転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
役割を手放すというのは、ただ離れることじゃない。
いなくなっても問題が起きない状態を作ることだ。
残すのは、形だけじゃない。
判断の仕方。
選び方。
迷い方。
それごと残す。
朝。
詰所は、いつも通りに動いていた。
違うのは一つ。
誰も俺の指示を待っていない。
黒狼は巡回表を勝手に更新し、レゴシは新規導線の確認に出ている。カナンとライカは途中での同行選択に入っている。
ハルはいない。
昨日、自分で選んだ場所へ動いた。
それでいい。
これが正しい形だ。
イオリが横に立つ。
「指示待ちが消えました」
「いい傾向だ」
「ただし」
「何だ」
「例外処理が未成熟です」
それが最後の課題だ。
通常時は回る。
だが──
想定外が来たとき、誰がどう判断するか。
ルイが言う。
「崩れるのはそこだな」
「そうだ」
だから残る。
最後に見るのはそこだ。
昼。
最初の“例外”が来た。
外の途中。
一体の大型肉食。
明らかに危険域。
今までなら即座に判断していた案件。
だが今回は──
誰も指示を出さない。
レゴシが前に出る。
「止める」
黒狼が横に立つ。
「抑えるだけだ」
カナンが後ろから言う。
「隔離じゃなくて、途中に誘導します」
判断が分散される。
だが──
まとまっている。
俺は何も言わない。
ただ見る。
結果。
大型肉食は抑えられ、
外の途中へ誘導。
暴走は起きない。
処理完了。
イオリが言う。
「成功です」
「そうだな」
だが、完璧ではない。
少し遅い。
少し迷いがある。
それが残る。
ハルならどうしたか。
俺ならどうしたか。
その差はある。
だが──
それでいい。
夕方。
別の例外。
自由滞在区。
内部で衝突。
複数。
今までより強い。
道番だけでは止めきれない可能性。
カナンが迷う。
「……強く止めるべきか」
ライカが言う。
「でも過剰になると……」
レゴシが言う。
「止める」
黒狼が補足する。
「でも壊すな」
判断が揺れる。
その揺れ。
それが重要だ。
最終的に。
レゴシが踏み込み、
黒狼が制圧、
カナンとライカが分離誘導。
衝突は止まる。
カナンが息を吐く。
「……怖かった」
黒狼が笑う。
「当たり前だ」
俺は何も言わない。
その判断は、彼らのものだ。
夜。
詰所。
全員が揃う。
報告。
例外処理、二件。
両方成功。
だが、全員が分かっている。
まだ完全じゃない。
ルイが言う。
「もう少しだな」
「そうだ」
ハルはいない。
だが、報告は来ている。
別の場所で、同じように動いている。
それでいい。
イオリが言う。
「あと何件で判断しますか」
少し考える。
「三件」
あと三回。
それで見る。
本当に回るか。
俺がいなくても。
夜。
屋上。
街はいつも通りだ。
流れも、灯りも。
俺がいなくても、動いているように見える。
イオリが隣に立つ。
「準備は進んでいます」
「そうだな」
少し沈黙。
「あなたは、本当に離れますか」
少しだけ考える。
そして答える。
「離れる」
「完全に?」
「完全には無理だ」
「だが、見える位置からは消える」
それでいい。
必要な時だけ、戻ればいい。
普段は、いない。
役割は終わる。
だが──
存在は消えない。
それでいい。
──メインクーンの俺が、“いなくなる準備”ごと、この世界に残してやる。