処女はお姉様に恋してる 季節外れの迷子(フェアリー)   作:パオパオ

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第2話 六月上旬、転校日のあれこれ。

「突然ですが、今、私達のクラスの前に転校生が来ています」

 

 二年C組の扉の向こうで、担任の先生がクラスメイト達に私の存在を伝えていた。緊張しながら待つ私の耳に、女生徒達のざわめきが聞こえてきた。

 お嬢さまと云ってもやはり騒ぐ時は騒ぐらしい。頭のどこかでお嬢さまとは自分とは違う種類の人間なんじゃないかと考えていた私には、少し落ち着ける要素だった。

 大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。何度か繰り返し、緊張を緩和しようとする。その最中、無情にも担任の声が掛けられた。

 

「静かにしてください! ……コホン。それでは、入って貰いましょう。連城さん、入って下さい」

 

「は、はひ!」

 

 緊張のあまり裏返ってしまった声に、頬が赤くなるのを自覚する。逃げてしまいたいという欲求が高まるが、当然そんなことは出来る筈がない。

 息を吸い、体の中に留める。心を決め、扉を開ける。

 予想よりも大きな音を立てながら扉が開き、途端に四十対の視線が突き刺さる。喉がカラカラに渇き、上手く呼吸が出来なくなる。

 

 ――落ち着け、私。何をそんなに緊張する必要がある?私を見ているのは、高々四十人の私と同じ人間だ。お嬢さまだからと云って、気負う必要なんて無いんだ。

 これまでだって何度も人前に出てしゃべったことはあったじゃないか。その時と違って今向けられているのは、悪意なんて欠片も感じ無い、私に対する興味本位の視線なのだ。そんなものに怯えるような人間か?そんな訳がないだろうよ。

 

 ……時間にして、数秒と云ったところだろうか?

 自己暗示を終え、いつの間にか閉じてしまっていた目を開ける。視界に映るのは、四十人の心配そうな表情。

 息を吸う。吐き出す。足を一歩踏み出し、教室の境界を無造作に越える。こんな簡単なことも出来なくなっていた直前の自分が信じられない。

 顔を上げ、胸を張る。おどおどとしていた印象を払拭するように、声を張り上げて云った。

 

「皆さま、初めまして! 不肖、連城梓、本日より聖應女学院にて皆さまと共に学ばせて頂きます! 宜しくお願いします!」

 

 云い切った。下げた頭のせいで、周りの様子が解らない。

 失敗の二文字が思考の片隅を過(よぎ)った瞬間、パチ、と手が叩かれた。

 パチ、パチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

 教室の至るところから拍手の音が聞こえてくる。顔を上げてみると、皆が優しい表情で私を見ていた。

 

「はい、皆さん、拍手はそれくらいにして下さいね。連城さんも緊張していたみたいだけど、良く出来ました。あそこの空いている席が、この一年間の貴女の席になるわ。もうすぐ授業が始まるから、着席して頂戴ね」

 

「はい、解りました」

 

 荷物を持って、教室の隅にある無人の席へ向かう。私の表情は、随分晴れやかだったことだろう。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 授業が始まり緊張感も若干収まってきた頃、私はクラスの中を見回していた。流石お嬢さまだとでも云えば良いのか、髪を染めたりしている人はあまり居ないようだった。

 そう。あまり、である。つまり少しは居るのだ。

 例えば私の前に座っている金髪さんだったり、私とは逆の端っこに座っている茶髪さんだったり。

 あ、今茶髪さんと目が合った。って、碧眼? 顔つきも違うようだし、茶髪さんは外人さんなのか。

 考えてみれば、お嬢さまなんだから髪を染めるなんて親に許される訳無いか。そもそも、非行なんて考えもしないのだろう。

 ……今の私、お嬢さまというものを偶像化し過ぎている気がするな。少しは自重した方が良いかもしれない。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 ……あ、チャイム鳴った。まずいな、先生の話全然聞いてないや。まあ聞いてても理解出来なかったんだけどさ。

