模型戦士ガンプラマスターピース 作:雑賀教司/Kyoji Saika
人々が、増えすぎたガンプララインナップを店頭で奪い合うようになって、既に何年もの月日が過ぎていた。
新製品の発売日の店頭は
加熱を超えて過熱となったその需要はガンプラそのもの以外からのアプローチを生み、その中にはVRMMO化もあった。
Multi
Anime
Shape
Take-in
Enjoy
Recreation
Plastic-model
Simulator
『様々なアニメの形状を読み込むことで娯楽を楽しむプラスチックモデルシミュレータ』
しかし、それも最初から完全無欠ではなかった。
スキャナは高額な精密機械のためごく一部の大型店に有償で貸与されるのみ、人によっては設置店舗が遠すぎて赴く事ができず、読み取る段階でガンプラの出来が機体のパラメータを決定してしまい、リギング作業も簡単とは言い切れず、オンラインサービスを充分な品質で楽しめる端末を自宅に設置するにも安くはない金がかかり……
ガンプラが買えた買えなかったではない、新たな分断を生んでしまう。
プレイヤーになりたい層の意欲に対して、参入障壁は多く、そして高くそびえ立つものだった。
事態を重く見たMASTER-PS運営は、店頭設置型ログイン端末の開発と無償貸与に踏み切る。
元々スキャナの貸与もされていた大型店やネットカフェ、はたまた、地域によっては零細店舗へも。
リギング済の完成データを持ち込まれる事や店頭でリギングも行える事を前提として、大々的なテコ入れが始まった。
「で、こんな場末にまで来たわけだ、これが」
近所では《ホッコさん》と呼ばれた、大衆食堂……だった店。
かつて客席だったスペースを大きく模様替えして設置された、MASTER-PS筐体を眺める。
6人まで同時にプレイできるそれは、ディスプレイ、文字入力キーボード、マウス、アクションパート用のジョイスティック、ボイスチャット対応ヘッドセットと、無償で貸与されるにしてはあまりにも機能が充実していた。
「アタシにはこういうのはよくわかんないけど、食堂なんてぶっちゃけ衛生管理から毎日の仕込みまでめんどくさいからねえ、それよりかはいいだろ? アタシの代で潰してよかったよ」
店主のおばちゃんが、常連客でもあった
食堂は正直、先代であるおばちゃんの両親の年金があればこそ成り立つ価格と内容だったのだ。
それがなくなれば立ち行かなくなることを早々に見抜いていたおばちゃんの賭け。
「アンタはこういうの、どうなんだい。よくやるのかい?」
「まあ、お子たちよりはね」
その賭けがどうなるかは、有給休暇を取って来たこの従弟次第になっていた。
自分がいなかったらどうするつもりだったんだとは思ったものの、親戚としては放ってはおけない。
「まず、電気については動力契約があるのがよかったよな」
電源は食堂時代に業務用の大型冷蔵庫で使用していたものを、MASTER-PS筐体に流用。
容量も足りているようで、問題なく動作させることができた。
「細かいところは工事店に相談だけど、冷蔵庫は全部なくすんじゃなくて1つは残しておこう。飲み物冷やしといて売るのに使えるでしょ、特に夏なんてさ」
「それはいいね」
「客席で使ってた長机と椅子も、順番待ち客とか、ここでプラモ組んでもらう客とかに使ってもらうか」
「あるものは使えるだけ使っていいよ」
家具の配置についてもアイデアがどんどん出る。
プラモデルの改造も店の改装も、流用はセンスが問われる所。
「あとはこれのリースの書類な。店舗の責任者欄はおばちゃんの名前じゃないといかんでしょ。ここに書いて」
「はいはい。カガシマ・セイカ……っと」
「主任技術者欄なんてあるよ。ここは俺の名前にしとくか」
主任技術者、ヒシザキ・ダイヤ。
書類に不備がないかをよく確認して、折りたたんで返信用封筒に入れて、糊付けして
帰り道の途中で郵便ポストに投函して、初日は終わった。
* * * * * *
翌日。
それまではたまにしか来なかった小学生が、学校の帰りに覗きに来た。
「えー! ホッコさんにマスピあるじゃん! なんでー!?」
「マスピて」
略しすぎだろと思うダイヤ。
長年ガンプラにどっぷり浸かって生きてきたオッサンには、若い子のセンスはよく分からない。
「家でできない人も遊べるようにしましょうって、貸してもらってるやつなんだよ。まだ準備中でな、15分500円」
コインマッサージチェアを参考にしつつも、少し
筐体のリースは無償でも、動力契約の電気代は安くない事を考えると、いくら新規顧客獲得のためでも無償で遊ばせる訳にはいかない。
そこは運営も貸与する側として理解していて、地域や店舗運営の実態に照らして価格設定を行うことは容認されていた。
「1時間遊んだら2000円もかかるじゃん」
「その前に、他のお客さんが多かったら入れ替えだ。なるべく多くのお客さんに遊んでもらわなきゃいかん」
そう言いつつもダイヤは自前の完成データを筐体に投入して、試運転を始める。
つくづく、おばちゃん一人じゃこんなの無理だっただろとしか思えない。
「ログインOK、ローディングOK……OK、AGE-1!」
画面に映るのは《ガンダムAGE-1 ノーマル》のスペシャルカラーバージョン。
胴体のブルーがGX3ハーマンレッドに、レッドがフラットブラックに、それぞれ塗り替えられていた。
それ以外の外見は普通の、標準的なガンダム。
難度の低いミッションを選択して、筐体に慣れる程度に、筐体に異常がないか確認する程度に、適度に動かす。
ドッズライフルで射撃武器のテスト。
ビームサーベルで近距離武器のテスト。
ブーストボタンでダッシュとジャンプもテスト。
何も問題はなかった。
「『まだ、錆びつかないように』……か」
脳裏には『心の隙間を狙って突き刺さる歌』がよぎる。
若かった頃の元気や反応速度はもう出ない。
それがわかっていても、できるだけ自分の能力は維持しておきたい。
モデラーとして、ゲーマーとして、長年付き合ってきた意地がそうさせる。
「オレも! オレもやりたい!」
「まだ機械は点検中で、電気工事も呼ばないといけないんだ。机や椅子の配置も変えるから、まだ営業はできないよ」
それに、定職に就いている身ではなかなかこちらに時間を割く事もできないだろう。
おばちゃん一人でこういう業種の店番ができるかも心配だ。
いっそ仕事を辞めるくらいでなければ……?
「いや、さすがにそれはリスキーすぎるだろ」
夢はあるが、安定は見込めない気がする。
この時点ではあくまでも手伝い程度、MASTER-PSはあくまでも趣味か、そこから少しだけ深入りした程度に考えていた。
* * * * * *
しかしさらに翌日。
出勤したダイヤに無慈悲な通達が届く。
「え、契約更改なし? それってアリなんすか?」
事業縮小による雇い止め。
一応、契約終了まで30日以上の猶予期間を見て早めに告知はされている。
だが生活基盤の喪失を意味するその通達は、決して小事ではなかった。
「まいったな……こりゃ、本格的におばちゃんに雇ってもらわにゃならんか?」
見切り発車の不定期更新です。