ポケットモンスター 不揃いの歩幅   作:ピカチュウ好き

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初めまして。よろしく!

誤字脱字ありがとうございます。恥ずかしいくらいあった笑


1歩目 謹慎

 

 

 

 突然だが、俺はプロを目指している。なんのプロだって? そりゃ、ポケモントレーナーのプロ、『リーグトレーナー』だよ

 

 バッジを8個集め、AからCまでのリーグ間でしのぎを削り、切磋琢磨し合う化け物達に俺はなりたい

 

 

 

 バチッ

 

 

 

 焚き火の薪が炎の熱で爆ぜる

 

 俺の横でそれを静かに見守るピカチュウ、その横できのみをゆっくり齧るマリルリ、俺の枕になっているウインディ

 

 コイツらと、行けるところまで駆け抜けたい。生き急いでいる、上等。俺は1度死んだ、なら、次の死に場所は俺が決める。誰でもない、俺が

 

 

 「……、なにが『森の証』だ」

 

 

 手のひらにキラリと焚き火の光を反射するフォレストバッジ。ハクタイジムを制した証であり、もう、価値の無いものだ

 

 本来なら、3ヶ月で3つのバッジ取得というのは快挙であり、ほとんど最短ルートを走っている。だが、俺の心にあるのは、落胆。規則に従って、本気で戦わないポケモン、反吐が出る

 

 投げ捨ててしまわないように、バッジケースの3番目にフォレストバッジを入れ、リュックの1番下に押し込む

 

 

 「………」

 

 

 俺は、焚き火の奥にある鉄の柵で囲われた森を見る。まぁ、ここも一応森の中だが

 

 『ハクタイの森』、別名【拒絶の緑宮】。B級ライセンス所持者以上の者しか入ることが許されない、正真正銘の【理外区域】。人間の法が適用されない、不可侵領域

 

 俺が持っているのは、C級ライセンス。B級ライセンスは、バッジ6個以上なおかつ試験に合格しないといけない

 

 

 バヂッ

 

 

 俺の目は、もう、移ろうことはなかった

 

 

 「なにが、規則だ。なにが、安全のための出力制限だ。あんなのバトルなんかじゃない、ただの、教育実習だろ」

 

 『ピカッ』

 

 

 きのみを齧っていたピカチュウが同意の声を上げる。俺の苛立ちに呼応して、頬の電気袋からパチパチと火花が上がる

 

 

 「だよな。あんなのじゃ、満足出来ねぇ。足りねぇよな」

 

 

 俺は、立ち上がり鉄の柵で出来た扉に手を掛ける。扉はかなり古くなっているが、とても頑丈に出来ており普通ならこじ開けることはできない

 

 ポケモンなら別だが

 

 

 【これより先、理外区域により無断侵入禁止。破った者には相応のペナルティを課します】

 

 

 看板を無視して、ウインディに命令する

 

 

 「ウインディ、電光石火」

 

 

 『ガァ!』

 

 

 

 ギャインッ!

 

 

 

 金属特有の音を立てて、柵がぶち壊れる。それは、夜の森に静かに、そして、広く轟いた

 

 目の前に広がるのは、闇。月明かりが照らしているが、そんなのは関係ない。これまで見てきたどの森よりも深く重い空気が流れ込んで来た

 

 

 「普通なら、引き返すんだろうな」

 

 

 相棒を見やる。彼はようやくか、と頭を振る。俺にも思うところはあったんだ、大目に見てくれよ

 

 ここから先は、【本物】の領域だ。本物の暴力と本物の神秘が未だに現存する、理外の領域

 

 怖くないといえば嘘になる。流石に恐怖が無い、とは言えない。が、この先に俺が、俺たちが求めたものがあるって言うのなら、踏み出さないワケにはいかないよな

 

 

 「行くぞ、お前たち。気ィ引きしめろ」

 

 

 各々から力強い返事が帰ってくる。ここから、本当の1歩目だ

 

 

 

 

 禁域の扉が開かれる。ルールで守られた世界では、決して嗅ぐことが出来ない、圧倒的な『なにか』。それが今夜、彼らに襲いかかる

 

 

 

 

 

 

  ズゥゥゥン……!!

