転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十五話:流れが負ける日

 

 

 流れは、いつも勝つわけじゃない。

 

 押される日がある。

 

 止められる日がある。

 

 そして──

 

 負ける日がある。

 

 朝。

 

 詰所に入った瞬間、空気で分かった。

 

 何かが起きている。

 

 イオリの端末の音が止まらない。

 

 ルイは無言で資料を見ている。

 

 ハルは珍しく何も言わない。

 

「報告」

 

 俺が言うと、イオリが即答した。

 

「帰還導線の利用数、前日比四割減」

 

 短い。

 

 だが、十分だ。

 

 流れが止まり始めている。

 

 レゴシが低く言う。

 

「どこに流れてる」

 

「自由滞在区です」

 

 黒狼が舌打ちする。

 

「来たな」

 

 原因は明確だった。

 

 昨日、自由滞在区で──

 

 暴力が起きなかった。

 

 それだけ。

 

 資源不足も、一時的に解消された。

 

 外部からの供給が入った形跡。

 

 誰かが“整えた”。

 

 つまり。

 

 グレイが手を入れた。

 

 ハルが言う。

 

「安全に見えるようにしたんだ」

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 止まる場所を、安全に見せる。

 

 それだけで、流れは弱る。

 

 さらに悪い報告。

 

 カナンが口を開く。

 

「……途中から、出ていったやつがいます」

 

 全員が止まる。

 

「誰だ」

 

「三体」

 

 声が揺れている。

 

「……自由滞在区に」

 

 沈黙。

 

 これは初めてだ。

 

 流れが、逆流した。

 

 レゴシが低く言う。

 

「追うか」

 

「追わない」

 

 俺は即答した。

 

「でも──」

 

「選んだ」

 

 それで終わりだ。

 

 戻すことはできる。

 

 だが、それは流れじゃない。

 

 引き戻しだ。

 

 それをやった瞬間、この構造は崩れる。

 

 ハルが小さく言う。

 

「……悔しいね」

 

「そうだな」

 

 俺は答えた。

 

 負けている。

 

 はっきりと。

 

 昼。

 

 道番巡回。

 

 レゴシと黒狼。

 

 カナンも同行。

 

 だが、様子が違う。

 

 灯りの間を歩く獣が減っている。

 

 代わりに、外へ逸れる影が増えている。

 

 

 一体の草食が、途中の分岐で止まっていた。

 

 右は内側。

 

 左は外。

 

 そして、その先に──

 

 自由滞在区。

 

 

 カナンが声をかける。

 

「戻るならこっちだ」

 

 草食は言う。

 

「……あっちは、何もしなくていいんだろ」

 

 カナンが言葉に詰まる。

 

 

 黒狼が言う。

 

「そうだな」

 

「楽だ」

 

 

 草食は頷く。

 

「じゃあ、そっち行く」

 

 

 止めない。

 

 止められない。

 

 

 カナンの手が、わずかに動いた。

 

 だが、止まる。

 

 

 草食は、そのまま外へ消えた。

 

 カナンはその場で動かなかった。

 

 レゴシが静かに言う。

 

「……追わない」

 

「はい」

 

 

 だが、その声は震えていた。

 

 

 黒狼が言う。

 

「これが負けだ」

 

 

 カナンは何も言わなかった。

 

 夕方。

 

 詰所。

 

 報告が積み上がる。

 

 離脱。

 未選択。

 外流。

 

 

 数字が増える。

 

 悪い方向に。

 

 

 ハルが言う。

 

「これ、止まるかもね」

 

「止まる」

 

 俺は答えた。

 

 はっきりと。

 

 

 ルイが見る。

 

「立て直すか」

 

 

 少し考える。

 

 

 そして言った。

 

「壊す」

 

 

 沈黙。

 

 

「……何を」

 

 ハルが聞く。

 

 

「自由滞在区の“意味”を壊す」

 

 夜。

 

 屋上。

 

 流れは細くなっている。

 

 灯りはある。

 

 だが、そこを通る者が減っている。

 

 

 イオリが言う。

 

「負荷が増えています」

 

「分かってる」

 

 

「このままでは、逆転されます」

 

 

 俺は街を見る。

 

 止まる場所。

 

 流れる場所。

 

 

 そして、選ぶ獣たち。

 

 

「いい」

 

 小さく言う。

 

「一回負ける」

 

 

 イオリが止まる。

 

「意図的に?」

 

 

「そうだ」

 

 

「理由は」

 

 

「止まる場所の限界を、見せる」

 

 流れは、負ける。

 

 だが、それで終わりじゃない。

 

 負け方を選ぶ。

 

 そして、次でひっくり返す。

 

 

 ──メインクーンの俺が、“流れが負ける日”ごと、この世界の転機に変えてやる。

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