転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
ビースター。
その言葉が持つ重みは、単なる“肩書き”ではない。
チェリートン学園において、それは――
理想の象徴であり、秩序の頂点であり、そして“希望”そのものだ。
だが。
(今のままじゃ、ただの飾りだ)
俺は屋上から校舎を見下ろしながら、冷静に分析していた。
ビースター制度は、本来「草食と肉食の共生を体現する存在」を選出するもの。
だが実態は――
政治的調整と、イメージ戦略の産物。
(中身が伴ってない)
だからこそ。
「作り替える必要がある」
俺は静かに呟いた。
◇
数日後。
学園は、異様な緊張感に包まれていた。
ビースター候補選定。
本来ならば教師陣と一部の上層生徒によって進められる選考。
だが今回は――
「全校公開選定?」
ざわめきが広がる。
「そんな前例……」
「誰が言い出したんだ?」
答えは単純だ。
俺だ。
「透明性を上げる」
ルイに提案した時、彼は一瞬だけ驚いた顔をした。
「全員の前で、選ぶ」
「それで納得させる」
結果――
学園史上初の“公開選定”が実現した。
◇
講堂。
全校生徒が集められた空間は、熱気と緊張で満ちていた。
壇上には、教師陣。
その中央に――
ルイ。
そして。
俺。
「……本当にやるのか」
隣で、レゴシが小さく呟く。
「今さらだな」
「でも……」
「安心しろ」
俺は前を見たまま言う。
「全部、予定通りだ」
壇上に立つと、ざわめきが一段と大きくなる。
視線。
恐怖。
期待。
すべてが、こちらに向けられている。
(いいな)
これが、“中心”だ。
教師の一人が、形式的な説明を始める。
「本日は、特例として――」
長い前置き。
だが、誰もまともに聞いていない。
視線は、俺とルイに集中している。
「――以上をもって、候補者による最終選定を行う」
ざわ、と空気が揺れる。
「まずは、現ビースター候補、ルイ」
拍手。
ルイが一歩前に出る。
堂々とした姿勢。
完璧な立ち振る舞い。
“理想の象徴”。
「次に――」
一瞬の間。
「新規候補者」
視線が、一斉に俺に集まる。
俺は、ゆっくりと前に出た。
ざわめきが、波のように広がる。
「……あいつか」
「例の猫……」
「でも、なんで……」
当然の反応だ。
公式な候補でもない存在が、いきなり壇上に立っているのだから。
(だが、それでいい)
既存の枠を壊す。
その第一歩だ。
「発言を許可する」
教師の声。
俺は、一歩前へ。
そして――
「結論から言う」
静かに、しかしはっきりと告げる。
「この学園は、破綻している」
一瞬で、空気が凍った。
ざわめきが消える。
完全な静寂。
「共生という理想は、機能していない」
「肉食は抑圧され、草食は怯え続ける」
「その結果が、今の状況だ」
誰も、反論できない。
事実だからだ。
「だが」
俺は、続ける。
「それは“間違い”ではない」
再び、ざわめき。
「問題は、“やり方”だ」
「理想を掲げるだけでは、現実は変わらない」
「必要なのは――」
少しだけ間を置く。
「構造の再構築だ」
俺は、会場全体を見渡した。
「俺は、すでに一部を変えた」
裏市のことだ。
もちろん、全員が知っているわけではない。
だが、噂は広まっている。
「逃げ場を作り、暴発を抑えた」
「だが、それだけでは足りない」
「次は――」
俺は、はっきりと言い切る。
「学園そのものを変える」
沈黙。
そして――
「具体的には三つ」
指を立てる。
「第一に、“本能教育”の導入」
「肉食獣に対し、衝動の制御を体系的に教える」
「第二に、“安全な発散手段”の公式化」
「裏市のような場所を、半合法化する」
「第三に、“責任の明確化”」
「暴走した場合の処罰と、支援の両立」
会場の空気が、徐々に変わっていく。
最初の拒絶から――
理解へ。
「これが、俺のやり方だ」
「綺麗事ではない」
「だが――」
俺は、静かに言う。
「現実的だ」
沈黙。
その後――
ざわめきが、再び広がる。
「……ありえない」
「でも……筋は通ってる……?」
「危険すぎる……」
賛否両論。
だが、それでいい。
(議論が生まれた時点で、勝ちだ)
完全な否定でも、盲信でもない。
“考えさせる”。
それが目的だ。
「……以上だ」
俺は一歩下がる。
次に、ルイが前へ出た。
「……彼の言う通りだ」
その一言で、会場が再びざわつく。
「この学園は、限界に来ている」
「だが――」
ルイは続ける。
「だからといって、すべてを壊すわけにはいかない」
「秩序は必要だ」
「理想も、必要だ」
彼は、俺とは逆の立場から語る。
「私は、その両方を守る」
「現実と理想の、橋渡しをする」
完璧なスピーチ。
拍手が起きる。
(さすがだな)
だが――
(それだけじゃ、足りない)
最終的な判断は――
生徒たちに委ねられた。
公開投票。
結果が出るまでの時間は、やけに長く感じた。
レゴシが隣で、落ち着かない様子で立っている。
「……どっちが勝つと思う」
「分からん」
正直に答える。
「どっちでもいい」
「え?」
「重要なのは、どっちが“動けるか”だ」
やがて。
結果が発表された。
「――本年度ビースターは」
全員が、息を呑む。
「新規候補者」
一瞬の静寂。
そして――
爆発的なざわめき。
「マジかよ!?」
「猫が……!?」
「ありえねえ……!」
俺は、ただ静かに立っていた。
(予定通りだ)
賛否が割れるほど、票は動く。
そして、“変化”を求める側が――
わずかに上回った。
「……やったな」
レゴシが、小さく言う。
「これからだ」
俺は短く答えた。
壇上に呼ばれる。
ビースターとしての宣言。
全校生徒の前で。
俺は、一歩前へ出た。
「俺は――」
言葉を選ぶ必要はない。
「この学園を変える」
「そして――」
視線を、全体に向ける。
「この世界の“共生”を、再定義する」
ざわめき。
だがもう、止まらない。
「理想は捨てない」
「だが、現実から逃げない」
「その上で――」
はっきりと、言い切る。
「“生きるための共生”を作る」
静寂。
そして――
ゆっくりと、拍手が広がった。
最初はまばらに。
やがて――
全体へ。
(これで、スタートラインだ)
ビースターという立場。
ルイという協力者。
レゴシという“核”。
そして、裏市という基盤。
すべてが揃った。
だが――
(ここからが、本番だ)
改革は、必ず抵抗を生む。
それは、内部か。
あるいは――
外部か。
俺は、空を見上げる。
その先にあるのは――
まだ見ぬ“敵”。
「来るなら来い」
小さく呟く。
「全部、飲み込んでやる」