転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
選択は自由だ。
だが、自由には責任がある。
誰の責任か。
選んだ者か。
選ばせた者か。
場を作った者か。
全部だ。
だから──選ばせる側も、逃げられない。
朝。
詰所に並ぶのは、いつもの資料ではなかった。
比較資料。
“途中”と“自由滞在区”。
両者の三十日データ。
イオリが読み上げる。
「途中:帰還率三七%、再接続率四一%、連絡不能ゼロ」
「自由滞在区:帰還率四%、再接続率六%、連絡不能二三%」
沈黙。
数字は嘘をつかない。
だが、数字だけでは動かない。
ハルが言う。
「これ、見せるの?」
「見せる」
俺は答えた。
「でも……“自由滞在区”の方が楽そうに見えるよ」
「だから数字を出す」
ルイが言う。
「結果を見せるしかない」
◇
問題はもう一つ。
“選ばせること”への反発だ。
議会からの新しい文書。
“緩衝帯における選択強制の是非”
カナンが顔をしかめる。
「強制……ですか」
「そう見える」
俺は答えた。
「実際、強制している」
ハルが言う。
「でも、選ばないと出られないんでしょ」
「そうだ」
「それって……」
言葉が詰まる。
レゴシが静かに言う。
「選ばせないと、止まる」
その通りだ。
だが、それは“押している”ことでもある。
◇
午後。
公開説明会。
テーマは単純。
“選ばせることは正しいのか”
参加者は多い。
住民。
保護者。
施設関係者。
そして──自由滞在区から来た者もいる。
壇上に立つ。
最初に発言したのは、草食の親だった。
「うちの子は、選ぶのが苦手です」
「無理に選ばせるのは、負担ではないですか」
当然の疑問。
ハルが一瞬こちらを見る。
俺は答える。
「負担だ」
ざわめき。
「選ぶことは負担だ」
「だが、選ばないことも負担になる」
続ける。
「選ばない状態が続くと、動けなくなる」
「動けなくなると、外では消える」
静まる。
別の声。
肉食の若い個体。
「でも、“自由滞在区”は楽だ」
「何も言われない」
「それでいいやつもいる」
俺は頷いた。
「いる」
「じゃあ何で否定する」
「否定はしない」
その言葉に、空気が変わる。
「ただ、結果を出す」
イオリが資料を表示する。
先ほどの数字。
帰還率。
再接続率。
連絡不能。
「どちらを選ぶかは自由だ」
「だが、結果は変わる」
ルイが続ける。
「選択とは、結果を引き受けることだ」
重い言葉。
だが、それが本質だ。
◇
会場の後ろ。
自由滞在区から来た一体が、ぽつりと言った。
「……戻りたい」
小さい声。
だが、聞こえた。
ハルが反応する。
「今からでもいいよ」
その一言。
それだけでいい。
◇
説明会後。
詰所に戻る。
空気は少し変わっていた。
ハルが言う。
「ちゃんと伝わったかな」
「全部は無理だ」
俺は答える。
「でも、動くやつは出る」
レゴシが頷く。
「さっきのやつみたいに」
◇
その夜。
実際に動きがあった。
自由滞在区から、三体が外の途中へ流れてきた。
クロウが報告する。
「崩れ始めてる」
「そうか」
俺は頷いた。
崩れは悪いことじゃない。
止まったものが、動き出す。
それが重要だ。
◇
だが、グレイも動く。
翌日。
自由滞在区に新しい要素が追加された。
“選択不要保証”
ハルが呆れる。
「何それ」
「完全に止める気だな」
黒狼が言う。
選ばなくていい。
ずっといられる。
究極の甘さ。
そして、究極の停滞。
レゴシが低く言う。
「これ……強い」
「強い」
俺は答える。
「だから対抗する」
◇
対抗策。
それは単純だった。
“選択支援の強化”
選ばせるだけでは足りない。
選べるようにする。
具体的には──
・選択肢の可視化
・同行選択の拡張
・過去選択の記録提示
ハルが言う。
「選びやすくするってこと?」
「そうだ」
「それならいい」
◇
その日の夕方。
途中で、新しい試みを行った。
出口に、選択履歴を表示する。
誰がどこへ行き、どうなったか。
成功も失敗も。
全部。
カナンがそれを見て言う。
「……これ、怖いですね」
「怖い」
俺は答えた。
「だが、現実だ」
ライカが静かに言う。
「でも、分かりやすい」
それでいい。
◇
夜。
カナンが一体を同行した。
若い草食。
震えている。
選べない。
カナンが言う。
「俺も、選べなかった」
「でも、選んだら変わった」
草食は黙る。
長い沈黙。
やがて、小さく言った。
「……戻る」
決まった。
小さい。
だが、大きい。
◇
詰所。
報告。
流れは戻り始めている。
だが、競合は続く。
ルイが言う。
「長期戦だな」
「そうだ」
俺は答える。
ハルが小さく笑う。
「簡単じゃないね」
「簡単だったことはない」
◇
屋上。
灯りは増えた。
流れも増えた。
だが、選択も増えた。
選ぶこと。
それは自由だ。
だが、自由には責任がある。
選ばせる側にも。
俺は街を見る。
途中。
外の途中。
自由滞在区。
全てが並ぶ。
「選べ」
小さく呟く。
「全部見て、決めろ」
◇
選ばせるというのは、優しさじゃない。
責任だ。
それを引き受ける。
──メインクーンの俺が、“選ばせるという責任”ごと、この世界に叩きつけてやる。