転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第五十九話:止まる理由の終わり

 

 流れは戻った。

 

 道もある。

 出口もある。

 選択肢も揃った。

 

 それでも──

 

 止まる者はいる。

 

 なぜか。

 

 理由があるからだ。

 

 止まる理由。

 

 それを潰さない限り、この戦いは終わらない。

 

 朝。

 

 詰所は静かだった。

 

 勝ったように見える状況。

 

 だが、誰も気を抜いていない。

 

 イオリが報告する。

 

「自由滞在区の滞在数、減少傾向」

 

「ですが、一定数が残留しています」

 

 ルイが言う。

 

「核心だな」

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 減らせるものは減った。

 

 動けるものは動いた。

 

 それでも残る。

 

 それが“止まる理由”を持つ個体だ。

 

 ハルが言う。

 

「どんな理由なの」

 

 

 イオリが資料を出す。

 

 

 ・失敗経験による回避

 ・他者不信

 ・自己評価の低下

 ・責任忌避

 ・環境依存

 

 

 レゴシが低く言う。

 

「……重いな」

 

 

「重い」

 

 俺は答えた。

 

 

「だから最後まで残る」

 

 黒狼が言う。

 

「で、どうする」

 

 

 少し間。

 

 

「壊す」

 

 

 ハルが顔を上げる。

 

「何を」

 

 

「理由を支えてる構造だ」

 

 自由滞在区。

 

 そこはただの空間じゃない。

 

 止まる理由を維持できる環境だ。

 

 

 ・誰も干渉しない

 ・責任が発生しない

 ・失敗が可視化されない

 

 

 これがあるから、止まれる。

 

 

 なら──

 

 

 それを崩す。

 

 昼。

 

 作業開始。

 

 

 やることは三つ。

 

 

 一、相互干渉の発生

 二、選択履歴の可視化

 三、小さな責任の付与

 

 まず一つ目。

 

 干渉。

 

 

 これまで自由滞在区は“無干渉”だった。

 

 

 それを変える。

 

 

 完全ではない。

 

 強制でもない。

 

 

 ただ──

 

 “関わる余地”を作る。

 

 具体的には。

 

 

 水場を一箇所減らす。

 

 

 するとどうなるか。

 

 

 共有が発生する。

 

 

 会話が生まれる。

 

 摩擦が生まれる。

 

 

 止まっていられなくなる。

 

 二つ目。

 

 選択履歴。

 

 

 途中でやったものを、ここにも置く。

 

 

 だが違うのは──

 

 

 失敗も強調する。

 

 

 戻って失敗した個体。

 

 外に出て戻れなかった個体。

 

 

 全部、表示する。

 

 三つ目。

 

 責任。

 

 

 これは最小単位。

 

 

 例えば──

 

 水の補充係。

 

 

 誰か一体がやる。

 

 

 やらなければ、水が減る。

 

 

 それだけ。

 

 

 だが、それだけで変わる。

 

 夕方。

 

 変化はすぐに出た。

 

 

 一体の肉食が、水場で言う。

 

 

「おい、補充しろ」

 

 

 草食が答える。

 

 

「お前がやれ」

 

 

 小さな言い合い。

 

 

 だが──

 

 これが重要だ。

 

 

 関わりが生まれた。

 

 ハルが言う。

 

「なんか……空気変わったね」

 

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 

「止まるだけじゃいられなくなった」

 

 レゴシが言う。

 

「これ、嫌がるやつもいる」

 

 

「いる」

 

 

「出ていくかも」

 

 

「それでいい」

 

 

 止まる理由が崩れれば、動く。

 

 それが目的だ。

 

 夜。

 

 決定的な瞬間が来た。

 

 

 一体の草食。

 

 長く滞在していた個体。

 

 

 水の補充係を任される。

 

 

 最初は拒否する。

 

 

「やりたくない」

 

 

 誰も強制しない。

 

 

 だが──

 

 

 水が減る。

 

 

 周囲の視線が集まる。

 

 

 沈黙。

 

 

 そして──

 

 

 立ち上がる。

 

 

 水を運ぶ。

 

 

 戻る。

 

 

 小さな行動。

 

 

 だが──

 

 

 それが崩れだ。

 

 カナンが小さく言う。

 

「……動いた」

 

 

 レゴシが頷く。

 

 

「責任が、きっかけになった」

 

 その後。

 

 一体。

 二体。

 

 

 同じように、役割を持つ。

 

 

 小さな責任。

 

 

 だが、それが積み重なる。

 

 

 止まれなくなる。

 

 夜。

 

 詰所。

 

 報告。

 

 

 自由滞在区からの離脱、さらに増加。

 

 

 残留個体も、活動量増加。

 

 

 イオリが言う。

 

「“完全停止状態”が消失しました」

 

 

 ルイが頷く。

 

 

「これで終わりだな」

 

 だが。

 

 まだ一つ残っている。

 

 

 グレイ。

 

 

 彼だけは、まだ動いていない。

 

 

 ハルが言う。

 

「最後はあいつだね」

 

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 夜。

 

 自由滞在区。

 

 

 中央。

 

 

 グレイが立っていた。

 

 

 周囲には、まだ残っている個体。

 

 

 だが、空気は変わっている。

 

 

 止まる場所ではない。

 

 

 動き始めた場所。

 

 グレイが言う。

 

 

「やったな」

 

 

 笑っている。

 

 

「壊したか」

 

 

「そうだ」

 

 

 短い会話。

 

 

 だが──

 

 ここからが本番だ。

 

 止まる理由は崩れた。

 

 

 残るのは──

 

 

 止まることを選ぶ意志。

 

 ──メインクーンの俺が、“止まる理由の終わり”ごと、この世界の決着に持っていく。

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