 

 

 

 「おいおい、マジかよ」

 

 

 深部から響いてきたのは、声、というよりも振動だった。大気が震え、木々を揺らし、周囲の生き物を拒む、圧倒的な暴力

 

 それでも、足は止まらない。それどころか、心臓の鼓動は早まり、血液が沸騰したかのように駆け出す

 

 

 「………きた、来た、キタキタキタ!! これだよ!! コイツを待ってたんだッッ!!!!」

 

 

 視界が開けた。森が少し開かれており、スペースがあった

 

 そこには、ハクタイの森の生態系を完全に無視した生物がいた。ソイツは、周囲を砂塵の渦に飲み込み、緑を砂に変えようとする歩く災害。動く要塞。その名も────

 

 

 

 ────バンギラス

 

 

 

 その双眸が、場違いな侵入者である少年、レイを取るに足らない敵として捉える

 

 凄まじいプレッシャー。普通の13歳なら、足に力が入らなくなり、呼吸すらも忘れる。普通のトレーナーなら、すぐさま通報し、怯え逃げ惑うだろう

 

 だが、俺は違う。俺は、決して違う! 俺の中の闘志が燃え上がり、深く、鋭く爆ぜる

 

 

 

 「お前を待っていたんだよッッ!! 足りない、もっとだ。お前の全部で、俺を、俺たちを否定して見せろッ!!」

 

 

 

 震える拳を握りしめる。恐怖から来る震えではない。嬉しさから、期待からくる震えだ。この時を待っていたんだ、この瞬間をッ!

 

 腰に付けてあるボールの2番目を握り込む

 

 

 「ウインディ! 出番だ、行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 規約も、手加減も、慈悲もない

 

 禁域の闇を切り裂いて、レイと三匹の、本物の「命の削り合い」が幕を開ける

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

  バンギラスの咆哮が森を震わせる。しかし、レイの頭の中は驚くほど静かだった。視界は砂塵の中だが、全体を見渡せる位置にあり敵の挙動を常に監視している

 

 

 

「ウインディ、まずは『火傷』だ。深追いはするな、削るぞ」

 

 

 

 レイの冷徹な指令。その意図を理解したウインディが、神速に近い踏み込みを見せた。真っ向からぶつかるのではない。砂嵐の隙間、装甲の継ぎ目を縫うようにして、高熱の炎を叩きつける

 

 それに黙って見ている砂塵の主では無い。凶悪な爪で近付く火の粉を振り払う。レベル差は少なく見積っても30以上。しかも、本来はこの地に住むはずのないイレギュラーな個体だ

 

 だが、俺たちは独りじゃない。群れだ

 

 

 「今だ、電光石火」

 

 

 バンギラスが空振りし、次の攻撃の準備の隙。普通なら、その隙をトレーナーが埋める。しかし、彼は独り。その隙を埋める存在はいない

 

 ウインディの電光石火のヒットアンドアウェイは、大したダメージにならない。しかし、少しずつ着実に削れている。体力も、精神も

 

 

 

 『ゴガアアアアッッ!!』

 

 

 

 バンギラスが吼える。大技が来る

 

 

 バンギラスの口元にエネルギーが集中する。人間の俺にも見えるくらいに可視化された純粋なエネルギーが、ウインディを睨む

 

 流石のウインディもアレを喰らえば、瀕死じゃ済まない。一撃であの世に持っていかれるだろう。ウインディの脚は、僅かに震えている。それが当たり前だ、怖いんだろう

 

 既に電光石火だけでも、10発以上浴びせた。なのに、殆ど無傷。1割も削れていないのが現状だ。5分以上戦ってコレだ、体力と精神力が持たない。なのに、その弱みを俺に見せない、頼れる相棒だ

 

 

 

 「死ぬときゃ一緒だ、信じろ」

 

 

 

