いはない。

 

 ◇

 

 外側に作る以上、ルールも変わる。

 

 内側の“途中”は、

 ・出入り自由

 ・観測優先

 ・最小介入

 

 だった。

 

 外側では──

 

 介入強度を一段上げる。

 

 俺はボードに書く。

 

 一、出入り自由(維持)

 二、観測開示(維持)

 三、武力介入条件拡張

 四、外部接触管理

 五、緊急回収優先

 

 カナンが聞く。

 

「武力介入って……増えるんですか」

 

「増える」

 

「危ないから?」

 

「そうだ」

 

 外では、“止める”の定義が変わる。

 

 内側では抑えるだけでいい。

 

 だが外では、抑えきれない場合がある。

 

 その時は、強く止める。

 

 黒狼が言う。

 

「甘くやると、全員死ぬ」

 

 重い言葉。

 

 ハルは黙る。

 

 だが、否定しない。

 

 ◇

 

 午後。

 

 設営が始まった。

 

 黒狼が先行してルート確認。

 レゴシが安全圏を確保。

 イオリが観測端末設置。

 俺とルイが動線設計。

 

 ハルは後方支援。

 

 灯りの設置と、簡易導線の可視化。

 

 青い灯りが、外へ伸びていく。

 

 途中の灯り。

 

 その先に、新しい灯り。

 

 繋がる。

 

 ◇

 

 設営中、最初の接触があった。

 

 外側の連中だ。

 

 若い肉食三体。

 

 様子を見るように近づいてくる。

 

 黒狼が前に出る。

 

「何だ」

 

 肉食の一体が笑う。

 

「ここ、“沈み場”か?」

 

 来たな。

 

 言葉を歪めて広める。

 

 俺は答える。

 

「違う」

 

「じゃあ何だ」

 

「途中だ」

 

 肉食は笑う。

 

「どっちも同じだろ」

 

「違う」

 

 俺は言った。

 

「沈むなら出ていけ」

 

「は?」

 

「ここは沈む場所じゃない」

 

「流す場所だ」

 

 沈黙。

 

 肉食たちは少し戸惑う。

 

 黒狼が低く言う。

 

「入りたいなら、動け」

 

 肉食はしばらく考えた。

 

 そして一体が言った。

 

「……見るだけならいいか」

 

「いい」

 

 それで十分だ。

 

 最初は見るだけ。

 

 それでも流れは生まれる。

 

 ◇

 

 夕方。

 

 “外の途中”が最低限形になった。

 

 内側より粗い。

 だが、それでいい。

 

 整えすぎると、外では使えない。

 

 ハルが灯りを見て言う。

 

「ここ、ちょっと怖い」

 

「怖いのが普通だ」

 

 俺は答える。

 

「怖くない外は嘘だ」

 

 ハルは少し黙り、それから頷いた。

 

「……うん」

 

 ◇

 

 最初の受け入れ。

 

 予想以上に早かった。

 

 二体の草食。

 一体の肉食。

 

 全員、線の外から自発的に来た。

 

 理由は同じ。

 

 “灯りを見たから”。

 

 それだけでいい。

 

 ◇

 

 問題はすぐに出た。

 

 肉食の一体が、草食へ距離を詰めた。

 

 威圧。

 

 レゴシが即座に入る。

 

「止まれ」

 

 肉食は睨む。

 

「外だぞ」

 

「だから止まれ」

 

 低い声。

 

 だが、強い。

 

 黒狼も横に立つ。

 

 挟む形。

 

 肉食は舌打ちし、距離を取った。

 

 これだ。

 

 外では、“止める”の質が変わる。

 

 早く。

 確実に。

 

 それでも、過剰にしない。

 

 バランス。

 

 ◇

 

 夜。

 

 詰所へ戻る。

 

 報告。

 

 受け入れ三体。

 衝突一件。

 負傷なし。

 

 成功だ。

 

 だが、疲労は大きい。

 

 ハルがソファに沈む。

 

「……内側より疲れる」

 

「当然だ」

 

 ルイが言う。

 

「外は調整が効かない」

 

 レゴシが静かに言う。

 

「でも、必要だと思う」

 

「そうだ」

 

 俺は答える。

 

「ここを作らないと、途中に来る前に消える」

 

 カナンが小さく言う。

 

「……俺も、ここがあったら」

 

 言葉を切る。

 

 ライカが続ける。

 

「来てたと思う」

 

 沈黙。

 

 それが答えだ。

 

 ◇

 

 だが、当然。

 

 外側で動けば、目立つ。

 

 グレイも動く。

 

 その夜。

 

 封筒ではなく、直接だった。

 

 外の途中。

 

 青い灯りの外側。

 

 影が一つ立っていた。

 

 グレイ。

 

 笑っている。

 

「やるな」

 

 黒狼が舌打ちする。

 

「出てきやがったか」

 

 レゴシが一歩前に出る。

 

 だが、俺は手で止めた。

 

「何だ」

 

 グレイは肩をすくめる。

 

「挨拶だ」

 

「用件を言え」

 

「ここ、面白いな」

 

 周囲を見回す。

 

「内でも外でもない」

 

「いい玩具だ」

 

 ハルが小さく呟く。

 

「最悪」

 

 グレイは続ける。

 

「だが、長くは持たない」

 

「なぜ」

 

「簡単だ」

 

 笑う。

 

「外は食う場所だ」

 

「流す場所じゃない」

 

 レゴシが低く言う。

 

「変える」

 

 グレイは少しだけ目を細めた。

 

「変えられると思うか?」

 

 沈黙。

 

 俺は答えた。

 

「変える」

 

 短い。

 

 だが、それでいい。

 

 グレイはしばらくこちらを見ていた。

 

 やがて、笑った。

 

「いい」

 

「壊しがいがある」

 

 そう言って、闇へ消えた。

 

 ◇

 

 戻る道。

 

 途中。

 

 外の途中。

 

 流れは繋がった。

 

 だが、それを壊そうとするものも現れた。

 

 当然だ。

 

 流れは、利害を変える。

 

 利害が変われば、争いが起きる。

 

 ◇

 

 屋上。

 

 イオリが静かに言う。

 

「外縁緩衝帯、稼働確認」

 

「まだ細い」

 

「ですが、繋がりました」

 

「そうだ」

 

 少し沈黙。

 

「次は?」

 

 イオリが聞く。

 

 俺は答える。

 

「守る」

 

「どこを」

 

「流れをだ」

 

 途中も。

 外の途中も。

 

 繋いだ流れ。

 

 それを維持する。

 

 それが次だ。

 

 ◇

 

 手は伸びた。

 

 外へ。

 

 だが、伸ばした手は掴まれる。

 

 引き込まれる。

 

 切られる。

 

 それでも、伸ばし続ける。

 

 ──メインクーンの俺が、“外へ伸びる手”ごと、この世界を繋ぎ直してやる。

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