無縁塚で、独りごち 〜この難易度Lunatic幻想郷で〜   作:胡桃の中の団子

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前回推敲甘く誤字脱字等あったので修正しました。最近PCで書いているのでブラインドタッチの粗があるのやもと思います。


2-2 黒くなれ

 

 

 

「どうして誰も理解してくれないんだ。簡単なことなのに。そういう風に昔からずっと思ってた。叫びたかったんだ帰りたいんだって。何処へかは分からないけど、とにかくここへは居られないってずっと感じてた。でもそんなことは無理だと知っていたから、だからこそ私がどれだけ調和を願おうとしていたか、あなたたちに解る?」

 

 私は眼の前の妖怪を障壁とみなした。

 即ち、明確な敵だ。

 

 風見幽香。

 彼女だけじゃない。あなたたちは少々、邪魔。

 

「めんどくさいから死んでね」

 

 全部当たれ──私が適当に放った殺意の塊群は群れを成さず一匹狼のようにまるで意志を持ち、幽香を様々な角度から襲う。

 

 日傘で私の弾幕が防がれることは知っている。だから、狙いは日傘で捌けない角度から流れ弾でアイツを被弾させることだ。

 

 煙。見えない、けど相手の考えていることは伝わってくる。地面を踏み込む砂の音。ほら来た、単純なチカラのゴリ押し。妖怪同士の争いで一番大事なことはいち早く相手の精神を折ること。

 それを分からないなんて、アイツがそんなことはあり得ないのでやはり二度目も同じ手で絶望を与えに来る。

 

 私はこれでも銀色の絶望と謳われるようになったくらいには他人に容赦がないのだ。故に幽香の思考も理解できる。

 

「やっと本気になったようね。少しは楽しませてちょうだいよ?」

「……ちょっとうるさいかな」

「へっぴり腰の銀色が、多少は言うようになって」

 

 不敵に微笑む幽香が地面を再度踏み抜いた。

 

 違和感が胸を突く。そんな同じ手が通用しないことくらい、当然分かっていた。

 児戯のような真似はするヤツではない。ましてや四季のフラワーマスターが。

 

 だったらなぜ──

 

(フラワー? なるほど、地面を踏み抜いたのは能力行使のためか)

 

 風見 幽香は花を操ることが出来るのを公然にしている。アイツは最早強すぎるあまりに情報を出すことも厭わない。寧ろそれでも足りないハンデだと謂わんばかり。

 

 幽香の打撃を躱して、身体の反動で背後を一瞬確認する。やはり、か。少しの優しさで向日葵畑を残したのがダメだったってこと? 

 

 そして幽香は指先で向日葵畑を操った。原理不明の向日葵から照射されるおびただしい数の弾幕が、視界を白く焼いた。

 一歩間違えれば自身も食らうような、そんな禍々しい自滅的な連携攻撃。

 

 正面には私の弾幕を防ぐほどの強度を誇る日傘を振るう幽香がひたすらに空気を裂いていた。肉弾戦ができないことはとっくにバレている。私が出来ることは空に飛んでやり過ごすことだけだった。

 

「逃げることは敗北を意味するのよ?」

 

 そんなこと、分かっていましたと言わんばかりに幽香が今一度大地を踏みしめる。刹那、地面から大きなツルが飛び出し私をはたき落とした。内臓がかき回され、右も左も分からなくなるくらいに地面を転がりまわる。

 だが戦いのなかでとうに痛みなんか忘れていた。血反吐を吐いたら舌を噛みかけた。

 

「クソッ!!」

 

 片足で上体を起こした先に見える絶望的な状況。ゆったりと死が歩いてくる気配。向日葵畑が綺麗。身体が上手く動かない。

 

 それらの景色を見て、思わず渇いた笑みが漏れ出る。今、まとめて消せるじゃん。と、

 

「もう諦めたの? 案外──あら?」

 

 幽香の口上に疑惑の声が漏れ出た。

 

 余裕綽々だったくせに今更気付いたか。私は両手を照準代わりにした。狙うは広大な向日葵畑その全てと、風見 幽香。つまり全方位。

 

 身を削りながら両手を左右に広げて片足だけを支えに、文字通り、命を賭した博打の衝撃波。

 

 それは轟、ではなくシン……と辺りを浄化した。私から半径数百メートルをまとめて掬い上げて、何もない、まっさらな状態に上書きしたかのような。空間を掌握した瞬間。

 肩で息を大きく吸って、地面に尻餅をついた。つかの間の静寂。

 

 眼の前の光景に息が詰まる。

 荒れ地と化した向日葵畑に座す人影一つ。数十メートル先でその日傘は健在なようだった。どれだけ頑丈なんだそれ、と言外に毒づきたくもあるが、同時に己の失態も悟った。

 

 幽香との戦いで、日傘を私が補強したのかもしれない。そうとしか考えられなかった。

 

「はぁ、今のは効いたわ」

 

 血痰を煩わしそうに吐いた幽香が、ギラついた瞳で私を捉えていた。その日傘ですら衝撃を殺しきれなかったのか、幽香の口端から血が垂れていた。

 

(ざまぁみろ)  

 

 内心、そう思いながらも自分の体が思うように動かないのを悟り、深く呼吸する。

 もしかしたらもう私は長く持たないのかもしれない。全身の筋肉が攣りそうで、体を動かすと酷だった。

 

 私の周りには銀色の水たまりができていた。妖力そのものが漏れ落ちているのだろうか? 