 思ったよりも、優しい声が出た。叫ぶつもりはない。ウインディは耳のいいポケモンだ、この砂塵の中ですらも囁き声すら拾う

 

 ウインディがハッとこちらを見る。俺の目に映っていた恐怖の目は、一瞬の内に信頼の目に変わる。信じている、頼られている、この群れのリーダーとして

 

 チャージが終わる。アレを喰らえば、並大抵のポケモンは消し飛ぶ。耐えることが出来るのは、耐久に強いポケモンの主クラスのみだろう。アレは、耐えるもんじゃない

 

 

 

 「いまだッ!!」

 『ゴギャアアアアッ!!!』

 『ガァロォォッ!!』

 

 

 

 3者が吠え、破壊の光が空間を喰らい、怪しい炎が要塞へと内側から身を焦がす

 

 『鬼火』、相手を『火傷』の状態異常にさせる技。そこまで命中率の悪い技ではないが、普通なら避けられる。しかし、バンギラスは破壊光線を撃ったばかりであり、あそこまでチャージをしたら反動は凄まじいをものになる

 

 必殺の一撃を避けられ、よく分からない技で痛みに苦しむ。彼は知らない。力で全てを解決してきた彼は、戦術を知らない。だが、彼は変えない。それしか知らない、だけでは無い、ここまで、それだけで来たんだ。生半可な気持ちと中途半端なプライドは持っていない

 

 

 「ここが、ようやくスタートラインだ」

 『ガルゥ』

 

 

 電光石火で破壊光線をかいくぐり、至近距離で鬼火を当てたウインディ。精神の消耗は、これまでに無い最悪の状態だ。だが、目は死んでない。なら、行けるところまで行くだけだ

 

 ヒットアンドアウェイ、それは言葉にすれば簡単で、ぺちぺちと叩くだけの簡単な仕事に見える。しかし、裏を返せば、それをしなくては勝てないほどの強敵

 

 俺だって、男だ。正面から打ち勝つのがカッコイイのは分かる。だが、勝たなきゃ意味がない。コイツらのリーダーとして、責任を果たさなきゃいけない

 

 けれども、終わりは唐突にやってくる

 

 

 

 『ギャンッ!』

 

 

 

 バンギラスの爪が躱しきれなかった。爪がウインディの皮を裂き、そのまま放物線を描くように投げ飛ばされる。火傷で、攻撃力が減ったのにも拘わらず、この威力。火傷じゃなかったら危なかった

 

 俺は素早くボールを構え、照準をウインディに当て、回収する。大丈夫、致命傷では無い。だが、彼はもうまともには戦えないだろう。あまりにも精神が削られ過ぎた。体力も、砂塵でかなりすり減らされた

 

 本当ならあの一撃は避けられた攻撃だった。たが、心が、追いつかなかったんだ。高々、10分も行かない攻防。しかし、一撃貰えば終わりの、格上とのタイマン

 

 コイツは仕事を果たした。なら、俺も次の仕事を果たすだけ

 

 

 

 「マリルリ、出番だ。腹太鼓」

 

 

 

 飛び出してきたマリルリが勢いよく腹を鳴らす。腹太鼓、自身の生命エネルギーを爆発的な攻撃力に変換する技。彼女の瞳には、ウインディが繋いだ好機を逃がさないと言う強い闘志が宿っていた

 

 

 「アクアジェット」

 『リッ!』

 

 

 『ゴガァ!?』

 

 

 予想以上の威力だったのだろう。バンギラスが体勢を崩す

 

 

 「アクアテール」

 

 

 『ゴギャァ!』

 

 

 腹太鼓状態で、このコンボをして体勢が崩れるだけって、どんな身体の作りしてんだよ。普通のポケモンならもう、とっくにリタイアだぞ

 

 マリルリが距離を取る。次の攻撃に備えて、様子を見る

 

 バンギラスは攻撃が当たった場所をさすり、マリルリを睨め付ける。大したダメージでは無いが、受け続けるのはダメだと理解したのだろう。かなり警戒している

 

 なら、コチラは回復するまで

 

