転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
流れは、いつも勝つわけじゃない。
押される日がある。
止められる日がある。
そして──
負ける日がある。
朝。
詰所に入った瞬間、空気で分かった。
何かが起きている。
イオリの端末の音が止まらない。
ルイは無言で資料を見ている。
ハルは珍しく何も言わない。
「報告」
俺が言うと、イオリが即答した。
「帰還導線の利用数、前日比四割減」
短い。
だが、十分だ。
流れが止まり始めている。
レゴシが低く言う。
「どこに流れてる」
「自由滞在区です」
黒狼が舌打ちする。
「来たな」
原因は明確だった。
昨日、自由滞在区で──
暴力が起きなかった。
それだけ。
資源不足も、一時的に解消された。
外部からの供給が入った形跡。
誰かが“整えた”。
つまり。
グレイが手を入れた。
ハルが言う。
「安全に見えるようにしたんだ」
「そうだ」
俺は答えた。
止まる場所を、安全に見せる。
それだけで、流れは弱る。
さらに悪い報告。
カナンが口を開く。
「……途中から、出ていったやつがいます」
全員が止まる。
「誰だ」
「三体」
声が揺れている。
「……自由滞在区に」
沈黙。
これは初めてだ。
流れが、逆流した。
レゴシが低く言う。
「追うか」
「追わない」
俺は即答した。
「でも──」
「選んだ」
それで終わりだ。
戻すことはできる。
だが、それは流れじゃない。
引き戻しだ。
それをやった瞬間、この構造は崩れる。
ハルが小さく言う。
「……悔しいね」
「そうだな」
俺は答えた。
負けている。
はっきりと。
昼。
道番巡回。
レゴシと黒狼。
カナンも同行。
だが、様子が違う。
灯りの間を歩く獣が減っている。
代わりに、外へ逸れる影が増えている。
一体の草食が、途中の分岐で止まっていた。
右は内側。
左は外。
そして、その先に──
自由滞在区。
カナンが声をかける。
「戻るならこっちだ」
草食は言う。
「……あっちは、何もしなくていいんだろ」
カナンが言葉に詰まる。
黒狼が言う。
「そうだな」
「楽だ」
草食は頷く。
「じゃあ、そっち行く」
止めない。
止められない。
カナンの手が、わずかに動いた。
だが、止まる。
草食は、そのまま外へ消えた。
カナンはその場で動かなかった。
レゴシが静かに言う。
「……追わない」
「はい」
だが、その声は震えていた。
黒狼が言う。
「これが負けだ」
カナンは何も言わなかった。
夕方。
詰所。
報告が積み上がる。
離脱。
未選択。
外流。
数字が増える。
悪い方向に。
ハルが言う。
「これ、止まるかもね」
「止まる」
俺は答えた。
はっきりと。
ルイが見る。
「立て直すか」
少し考える。
そして言った。
「壊す」
沈黙。
「……何を」
ハルが聞く。
「自由滞在区の“意味”を壊す」
夜。
屋上。
流れは細くなっている。
灯りはある。
だが、そこを通る者が減っている。
イオリが言う。
「負荷が増えています」
「分かってる」
「このままでは、逆転されます」
俺は街を見る。
止まる場所。
流れる場所。
そして、選ぶ獣たち。
「いい」
小さく言う。
「一回負ける」
イオリが止まる。
「意図的に?」
「そうだ」
「理由は」
「止まる場所の限界を、見せる」
流れは、負ける。
だが、それで終わりじゃない。
負け方を選ぶ。
そして、次でひっくり返す。
──メインクーンの俺が、“流れが負ける日”ごと、この世界の転機に変えてやる。