風呂に入ってたらふと思いついたアイデアを元に執筆してみました。
駄文ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
プロローグ
魔法が好きだった。
あの美しく輝き、積み上げられた既存の物理法則を粉々に粉砕するような、圧倒的な「奇跡」の光が大好きだった。
だが、現実にはそんなものは存在しない。
すべては紙の上、あるいは電子の海に浮かぶ創作の中だけの幻。
けれど、僕は諦められなかった。
足掻いて、足掻いて、周囲から変人だと蔑まれ、狂人だと指をさされても、ひたすら魔法を探し求めた。科学というメスを振るい、現実の肉を削いで、その奥に隠れているはずの「神秘」を暴き出そうとした。
でも、結局見つけることはできなかった。
僕は志半ばで、白く殺風景な病室のベッドの上、あっけなく死んだ。
そして――いつの間にか、僕は「私」になっていた。
灰色の雲に覆われた、西暦2138年。
アーコロジー内の高層マンション最上層に位置する、静寂に満ちた自室。
眼下に広がるのは、私が開発した『大気汚染浄化装置:SEORITSU』が吐き出す青白い浄化の光と、それを手に入れられぬ者たちの憎悪が渦巻く、死にかけた世界。
「……また、これか」
鏡の中に映る自分を見つめる。
前世の病弱な男の面影など微塵もない、透き通るような肌と、怜悧な瞳を持つ少女。
富裕層の令嬢という完璧な殻。特許権という名の莫大な富。
人々は私を「環境の救世主」と崇め、あるいは「強欲な独占者」と呪う。
けれど、そんな評価はどうでもよかった。
この使い切れないほどの金も、世界を救うと称される発明も、私にとっては「魔法」という真理に辿り着くための、ただの資金稼ぎに過ぎないのだから。
そんな冷めきった日常の中で、私は「それ」に出会った。
最新のDMMO-RPG、『ユグドラシル』。
最初は、スルーするつもりだった。所詮は娯楽。情報の羅列でしかない仮想現実に、私が求める「真実」などあるはずがない。
だが、視界の端を掠めたプロモーションビデオが、私の魂を鷲掴みにした。
「…………っ」
息が止まった。
画面の中で、一人の魔法使いらしき人物が放った魔法。
それは単なる派手なエフェクトではなかった。
発動の瞬間に生じる魔方陣の幾何学的整合性。
光の粒子が収束し、事象が上書きされる際の、あまりにも残酷で、あまりにも美しい「法」の顕現。
かつて私が、醜く足掻いてでも探し求めて夢想し、幻視した魔法の姿そのものが、そこにはあった。
科学者としての本能は、これは偽物だと告げている。
けれど、私の「狂気」がそれを上書きした。
これほどまでに、私の理想を、私の生涯の悲願を忠実に再現してみせたプログラムが、かつてあっただろうか。
「……もし、この中に、ヒントがあるなら」
無口だった私の喉から、熱を帯びた吐息が漏れる。
これが偽物だというのなら、その「作り込まれた嘘」を徹底的に解析すればいい。
その先に、本物の魔法へと至る「解」が落ちているかもしれない。
私は、吸い寄せられるようにダウンロードボタンを押し、ヘッドセットを装着した。
莫大な富を、時間を、そして人生のすべてを、この「作り物の奇跡」に投じることに、一切の迷いはなかった。
これが、地獄のような現実を生きる「私」にとって、唯一の呼吸場となることを。
そして、いつの日か本物の「奇跡」に辿り着くための、狂気の入り口になることを、その時の私はまだ知る由もなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
少しでもお楽しみいただけたのなら幸いです。