 日傘を支えにして二足で立っているが、流石のあいつもよろめきながらこちらにじり寄って来る。

 

「第二ラウンド」

 

 幽香は残酷にそう告げた。

 

 幽香は日傘を大空に向かって投げ捨てた。そこでようやく気付いたが、私のそれは空の一面すらくり抜いていたらしい。彼方では雲がなびいているが、私の真上には何もなかった。

 

 視線を戻し、ふっと微笑んだ。

 どれだけ傷つこうとも、不思議と体は動く──。

 

「第一ラウンドは私の判定勝ちかな……!」

「どちらが先にくたばるかなのに、判定勝ちとかナンセンスね」

 

 幽香が大地を蹴り、その最中で私は空へと跳躍した。幽香が地を踏み抜くと、ツルが唸りを上げて伸びた。

 

「一度見た。既に見切ってる」

 

 明滅する意識の中の能力行使。ツルの矛先は僅かに私から逸れた。その間隙を見過ごさないように弾幕を練って、鋭い刃のように形成して飛ばした。

 幽香は地面に深く突き刺さった日傘を駆け抜けながら拾い上げ、既のところで防御。その姿勢のまま、口上無しのマスタースパーク。

 

「──無駄」

 

 お互いそれ以上述べること無く、命とプライドを賭したやり取りが静かに執り行われていった。空を埋め尽くす根とツルが、隙間なく対空網を形成していく。日傘を手放せないほどの高密度な弾幕が肉弾戦を拒否し続ける決死の応酬。

 

 幽香も戦い方を変えて空中を漂った。私の思惑通りだ。

 

「こうなるとあれみたいね、命名決闘法案……って、いったかしら」

「それじゃ弾幕遊戯に興じましょうよ」

「お遊戯は暇つぶしには……まぁ悪くないのだけれどね。幾何紗、あなたはどちらの方が楽しいと思う?」

「断然弾幕遊戯かな」

「そう……? 少なくともお前の本心は殺し合いがすきって言ってるわよ」

「バレちゃった? でもあなた達が悪いと思うの。みんなひどいんだから」

 

 言葉のやり取りを交わして、互いに裏ではチカラを練っていた。一定の距離を保ちながら、それを一斉に放出。

 灰色の弾幕と極彩色の弾幕がかち合い、ひりつく笑みの裏では蝶のように流れ弾を躱して打ち消して、盤面を整えていく。

 

「暴力的な妖怪同士の決闘にはじめて弾幕ごっこが導入されたって、あまりにもギルティじゃない!?」

 

 さぁ、スペルを読み上げようではないか。

 

「真言──『絶対必滅必中』あなたは被弾した!!」

 

 刹那に脳が焼き切れるような激痛と共に、ツッと鼻血が伝う。だが構わず大量の弾幕を展開した。そして手を幽香の方に差し向けて、まとめて号令する。

 

「全部、当たる──いけ」

 

 一応弾幕ごっこの真似事なので、展開した弾幕たちを幾つか束にした。

 少しづつ幽香へと差し向けていき、幽香もその意図を理解したようだ。日傘で防いでは興ざめ、幽香は巧みな空中軌道のみで誰にも必中なそれを流れ星のように逃れ続けた。

 

 さて、残りの弾幕も全部放ってしまって、頭の中では風見 幽香に弾幕が追いかけ続けるのをイメージし続けた。イメージするたびに頭がズキズキと痛む。

 私のチカラの限界はとっくに迎えてしまっているのだ。

 

「幾何紗、一つ確認するけど」

 

 極限の集中を維持するなか、風を切る音と共に幽香が何かをくっちゃべっている。

 

「絶対必中なのよね」

「私が気を巡らしている限りは」

「じゃあ安心したわ」

 

 幽香が笑った次の瞬間だった。

 

 視界が、花の香りで埋め尽くされた。

 さっきよりも数弾速い──否、ありえないくらいに、近い? 

 幽香は幾何紗との会話の最中で、逃げるのを諦めていたらしい。弾幕を引き連れたまま一直線にこちらへ突っ込んで来る。

 

「は──?」

 

 遅れて理解した。

 必中なのは、“幽香を追っている”からだ。幽香自身が私のほうへとやってくるということは即ち弾幕もまた、

 

「なすりつけてあげる」

 

 直後、灰色の流星群が、まとめてこちらへ降り注いだ。

 

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