転生したらメインクーンだった俺が、獣社会の“歪み”を踏み潰す話 作:微糖コーヒー
ビースター就任から三日。
学園は、表面上“静か”だった。
だが、それは嵐の前の静けさだ。
(来る)
俺は確信していた。
内部の反発は、すでに制御の範囲内にある。
ルイとの連携、レゴシの成長、裏市の制度化。
問題は――
(外部)
この世界は、学園だけで完結していない。
国家、行政、警察。
そして――“既得権益”。
◇
その兆候は、唐突に現れた。
「……視察?」
職員室に呼び出された俺は、教師の言葉に眉をひそめた。
「そうだ。上からの命令でな」
「上、とは?」
「市の安全管理局だ」
(早いな)
裏市の動きが、想定以上に早く嗅ぎつけられたらしい。
「目的は?」
「表向きは、“学園の安全確認”だ」
「裏は?」
教師は一瞬だけ言葉を詰まらせ――
「……分かっているだろう」
つまり。
(探りに来る)
俺は小さく息を吐いた。
「いつだ」
「明日だ」
(準備期間、ゼロか)
だが問題ない。
(むしろ好都合)
こちらの“対応力”を見せる機会だ。
◇
その日の放課後。
屋上。
「……外部が動いたか」
ルイが腕を組みながら言う。
「ああ」
「想定より早いな」
「裏市の変化が目立ちすぎた」
ルイは少し考え込み――
「どうする」
俺は迷わず答える。
「正面から叩く」
「……強気だな」
「隠す方がリスクが高い」
俺は手すりに寄りかかる。
「中途半端に誤魔化せば、“黒”として扱われる」
「なら――」
視線をルイに向ける。
「“灰色”を提示する」
ルイの目が細まる。
「合法でも違法でもない、“必要な仕組み”として見せる」
「……通ると思うか?」
「通す」
短く、言い切る。
ルイは数秒黙った後、ふっと笑った。
「相変わらずだな、お前は」
「褒め言葉として受け取っておく」
「違う。呆れている」
だが、その目にはわずかな期待があった。
◇
翌日。
学園の正門前に、数台の車が停まった。
降りてきたのは、スーツを着た動物たち。
犬、猿、そして――
狐。
(あれがトップか)
鋭い目。
無駄のない動き。
ただの役人ではない。
「初めまして」
狐が、穏やかな笑みを浮かべる。
「市安全管理局、監査課の――」
名乗り。
だが、俺はそれを聞き流した。
「ビースターだ」
それだけ返す。
狐の目が、わずかに細まる。
「噂は聞いています」
「妙な改革をしている、と」
「事実だ」
俺は即答した。
「隠す気はない」
周囲の空気が、ぴんと張る。
「……正直ですね」
「効率的だ」
狐は小さく笑った。
「では、見せていただきましょう」
「“あなたの作った世界”を」
◇
案内は、あえて順序を組んだ。
まずは、学園内。
本能教育の試験導入クラス。
レゴシが参加しているトレーニング。
そして――
最後に、裏市。
「……なるほど」
狐は静かに呟く。
「確かに、秩序はある」
「だが――」
視線が、俺に向けられる。
「これは、違法です」
予想通りの言葉。
「現行法ではな」
俺は平然と返す。
「では、あなたは法律を破っていると認める?」
「認める」
一瞬、周囲がざわつく。
だが俺は続ける。
「その上で言う」
「この仕組みがなければ、もっと多くの違法行為が発生する」
狐は黙っている。
「選べ」
俺は一歩近づく。
「形式的な正しさか」
「実質的な安全か」
空気が、張り詰める。
「……二択にするのは、卑怯ですね」
「現実はいつもそうだ」
狐は小さく息を吐いた。
「では、逆に聞きましょう」
「あなたの仕組みは、“完全”ですか?」
「違う」
即答。
「未完成だ」
「改善の余地がある」
「ならば」
狐の目が、鋭くなる。
「その責任は、誰が取るのですか」
その問いに。
俺は、迷わなかった。
「俺だ」
沈黙。
「すべての責任は、俺が取る」
「結果がどうなろうと」
狐は、しばらく俺を見つめていた。
そして――
「……興味深い」
そう呟いた。
◇
視察は、その後も続いた。
細かい質問。
記録の確認。
だが、核心はすでに終わっている。
最後に。
正門前で、狐が言った。
「結論は、後日通知します」
「好きにしろ」
「ただし」
狐は少しだけ笑う。
「一つ、忠告を」
「あなたは、“目立ちすぎた”」
その言葉には、明確な意味があった。
「上は、あなたを“利用するか”“排除するか”で迷っています」
(予想通りだな)
「なら、早めに決めろと言っておけ」
「どちらでも対応する」
狐は、ほんのわずかに目を見開き――
「……本当に、面白い」
そう言って去っていった。
◇
その夜。
屋上。
レゴシが、隣に立っている。
「……大丈夫なのか」
「何が」
「さっきのやつら」
少し考えてから、答える。
「大丈夫じゃない」
「え?」
「確実に動く」
「潰しに来るか、取り込みに来るか」
レゴシは、黙り込む。
「怖いか?」
「……少し」
正直な答え。
「正常だ」
俺は空を見上げる。
「だが、止まらない」
ここまで来た以上。
引き返す選択肢はない。
「来るなら来い」
小さく呟く。
「次は、“外”ごと変える」