 

 「アクアリング」

 『りりっ』

 

 

 マリルリの生命力がじわじわと再生する。本来は、腹太鼓で削った生命力を回復させるためだがこの砂塵で受けるダメージ分しか回復しないだろう

 

 この砂塵、すなあらしはかなり長い。本来なら、既に晴れていてもおかしくないのに、まだこの威力で保ち続けている。彼が俺達をキチンと敵だと認識しているのだろう

 

 痺れを切らしたバンギラスが、接近する。マリルリが、爪を躱し、牙を躱し、突進をいなす

 

 

 「アクアジェット」

 

 

 マリルリの攻撃が刺さる。そして、ようやくその装甲にヒビが入る

 

 だが、こちらも無傷では無い。規格外の攻撃力は反転して、こちらのダメージになる

 

 硬いものを殴れば、痛いのだ

 

 マリルリの肩は、既に腫れ上がってもうアクアジェットは使えない。次の攻撃で最後だ

 

 

 

 「しのげ、次まで耐えろ」

 『ルリッ!』

 

 

 

 そんなの分かってると、叫び返すマリルリ。勝気な所は、こんな所でも変わらない。俺は、そんな相棒に口元が歪むのが耐えられない

 

 嬉しい。自分と志を共に出来る仲間が、こんなにも居るんだ。俺は、恵まれている

 

 火傷で鈍ったバンギラスの懐へ、マリルリが肉弾戦を挑む。響き渡る肉と岩の衝突音。マリルリがボロボロになりながらも、その規格外の怪力でバンギラスの鉄壁の装甲に「亀裂」を刻み込んだ

 

 

 

「よくやった。……あとは、任せろ」

 

 

 

 膝を突き、満身創痍なマリルリを戻す。砂塵は晴れた。月が俺とバンギラスを照らす

 

 バンギラスには、まだ余力があり、コチラが残すのはピカチュウのみ

 

 俺は1歩前に出る。そんなつもりでは無かった。だが、堪えられなかった

 

 

 「どうだ? 俺たちは。お前も、求めていたんだろ? このヒリヒリをっ!? どうだ!! 否定される気分は!! 気持ちがいいだろうッッ!!」

 

 

 『…………』

 

 

 「コイツで最後だ。頼むぜ。最後までそのままでいてくれよ」

 『ピカッ』

 

 

 ピカチュウが勝手ボールから出てくる。わかってるよ、お前がうずうずしてたのはさ。だが、お前が大将なんだ。どっしり構えとけ

 

 バンギラスはもう油断はしない。出てきたのが、愛玩動物のような可愛らしいポケモン。しかし、この群れは、自分に匹敵する。首元に突きつけられた刃が彼に油断の2文字を消す

 

 ピカチュウに言葉は要らない。もう、8年の中だ。親に頼みまくって、わざわざカントーのトキワの森まで行って連れてきたピカチュウ。一目見て分かった、コイツだって。本当に行ってよかった

 

 

 「なぁ、相棒、これ程楽しいことはあったか?」

 

 『ピッ』

 

 「そうだよなぁ! なんだよ、なんだったんだ今までは!! バンギラス!! 最高だぜ!! お前も乗ってこいよぉッッ!!!」

 

 『ピッカアアアッッ!!』

 

 

 

 『グギャアアアアッッ!!』

 

 

 

 バンギラスの咆哮が耳をつんざき、大気を震わせ、物理的な攻撃として体を打ち付ける

 

 ピカチュウも、俺も、1歩も引かない

 

 ピカチュウは、バチバチと頬袋から火花を散らし、今か今かと飛びかかる準備をしていた

 

 

 「高速移動」

 

 

 ピカチュウが姿を消す。否、あまりの速度に目が追いつけていないだけだ。そのまま背後をとるピカチュウ

 

 

 「スパーク」

 『ピッカ!!』

 

 

 『ゴッ!?』

 

 

 空気を切り裂き、装甲が脆い部分を的確に突く

 

 

 「もう一度、高速移動」

 

