転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十二話:流れを守る者たち

 

 流れは、作るより守る方が難しい。

 

 作る時は、押せばいい。

 壊す側もまだ様子を見る。

 

 だが、流れが形を持った瞬間──

 

 奪う者が現れる。

 塞ぐ者が現れる。

 歪める者が現れる。

 

 そして、流れは止まる。

 

 だから必要になる。

 

 流れを守る者。

 

 朝。

 

 詰所の空気は、張り詰めていた。

 

 理由は単純。

 

 外の途中で、妨害が三件連続した。

 

 イオリが報告する。

 

「帰還導線上での威圧行為、一件」

「外縁緩衝帯への侵入妨害、二件」

 

 ルイが低く言う。

 

「始まったな」

 

「早い」

 

 俺は答えた。

 

 黒狼が笑う。

 

「分かりやすい連中だ」

 

 ハルが眉を寄せる。

 

「これ、増えるよね」

 

「増える」

 

 レゴシが静かに言う。

 

「止める人がいないと、流れが止まる」

 

 その通りだ。

 

 今までは、偶然守れていた。

 

 だが、もう違う。

 

 流れは“狙われる対象”になった。

 

「作る」

 

 俺は言った。

 

「何を」

 

「守る役割だ」

 

 ◇

 

 ホワイトボードに新しく書かれる。

 

 流守(りゅうしゅ)。

 

 ハルが顔をしかめる。

 

「また名前が硬い」

 

「正式名だ」

 

「通称は?」

 

 少し考える。

 

 レゴシがぽつりと言った。

 

「……道番?」

 

 黒狼が笑う。

 

「悪くねえな」

 

 ハルも頷く。

 

「いいじゃん、それ」

 

 イオリが記録する。

 

「通称“道番”で登録します」

 

 ◇

 

 道番の役割は単純だ。

 

 流れを止めない。

 

 それだけ。

 

 具体的には三つ。

 

 一、帰還導線の巡回。

 二、外の途中の安定維持。

 三、妨害への即応。

 

 黒狼が腕を組む。

 

「要するに用心棒か」

 

「違う」

 

 俺は言う。

 

「用心棒は守る対象が固定だ」

 

「道番は、流れを守る」

 

 レゴシが頷く。

 

「場所じゃなくて、動きを守るんだね」

 

「そうだ」

 

 ◇

 

 問題は人選だ。

 

 誰でもいいわけではない。

 

 条件は三つ。

 

 止められる。

 見える。

 戻れる。

 

 黒狼が笑う。

 

「俺だな」

 

「お前は確定だ」

 

 レゴシも言う。

 

「俺もやる」

 

「やれ」

 

 カナンが迷いながら手を挙げる。

 

「……俺も」

 

 少し静かになる。

 

 ライカが見る。

 

 ハルが言う。

 

「まだ早いかも」

 

 カナンは俯く。

 

 だが、黒狼が横から言った。

 

「見習いで入れろ」

 

 全員がそちらを見る。

 

「最初から完璧なやつなんかいねえ」

 

「途中を通ったやつがやる意味がある」

 

 ……正しい。

 

 俺は頷いた。

 

「見習いで入る」

 

 カナンは驚いた顔をした。

 

「いいんですか」

 

「条件付きだ」

 

「はい」

 

「一人では動かない」

 

「……分かりました」

 

 ライカは何も言わなかった。

 

 だが、その目は揺れている。

 

 ◇

 

 午後。

 

 最初の道番運用。

 

 レゴシと黒狼が先行。

 

 カナンは後方、イオリの観測付き。

 

 最初の任務は、帰還導線の巡回。

 

 青い灯りを辿る。

 

 途中で、一体の草食が立ち止まっていた。

 

 震えている。

 

 前にも後ろにも動けない。

 

 レゴシがゆっくり近づく。

 

「どうした」

 

 草食は言葉が出ない。

 

 黒狼が周囲を確認。

 

「後ろに二体いる」

 

 威圧。

 

 直接の接触はないが、戻るのを止めている。

 

 レゴシが前に立つ。

 

「通る」

 

 後ろの肉食が笑う。

 

「ここは外だぞ」

 

「知ってる」

 

 レゴシの声は低い。

 

「でもここは、戻る道だ」

 

 黒狼が横に立つ。

 

「邪魔すんな」

 