 いや、さっきの古典の授業が、さ。いきなり源氏物語の桐壺の解説されても意味が解らないんですよ。私が最近やってたのって、そもそも源氏物語じゃなくて方丈記だったから。

 古典作品の内容を途中から説明されても、どうしろって云うのか。これが数学ならまだ……いや、もしこの学校の方が進んでたら、私は詰むしか無いな。

 

「今日は皆さん、あまり授業に集中出来ていませんでしたね。転入生が来たばかりですから、無理も無いと思いますけど。週末にはテストですから、気を引き締めてくださいね。委員長、号令を」

 

「起立、礼」

 

 ……テスト、だって? 一コマ目の授業で絶望を覚えていた私に追い打ちを掛ける気か? 先生達にそんな気はないんだろうけど……いや、ね。

 古典だけでこれなんだ。他にも社会科目……流石に、公民であることは変わらないよね? 後は理系科目も心配だ。理系科目はそもそも理解出来てないんだけどさ。

 それにしても、テスト、ねぇ。私、テストの傾向を読んだりする以前の問題で、授業の内容すら理解出来そうにないんだけど、どうしようね。あは、あはははは。

 

「えっと、連城さん、でしたよね。初めまして。あの、大丈夫ですか?」

 

 机に突っ伏したまま声を殺して自嘲していた私に、前の席から声が掛けられた。私の前に座っていたのは、ああ、金髪さんだったっけ。

 顔を上げて、こちらを見ている金髪さんの顔を観察する。やっぱり美少女だよ、この人も。

 太陽の光を浴びて輝く黄金の髪に、意思の強さを窺わせるぱっちり開いたブルーアイズ。夏の薄い制服だからこそはっきり見て取れる、すらりと伸びた細い手足。うん、文句無しに美少女だ。

 私がじっと見詰めていたことに気付いたのか、金髪さんは少しむっとしたような表情を浮かべた。

 

「あっと、ごめんなさい。初めまして、連城梓です。それで、その、大丈夫ってどういうことですか?ええっと……」

 

「ああ、自己紹介がまだですね。私、冷泉(れいぜい)淡雪(あわゆき)と申します。それでですね、先程、連城さんが小声で何か仰っていたようでしたから、気になってしまいまして」

 

 うわあ、凄い名前だ。名字の漢字がまるで思い付かない。そもそも、金髪さんって外人さんじゃなかったの? 凄く日本人らしい名前だし、もしかして日本人なのかな。

 と云うか、私の笑い声が聞かれてたのか。うーん、どうしようかな。このままじゃテストで赤点必至だし、金髪さんに頼ってみようか?

 

「恥ずかしい話なのですが、授業に全くついていけなくてですね……このままでは、テストで赤点を取ってしまうのではないかと危惧していまして」

 

 金髪さんは少し考えた後、納得したように頷いた。

 

「……? ああ、なるほど。連城さんの学校とは授業の内容も違うでしょうからね。古典なんて、教科書の中でもやらない話も多いですし。そんな状態でいきなりテストなんて、何と云うか……ご愁傷様です?」

 

「その通りですけど、見捨てないで欲しいかもです……」

 

 あはは、と苦笑する金髪さん。私にとっては笑い事ではなくとも、貴女にとっては笑い事ですよね。当然、解ってましたとも。

 だらしなくも机に突っ伏した私のことを不憫に思ったのか、金髪さんはありがたい申し出をしてきた。

 

「宜しければ、私のノートでも貸しましょうか? 字は読み辛いかもしれませんけ――」

 

「是非に!」

 

「ひゃっ!?」

 

 ガバッと起き上がった私に驚いて、金髪さん――いや、冷泉さんが可愛い悲鳴を上げた。こう、グッとくるものがあったが、今は努めて気にしないようにする。

 感謝の意が伝わるように、少し仰け反った冷泉さんの手を取って、机から体を乗り出して礼を云う。

 

