無縁塚で、独りごち 〜この難易度Lunatic幻想郷で〜   作:胡桃の中の団子

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1-1 私の道の尋ね方

 幾何紗は無縁塚の池にある簡素な造りの宿に住んでいた。宿といえば聞こえはいいが、実際はプレハブ小屋より酷い見た目の四角い豆腐だ。

 

 池からは何処からともなく外界のアイテムたちが流れ着くので、幾何紗は、そのアイテムたちを年月かけて収集し、ゴブリンみたいな人型の妖怪に()()()をして()()()に小屋のようなモノを作らせた。

 

 何かをさせるのは強者の特権だ。別にそのあと全員殺したわけではないので、命あっての物種だと思えばいい。

 

 幾何紗には慈悲が存在するので、ゴブリンたちに休憩時間を設けた。そして飲食も提供した。幾何紗は食事は基本しないし睡眠も必要ない。ゴブリンたちが飲食する様を観察して、何でも食うんだな。と、陳腐な感想を抱いた。

 

 倫理観も、何もかもが人間の頃とは違った。或いは、環境がそうさせた。というのは、あまりにも手緩いか。

  

 疑問を感じた。ゴブリンのうち一匹が、幾何紗の元から逃走したのだ。与えてやっているのに何故逃走しようとしたのかが分からなかった。何だか煮えくり返る思いがしたのでチカラの塊を飛ばして瞬殺した。

 

 ゴブリンたちは、それからとても言う事を聞くようになった。そしてまたたく間の間に豆腐は完成した。豆腐でも幾何紗は満足している。クッションに横になれば、ひび割れたガラスの天窓から夜空が一望できるのだ。

 

「オリオン座だ。こういうのは、変わらないのね」

 

 寝る必要はない。でも、時間を飛ばしたかったから。

 

 

 *

 

 

 昔の事を思い出した。ゴブリンがどうのこうのという、取るに足らない記憶だ。

 

「前世の記憶だったらよかったのになー」

 

 幾何紗はクッションの寝床から体を起こして、頭をぽんぽん叩いた。頭は空っきしなので碌な音がしない。木魚の音が鳴ったなら、一休さんも爆笑案件だったのに。

 

 外に出てまずは太陽が出ているかの確認をする。

 

「暗っ!」

 

 少なくとも人間が目を覚ましているような時間ではないことが分かった。日の出は近いが、お天道様は顔すら覗かせていない。

 

「でも別にいいよね。顔を見るだけなら」

 

 未だに酩酊したような、薄ぼんやりとした思考に(かぶり)を振って対処する。博麗神社の代替わり、それも博麗霊夢の顔を拝めるのなら、たまには外に出ていいのかもしれない。

 

 暗闇の空に向かって飛び立った。なんとこの世界では空を飛ぶことができるのだ。妖力か、はたまた魔法か、神力か、ともかく多様な飛行方法はあるけれど原理はよく分かっていない。幻想郷はそういう場所なのだ。

 

 まだまだ暗くむせ返るような明朝のとばりに、黒いワイシャツがよく馴染む。風に吹かれるネクタイが首を軽く引っ張っていた。

 

 それを少し不快そうにしながらも、適当に空を飛ぶ。適当に、というのは博麗神社の場所が分からないのだ。山の上にあるらしいが、山なんていくらでもあるこの地に置いて、そんな情報はカスみたいなものだ。挨拶がわりに妖力を誇示しているので不思議と静かな夜だった。

 

 とりあえず一番高い山を目指して飛んだはいいものの、絶対に違うという確固たる自信があった。大事なのは、そこらへんの妖怪を捕まえて博麗神社の場所を聞くことなのだから。

 

 ちなみに幾何紗は夜目はある程度効くが、地理にすこぶる弱かった。途中捕まえた妖怪に「最東端にじ、神社があります!! ヒィィ!?」とか言われて逃げられたが、方向を指差して欲しいと心の底から思った。

 

 最東端て、月の場所から方角を逆算すればいいのだろうか。せめて太陽なら分かりやすいのに──。

 

「そこの銀髪、止まりなさい」

 

 

 静止の声を指かけられ、ようやく安心した。最近は絡んでくる妖怪が皆無なのだ。

 

「おっ、とうとう釣れたね! でも魚ではなく鳥さんだ!」

 