 短い衝突。

 

 だが、すぐに退いた。

 

 流れを止めるつもりはあっても、全面衝突は避けたい。

 

 まだその段階だ。

 

 草食は、レゴシの後ろについて歩いた。

 

 灯りへ。

 

 そのまま、内側へ戻る。

 

 成功だ。

 

 ◇

 

 カナンはその様子を見ていた。

 

 終わった後、ぽつりと言う。

 

「……あれ、俺でもできるかな」

 

 黒狼が笑う。

 

「できる」

 

「でも怖いです」

 

「当たり前だ」

 

 レゴシが言う。

 

「怖くても動けるようになる」

 

 カナンは小さく頷いた。

 

 ◇

 

 外の途中。

 

 ここでも問題は起きていた。

 

 流入が増えた。

 

 だが、同時に“居座り”も増えた。

 

 クロウが報告する。

 

「外から、“ここにいればいい”って言ってるやつがいる」

 

 ハルが顔をしかめる。

 

「それダメなやつ」

 

「ダメだ」

 

 俺は答える。

 

 途中は滞在場所ではない。

 

 流れる場所だ。

 

 止まれば沈む。

 

「動かす」

 

 ◇

 

 その日の夕方。

 

 外の途中で、“強制選択”を行った。

 

 通常は四日目。

 

 だが今回は例外。

 

 明らかに居座り始めた個体三体。

 

 全員を出口へ立たせる。

 

 黒狼が言う。

 

「どこ行く」

 

 一体が笑う。

 

「ここでいい」

 

「ダメだ」

 

「何でだ」

 

「途中だからだ」

 

 沈黙。

 

 レゴシが静かに言う。

 

「止まるなら、別の場所に行こう」

 

「どこだよ」

 

「一緒に探す」

 

 その言葉は、少しだけ効いた。

 

 完全な拒絶ではない。

 

 結果。

 

 一体は外へ戻った。

 一体は内側へ。

 

 最後の一体。

 

 選ばない。

 

 黒狼が舌打ちする。

 

「どうする」

 

 俺は言った。

 

「保留」

 

 もう一日だけ残す。

 

 だが、条件を変える。

 

 同行選択。

 

 ◇

 

 夜。

 

 カナンがその同行役をやった。

 

 見習いとして。

 

 相手は、選ばなかった肉食。

 

 カナンは震えていた。

 

 だが、逃げなかった。

 

「……俺も、選べなかった」

 

 肉食が見る。

 

「だから、ここに来た」

 

 沈黙。

 

「でも、選ばないと、ここにいられない」

 

 カナンの声は小さい。

 

 だが、確かだ。

 

「一緒に決めるか」

 

 長い沈黙。

 

 やがて肉食が言った。

 

「……外」

 

 決まった。

 

 カナンは息を吐いた。

 

 レゴシが後ろで小さく頷く。

 

 黒狼が笑う。

 

「やったじゃねえか」

 

 カナンは少しだけ笑った。

 

 初めて、自分で誰かの流れを動かした。

 

 ◇

 

 詰所。

 

 報告。

 

 流れは維持されている。

 

 だが、圧は増している。

 

 ルイが言う。

 

「持つか」

 

「持たせる」

 

 俺は答える。

 

 ハルが小さく言う。

 

「道番、増やさないとね」

 

「増やす」

 

 イオリが頷く。

 

「選定を開始します」

 

 ライカが、少しだけ手を握った。

 

 まだ言わない。

 

 だが、その視線は決まっている。

 

 ◇

 

 屋上。

 

 流れは、まだ細い。

 

 だが、途切れていない。

 

 道番が動き始めた。

 

 途中も、外の途中も、流れ続けている。

 

 だが、これで終わりじゃない。

 

 次に来るのは──

 

 流れそのものを奪う動き。

 

 グレイはまだ、本気を出していない。

 

 その時が来る。

 

 俺は街を見下ろす。

 

 青い灯り。

 

 その間を繋ぐ流れ。

 

「来い」

 

 小さく呟く。

 

「全部、受けてやる」

 

 ◇

 

 流れを守る者が生まれた。

 

 だが、それでも流れは脆い。

 

 だから増やす。

 

 広げる。

 

 繋げる。

 

 ──メインクーンの俺が、“流れを守る者たち”ごと、この世界に根付かせてやる。

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