「ありがとうございます、冷泉さん! これで私もきっと大丈夫です!」

 

 目を輝かせる勢いの私を見て、冷泉さんは軽く引いているようだった。いや、いきなり手を取られたからかもしれないが。

 

「そ、そうですか。あの、連城さん、出来ればその手を放して欲しいかなーなんて」

 

「っと、すみません。いきなり慣れ慣れしかったですね。以後、気を付けるようにします」

 

 困った様子の冷泉さんを見て、慌てて謝罪の言葉を口にする。昔から、調子に乗ると人に触れたがるのは私の悪い癖だ。改めるつもりもないけれど。

 

「や、別にそういう意味じゃないんですけど」

 

「え?  それじゃあ、どうい――」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「……もう先生が来ているので、授業の準備をしないといけなかったんですけど。少し、云うのが遅かったですね」

 

「それは、大変失礼致しました……」

 

 すぐ側でこちらを見下ろしている教師に、二人揃って頭を下げた。持っていた名簿で順に軽く頭を叩かれて、冷泉さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 教師が教卓の前に戻り、二コマ目の授業が始まった。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 四コマ目の数学が無事に終わり、昼休みになった。教師が教室を出ていくのを見送って、息を吐いて机の上に体を投げ出した。

 

「あー、疲れたー。何なのこの気疲れする授業。息が詰まるってばー」

 

「連城さん、言葉遣いが乱暴ですよ」

 

「あっ……とと。失礼しました、冷泉さん」

 

 冷泉さんに窘められる。慌てて姿勢を直し、着衣の乱れを整える。一応、周囲の目を気にして取り繕ってみたが、どうにか誤魔化せたようだった。

 

「やっぱり、慣れない内はすぐに敬語じゃ無くなりますね」

 

「あはは。まあ、慣れない内は大変だと思いますけど、慣れてしまえば気にならならないものですよ」

 

「そんなもの、ですかねぇ……」

 

 ぐるりと周りを見回す。教室内には、鞄から取り出した弁当箱を突いている生徒が、全体の半分程残っていた。

 ……教室を出ていった生徒達はどこに行ったのだろうか。気になったので訊ねてみた。

 

「あの、皆さまはどちらへ行かれたのですか?」

 

「うん? ああ、学食じゃないでしょうか」

 

「学食?」

 

 そう云えば、貰ったパンフレットにあるって書いてあったかも……。

 

「美味しいんですかね?」

 

「そうですねえ。他のところがどれくらいかは知りませんが、ここの学食はかなり美味しいと思いますよ。料理の種類も豊富ですし、値段もリーズナブルですから」

 

「なるほど……」

 

 一度、行ってみるのも良いかもしれない。とりあえず今日は母特製のお弁当があるので、また次の機会にしよう。

 

「今日は私も学食に行くつもりなんですけど、連城さんもよければ一緒にどうですか?」

 

「生憎、今日はお弁当がありますので……それに、こんな時間だと席も空いてないでしょうから」

 

 冷泉さんは私と話していて出遅れてしまったのだ。昼休みも五分が過ぎ、そろそろ席もなくなっている頃合いだろう。

 

「席は間違いなく余っていると思いますよ? 何せ、全校生徒を一度に収容出来るくらいの広さがあるらしいですから」

 

「はい!? それはまた、広いですね……」

 

 全校生徒、って何人だ? 少なくとも、百や二百じゃきかないだろうけど。一体どれだけ広いんだ……?

