処女はお姉様に恋してる 季節外れの迷子(フェアリー)   作:パオパオ

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第7話 六月下旬、エルダー決定。

 六月最後の平日。教室に入った私は、ざわざわとした話声にかき消されて気付かれていないようだった。

 

「今日はいつにも増して騒がしいな。登校する時間を変えたからって訳じゃないだろうし……あぁ、エルダーが決まるのって今日だったっけ?」

 

 生活サイクルに手を入れたため以前よりも遅く学院に着いたが、その騒めきは今までで一番だった。廊下に居た時、ほぼ全ての教室からから聞こえてきた『エルダー』やそれに関する単語。エルダー選挙が行われる詳しい日付は覚えていなかったが、どうやら今日らしい。

 

「皆元気だね。それだけ楽しみにしてるってことなんだろうけど、私はあんまりノれないからなあ。結局、よく解らないし」

 

 解らないと云うよりは知ろうとしなかったのだが、大して変わりは無いだろう。私に関係してくることは無いだろうし。

 

「そう云えば、私の書いたやつって無効票になったんだっけ? フルネーム漢字で書けとか知らないってば」

 

 後で淡雪に聞いたことだった。伝統だけあって、意外と基準は厳しいらしい。解らないんだったら聞いてよ、と淡雪に少し怒られたが、態々聞くのは恥ずかしかった。あと、面倒だった。

 

「ま、本音を云えば、単に興味が無いんだよね。そんな人間の票は、入らない方が健全でしょうよ。そう思わない?」

 

「うん?」

 

 私の前の席で座っていた淡雪に問いかける。いきなりの質問に、きょとんとして訊ね返された。

 

「何の話なの?」

 

「いや、独り言。何でも無いっす」

 

「何それ? じゃあ聞かないでよ」

 

「何故かそんな気分だったんだって。気にしないでおいて」

 

 呆れていた淡雪は、何かに思い当たったように声を漏らした。

 

「あぁ、梓もわくわくしてる訳ね。かく云う私も、結構楽しみにしてるけどさ」

 

「何を、って聞くまでもないか。エルダー戦でしょ?」

 

「勿論。皆もそうだろうね」

 

「……選挙、サボっちゃ駄目かな?」

 

「当り前でしょ。授業時間使ってるんだから、一応、授業の一環になるんだし」

 

「ま、私は授業が潰れるだけでもありがたいや」

 

 私がそう云うと、淡雪は嫌そうに顔をしかめた。

 

「……あんまり楽しみじゃなさそうね」

 

「そんなことも、あったり無かったり」

 

「何それ」

 

 何でも無いと答えると、丁度担任が扉を開けたところだった。手振りでそのことを淡雪に知らせると、淡雪は渋々前を向いた。最後にチラリと見えた横顔は不満そうだった。

 

 頬杖を突きながら、お喋りを止めて席に着いていくクラスメイト達の姿を眺める。普段と変わらないように見えるが、やはりいつもより話し声が聞こえてくる。話題は云うまでもなく、どこも変わらなかった。

 

「皆さん、静かにしてくださいね」

 

 珍しく担任が注意をしたが、それでも話し声は止みそうにない。人望がどうとかの話ではなく、純粋に生徒たちが興奮し過ぎているのだろう。担任もそれが解っているのか、早々に委員長に声をかけた。

 

「気持ちは解りますが……委員長、号令を」

 

「起立、礼」

 

 いつもより多い連絡事項を話す担任の声に耳を傾けながら、私は窓の外に広がる空を眺めた。快晴の空に微かに浮かぶ薄く小さい雲が、今の私の状況を如実に表している気がした。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 昼休み。

 淡雪とは気まずいままだったので、一人で食事場所を探していた。学食も覗いてみたが、あまりの人の多さと騒がしさにうんざりしてしまった。いくら静寂よりも喧騒の方が好みだと云っても、度が過ぎれば好ましくは思えない。

 軽い探検気分で学院の中を彷徨っていると、いくつもの未知を見つけた。これから何度もお世話になるであろう保健室、第一の場所を知らない第二音楽室、そして鍵の掛かっていない、屋上への扉。

 

 そういう訳で、私は今屋上で立ち尽くしている。

 

