無縁塚で、独りごち 〜この難易度Lunatic幻想郷で〜   作:胡桃の中の団子

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タイトルサブタイトルあらすじ、見やすいように手心加えてみました。文字数だけ、多くするか、このままかは悩んでいます。


1-9 香霖堂。にて

 幾何紗は妖精の緑の髪の毛をこねくり回した。ぎゃあと小さな悲鳴を上げる妖精なんて気にせず、軽く別れを告げて颯爽(さっそう)と飛び立っていった。

 

「ねぇ、待ってってば!」

 

 遅れた蛮奇が妖精をちらりと見て、急いでこちらへやってくる。

 

 山と森の境目にある道を抜けて数分程度、やや暗くなってきた視界の端に一軒家が建っていた。小川のせせらぐ野原と森の間に、それはポツンと建っていて、どこか幻想的に思えた。誰しも一度は、草原にぽつりと建つ家を想像したことがあるだろう。それはまさに、そんな空想をそのまま切り取ったような長閑(のどか)な原風景だった。

 

 そして森の入口を見やれば、丸太の苔生したような橋があった。森の入口なんて、端に寄りさえすればどこでも入り口であり出口だろう──そんな不粋な考えは、このうず高い木々が成す自然の迷路の前では形無しだった。

 

 一軒家の隣には、家と同じくらいの大きさの倉があった。どうやらかんぬきで固く閉ざされているようだ。森近といえば熱狂的な蒐集家として有名だ。きっと倉には森近の大好きな遺物ばかりが保管されているのだろう。かんぬきを指で触ると、指に汚れがついていた。

 

 蛮奇と顔を見合わせて、香霖堂と書かれた看板の下をノックする。そこでようやく過ちに気付き、静かに扉を引いた。

 

 ……と、頭上で鈴の音がなった。

 

「……いらっしゃい。って、ねぇ? 道理で外が静かなわけだ」

 

 刹那、埃臭いにおいが鼻腔を満たした。それは幾何紗の豆腐小屋よりも濃い埃の臭さだった。森近は、そんな臭気など気にせずにカウンターの奥で頬杖をつきながら、優雅にゲームを楽しんでいる。電子音が店内をBGMみたいに彩っていた。ずいぶん長い時間遊んでいるらしいが、彼はその最期の一滴を絞り出すようにしてまで、ブロック崩しゲームに興じたいらしい。

 

 扉の開閉にしどろもどろしてしまったことを少し恥じらいながら、隣の様子を見やる。蛮奇が気まずそうに額を掻いていた。森近はそんな幾何紗たちを見て開口一番、

 

「あっとこれはどういうことだね? 赤髪の君、まさかこの殺意剥き出しのお嬢さんに脅されている訳ではないよね?」

「まぁ一応、脅されてはいないけれど」

「ドッヒャー! これはどういう風の吹き回しなんだ。無縁塚のアイツに友達ができただとー!?」

 

 大袈裟に振る舞う森近に、幾何紗は額を抑えた。

 

「森近、あなたは私をどう思っているのよ」

「何って、僕は君のことを観測してから何年も観察し続けていたけれども。僕以外に誰かと話していたことなんて一度もなかったじゃないか。ずぅーっとあんなクソ静かな辺鄙な場所にいてさぁ。……ていうか、昔僕がこの店のことについて話したのをちゃんと覚えていたんだね」

 

 下卑た微笑を浮かべる森近に、すかさず幾何紗はこう切り返した。

 

「普通にきもい」

「ま、冗談だということは大前提として、君たちがここに来たということは、何か僕に用があるんじゃないのかい?」

 

 核心を迫るように眼鏡を光らせる森近。蛮奇は黙ったまま頷き、カウンター席まで歩いていった。幾何紗は陳列棚に配置された多種多様なマジックアイテムたちを見やりながら、こんなものまであるんだ。と、目を丸くしていた。博物館のようで何だか面白い。

 店内には他の客の気配もある。もしかしたら誤解を招くかもしれない。

 幾何紗は殺意と妖力をできるだけ抑えて、静かにするように心がけた。

 

 

 *

 

 

 さっきまで弄っていたマジックアイテムをカウンターに置き、椅子にもたれかかる森近と呼ばれる男。彼は小さな声でわたしに語りかけた。

 

「赤髪の君。あの子と関わるのを僕はオススメしないよ。君にその覚悟がないのなら、さっさとこの場を引いたほうがいい」

 

 森近にそう厳かに問われ、こめかみが脈うった。この男と真成がどういう関係性かは分からないが、これだとあまりにも──。 

 呼吸が荒くなるのをふっと整えながら、真成の方を横目でうかがった。何やら店内のお客さんと楽しげに会話しているようだった。もっとも、喜んで会話しているのは真成だけのようだが。

 

