転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話   作:微糖コーヒー

9 / 61
第九話:牙の外側、国家という檻

 ビースター就任から三日。

 学園は、表面上“静か”だった。

 

 だが、それは嵐の前の静けさだ。

 

(来る)

 

 俺は確信していた。

 

 内部の反発は、すでに制御の範囲内にある。

 ルイとの連携、レゴシの成長、裏市の制度化。

 

 問題は――

 

(外部)

 

 この世界は、学園だけで完結していない。

 国家、行政、警察。

 

 そして――“既得権益”。

 

 

 ◇

 

 

 その兆候は、唐突に現れた。

 

 

「……視察?」

 

 

 職員室に呼び出された俺は、教師の言葉に眉をひそめた。

 

 

「そうだ。上からの命令でな」

 

 

「上、とは?」

 

 

「市の安全管理局だ」

 

 

 

(早いな)

 

 

 裏市の動きが、想定以上に早く嗅ぎつけられたらしい。

 

 

「目的は?」

 

 

「表向きは、“学園の安全確認”だ」

 

 

「裏は?」

 

 

 

 教師は一瞬だけ言葉を詰まらせ――

 

 

「……分かっているだろう」

 

 

 

 つまり。

 

 

(探りに来る)

 

 

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 

 

「いつだ」

 

 

 

「明日だ」

 

 

 

(準備期間、ゼロか)

 

 

 

 だが問題ない。

 

 

 

(むしろ好都合)

 

 

 

 こちらの“対応力”を見せる機会だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日の放課後。

 

 

 

 屋上。

 

 

 

「……外部が動いたか」

 

 

 

 ルイが腕を組みながら言う。

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「想定より早いな」

 

 

 

「裏市の変化が目立ちすぎた」

 

 

 

 

 ルイは少し考え込み――

 

 

 

「どうする」

 

 

 

 

 俺は迷わず答える。

 

 

 

「正面から叩く」

 

 

 

「……強気だな」

 

 

 

「隠す方がリスクが高い」

 

 

 

 俺は手すりに寄りかかる。

 

 

 

「中途半端に誤魔化せば、“黒”として扱われる」

 

 

 

「なら――」

 

 

 

 視線をルイに向ける。

 

 

 

「“灰色”を提示する」

 

 

 

 

 ルイの目が細まる。

 

 

 

「合法でも違法でもない、“必要な仕組み”として見せる」

 

 

 

「……通ると思うか?」

 

 

 

「通す」

 

 

 

 

 短く、言い切る。

 

 

 

 ルイは数秒黙った後、ふっと笑った。

 

 

 

「相変わらずだな、お前は」

 

 

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 

 

「違う。呆れている」

 

 

 

 

 だが、その目にはわずかな期待があった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 学園の正門前に、数台の車が停まった。

 

 

 

 降りてきたのは、スーツを着た動物たち。

 

 

 

 犬、猿、そして――

 

 

 

 狐。

 

 

 

(あれがトップか)

 

 

 

 鋭い目。

 無駄のない動き。

 

 

 ただの役人ではない。

 

 

 

「初めまして」

 

 

 

 狐が、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

 

「市安全管理局、監査課の――」

 

 

 

 名乗り。

 

 

 

 だが、俺はそれを聞き流した。

 

 

 

「ビースターだ」

 

 

 

 それだけ返す。

 

 

 

 狐の目が、わずかに細まる。

 

 

 

「噂は聞いています」

 

 

 

「妙な改革をしている、と」

 

 

 

「事実だ」

 

 

 

 俺は即答した。

 

 

 

「隠す気はない」

 

 

 

 

 周囲の空気が、ぴんと張る。

 

 

 

「……正直ですね」

 

 

 

「効率的だ」

 

 

 

 

 狐は小さく笑った。

 

 

 

「では、見せていただきましょう」

 

 

 

「“あなたの作った世界”を」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 案内は、あえて順序を組んだ。

