転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第六十一話:役割の手放し方

 

 構造は残る。

 

 流れも残る。

 

 止まる場所も残る。

 

 

 なら──

 

 役割はどうする。

 

 

 握り続けるのか。

 

 手放すのか。

 

 

 それが、次の選択だ。

 

 朝。

 

 詰所の空気は、妙に静かだった。

 

 

 緊張がない。

 

 だが、緩んでもいない。

 

 

 “やることが終わった後の空気”。

 

 

 それに近い。

 

 イオリが報告する。

 

「帰還導線、安定」

 

「外縁緩衝帯、維持」

 

「自由滞在区、活動状態継続」

 

 

 全てが動いている。

 

 問題はない。

 

 

 ルイが言う。

 

「維持フェーズに入ったな」

 

 

「そうだ」

 

 俺は答えた。

 

 ハルが言う。

 

 

「じゃあ、私たちって……もう必要ないの?」

 

 

 その言葉。

 

 

 誰もすぐには答えなかった。

 

 黒狼が先に口を開く。

 

 

「必要だろ」

 

 

「でも前ほどじゃねえ」

 

 

 レゴシが頷く。

 

 

「俺たちがいなくても、動くようになってる」

 

 カナンが小さく言う。

 

 

「……それって、いいことですよね」

 

 

「いいことだ」

 

 俺は答えた。

 

 だが同時に。

 

 

 役割が薄くなる。

 

 

 それは──

 

 存在理由が変わるということだ。

 

 昼。

 

 俺はホワイトボードに、新しい図を書く。

 

 

 今までの構造図。

 

 

 その中心にあったものを、消す。

 

 

 “指揮”

 

 ハルが言う。

 

 

「……消すの?」

 

 

「消す」

 

 

「代わりは?」

 

 

「ない」

 

 イオリが言う。

 

 

「自律運用へ移行しますか」

 

 

「そうだ」

 

 ルイが腕を組む。

 

 

「崩れる可能性は」

 

 

「ある」

 

 

「それでも?」

 

 

「それでもだ」

 

 構造は完成した。

 

 

 なら──

 

 人に依存させる必要はない。

 

 

 むしろ、依存させてはいけない。

 

 レゴシが言う。

 

 

「俺たちはどうする」

 

 

 俺は少し考える。

 

 

 そして答えた。

 

 

「選べ」

 

 沈黙。

 

 

 ハルが笑う。

 

 

「最後までそれなんだ」

 

 

「そうだ」

 

 黒狼が笑う。

 

 

「じゃあ俺は残る」

 

 

「まだ面白え」

 

 レゴシが言う。

 

 

「俺も残る」

 

 

「道番、やりきる」

 

 カナンが言う。

 

 

「俺も……続けたいです」

 

 

 ライカも頷く。

 

 

「私も」

 

 ハルが少し考える。

 

 

「……私は、少し離れる」

 

 

 全員が見る。

 

 

「見えるようになったから」

 

 

「次は、違うところでやりたい」

 

 いい選択だ。

 

 

 流れに残るのも。

 

 外れるのも。

 

 

 どちらも正しい。

 

 夕方。

 

 移行作業。

 

 

 指揮系統の解体。

 

 権限の分散。

 

 

 途中。

 外の途中。

 

 

 それぞれに、小さな判断単位を置く。

 

 

 “誰かが決める”から、

 

 “その場で決まる”へ。

 

 イオリが言う。

 

 

「完全移行には数日かかります」

 

 

「構わない」

 

 夜。

 

 最後の確認。

 

 

 流れは動いている。

 

 

 指示なしで。

 

 

 灯りは維持され、

 

 道番は巡回し、

 

 途中は機能している。

 

 ハルが隣に立つ。

 

 

「本当に手放すんだね」

 

 

「そうだ」

 

 少し沈黙。

 

 

「寂しくない?」

 

 

 少しだけ考える。

 

 

「少しな」

 

 

「でも、それでいい」

 

 ハルが笑う。

 

 

「らしいね」

 

 屋上。

 

 

 街を見下ろす。

 

 

 流れ。

 

 灯り。

 

 境界。

 

 

 全部、動いている。

 

 イオリが静かに言う。

 

 

「これで、構造は独立します」

 

 

「そうだな」

 

 ルイが言う。

 

 

「お前はどうする」

 

 

 全員が見る。

 

 俺は答える。

 

 

「まだ残る」

 

 

「最後まで見る」

 

 レゴシが頷く。

 

 

「最後って?」

 

 少し間。

 

 

「完全に、俺がいなくても回るところまでだ」

 

 それが終われば。

 

 

 役割は終わる。

 

 役割は、持ち続けるものじゃない。

 

 

 終わらせるものだ。

 

 ──メインクーンの俺が、“役割の手放し方”ごと、この世界に残してやる。

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