「理由を尋ねたい」

「彼女は……そう、『特別』だからかな。……君は見た? アイテムを引き寄せる奴の特質を」

「……っ。あれは……気のせいじゃなかったんだ」

「実は、僕はとある偉い人に彼女の監視を頼まれていてね。偉い人にとっても彼女はこわーい存在らしいんだ。……そこで、だ。君みたいな一介の弱小ごときが、将来的に上位の存在に歯向かわなければならない可能性も出てくるのだよ。あの子と関わることによってね。……君に、その覚悟があるのかい?」

「くだらないわね」

 

 森近は意外だったのか興味深そうに手を組んだ。そして目を細めて不敵に微笑んでいる。なんだかそんな姿を見ていると増して怒りが湧いてきた。

 

「そんな大義名分、クソくらえよ」

「その気持ち、忘れないでくれたまえ」

 

 

 こいつは、真成にとっての敵だ。でもわたしもどうかしているとは思う。先ほどまで真成はどう思っていたか知らないけれど、わたしは真成に命を握られていたのだから。

 

 あの命を軽視した振る舞い。だが、どこか危うく映る行動の端々。出会ってまだ一日として経っていないけれど、もし彼女の殺意が偽りでなければわたしなんてとっくに死んでいるだろう。

 でもわたしは生きている。その矛盾こそが真成が狂気を演じていることの、何よりの証明だ。

 

 だからこそ、今にも枯れ果ててしまいそうな姿を一目見たときに痺れるような電流が走った。その内なる弱さが、妙に胸に引っかかったからだ。

 

「何が忘れないでくれたまえよ。この偽善者が」

「……偽善者か、だがその通り。返す言葉もないね」

 

 森近のマジックアイテムの画面を見やる。他言語の言葉で、わたしには読めなかった。

 

「魔理沙! 幾何紗君! 何を話しているんだい?」

 

 森近との会話はこれでお終いらしい。魔理沙と呼ばれたいかにも魔法使い然とした金髪の少女が、森近に反応してこちらにやってくる。

 

 魔理沙は真成を見て眉をひそめた。

 

「助けてくれよ香霖。コイツ、やばいんだ」

「うん、彼女はちょっと変わり者なんだ。仲良くしなくてもいいよ」

「げー! それが私に対する正当評価なんですか森近は」

 

 不当だと森近を指差す真成だったが、呆れ果てた表情をする彼よりも、彼女はわたしに矛先を向けたようだ。わたしはなんとか目を逸らすことに成功した。

 

「どうって……ねぇ?」

 

 変わり者なのはその通りだろう。周囲を見渡してみると、どうやらそれに同意しないのは真成本人だけのようだった。真成はガックリと肩を落としたが、すぐに態度を改めて森近のマジックアイテムを取り上げた。

 

「はん……? ゲームオーバーって、まぁ……あなたが二面に辿り着いたのは評価点か」

 

 何やらぶつくさと語る真成に、魔理沙が食いついた。

 

「お前、このマジックアイテムを扱えるのか?」

「扱う……? あぁ、それにはとてもイエスと答えておこうかな。魔理沙もコレが苦手なの?」

「馴れ馴れしいな、ってか。私は森近ほどじゃないが、ある程度は扱える。それより私は外の世界のマジックアイテムの用途が知りたいんだよ。一体これは何なんだ?」

「娯楽だよ」

 

 森近が代わりに答え、頬を膨らませる真成。 

 魔理沙はその答えに対し、とてもつまらなそうに腕を組んだ。

 

「マジかよ。それだけなのか」

「うん、それだけ」

 

 真成も森近の言葉に同意し、マジックアイテムを森近へと返す。画面には、もう何の文字列も浮かび上がっていなかった。

 

「知ってる森近? 電池に摩擦を加えればもっと長く使えるようになるのよ」

「え、そうなのかい? 爆発したりしないのソレ」

「爆発なんてしないと思うけど」

 

 わたしと魔理沙が会話に置いてけぼりになる。そこでようやく何かを思い出したかのように、魔理沙がハッとした様子で店を後にした。何やらカバンにマジックアイテムを詰めて。

 

「香霖! また今度来たときに金は支払うぜ、じゃあな!」

「これじゃあ商売上がったりだが、承知したよ。……あの子はあぁ見えてちゃんと約束は守るんだ。偉いだろう?」

「問題はその値段を彼女がちゃんと覚えているかじゃない?」

 

 

 わたしの指摘に「違いない」と苦笑する森近。彼女と森近はあぁ見えて結構歳の差が離れている。仮にも妖気を感じる森近と、妖気の一端も感じない若い女の子だ。

 

 里から少し外れた場所にこの店があるはずなのに、あの魔理沙という少女はどうやってここを訪ねたのだろう? 

 

 そう思った矢先、森近が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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