 

 

 

 まずは、学園内。

 

 

 

 本能教育の試験導入クラス。

 

 レゴシが参加しているトレーニング。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 最後に、裏市。

 

 

 

 

「……なるほど」

 

 

 

 狐は静かに呟く。

 

 

 

「確かに、秩序はある」

 

 

 

「だが――」

 

 

 

 視線が、俺に向けられる。

 

 

 

「これは、違法です」

 

 

 

 

 予想通りの言葉。

 

 

 

「現行法ではな」

 

 

 

 俺は平然と返す。

 

 

 

「では、あなたは法律を破っていると認める?」

 

 

 

「認める」

 

 

 

 

 一瞬、周囲がざわつく。

 

 

 

 だが俺は続ける。

 

 

 

「その上で言う」

 

 

 

「この仕組みがなければ、もっと多くの違法行為が発生する」

 

 

 

 

 狐は黙っている。

 

 

 

「選べ」

 

 

 

 俺は一歩近づく。

 

 

 

「形式的な正しさか」

 

 

 

「実質的な安全か」

 

 

 

 

 空気が、張り詰める。

 

 

 

「……二択にするのは、卑怯ですね」

 

 

 

「現実はいつもそうだ」

 

 

 

 

 狐は小さく息を吐いた。

 

 

 

「では、逆に聞きましょう」

 

 

 

「あなたの仕組みは、“完全”ですか?」

 

 

 

「違う」

 

 

 

 即答。

 

 

 

「未完成だ」

 

 

 

「改善の余地がある」

 

 

 

 

「ならば」

 

 

 

 狐の目が、鋭くなる。

 

 

 

「その責任は、誰が取るのですか」

 

 

 

 

 その問いに。

 

 

 

 俺は、迷わなかった。

 

 

 

「俺だ」

 

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

「すべての責任は、俺が取る」

 

 

 

「結果がどうなろうと」

 

 

 

 

 狐は、しばらく俺を見つめていた。

 

 

 

 そして――

 

 

 

「……興味深い」

 

 

 

 そう呟いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 視察は、その後も続いた。

 

 

 

 細かい質問。

 

 記録の確認。

 

 

 

 だが、核心はすでに終わっている。

 

 

 

 最後に。

 

 

 

 正門前で、狐が言った。

 

 

 

「結論は、後日通知します」

 

 

 

「好きにしろ」

 

 

 

 

「ただし」

 

 

 

 狐は少しだけ笑う。

 

 

 

「一つ、忠告を」

 

 

 

 

「あなたは、“目立ちすぎた”」

 

 

 

 

 その言葉には、明確な意味があった。

 

 

 

「上は、あなたを“利用するか”“排除するか”で迷っています」

 

 

 

 

(予想通りだな)

 

 

 

「なら、早めに決めろと言っておけ」

 

 

 

「どちらでも対応する」

 

 

 

 

 狐は、ほんのわずかに目を見開き――

 

 

 

「……本当に、面白い」

 

 

 

 そう言って去っていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その夜。

 

 

 

 屋上。

 

 

 

 レゴシが、隣に立っている。

 

 

 

「……大丈夫なのか」

 

 

 

「何が」

 

 

 

「さっきのやつら」

 

 

 

 

 少し考えてから、答える。

 

 

 

「大丈夫じゃない」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「確実に動く」

 

 

 

「潰しに来るか、取り込みに来るか」

 

 

 

 

 レゴシは、黙り込む。

 

 

 

「怖いか?」

 

 

 

「……少し」

 

 

 

 

 正直な答え。

 

 

 

「正常だ」

 

 

 

 

 俺は空を見上げる。

 

 

 

「だが、止まらない」

 

 

 

 

 ここまで来た以上。

 

 

 

 引き返す選択肢はない。

 

 

 

 

「来るなら来い」

 

 

 

 小さく呟く。

 

 

 

 

「次は、“外”ごと変える」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。