転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
流れは、作るより守る方が難しい。
作る時は、押せばいい。
壊す側もまだ様子を見る。
だが、流れが形を持った瞬間──
奪う者が現れる。
塞ぐ者が現れる。
歪める者が現れる。
そして、流れは止まる。
だから必要になる。
流れを守る者。
朝。
詰所の空気は、張り詰めていた。
理由は単純。
外の途中で、妨害が三件連続した。
イオリが報告する。
「帰還導線上での威圧行為、一件」
「外縁緩衝帯への侵入妨害、二件」
ルイが低く言う。
「始まったな」
「早い」
俺は答えた。
黒狼が笑う。
「分かりやすい連中だ」
ハルが眉を寄せる。
「これ、増えるよね」
「増える」
レゴシが静かに言う。
「止める人がいないと、流れが止まる」
その通りだ。
今までは、偶然守れていた。
だが、もう違う。
流れは“狙われる対象”になった。
「作る」
俺は言った。
「何を」
「守る役割だ」
◇
ホワイトボードに新しく書かれる。
流守(りゅうしゅ)。
ハルが顔をしかめる。
「また名前が硬い」
「正式名だ」
「通称は?」
少し考える。
レゴシがぽつりと言った。
「……道番?」
黒狼が笑う。
「悪くねえな」
ハルも頷く。
「いいじゃん、それ」
イオリが記録する。
「通称“道番”で登録します」
◇
道番の役割は単純だ。
流れを止めない。
それだけ。
具体的には三つ。
一、帰還導線の巡回。
二、外の途中の安定維持。
三、妨害への即応。
黒狼が腕を組む。
「要するに用心棒か」
「違う」
俺は言う。
「用心棒は守る対象が固定だ」
「道番は、流れを守る」
レゴシが頷く。
「場所じゃなくて、動きを守るんだね」
「そうだ」
◇
問題は人選だ。
誰でもいいわけではない。
条件は三つ。
止められる。
見える。
戻れる。
黒狼が笑う。
「俺だな」
「お前は確定だ」
レゴシも言う。
「俺もやる」
「やれ」
カナンが迷いながら手を挙げる。
「……俺も」
少し静かになる。
ライカが見る。
ハルが言う。
「まだ早いかも」
カナンは俯く。
だが、黒狼が横から言った。
「見習いで入れろ」
全員がそちらを見る。
「最初から完璧なやつなんかいねえ」
「途中を通ったやつがやる意味がある」
……正しい。
俺は頷いた。
「見習いで入る」
カナンは驚いた顔をした。
「いいんですか」
「条件付きだ」
「はい」
「一人では動かない」
「……分かりました」
ライカは何も言わなかった。
だが、その目は揺れている。
◇
午後。
最初の道番運用。
レゴシと黒狼が先行。
カナンは後方、イオリの観測付き。
最初の任務は、帰還導線の巡回。
青い灯りを辿る。
途中で、一体の草食が立ち止まっていた。
震えている。
前にも後ろにも動けない。
レゴシがゆっくり近づく。
「どうした」
草食は言葉が出ない。
黒狼が周囲を確認。
「後ろに二体いる」
威圧。
直接の接触はないが、戻るのを止めている。
レゴシが前に立つ。
「通る」
後ろの肉食が笑う。
「ここは外だぞ」
「知ってる」
レゴシの声は低い。
「でもここは、戻る道だ」
黒狼が横に立つ。
「邪魔すんな」
短い衝突。
だが、すぐに退いた。
流れを止めるつもりはあっても、全面衝突は避けたい。
まだその段階だ。
草食は、レゴシの後ろについて歩いた。
灯りへ。
そのまま、内側へ戻る。
成功だ。
◇
カナンはその様子を見ていた。
終わった後、ぽつりと言う。
「……あれ、俺でもできるかな」
黒狼が笑う。
「できる」
「でも怖いです」
「当たり前だ」
レゴシが言う。
「怖くても動けるようになる」
カナンは小さく頷いた。
◇
外の途中。
ここでも問題は起きていた。
流入が増えた。
だが、同時に“居座り”も増えた。
クロウが報告する。
「外から、“ここにいればいい”って言ってるやつがいる」
ハルが顔をしかめる。
「それダメなやつ」
「ダメだ」
俺は答える。
途中は滞在場所ではない。
流れる場所だ。
止まれば沈む。
「動かす」
◇
その日の夕方。
外の途中で、“強制選択”を行った。
通常は四日目。
だが今回は例外。
明らかに居座り始めた個体三体。
全員を出口へ立たせる。
黒狼が言う。
「どこ行く」
一体が笑う。
「ここでいい」
「ダメだ」
「何でだ」
「途中だからだ」
沈黙。
レゴシが静かに言う。
「止まるなら、別の場所に行こう」
「どこだよ」
「一緒に探す」
その言葉は、少しだけ効いた。
完全な拒絶ではない。
結果。
一体は外へ戻った。
一体は内側へ。
最後の一体。
選ばない。
黒狼が舌打ちする。
「どうする」
俺は言った。
「保留」
もう一日だけ残す。
だが、条件を変える。
同行選択。
◇
夜。
カナンがその同行役をやった。
見習いとして。
相手は、選ばなかった肉食。
カナンは震えていた。
だが、逃げなかった。
「……俺も、選べなかった」
肉食が見る。
「だから、ここに来た」
沈黙。
「でも、選ばないと、ここにいられない」
カナンの声は小さい。
だが、確かだ。
「一緒に決めるか」
長い沈黙。
やがて肉食が言った。
「……外」
決まった。
カナンは息を吐いた。
レゴシが後ろで小さく頷く。
黒狼が笑う。
「やったじゃねえか」
カナンは少しだけ笑った。
初めて、自分で誰かの流れを動かした。
◇
詰所。
報告。
流れは維持されている。
だが、圧は増している。
ルイが言う。
「持つか」
「持たせる」
俺は答える。
ハルが小さく言う。
「道番、増やさないとね」
「増やす」
イオリが頷く。
「選定を開始します」
ライカが、少しだけ手を握った。
まだ言わない。
だが、その視線は決まっている。
◇
屋上。
流れは、まだ細い。
だが、途切れていない。
道番が動き始めた。
途中も、外の途中も、流れ続けている。
だが、これで終わりじゃない。
次に来るのは──
流れそのものを奪う動き。
グレイはまだ、本気を出していない。
その時が来る。
俺は街を見下ろす。
青い灯り。
その間を繋ぐ流れ。
「来い」
小さく呟く。
「全部、受けてやる」
◇
流れを守る者が生まれた。
だが、それでも流れは脆い。
だから増やす。
広げる。
繋げる。
──メインクーンの俺が、“流れを守る者たち”ごと、この世界に根付かせてやる。