転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十八話:出口の奪還

 

 道は、引くだけでは意味がない。

 

 出口がなければ、ただの迷路になる。

 

 そして──

 

 出口を握る者が、流れを握る。

 

 朝。

 

 詰所の空気は、昨日までと違っていた。

 

 重さはある。

 

 だが、その中に──

 

 手応えがある。

 

 イオリが報告する。

 

「自由滞在区からの自発離脱、前日比二倍」

 

「途中への流入も回復傾向です」

 

 ハルが小さく笑う。

 

「戻ってきてるね」

 

「戻り始めてる」

 

 俺は答えた。

 

 だが、まだ勝っていない。

 

 流れは戻りつつあるが──

 

 出口の主導権は、まだ向こうにある。

 

 ルイが資料を叩く。

 

「問題はここだ」

 

 

 自由滞在区の出口。

 

 

 そこには──

 

 “留まる構造”がある。

 

 

 見えないが、確実にある。

 

 

 食料供給の調整。

 

 滞在しやすい配置。

 

 離脱しにくい心理。

 

 

 つまり──

 

 出られるのに、出ない構造。

 

 レゴシが言う。

 

「道はあるのに、使われない」

 

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 

「だから奪う」

 

 ハルが顔を上げる。

 

「出口を?」

 

 

「そうだ」

 

 

「どうやって」

 

 

 少し間。

 

 

「選ばせる」

 

 

 ハルが呆れる。

 

「またそれ?」

 

 

「これしかない」

 

 今回やるのは単純だ。

 

 

 出口に“意味”を上書きする。

 

 

 今の自由滞在区の出口は、

 

 “どこにも行かない通路”だ。

 

 

 だから使われない。

 

 

 そこに──

 

 

 明確な行き先を与える。

 

 昼。

 

 作業開始。

 

 

 自由滞在区の出口三箇所。

 

 

 それぞれに、表示を設置する。

 

 

 一つ目。

 

「内側へ(安全・管理あり)」

 

 

 二つ目。

 

「途中へ(選択・同行あり)」

 

 

 三つ目。

 

「外へ(完全自由・自己責任)」

 

 

 ハルが言う。

 

「……分かりやすいね」

 

 

「分かりやすくする」

 

 俺は答えた。

 

 

「曖昧にすると、止まる」

 

 イオリが補足する。

 

「各出口に対応するデータも表示します」

 

 

 帰還率。

 再接続率。

 連絡不能率。

 

 

 全部。

 

 

 隠さない。

 

 設置中。

 

 当然、来た。

 

 

 グレイ。

 

 

 出口の前に立つ。

 

 

「面白いことするな」

 

 

「出口を整えただけだ」

 

 俺は答える。

 

 

「整える?」

 

 

 グレイは笑う。

 

 

「選ばせる気か」

 

 

「そうだ」

 

 

「余計なことするな」

 

 

 その声に、わずかに苛立ちが混じる。

 

 

 初めてだ。

 

 

 黒狼が小さく笑う。

 

「効いてるな」

 

 グレイは続ける。

 

「ここは、止まる場所だ」

 

 

「動かすな」

 

 

 俺は言う。

 

 

「決めるのは、ここにいるやつだ」

 

 

 沈黙。

 

 

 数秒。

 

 

 グレイは笑った。

 

 

「……やってみろ」

 

 

 そう言って、退いた。

 

 

 止めない。

 

 

 止められない。

 

 夕方。

 

 最初の選択。

 

 

 一体の肉食。

 

 

 出口の前で止まる。

 

 

 三つの表示を見る。

 

 

 内側。

 途中。

 外。

 

 

 長い沈黙。

 

 

 ハルが小さく言う。

 

「迷ってる」

 

 

「迷わせるために置いた」

 

 

 レゴシが言う。

 

「選べ」

 

 

 小さく。

 

 

 その声は、届く。

 

 肉食は、一歩動いた。

 

 

 内側へ。

 

 

 止まる。

 

 

 戻る。

 

 

 外を見る。

 

 

 また止まる。

 

 

 そして──

 

 

 途中へ。

 

 

 決まった。

 

 カナンがすぐに動く。

 

 

「一緒に行く」

 

 

 肉食は少しだけ頷く。

 

 

 流れた。

 

 

 確実に。

 

 その後。

 

 一体。

 二体。

 

 

 少しずつ。

 

 

 だが、確実に。

 

 

 出口が使われ始める。

 

 夜。

 

 詰所。

 

 報告。

 

 

 自由滞在区からの離脱、過去最大。

 

 

 そのうち、

 

 内側:二件

 途中:五件

 外:三件

 

 

 ハルが言う。

 

「外も選ばれてるね」

 

 

「当然だ」

 

 俺は答える。

 

 

「全部を内に戻す必要はない」

 

 

 ルイが頷く。

 

「流れが動いていることが重要だ」

 

 イオリが静かに言う。

 

「出口の主導権、回復しました」

 

 

 短い。

 

 だが、重い。

 

 黒狼が笑う。

 

「奪い返したな」

 

 

「まだだ」

 

 俺は言った。

 

 

「次で決まる」

 

 ハルが聞く。

 

「次って?」

 

 

 俺は答えた。

 

 

「止まる場所の“存在理由”を潰す」

 

 

 沈黙。

 

 

 レゴシが低く言う。

 

「グレイか」

 

 

「そうだ」

 

 夜。

 

 屋上。

 

 流れは戻った。

 

 

 だが、完全ではない。

 

 

 自由滞在区は、まだある。

 

 

 そこにいるやつも、まだ多い。

 

 

 だが──

 

 

 選択は戻った。

 

 

 それで十分だ。

 

 イオリが言う。

 

「次は最終段階です」

 

 

「そうだ」

 

 

「対話になりますか」

 

 

 少し考える。

 

 

「なる」

 

 

「それとも」

 

 

「構造で潰す」

 

 

 短い沈黙。

 

 

「両方だ」

 

 出口は奪い返した。

 

 

 だが、まだ終わりじゃない。

 

 

 最後に残るのは──

 

 

 “止まることを選ぶ理由”そのもの。

 

 ──メインクーンの俺が、“出口の奪還”ごと、この世界の決着に繋げてやる。

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