転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

61 / 64
第六十二話:いなくなる準備

 

 役割を手放すというのは、ただ離れることじゃない。

 

 いなくなっても問題が起きない状態を作ることだ。

 

 残すのは、形だけじゃない。

 

 判断の仕方。

 選び方。

 迷い方。

 

 それごと残す。

 

 朝。

 

 詰所は、いつも通りに動いていた。

 

 違うのは一つ。

 

 誰も俺の指示を待っていない。

 

 黒狼は巡回表を勝手に更新し、レゴシは新規導線の確認に出ている。カナンとライカは途中での同行選択に入っている。

 

 ハルはいない。

 

 昨日、自分で選んだ場所へ動いた。

 

 それでいい。

 

 これが正しい形だ。

 

 イオリが横に立つ。

 

「指示待ちが消えました」

 

「いい傾向だ」

 

 

「ただし」

 

 

「何だ」

 

 

「例外処理が未成熟です」

 

 それが最後の課題だ。

 

 通常時は回る。

 

 だが──

 

 想定外が来たとき、誰がどう判断するか。

 

 ルイが言う。

 

「崩れるのはそこだな」

 

 

「そうだ」

 

 だから残る。

 

 最後に見るのはそこだ。

 

 昼。

 

 最初の“例外”が来た。

 

 

 外の途中。

 

 

 一体の大型肉食。

 

 明らかに危険域。

 

 

 今までなら即座に判断していた案件。

 

 

 だが今回は──

 

 

 誰も指示を出さない。

 

 レゴシが前に出る。

 

 

「止める」

 

 

 黒狼が横に立つ。

 

 

「抑えるだけだ」

 

 

 カナンが後ろから言う。

 

 

「隔離じゃなくて、途中に誘導します」

 

 判断が分散される。

 

 だが──

 

 まとまっている。

 

 俺は何も言わない。

 

 

 ただ見る。

 

 結果。

 

 

 大型肉食は抑えられ、

 

 外の途中へ誘導。

 

 

 暴走は起きない。

 

 

 処理完了。

 

 イオリが言う。

 

 

「成功です」

 

 

「そうだな」

 

 だが、完璧ではない。

 

 

 少し遅い。

 

 

 少し迷いがある。

 

 

 それが残る。

 

 ハルならどうしたか。

 

 

 俺ならどうしたか。

 

 

 その差はある。

 

 

 だが──

 

 

 それでいい。

 

 夕方。

 

 別の例外。

 

 

 自由滞在区。

 

 

 内部で衝突。

 

 複数。

 

 

 今までより強い。

 

 

 道番だけでは止めきれない可能性。

 

 カナンが迷う。

 

 

「……強く止めるべきか」

 

 

 ライカが言う。

 

 

「でも過剰になると……」

 

 

 レゴシが言う。

 

 

「止める」

 

 

 黒狼が補足する。

 

 

「でも壊すな」

 

 判断が揺れる。

 

 

 その揺れ。

 

 

 それが重要だ。

 

 最終的に。

 

 

 レゴシが踏み込み、

 

 黒狼が制圧、

 

 カナンとライカが分離誘導。

 

 

 衝突は止まる。

 

 カナンが息を吐く。

 

 

「……怖かった」

 

 

 黒狼が笑う。

 

 

「当たり前だ」

 

 俺は何も言わない。

 

 

 その判断は、彼らのものだ。

 

 夜。

 

 詰所。

 

 

 全員が揃う。

 

 

 報告。

 

 

 例外処理、二件。

 

 両方成功。

 

 

 だが、全員が分かっている。

 

 

 まだ完全じゃない。

 

 ルイが言う。

 

 

「もう少しだな」

 

 

「そうだ」

 

 ハルはいない。

 

 

 だが、報告は来ている。

 

 

 別の場所で、同じように動いている。

 

 

 それでいい。

 

 イオリが言う。

 

 

「あと何件で判断しますか」

 

 

 少し考える。

 

 

「三件」

 

 あと三回。

 

 

 それで見る。

 

 

 本当に回るか。

 

 

 俺がいなくても。

 

 夜。

 

 屋上。

 

 

 街はいつも通りだ。

 

 

 流れも、灯りも。

 

 

 俺がいなくても、動いているように見える。

 

 イオリが隣に立つ。

 

 

「準備は進んでいます」

 

 

「そうだな」

 

 少し沈黙。

 

 

「あなたは、本当に離れますか」

 

 少しだけ考える。

 

 

 そして答える。

 

 

「離れる」

 

 

「完全に?」

 

 

「完全には無理だ」

 

 

「だが、見える位置からは消える」

 

 それでいい。

 

 

 必要な時だけ、戻ればいい。

 

 

 普段は、いない。

 

 役割は終わる。

 

 

 だが──

 

 

 存在は消えない。

 

 それでいい。

 

 ──メインクーンの俺が、“いなくなる準備”ごと、この世界に残してやる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。