転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十四話:選ばせるという責任

 

 選択は自由だ。

 

 だが、自由には責任がある。

 

 誰の責任か。

 

 選んだ者か。

 選ばせた者か。

 場を作った者か。

 

 全部だ。

 

 だから──選ばせる側も、逃げられない。

 

 朝。

 

 詰所に並ぶのは、いつもの資料ではなかった。

 

 比較資料。

 

 “途中”と“自由滞在区”。

 

 両者の三十日データ。

 

 イオリが読み上げる。

 

「途中:帰還率三七%、再接続率四一%、連絡不能ゼロ」

 

「自由滞在区:帰還率四%、再接続率六%、連絡不能二三%」

 

 沈黙。

 

 数字は嘘をつかない。

 

 だが、数字だけでは動かない。

 

 ハルが言う。

 

「これ、見せるの?」

 

「見せる」

 

 俺は答えた。

 

「でも……“自由滞在区”の方が楽そうに見えるよ」

 

「だから数字を出す」

 

 ルイが言う。

 

「結果を見せるしかない」

 

 ◇

 

 問題はもう一つ。

 

 “選ばせること”への反発だ。

 

 議会からの新しい文書。

 

 “緩衝帯における選択強制の是非”

 

 カナンが顔をしかめる。

 

「強制……ですか」

 

「そう見える」

 

 俺は答えた。

 

「実際、強制している」

 

 ハルが言う。

 

「でも、選ばないと出られないんでしょ」

 

「そうだ」

 

「それって……」

 

 言葉が詰まる。

 

 レゴシが静かに言う。

 

「選ばせないと、止まる」

 

 その通りだ。

 

 だが、それは“押している”ことでもある。

 

 ◇

 

 午後。

 

 公開説明会。

 

 テーマは単純。

 

 “選ばせることは正しいのか”

 

 参加者は多い。

 

 住民。

 保護者。

 施設関係者。

 そして──自由滞在区から来た者もいる。

 

 壇上に立つ。

 

 最初に発言したのは、草食の親だった。

 

「うちの子は、選ぶのが苦手です」

 

「無理に選ばせるのは、負担ではないですか」

 

 当然の疑問。

 

 ハルが一瞬こちらを見る。

 

 俺は答える。

 

「負担だ」

 

 ざわめき。

 

「選ぶことは負担だ」

 

「だが、選ばないことも負担になる」

 

 続ける。

 

「選ばない状態が続くと、動けなくなる」

 

「動けなくなると、外では消える」

 

 静まる。

 

 別の声。

 

 肉食の若い個体。

 

「でも、“自由滞在区”は楽だ」

 

「何も言われない」

 

「それでいいやつもいる」

 

 俺は頷いた。

 

「いる」

 

「じゃあ何で否定する」

 

「否定はしない」

 

 その言葉に、空気が変わる。

 

「ただ、結果を出す」

 

 イオリが資料を表示する。

 

 先ほどの数字。

 

 帰還率。

 再接続率。

 連絡不能。

 

「どちらを選ぶかは自由だ」

 

「だが、結果は変わる」

 

 ルイが続ける。

 

「選択とは、結果を引き受けることだ」

 

 重い言葉。

 

 だが、それが本質だ。

 

 ◇

 

 会場の後ろ。

 

 自由滞在区から来た一体が、ぽつりと言った。

 

「……戻りたい」

 

 小さい声。

 

 だが、聞こえた。

 

 ハルが反応する。

 

「今からでもいいよ」

 

 その一言。

 

 それだけでいい。

 

 ◇

 

 説明会後。

 

 詰所に戻る。

 

 空気は少し変わっていた。

 

 ハルが言う。

 

「ちゃんと伝わったかな」

 

「全部は無理だ」

 

 俺は答える。

 

「でも、動くやつは出る」

 

 レゴシが頷く。

 

「さっきのやつみたいに」

 

 ◇

 

 その夜。

 

 実際に動きがあった。

 

 自由滞在区から、三体が外の途中へ流れてきた。

 

 クロウが報告する。

 

「崩れ始めてる」

 

「そうか」

 

 俺は頷いた。

 

 崩れは悪いことじゃない。

 

 止まったものが、動き出す。

 

 それが重要だ。

 

 ◇

 

 だが、グレイも動く。

 

 翌日。

 

 自由滞在区に新しい要素が追加された。

 

 “選択不要保証”

 

 ハルが呆れる。

 

「何それ」

 

「完全に止める気だな」

 

 黒狼が言う。

 

 選ばなくていい。

 ずっといられる。

 

 究極の甘さ。

 

 そして、究極の停滞。

 

 レゴシが低く言う。

 

「これ……強い」

 

「強い」

 

 俺は答える。

 

「だから対抗する」

 

 ◇

 

 対抗策。

 

 それは単純だった。

 

 “選択支援の強化”

 

 選ばせるだけでは足りない。

 

 選べるようにする。

 

 具体的には──

 

 ・選択肢の可視化

 ・同行選択の拡張

 ・過去選択の記録提示

 

 ハルが言う。

 

「選びやすくするってこと?」

 

「そうだ」

 

「それならいい」

 

 ◇

 

 その日の夕方。

 

 途中で、新しい試みを行った。

 

 出口に、選択履歴を表示する。

 

 誰がどこへ行き、どうなったか。

 

 成功も失敗も。

 

 全部。

 

 カナンがそれを見て言う。

 

「……これ、怖いですね」

 

「怖い」

 

 俺は答えた。

 

「だが、現実だ」

 

 ライカが静かに言う。

 

「でも、分かりやすい」

 

 それでいい。

 

 ◇

 

 夜。

 

 カナンが一体を同行した。

 

 若い草食。

 

 震えている。

 

 選べない。

 

 カナンが言う。

 

「俺も、選べなかった」

 

「でも、選んだら変わった」

 

 草食は黙る。

 

 長い沈黙。

 

 やがて、小さく言った。

 

「……戻る」

 

 決まった。

 

 小さい。

 

 だが、大きい。

 

 ◇

 

 詰所。

 

 報告。

 

 流れは戻り始めている。

 

 だが、競合は続く。

 

 ルイが言う。

 

「長期戦だな」

 

「そうだ」

 

 俺は答える。

 

 ハルが小さく笑う。

 

「簡単じゃないね」

 

「簡単だったことはない」

 

 ◇

 

 屋上。

 

 灯りは増えた。

 

 流れも増えた。

 

 だが、選択も増えた。

 

 選ぶこと。

 

 それは自由だ。

 

 だが、自由には責任がある。

 

 選ばせる側にも。

 

 俺は街を見る。

 

 途中。

 外の途中。

 自由滞在区。

 

 全てが並ぶ。

 

「選べ」

 

 小さく呟く。

 

「全部見て、決めろ」

 

 ◇

 

 選ばせるというのは、優しさじゃない。

 

 責任だ。

 

 それを引き受ける。

 

 ──メインクーンの俺が、“選ばせるという責任”ごと、この世界に叩きつけてやる。

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