転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第六十五話:残った余白

 

 終わりは、きれいに閉じない。

 

 閉じた瞬間に、嘘になる。

 

 だから残る。

 

 少しの歪み。

 少しの不安。

 

 それがあるから、続く。

 

 朝。

 

 詰所の扉は、いつも通りに開いていた。

 

 変わらない音。

 変わらない匂い。

 

 だが、完全に同じではない。

 

 微妙なズレがある。

 

 それが“余白”だ。

 

 レゴシが言う。

 

「南ルート、少し流れ遅い」

 

 黒狼が返す。

 

「昨日の衝突の影響だな」

 

 カナンが補足する。

 

「心理的な停滞です」

 

 ライカが言う。

 

「灯りを一つ追加しましょう」

 

 イオリがまとめる。

 

「実施します」

 

 自然に回る。

 

 だが、完全ではない。

 

 小さな歪みが、必ず残る。

 

 ハルはいない。

 

 だが──

 

 “いた時のやり方”は残っている。

 

 ただし、それはそのままではない。

 

 カナンの言葉になり、

 ライカの判断になり、

 レゴシの動きに変わる。

 

 少しずつ、違う形で残る。

 

 それでいい。

 

 同じである必要はない。

 

 昼。

 

 外の途中。

 

 新しい個体が入る。

 

 迷っている。

 

 震えている。

 

 レゴシが近づく。

 

 だが、少しだけ距離を取る。

 

 前よりも。

 

「どうする」

 

 

 短い言葉。

 

 以前なら、もう少し寄っていた。

 

 もう少し柔らかかった。

 

 だが、それでも届く。

 

 個体は迷う。

 

 止まる。

 

 考える。

 

 やがて。

 

「……途中」

 

 選ぶ。

 

 レゴシは頷くだけ。

 

 

 それで十分だ。

 

 黒狼が横で言う。

 

「増えたな」

 

 

「何が」

 

 

「選ぶやつ」

 

 確かに増えた。

 

 

 だが同時に──

 

 

 選ばない者も残っている。

 

 自由滞在区。

 

 そこには、まだ数体いる。

 

 

 動かない。

 

 

 だが、完全に止まっているわけでもない。

 

 一体が、水を運ぶ。

 

 

 別の一体が、それを見る。

 

 小さな変化。

 

 

 だが、それ以上は進まない。

 

 境界だ。

 

 ルイが詰所で言う。

 

 

「ここから先は、変わらないだろうな」

 

 

「そうだ」

 

 イオリが答える。

 

 完全には動かない。

 

 完全には止まらない。

 

 その中間。

 

 それが残る。

 

 夕方。

 

 カナンが一体を見ていた。

 

 

 自由滞在区に残る個体。

 

 

 長くいる。

 

 動かない。

 

 カナンが声をかける。

 

 

「……まだここにいるのか」

 

 

 個体は答える。

 

 

「いる」

 

 短い会話。

 

 カナンは少し考えて言う。

 

 

「戻らないのか」

 

 

「今はいい」

 

 同じ言葉。

 

 

 最初に聞いた言葉と同じ。

 

 だが意味は違う。

 

 

 前は、止まる理由だった。

 

 今は、選んだ結果だ。

 

 カナンは頷く。

 

 

「分かった」

 

 

 それだけ。

 

 

 それ以上は踏み込まない。

 

 これが境界だ。

 

 夜。

 

 詰所。

 

 報告は安定している。

 

 

 だが、完全ではない。

 

 レゴシが言う。

 

 

「これでいいのか」

 

 黒狼が答える。

 

 

「いいんじゃねえか」

 

 

「全部変えるのは無理だろ」

 

 ライカが言う。

 

 

「でも、変わった部分もあります」

 

 カナンが小さく言う。

 

 

「俺は変わりました」

 

 沈黙。

 

 それで十分だ。

 

 夜。

 

 屋上。

 

 風が吹く。

 

 灯りが揺れる。

 

 その下を、誰かが通る。

 

 

 迷いながら。

 

 止まりながら。

 

 

 それでも、動いている。

 

 遠くに。

 

 

 動かない影。

 

 それもある。

 

 それが世界だ。

 

 完全ではない。

 

 

 だから続く。

 

 余白がある。

 

 

 だから、次がある。

 

 ──メインクーンの俺が、“残った余白”ごと、この世界に残してやる。

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