「何っにも、無い。自由に入れるみたいだけど、ベンチも無いし、人が寄り付きそうな感じもしないな。まぁ、一人になりたい時には丁度良さそう」

 

 辺りを見回して視界に入るのは、転落防止用のフェンスと給水塔に架かる梯子だけだった。砂利や蜘蛛の巣などはそんなに見当たらないので、適度に掃除はされているようだった。

 しかし、フェンスが低い。一メートルあるか無いかでは、ちょっとふざけていると誤って落ちてしまいそうだ。

 

「にしても、ここは暑いなぁ。遮る物が無いから風通しはいいけど、だからこそ陽射しも厳しいし。季節によっては快適だろうけど」

 

 燦々と降り注ぐ日光が、遮蔽物の無い屋上を満遍なく照らしている。髪がじりじりと焼けるように熱くなる。ここは色々出来そうな広さのスペースがあるが、スポーツをするなら熱中症とかに気を付けないといけないだろう。

 

「秋になったら、日向ぼっことかしたら気持ち良さそうだし。適当に色々持ちこんでみようかな? あんまり人も来ないだろうから丁度良いし……給水塔の上にでも隠しておけばばれないかな」

 

 給水塔の上に登るための梯子は、ほこりを被っていて暫く使われていないことを感じさせた。登りたい衝動に駆られるが、ふと取り出したケータイに表示された時刻を見て諦める。いい加減に昼食を取らないと、五コマ目に間に合いそうにない。

 

「近い内に、また今度来るとしようか。とりあえず、日陰行ってご飯食べよっと」

 

 南中に近いせいでひどく小さい建物の影で、取り出したお弁当箱を広げた。シンプルながらも味が保障された母特性のお弁当に、口の中で唾液が湧いてくるのを感じた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「そろそろ始めたいと思います……皆さん、宜しいですか」

 

 壇上に立つ、学院長……代理?の声が講堂内に響いた。抑え切れない生徒たちの興奮が溢れ出し、ライブ会場のような熱気を作り出している。

 

「問題無いようなので、発表を開始します……静粛に」

 

 学院長代理の宣言とともに、三学年総勢七百人を超える生徒が水を打ったように静まり返る。喋り声がまるで聞こえない今の光景は、朝や昼のことを思い出せば信じられない。

 だが、実際にそうなっているのだ。これだけ統率されている以上、思っていたよりも皆の関心が格段に高いことが窺える。もう放課後なんだから、正直帰らせてほしい。全員出席するのが不文律になっているみたいだけど。

 先程までとは空気が違う。作り上げられた厳粛な雰囲気の中に、今にも爆発しそうな期待感が隠れている。だからこそ、この空気に馴染めない私は、どうしようもない居心地の悪さを感じていた。

 

「エルダーシスター選考委員会による集計結果が先程確定しました。選考規約に基づき、得票数が二十%を超えた生徒を呼びますので、壇上に上がってください」

 

 学院長代理はそこで一旦言葉を切った。言葉には出ていなくとも、周りの興奮が高まっていくのが嫌でも感じられる。

 それにしても、やはり二十%という得票率には驚きを隠せない。選挙のように立候補者が明確に存在する訳ではなく、直接の投票で全体の二十%も票が入るなど、並大抵のことではない。

 そう云えば、最近何度か目にした投票宣言というものは、ある種の選挙活動なのだろう。支持者が周囲に投票を宣言することで、周りとの意識の擦り合わせも兼ねていたのだろう。そうでもしなければ、票が分散し過ぎて二十%に満たない人が続出するだろうし。

 

「有効得票総数七百五十二票。その内百七十七票を獲得……真行寺茉清さん、壇上に」

 

 眼鏡をかけた長身の女生徒が、数多くの歓声に押されて壇上に向かう。青みがかった短髪やきびきびとした所作が、その女生徒を凛々しく見せている。成る程、格好良い女性と云った雰囲気に、どこか男性らしいクールさが混在するその姿は、人気が出るのも頷けた。

 しかし、どうにもあの眼鏡さんは戸惑っているようだ。足取りはしっかりとしているものの、落ち着かなく周りの生徒たちに視線を送っている。その視線を受けて歓声が強まるのにも気付いていないようだ。

 と云うか、二十%を超える票が入っているということは、投票宣言を受けている筈なんだから、この事態は予測出来ただろうに。そんなよく解らないアンバランスさが、眼鏡さんから感じられた。