 ともかく、それなら折角のお誘いを蹴る必要は無い。独り寂しく食事を取らないで済むのはありがたいし。

 

「そう云うことなら、私もお供させて貰います。あ、お弁当の持ち込みは大丈夫ですよね?」

 

「勿論。さあ、行きましょうか」

 

 そろそろ行かないと食事の時間が無くなりそうだ。同時に席を立った私達に、横から声が掛けられた。

 

「やあ、貴女達も学食に行くのかい? 良ければ私も混ぜてくれないかな」

 

 声を掛けてきたのは、例の茶髪さんだった。どうしますか、と私が視線を送ると、冷泉さんは先に答えた。

 

「私は構わないです。連城さんは?」

 

「勿論大丈夫です、けど。ええと、貴女は……」

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。初めまして。私はケイリ・グランセリウス。夜に在り、数多(あまた)星々を司る、星の王女だ」

 

 ……ロイヤルな人!? え、何、この学校ってそんな人も通ってるの!? そこまでは流石に考えて無かった!

 驚きを隠せない様子の私を見て、冷泉さんが戸惑ったように云った。

 

「ケイリさん? ええと、それは冗談か何かでしょうか」

 

「ええ、まあそんなところです。何はともあれ、これから仲良くしてくれると嬉しいですね、二人とも」

 

 笑いながらそんなことを云う茶髪さん。どうやら冗談のようだ。そりゃこのご時世に王族なんてそうそう居ないですよね。

 それに、近くで見て気付いたけど、この人もかなりの美人さんだ。

 茶色、と云うより僅かに褐色がかった肌に、それを濃くした頭髪の色。エメラルドグリーンに妖しく光る双眸(そうぼう)は、日本人には決して出せない魅力を醸し出している。

 この学校に入るのに容姿の基準ってあったかなあと思わず考えてしまうくらいに、逢う人逢う人皆が綺麗だ。並の容姿でしかない私では、少し気後れしそうになる。

 

「はい、こちらこそ宜しくお願いします。グランセリウスさん」

 

 そう云うと、茶髪さんは微かに嫌そうに眉をひそめた。

 

「グランセリウスさんはやめて欲しいかな、梓。私のことは、ケイリと呼び捨てにしてくれると嬉しいな。敬称で呼ばれるのは好きじゃないんだ。それが友達になろうとしている人からなら、尚更、ね」

 

「そうですか? では私のことも淡雪でいいですよ、ケイリさん」

 

「同い年なんだから、もう少し砕けた言葉の方が好みかな。私には、そうお願い出来るかな?」

 

 パチリとウインクをしてみせる茶髪さん。いや、ケイリ。有象無象がしても滑稽でしかないそれは、ケイリにとても似合っていた。

 だから私は、お返しとばかりに、自分の精一杯の笑顔を浮かべて云ってしまった。今までの習性が抜けきっていなかったことを、直後に後悔することになるが。

 

「解りました、ケイリ。でしたら私のことも、あずにゃん♪とでもお呼びくださいね?」

 

 ――沈黙。他の人も居る筈の教室内が、何故か一瞬完全な沈黙に包まれた。冷や汗が私の頬を伝って流れ落ちる。

 

「ぷっ、くっ、あはははははっ! いや、梓、貴女はユーモアのセンスもあるみたいだね。良いね、うん、良いよ、ぷっ。こんな時期に転校してくるからどんな人かと思ってたけど、存外に面白い人じゃないか! ああ、本当にこれからが楽しみだよ」

 

 静寂を破ったのはケイリの笑い声だった。ケイリに続くように冷泉さんが、更には教室内にいる人達が次々と、くすくすと笑い声を零していった。

 その間、私は笑みを浮かべたまま微動だにしなかった。阿呆なことを云ってしまった自分が恥ずかしすぎて、体が硬直していたのだ。

 新たな黒歴史が、私の中に生まれた瞬間だった。

 

「……二人とも、そろそろ学食行かないと、ご飯食べてる時間無くなるよ?」

 

 まだ少し笑いを堪えながら、冷泉さんが私達に云った。時計を見れば、先程よりまた五分、時計の針が進んでいた。ケイリは口元を手で隠しながら、肯定の意を示した。

 

