転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

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第八話:王の戴冠と、共生の再構築

 ビースター。

 

 その言葉が持つ重みは、単なる“肩書き”ではない。

 

 チェリートン学園において、それは――

 

 理想の象徴であり、秩序の頂点であり、そして“希望”そのものだ。

 

 

 だが。

 

 

(今のままじゃ、ただの飾りだ)

 

 

 俺は屋上から校舎を見下ろしながら、冷静に分析していた。

 

 ビースター制度は、本来「草食と肉食の共生を体現する存在」を選出するもの。

 だが実態は――

 

 政治的調整と、イメージ戦略の産物。

 

 

(中身が伴ってない)

 

 

 だからこそ。

 

 

「作り替える必要がある」

 

 

 俺は静かに呟いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後。

 

 

 学園は、異様な緊張感に包まれていた。

 

 

 ビースター候補選定。

 

 

 本来ならば教師陣と一部の上層生徒によって進められる選考。

 だが今回は――

 

 

「全校公開選定?」

 

 

 ざわめきが広がる。

 

 

「そんな前例……」

「誰が言い出したんだ?」

 

 

 答えは単純だ。

 

 

 俺だ。

 

 

 

「透明性を上げる」

 

 

 ルイに提案した時、彼は一瞬だけ驚いた顔をした。

 

 

「全員の前で、選ぶ」

 

 

「それで納得させる」

 

 

 

 結果――

 

 

 学園史上初の“公開選定”が実現した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 講堂。

 

 

 全校生徒が集められた空間は、熱気と緊張で満ちていた。

 

 

 壇上には、教師陣。

 

 その中央に――

 

 

 ルイ。

 

 

 そして。

 

 

 俺。

 

 

 

「……本当にやるのか」

 

 

 隣で、レゴシが小さく呟く。

 

 

「今さらだな」

 

 

「でも……」

 

 

「安心しろ」

 

 

 俺は前を見たまま言う。

 

 

「全部、予定通りだ」

 

 

 

 壇上に立つと、ざわめきが一段と大きくなる。

 

 

 視線。

 

 恐怖。

 

 期待。

 

 

 すべてが、こちらに向けられている。

 

 

(いいな)

 

 

 これが、“中心”だ。

 

 

 

 教師の一人が、形式的な説明を始める。

 

 

「本日は、特例として――」

 

 

 長い前置き。

 

 だが、誰もまともに聞いていない。

 

 

 視線は、俺とルイに集中している。

 

 

 

「――以上をもって、候補者による最終選定を行う」

 

 

 ざわ、と空気が揺れる。

 

 

 

「まずは、現ビースター候補、ルイ」

 

 

 拍手。

 

 

 ルイが一歩前に出る。

 

 

 堂々とした姿勢。

 

 完璧な立ち振る舞い。

 

 

 “理想の象徴”。

 

 

 

「次に――」

 

 

 一瞬の間。

 

 

「新規候補者」

 

 

 

 視線が、一斉に俺に集まる。

 

 

 

 俺は、ゆっくりと前に出た。

 

 

 

 ざわめきが、波のように広がる。

 

 

 

「……あいつか」

「例の猫……」

「でも、なんで……」

 

 

 

 当然の反応だ。

 

 

 公式な候補でもない存在が、いきなり壇上に立っているのだから。

 

 

 

(だが、それでいい)

 

 

 

 既存の枠を壊す。

 

 

 その第一歩だ。

 

 

 

「発言を許可する」

 

 

 教師の声。

 

 

 

 俺は、一歩前へ。

 

 

 

 そして――

 

 

 

「結論から言う」

 

 

 

 静かに、しかしはっきりと告げる。

 

 

 

「この学園は、破綻している」

 

 

 

 一瞬で、空気が凍った。

 

 

 

 ざわめきが消える。

 

 

 

 完全な静寂。

 

 

 

「共生という理想は、機能していない」

 

 

 

「肉食は抑圧され、草食は怯え続ける」

 

 

 

「その結果が、今の状況だ」

 

 

 

 誰も、反論できない。

 

 

 

 事実だからだ。

 

 

 

「だが」

 

 

 

 俺は、続ける。

 

 

 

「それは“間違い”ではない」

 

 

 

 再び、ざわめき。

 

 

 

「問題は、“やり方”だ」

 

 

 

「理想を掲げるだけでは、現実は変わらない」

 

 

 

「必要なのは――」

 

 

 

 少しだけ間を置く。

 

 

 

「構造の再構築だ」

 

 

 

 

 俺は、会場全体を見渡した。

 

 

 

「俺は、すでに一部を変えた」

 

 

 

 裏市のことだ。

 

 

 

 もちろん、全員が知っているわけではない。

 

 だが、噂は広まっている。

 

 

 

「逃げ場を作り、暴発を抑えた」

 

 

 

「だが、それだけでは足りない」

 

 

 

「次は――」

 

 

 

 俺は、はっきりと言い切る。

 

 

 

「学園そのものを変える」

 

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 そして――

 

 