 

「百七十九票を獲得、皆瀬初音さん」

 

 歓声に押されて、どこか見覚えのある後ろ姿が壇上へ上がっていく。後頭部に付いている尻尾が左右に揺れるが、その体は全くぶれていない。生徒会長なだけあって、人前に立つのは慣れているのだろう。

 

「百八十九票を獲得、七々原薫子さん」

 

 眼鏡さんを更に上回る長身の、腰までかかる長い黒髪の美人が、周りの声に押されて壇上へと向かう。さながら絶望でもしているかのようにとぼとぼと歩く姿からは、哀愁すら感じさせられる。あの人、どこかで見たことがある気がするが、誰だったか。

 

「最後に、百九十一票を獲得、妃宮千早さん」

 

 一番の歓声とともに、銀姫さまが壇上へ上がっていく。渋々といった感じなのが遠目にも解る。銀姫さまならエルダーとやらに相応しいと思うのだが、何か不服なのだろうか。

 ……って、ああ。あの黒髪の女性(ひと)、前に図書館で千早さんを呼びに来た美人さんだ。何だったか、淡雪が騎士だの呟いていた気がする……格好いいな、あの美人さん。

 

「残り票の獲得者に関しては、後日生徒会の掲示板に掲示されますのでそちらを確認するようにして下さい……では副会長、後はお願いします」

 

「……承知しました。梶浦先生、ご協力ありがとうございました」

 

 学院長代理が降壇し、代わりに副会長と呼ばれた女生徒が段を上る。眼鏡をかけていることくらいは解るが、何となく仕事人間な気がした。いや、外見と声からの第一印象に過ぎないけど。

 教師と云う最後の楔から解き放たれ、生徒たちの歓声は一際大きくなった。波とでも表すべき黄色い声に、私は少し耳が痛くなってきた。やっぱり、馴染めないかな……?

 

「では、これから得票上位者である皆さんに、自身の持つ票を譲り渡す意思の有無を確認します……意思無き場合は、沈黙を以て応えて下さい」

 

「私は……」

 

 副会長の言葉に、一人の女生徒が即座に反応して声を上げた。壇の下で喋っていた生徒たちが一斉に口を閉ざす。しかし壇上では、何故か副会長が驚いているようだった。

 

「私がこうして生徒会長を務めることになったのは、ひいては今、こうして横に居る大切なお友達……七々原さんが私にくれた勇気のおかげです」

 

「は、初音……?」

 

 そうして、驚愕している騎士(ナイト)の君へと向き直ると、会長さんは顔を綻ばせた。

 

「私、皆瀬初音は、敬愛する七々原薫子さんに……私の得た全ての票を譲渡させて頂きます」

 

 会長さんがひざまづいて、騎士(ナイト)の君の手の甲辺りに口付けた。それと同時に、無言で見守っていた生徒たちが割れんばかりの歓声を上げる。

 そんな中、私はただ見惚れていた。煩いと感じていた周りの声も気にならない。それだけ、今見ている光景に心を奪われていた。

 あの二人の関係は知らない。精々が、会長さんが云った通りに二人は友達なんだろうな、ということ位しか知らないのだ。私はあの二人と会ったといえるのだって、一度あるか無いかだ。

 なのに、その二人の姿が、どうしても胸を震わせる。気持ちに整理が付けられない。体がゾクゾクするのを感じる。

 

「……これを以て、皆瀬さんの票は全て七々原さんに譲渡が行われました」

 

 呆然としている内に、二人は元の位置に戻っていた。ハッとして頭を軽く振る。少しの間、意識が飛んでいたように思う。

 周りの空気に飲まれたのか、と自問する。そんなことは無い筈だ。さっきまでは寧ろ、この空気に馴染めなくて悩んでいたのだから。

 

「……私は」

 

 考え事をしている内に、眼鏡さんがその口を開いていた。

 

「私は、この場所には相応しくない。そもそも自分勝手に生きてきた私のような人間が、人の規範になるような真似も出来ない。だから私は、自分に託されたこの票を……私の大切な友人に預けることにする」

 

 周りから、悲鳴にも似た歓声が巻き起こる。眼鏡さんの支持者の声だろうか。彼女たちの気持ちが、少しだけ解るような気がした。

 その中で、眼鏡さんは銀姫さまの手を取った。二人きりで二、三の言葉を交わした後、眼鏡さんは改めて宣言する。

 

