処女はお姉様に恋してる 季節外れの迷子(フェアリー) 作:パオパオ
第0話 五月末日、私の独白。
私、連城梓(れんじょうあずさ)の日常が日常でなくなったのは、一体何が原因だったんだろう。考えても仕方がないことだが、今の私はそれを考えていた。
母親の再婚、父親の死亡、連城の家の凋落。様々な要因が思い浮かぶけれど、どれも私にどうにか出来ることではなかった。
母が新しい幸せを求めたのは素直に嬉しかった。それまで亡き父への想いに捕らわれていた母の姿は、見ていて辛かったから。
父親の死は、運が悪かったとしか私には云えない。アジアの国のどこかに出張していた時に起きた、反政府デモに巻き込まれてしまったと聞いているが、運がない以外にどう云えるだろうか。
母方の実家である連城の家。かつては国内でトップクラスの宿泊産業を担っていたという我が家は、私が生まれる直前に幹部達の汚職が次々に発覚して一気に没落した。だから私が知っている連城の家とは、大きなホテルをいくつも経営する、借金まみれの一族という認識でしかない。
別に現状に不満がある訳じゃない。
母は女手一つで私を育ててくれている。所謂お嬢様だった母が、慣れない家事を家政婦と見間違うまでに熟練する位には、母に迷惑を掛けてしまっている。
母から寝物語で聞かされた父の話は、愛していたのだということが子供の時分だった私にも如実に伝わってきた。頬を染めて語らう母を見て、父に軽い嫉妬を覚えてしまう程には。
連城の家には私の生活費を捻出して貰っているため、感謝の念が堪えることはない。血とお金の関係しかないが、それでも私があの家のお世話になっていることに変わりはないのだ。
そう。
だから仮令(たとえ)、私が突然学校を辞めることになったとしても、私に云えることは何一つないのだ。住み慣れた土地を離れることを勝手に決められても、それが覆されることはあり得ないのだ。
けれど、やはり私が思うに、せめて事前に一言だけでも、私に云っておいて欲しかったと思う。
来週から別の学校に行くことになっていると、義父が食事の席で思いついたように云うのは、まだ十六歳の私にはキツいものがあるのだから。
連城の家がオーナーを勤める高級レストランで、私がステーキをフォークで刺し、あんぐりと大きく口を開けたまま固まってしまったのは、仕方のないことだと思う。
その時の私は、端から見ればとても間抜けに見えただろう。淑女としてではなく、年頃の少女としてかなり致命的な姿を曝していた私は。
ああ、主よ。(エリ・)貴方は何故(エリ・)私をお見捨てに(レマ・)なったのですか(サバクタニ)?
……ちなみに、冷めてしまったステーキも十分美味しかったとここに追記しておく。