 

 暑い、熱い、だが、心は冷たく研ぎ澄ませ

 

 俺の世界から、音が消える。心臓が早鐘を打ち、これ以上は持たないと叫ぶが、そんなのはどうでもいい。アドレナリンが溢れ出してくる

 

 バンギラスが最大火力の地震を放つ。地面がめくれ上がり、ピカチュウは空に逃げるしか無い

 

 

 破壊光線だ

 

 

 「最大火力っ!! 10万ボルト!!」

 

 

 『ピカァヂュウゥゥッッ!!』

 

 

 『ゴギャアアアアアッッ!!』

 

 

 

 

 

 ──────世界から音が消えた

 

 

 空を裂く黄金の雷光。死をも恐れぬ一撃が、バンギラスの眉間に刻まれた亀裂を貫いた

 

 膝を突いたバンギラスの巨体が地響きを立てて四つん這いになる。片腕はもう上がらず、片方で支えていることしか出来ない

 

 ピカチュウは肩で息をし、未だにバンギラスを睨めつける。だが、その中心に立つ俺だけは、確信していた

 

 

 「ピカチュウ、もういい。終わったんだ」

 『ピカッ』

 

 

 俺はバンギラスの下へと近づく。バンギラスは、肩で息をしながらゆっくりと顔を上げる

 

 その眼光は、敵を見る目ではなく、自分に勝った、勝者に注ぐ相手を認めた瞳だ

 

 

 「俺に付いてこい。お前、はぐれだろ。そんなところで燻ってんじゃねぇよ。俺なら、お前をもっと高みへと連れてってやるよ」

 

 

 モンスターボールを差し出す。バンギラスは潔くそのボールに入っていった。彼の世界では、勝者が全てだ。彼は、幾つもの群れを破壊してきた。これからもそうだと思っていたが、今回は違った

 

 自分には無い、ナニカがレイ達にはあった。ソレは、確実に自分を強くする。なら、拒む必要ない。自分に相応しくないなら、それまでの話だ

 

 静かに収まったボールを腰にあるボールポーチの4番目に固定し、ピカチュウを見る

 

 

 「新たな仲間だ。それも、とびきりのな」

 『ピカ』

 

 「はぁ? 先輩風吹かすのはいいけど、ぶっ飛ばされるだけだぞ?」

 『ピッカピ』

 

 「ハハッ! なら、もっと強くならないとな!」

 

 

 喉の奥が血の味がする。視界は半分赤く染まり、四肢は悲鳴を上げている。だが、レイの魂はかつてないほどに満たされていた。バンギラスという「本物の暴力」を喰らって、ようやく腹の虫が収まった

 

 

 だが、【本物】とは、元来人間にどうにか出来るものでは無い

 

 

 

 

 空間が、止まる。それが、俺が言葉にできる唯一の表現だ

 

 

 

 

 「は、はは」

 

 

 俺は、半笑いで振り向く。そこには、1匹のポケモンが立っていた。森の空気が一変し、暗がりの奥から音もなく、滑るように現れた白い影

 

 圧倒的な存在感。コイツは、あのバンギラスでさえも、戦うという次元に持っていくことができない程の【本物】。彼らは、【特異点(シンギュラリティ)】と呼ばれ、1匹で国を落とし、ルールを塗り替えてしまう正真正銘の化け物だ

 

 

 

 場違いな気高さを纏うサーナイト。彼女がゆっくりと近付く

 

 

 

 ウインディ、マリルリ、バンギラスが、ボールから飛び出す。彼等は、俺を庇おうと前に出る。だが、彼らは既に瀕死に近い。唯一、ピカチュウぐらいが何とか戦える状態だ

 

 

 「待てよ。お前ら。舐めてんのか? 俺とピカチュウがどうにかするから寝とけ」

 

 

 3匹は、しぶしぶと言った顔でボールに戻る。彼等が勝手に出て来ないようにロックを掛ける。ピカチュウを見る。相棒は、仕方無いと頭を振る。だが、そんなピカチュウを抱き上げ、頭を合わせる