「私は、私の持つ全ての票を……妃宮千早、貴女に委ねます」

 

 屈んだ眼鏡さんの唇が、銀姫様の手の甲に触れたように見えた。その瞬間、今度は興奮しきった女生徒達の、叫び声のような声が響き渡った。

 私は上げそうになった声を、どうにか自制していた。こういう場なら別に大声を出しても良いのだろうが、やはり淡雪にあんな態度をとった手前、恥ずかしさの方が勝った。何せ、私の立ち位置は淡雪の背後だから。

 そして、残った二人の女生徒は、互いに見つめ合っていた。二人は何も云わず、ただ時間だけが過ぎていく。誰もがその姿を固唾を飲んで見守り、茶々など一つも入らなかった。

 

 先に口を開いたのは、どちらだったのだろうか。七百を超える視線に見守られ、壇上で二人は互いに譲り合い始めた。どちらも自身の主張を覆そうとはせず、話は平行線を辿っているようだった。

 そんな中で、喋り出す生徒が周りに出始めた。注意をする生徒もいたが、何故かすぐに注意した生徒も話に加わっているようだった。不思議に思っていると、淡雪が振り返って話しかけてきた。

 

「ねえ、梓……二人の票数って覚えてない?」

 

 会が始まる前までの微妙な距離感は既に消えていた。だから私は、何となく覚えていた数字を口にする。

 

「銀ひ……千早お姉さまがいちきゅういち、薫子お姉さまがいちはちきゅう、だったと思う」

 

「百九十一に、百八十九か……じゃあ、もう二人の票は……?」

 

「生徒会長さんがいちななきゅう、あの真行寺って先輩はいちなななな、だった筈だよ。それがどうかしたの?」

 

 首を傾げる私の耳に、横に居た生徒の呟きが聞こえてきた。

 

「百九十一足す百七十七、百八十九足す百七十九、と云うことは――!?」

 

 何かに驚いたようなその言葉の真意を訊ねる前に、生徒会長さんがマイクをハウリングさせた。喋っていた生徒たちはすぐに静まり、皆の注目が一気に壇上へと戻る。

 その様子を確認してから、生徒会長さんは悪戯を思いついた子供のような表情で口を開いた。

 

「生徒会長である私、皆瀬初音から……皆さんにご提案があります」

 

 そこで一旦言葉を区切り、生徒会長さんはもう一度生徒たちを見回した。

 

「再計算の結果、七々原さん、妃宮さん……ともに得票数は三百六十八票で同点です」

 

 その言葉を聞いて、静かだった周りが少し騒つき始めた。

 

「このままお二人がどちらかに票を譲ったとしても、これでは支持者の間に亀裂が生じることも考えられますし……円満な結末は望めないのではないでしょうか……」

 

 何人もの生徒が無言で頷いている。今や生徒達の関心は、生徒会長の発する言葉に集束されていた。

 

「そこで、私は今ここに、お二人をエルダーとしてお迎えさせて頂くことを……皆さんに提案させて頂きたいと思います、いかがでしょうか!」

 

 ――空気が固まった。だが、次の瞬間。

 

 きゃああああああぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁっっ!!

 

 講堂を揺さぶる程の、歓声の爆発が引き起こされた。数秒間は続いたそれは、声を枯らした生徒から順に拍手へと移っていく。

 

「だって、お二人とも……エルダーになる自信が無いのでしょう? だったら、二人で一人だったらいいんじゃないかなって、そう思いまして!」

 

 生徒会長の言葉に賛同する声が幾つも壇上へと届けられる。渦中の二人のお姉さまは、少し顔を引きつらせているようだった。けれど、そんなことは私達には関係が無い。

 

「いかがですか……皆さん、賛成の方は拍手をお願い出来ますかぁっ!?」

 

 その言葉に応えるように、元々散発的にあった拍手の音が、万雷のように講堂に響き渡った。

 

「どうやら満場一致のようですね……では本年度のエルダーは、七々原薫子さん、そして妃宮千早さん……お二人に決定致しました……!」

 