 

「具体的には三つ」

 

 

 

 指を立てる。

 

 

 

「第一に、“本能教育”の導入」

 

 

 

「肉食獣に対し、衝動の制御を体系的に教える」

 

 

 

「第二に、“安全な発散手段”の公式化」

 

 

 

「裏市のような場所を、半合法化する」

 

 

 

「第三に、“責任の明確化”」

 

 

 

「暴走した場合の処罰と、支援の両立」

 

 

 

 

 会場の空気が、徐々に変わっていく。

 

 

 

 最初の拒絶から――

 

 理解へ。

 

 

 

「これが、俺のやり方だ」

 

 

 

「綺麗事ではない」

 

 

 

「だが――」

 

 

 

 俺は、静かに言う。

 

 

 

「現実的だ」

 

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 その後――

 

 

 

 ざわめきが、再び広がる。

 

 

 

「……ありえない」

「でも……筋は通ってる……?」

「危険すぎる……」

 

 

 

 賛否両論。

 

 

 

 だが、それでいい。

 

 

 

(議論が生まれた時点で、勝ちだ)

 

 

 

 完全な否定でも、盲信でもない。

 

 

 

 “考えさせる”。

 

 

 

 それが目的だ。

 

 

 

 

「……以上だ」

 

 

 

 俺は一歩下がる。

 

 

 

 次に、ルイが前へ出た。

 

 

 

「……彼の言う通りだ」

 

 

 

 その一言で、会場が再びざわつく。

 

 

 

「この学園は、限界に来ている」

 

 

 

「だが――」

 

 

 

 ルイは続ける。

 

 

 

「だからといって、すべてを壊すわけにはいかない」

 

 

 

「秩序は必要だ」

 

 

 

「理想も、必要だ」

 

 

 

 

 彼は、俺とは逆の立場から語る。

 

 

 

「私は、その両方を守る」

 

 

 

「現実と理想の、橋渡しをする」

 

 

 

 

 完璧なスピーチ。

 

 

 

 拍手が起きる。

 

 

 

(さすがだな)

 

 

 

 だが――

 

 

 

(それだけじゃ、足りない)

 

 

 

 

 最終的な判断は――

 

 

 

 生徒たちに委ねられた。

 

 

 

 公開投票。

 

 

 

 結果が出るまでの時間は、やけに長く感じた。

 

 

 

 レゴシが隣で、落ち着かない様子で立っている。

 

 

 

「……どっちが勝つと思う」

 

 

 

「分からん」

 

 

 

 正直に答える。

 

 

 

「どっちでもいい」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「重要なのは、どっちが“動けるか”だ」

 

 

 

 

 やがて。

 

 

 

 結果が発表された。

 

 

 

「――本年度ビースターは」

 

 

 

 全員が、息を呑む。

 

 

 

「新規候補者」

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 爆発的なざわめき。

 

 

 

「マジかよ!?」

「猫が……!?」

「ありえねえ……!」

 

 

 

 

 俺は、ただ静かに立っていた。

 

 

 

(予定通りだ)

 

 

 

 賛否が割れるほど、票は動く。

 

 

 

 そして、“変化”を求める側が――

 

 

 

 わずかに上回った。

 

 

 

 

「……やったな」

 

 

 

 レゴシが、小さく言う。

 

 

 

「これからだ」

 

 

 

 俺は短く答えた。

 

 

 

 

 壇上に呼ばれる。

 

 

 

 ビースターとしての宣言。

 

 

 

 全校生徒の前で。

 

 

 

 

 俺は、一歩前へ出た。

 

 

 

「俺は――」

 

 

 

 言葉を選ぶ必要はない。

 

 

 

「この学園を変える」

 

 

 

「そして――」

 

 

 

 視線を、全体に向ける。

 

 

 

「この世界の“共生”を、再定義する」

 

 

 

 

 ざわめき。

 

 

 

 だがもう、止まらない。

 

 

 

「理想は捨てない」

 

 

 

「だが、現実から逃げない」

 

 

 

「その上で――」

 

 

 

 はっきりと、言い切る。

 

 

 

「“生きるための共生”を作る」

 

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 ゆっくりと、拍手が広がった。

 

 

 

 最初はまばらに。

 

 

 

 やがて――

 

 

 

 全体へ。

 

 

 

 

(これで、スタートラインだ)

 

 

 

 ビースターという立場。

 

 

 ルイという協力者。

 

 レゴシという“核”。

 

 そして、裏市という基盤。

 

 

 

 すべてが揃った。

 

 

 

 

 だが――

 

 

 

(ここからが、本番だ)

 

 

 

 改革は、必ず抵抗を生む。

 

 

 

 それは、内部か。

 

 あるいは――

 

 

 

 外部か。

 

 

 

 

 俺は、空を見上げる。

 

 

 

 その先にあるのは――

 

 

 

 まだ見ぬ“敵”。

 

 

 

 

「来るなら来い」

 

 

 

 小さく呟く。

 

 

 

 

「全部、飲み込んでやる」

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