 

 

 「ごめんな」

 『ピッ!?』

 

 

 相棒をボールに戻し、ロックを掛ける。ボールが激しく揺れる。最近のモンスターボールは内側からの力にめっぽう強い。しかも、小さくなっている時のポケモンの力はかなり制限される

 

 だが、彼等なら無理やりこじ開けようとするだろう。コイツらは仲間思いの良い奴だ。こんなところで、心中はさせない。ま、選ぶのは、この化け物だけどな

 

 せめて、リーダーとして、責任を果たす

 

 

 「騒がせて悪かったな。せめて、俺だけの命で、勘弁してくれないか?」

 

 

 目を見て話す。ポケモンは頭が良い。虫ポケモンですらトレーナーの言うことを理解する。サーナイト程のポケモンなら、人間よりも知能指数が高いだろう

 

 しかも、コイツはその中でも別格。比べられるポケモンは、伝説か、あるいは他の理外区域の【特異点】しかいないだろう

 

 

 『…………なにか、勘違いをしていますよ。私は、あなたたちに感謝しているんです』

 

 「……感、謝?」

 

 『ええ。あのバンギラスを懲らしめてくれて、ありがとうございます』

 

 

 脳内に直接響く、美しい声。テレパシーってヤツだが、初めての感覚だ。ちょっと気持ち悪いな

 

 カチッと言う音ともにボールのロックが外れる。ピカチュウが即座に出てきて、しっぽで俺を吹き飛ばす。ウインディがそんな俺を踏みつけ、マリルリが弱々しくビンタをする

 

 

 『……ピカ』

 

 「ごめんって。謝るけど、後悔はしないぞ。俺はな、お前らのリーダーとしての仕事をしてるんだ。お前らが仕事を果たしているのに、俺が仕事を果たさない訳には行かない」

 

 『ぐる』

 『りり』

 

 

 「まぁ、また後でうまい飯でも食べよう」

 

 

 『私のせいで勘違いさせてしまい、申し訳ありません』

 

 

 ぺこりと、上品だがその圧倒的な重圧が上品を気高さに変える。普通のサーナイトにある可愛らしさや美しさも、凛としたモノに切り替わる。まさに女帝、女傑の類いだ

 

 

 『まずは、感謝を。彼を止めてくださり、ありがとうございます。少し困っていたんです、彼を止められる子は存在しますが、ここに来ては行けない決まりなので』

 

 「決まり?」

 

 『はい。ここは、ハクタイの森の中でも浅層。中層や深層の子が出しゃばる訳にはいかなかったんです』

 

 

 決まり、規則、ルール。そんなのが嫌になって飛び出して来たのに、その先ですら、まだまだ縛られているなんて。やっぱり異物は俺たちなんだな

 

 

 「…………はっ、なんだ、ここでも縛られているのか」

 

 『……なるほど。貴方は、そういう理由でここに来られたんですね』

 

 

 サーナイトが俺の瞳を真っ直ぐ見る。なんだ、心でも読まれたのか? 無いとは思うが、記憶すらも読めてもおかしくは無い。エスパータイプにはそういうことが出来ると、噂で聞いたことがある

 

 

 『いえ、読もうとすれば読めますが、それはマナー違反と言うものです。今も読んでませんよ? 貴方は、顔に出やすい。可愛らしいものです』

 

 「かわ、いい? 何を言ってるか分からないが、あんたは何しに来たんだ? 感謝を伝えに来ただけなら、もう俺達は帰るぞ」

 

 『ああ、すみません。私の悪い癖です。貴方には、頼みたいことがあるのです』

 

 

 ふわりと笑みを浮かべるサーナイト。こいつの感性はよく分からん。だが、ここまで突き抜けている奴は、大体よく分からないやつが多い。強いって事は、異常って事だからな

 

 

 「頼み?」

 

 『はい。私の一族の末っ子を貴方に頼みたいのですよ』

 

 「…………末っ子、俺に? なんでだ。俺なんかよりもアンタや、バンギラスを倒せる奴が他にもいるんだろ? ソイツ等に任せろよ」

 

 

 実際、俺がその子に危害を加える可能性はゼロではない。ハクタイの森の主の末っ子として売りさばくと言う未来もある。そんな危険を冒すなんて、ありえない、と思う。絶対に俺はやらないが

 

 それが分からないポケモンでは無いだろう。ここ、ハクタイの森【拒絶の緑宮】は、昔の事件を元に付けられた名前だ。人間を拒絶する森として有名なのに、俺は、歓迎されている、のか?