 鳴り止まない拍手、飛び交う祝辞、日頃の鬱憤を晴らすかのように叫ばれる歓声。音の嵐は、いつまでも立ち退く様子を見せなかった。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 祭りの後。

 熱気も冷めやらぬ様子で、生徒達がぞろぞろと退場していく。誰もが二人のエルダーの誕生を喜び、話の種にしている。私も例に漏れず、淡雪と話していた。

 

「いやあ、今年も随分と盛り上がってたねえ。まさか千早お姉さまがエルダーになるとは思わなかったよ。生徒会長のあの提案にも、みんな驚かされたしね」

 

「あー……うん、そうだね」

 

 要領を得ない返事。視線をついと淡雪から逸らす。

 

「梓さあ……今更恥ずかしがっても仕様が無くない? さっきまであれだけはしゃいでたじゃない」

 

「ぐはぁっ」

 

 大袈裟に仰け反った振りをする。そうなのだ。何だかんだと云っていたが、最後の方は私もシュプレヒコールに加わっていたのだ。私の前に居た淡雪は、私が嫌々講堂に来ていたことも、熱狂的に歓声を上げていたことも、全て知っている訳で……。

 

「それにしても、梓はお腹からしっかり声が出てたよね。『きゃあー! 銀姫さまー!!』ってさ。銀姫さまって千早お姉さまのことでしょ? 良いセンスしてるじゃない」

 

「止めてー! 私が悪かったからさ!」

 

 耳を塞ぐ私に、淡雪はニヤニヤと意地の悪い笑みを向けてくる。漏れ聞こえてくるからかいの言葉に、私の痴態が脳裏に蘇らされる。

 ……この記憶がどこかへ消えるか、もしくは私のしたことを取り消せるような魔法はないだろうか。そんな益体も無いことを考えてしまう程、今の私は恥ずかしさでいっぱいだった。

 

「あはははは! ……まあでも、実際良い結果に終わったんじゃないかって思うね。何て云うか、かなり奇跡的な結果だったじゃない? もしあの四人の内、誰かの票数が一票でも違ってたら、こんな結末はあり得なかっただろうし。あの状況、下手すると暴動の一つでも起きそうな剣呑さがあった感じがするし」

 

「確かにね。一票の価値の高さを初めて実感した日だったかも……うん? ってことは、私が無効票だったのが結果的には良かったのか?」

 

「あー。梓って、被投票者の名前、平仮名にして出したんだっけ。別に梓に限った話って訳でも無いけど、そうだろうね。あの四人に綺麗に票が割れてたのも凄いことだしさ。票の上下差が、たったの十四票なんてね」

 

「私みたいな無効票除いたら、もしかしたらほぼ全校の票を等分したんじゃない? そこまできっぱり派閥が分かれてるのも、珍しいと思うし」

 

「ま、何にせよ、良い結果だったってことで!」

 

 淡雪は晴れ晴れとした笑みを浮かべる。私の顔も自然と綻んだ。

 

「ところで、さ」

 

 淡雪はまた表情を一変させた。

 

「何?」

 

 訊ね返すと、淡雪は何故かまた、ニヤリと口角を吊り上げていた。嫌な予感が背筋を這い上がった。

 

「梓が叫んでた『銀姫さま』ってあるじゃない? 梓は気付いてなかったみたいだけど、あれ、周りの人達も同調して結構叫んでたよ。みんなしっくり来たみたいだった」

 

「……ホントに?」

 

 確認の意味も込めて訊ねると、コクリと頷かれた。

 

「もしかすると、二つ名にも何かの形で使われるかもしれないね。エルダー二人の内、騎士(ナイト)の君と違って、千早お姉さまの方には二つ名がまだ無いし。前々から話題にはなってたし、意外とすぐに決まるかも」

 

「……正直、今、現実感無い……けど、聖應なら、とも思えてきた」

 

 感慨を込めて呟くと、淡雪はぐっと体を寄せてきた。避ける間も無く、二人の間の距離が零に近付く。

 

「いい感じだね……それじゃあ改めて、歓迎しましょうか」

 

 一歩後ろに下がると、満面の笑みで私へ告げた。

 

「聖應女学院にようこそ! ……ってね」

 

 その淡雪の笑顔は、私の心を揺さ振る程に魅力的だった。紅潮した頬がばれないよう、私も精一杯の笑みで淡雪に応えた。

 

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