「うん。じゃあ、行こうか。淡雪、あずにゃん。ふふっ」

 

「それはやめて! 冗談なんだから! それ以外なら何でも良いからさ!」

 

 あははは、と淑女らしくない笑い声を発しながら、私達は食堂へ向かった。騒ぎながら廊下を歩く私達は、良くも悪くも注目の的だった。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「これでホームルームを終わります。それでは皆さん、ご機嫌よう」

 

 六コマ目の授業も無事に済み、たった今ホームルームも終わった。いや、授業の方は無事かどうか定かではないけれど。何せ六コマ目は、公民だったのだ。

 幸いと云って良いのか、内容は既に前の学校でやったところだった。五コマ目の数学ももう前の学校でやった内容だったし、これならテストも何とかなるんじゃないか、と淡い期待を持つことが出来た。

 ……尤も、その期待も今粉々に打ち砕かれているのだが。

 

「あははは……」

 

 冷泉さんが苦笑を浮かべている。その苦笑が向けられている先は、云うまでもなく私だ。その私が何をしているのかと云うと、まあ絶望しかしていないんだが。

 私の手には、冷泉さんから渡されたテストの範囲が書かれたプリントが握られている。折れ目が付かないよう気を付けてはいるものの、本心では握り潰したくて仕方が無かった。

 プリントから教科書の該当ページを確認する作業を終えて、私は頭を痛めるしか無かった。二ヶ月分の授業の集大成だけあって、その範囲は広大だ。特に暗記系科目は、一から覚えることが多過ぎた。

 

「こんな量、どうしろって云うのよー……死ぬ気で覚えないと無理じゃないのー……うだーっ!」

 

「いや、ホントに辛そうだよね、連城さん。流石に同情するわ」

 

 言葉遣いの悪さを窘められることも無い。そうなっても仕方ないと傍から見て解る程に、今の私は追い詰められていた。

 人の減った教室内とは云え、それでも人はまだ残っている。そんな中で、髪を掻き乱し、時折奇声を発する私はどう見ても危険人物だった。

 

「数学や公民の一部が勉強しなくて済む分、まだマシだと思おう。無理矢理でもボジティブに考えないとやってられないって……」

 

「ノートは貸すけど、あんまり期待しないでね。字も下手だし、板書を写してるだけで、特別纏めたりとかはしてないんだから」

 

「いえ、授業のノートがあるだけで大分違います……ホント、感謝してますって」

 

 借りたノートを捧げ持って、ヘコヘコと頭を下げてみせる。パラパラとめくった限りでは、ノートは読みやすい文字で綺麗に纏められていた。これで字が下手とか、ひどい謙遜だと思う。

 けれど一つ、気に掛かることがある。それは取りも直さず、私の手に冷泉さんのノートがあることだ。

 

「それにしても、借りてる私が云うのもなんだけど、テスト直前にノートが無くて大丈夫なの? 勉強、しなくて良いの?」

 

「うーん、別にしても良いとは思うんだけどね。なんと云いますか、既済の勉強分だけの方が自分の実力が計れる気がしない?」

 

 その勉強しない理屈は耳に新しいことでもない。当然、褒められたことじゃないのは解っているのだろう。

 

「その考え自体は解らないでもないけど……それで良い点は取れないよね?」

 

「あははは……」

 

 冷泉さんは笑って誤魔化そうとした。私は先生じゃないんだし、強く出れるような立場でも無いから良いんだけど。

 

「ま、良いんだけどね。そのおかげで私はノートが借りられたんだし。それじゃあ私は、一人寂しく勉強漬けさせて貰うよ。ご機嫌よう、冷泉さん」

 

「ご機嫌よう、連城さん。頑張ってね。私は図書室で読書でもしようかな。でも混んでるだろうし……」

 

 ブツブツと独り言を云い始めた冷泉さんと別れ、私は帰途に就いた。待ち構えている苦行に、今からげんなりとしつつ。

 

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