 

 

 『アレは、痛ましい事でしたね。私も、やり過ぎだと思いましたが、あちらもやり過ぎました。引くに引けなかったのですよ』

 

 「おい、マナー違反してるだろ」

 

 『ふふ。少しぐらいはいいじゃないですか。コホン。では、本題に入りますね。彼女は、ここを出たがってるんです。世界を見たい、と』

 

 

 サーナイトが手招きをすると、暗がりの中からキルリアが出て来た

 

 キルリアは、目を爛々と輝かせて、瞳を潤ませなながら俺のことを見つめる。その頬は、熱で少し赤くなっているぐらいだ

 

 サーナイトが、キルリアの背中を優しく押し出す。行ってきなさい、と。サーナイトの瞳が俺を射抜く、目が語っている。拒否は許さない、と

 

 面白いじゃねぇか。だがな、やられっぱなしは性にあわない。サーナイトに歩いて近付く。ゼロ距離まで近付く。流石のサーナイトも少し困惑しているようだったが、関係ない

 

 ガシッと、サーナイトの首に手を回し額をサーナイトの顔にゴッと、ぶつける

 

 

 「今は無理だ。だが、絶対にお前を倒すからな。待っていろ」

 

 『………。ああ、たまには、夜更かしはするものです。久しぶりに滾ってしまいます。待っていますよ、チャレンジャー。この【断罪者】が待ちましょう。その時は、彼の時のよう、全てをかけて来なさい』

 

 「当たり前だ」

 

 

 俺は手を離し、キルリアの方を向く。そして、片膝を突き目線を合わせる

 

 

 「本当に俺と来るのか? かなり辛い旅だぞ。俺は、それでも行けるやつらを見て、決めてる。折れることは、絶対に許さない」

 

 『ああ、叔母様。最高です。この人しか、ありえないです』

 

 『そうでしょう。貴女のパートナーは、この子しか考えられない』

 

 「…………、なんか、面白いやつらだな。なら、行くぞ。流石に限界だ」

 

 

 今の時間帯は深夜。この身体は、前の体と違い一徹ぐらいなら余裕でこなすが、今日は流石に限界だ。キルリアが人の言葉をテレパシーで話せるのなんて、知らなかったけど

 

 ウインディの怪我をスプレーで応急処置し、彼にまたがる。キルリアはふわりと浮かび、俺の後ろに張り付く。ピタリと張り付く。なんだこれ、吸盤みたいだな

 

 足でウインディに合図を出し、ゆっくりと進ませる。コレは、ポケモンセンターで回復させないとダメな怪我だからな。バンギラスも、かなりダメージを負っているし、マリルリも相当やられてる

 

 出るのは、簡単だった。ただ、出ればいいだけなのだから。去るものは拒まず、テリトリーに侵入するモノを拒む森だから

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そうして、俺は3ヶ月の謹慎とC級ライセンスの剥奪、3ヶ月のバトル禁止、バッジの剥奪及び所持ポケモン押収が言い渡された

 

 

 




月一で更新したい。次は5月末までにいけるかなぁ

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▼十三束 鋼。▼いまの俺の名前だ。▼どうやら魔法科高校の劣等生の世界に憑依転生してしまったらしい。▼お兄様がヒャッハーする世界で生きてくとかマジで嫌なんだけど…。▼まぁ、転生してしまったのだから仕方ないか。▼


総合評価:10008/評価:8.23/連載:12話/更新日時:2026年06月13日(土) 00:00 小説情報


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