 おどけてみせるものの、目の前の少女は全く緊張を解く素振りを見せなかった。少なくとも目の前の可憐な女の子に見せる態度ではない。

 

「……幾何紗 真成さんで間違いないですね? 申し遅れました。私は射命丸 文と申します」

 

 ──射命丸。そう聞いて思い出す。にわか仕込みの東方知識においてもあまりにその名前は有名だ。鴉天狗の、頭にお猪口みたいなのを被った、新聞か何かをやっている、ちょっと胡散臭くて……。

 

 或いは幻想郷最速。

 

 妖怪の山に来れば誰かが私を歓迎してくれるだろう。

 そう睨んでやってきたが、まさか妖怪の山の最高戦力クラスがお出迎えとは。幾何紗は心の中で舌打ちをしながらも、文の引きつった笑顔に首を傾げた。

 

「私は真成で間違いないけど……って、どうして? 私とお喋りするのがそんなに嫌だった?」

 

「いやですねぇ……私は、私だけは本ッッ当に嫌なんですよ。お前みたいな殺意と好奇が混在してるマッドな妖怪は」

「うわ、しょぼん悲しい。でもあなたは私に会いに来てくれた。まずは感謝を伝えないとね! ありが──」

 

 幾何紗が感謝を伝えようとしたところで、文が頭を抑えながら言った。

 

「だからそれを辞めろって言ってるんですよ。お前、山の仲間から何て呼ばれているか分かります? 得体の知れない喋れるモンスター、銀色の絶望。とかとか、とにかくそのダダ漏れな殺意の塊と妖力を漂わせるのをやめませんか? 話はそこからです」

 

 物事には順序があるということだろうか? 

 

 幾何紗は礼儀に則り直ぐ様矛を収めたが、あまり納得はしなかった。なぜなら幾何紗は博麗神社の場所を尋ねるために、場所を聞く必要があった。しかし誰も幾何紗の相手をしてくれないのだ。森近に神社の場所を尋ねるのも、なんだか違うような気もする。

 

 森近に「僕に会いに来たんだね」とか言われたらあまりの寒気に風邪を引いてしまうだろう。そうなれば神社には行けなくなる。

 

 だったら、殺意と妖力を解放して山へカチコミに行くフリをすればいいではないか? なぜなら、意地でも誰かが侵入を止めに来ることを幾何紗は知っているから。

 

 コホン。文が咳払いをした。

 

「一応あなたと会話が成立してよかったです。お前と呼ぶのを改めますね。失礼しました」

 

 幾何紗は心の中でサッと胸を撫で下ろした。もしかしたらこのまま嫌われてさようならだったらどうしようかと思っていたからだ。でもよかった、本当に暴れないで済む。そう安堵していた矢先、文が狼狽した。

 

「……って、アレ? おかしいなぁ。素直に私たちの要求に応えるってことは、元々ここに用はなかった……っで、合ってますか?」

 

 答え合わせするように幾何紗に尋ねる。幾何紗はのほほんと気軽に返した。

 

「用はあるよ」

 

 その一言に、文は苦虫を噛み潰したような表情をした。この手の妖怪の用とは、くだらない因縁と相場が決まっているからだ。

 

「誰も私の相手をしてくれないんだもん。そうするしかなかったの」

「あのー、話が見えてきませんが」

「博麗神社っていうところを探してるのよ。でも私場所が分かんなくて。とりあえず山に来ればあなたみたいなのが出迎えてくれるから……」

「動機がマッドバイオレンスですねぇ……」

 

 呆れた様子の文だったが、暫く頷きながら「なるほどなるほど」と、とりあえずはある種の納得をしたようだった。

 

「分かりました。一応、変な因縁を付けにこちらにやって来たわけではないのですね。そして博麗神社の場所も、私は親切なのでお教えいたしましょう。ただし! 次同じ手段でここに来たらただでは済まさないと思ってください。メンツってものがあるのですよ。うちにもね」

 

 そして親切に方角を指差してくれる文。瞬時に幾何紗が方向音痴で東西南北が理解できていないことを悟ってくれた。幾何紗にとって、東は幾何紗からみて右であり、北は上なのだ。

 

「ありがとう!! じゃあね!」

 

 しっしと獣を払うような仕草で、幾何紗を見送る文。その姿形が無くなったところで、ようやく周囲の天狗たちが文の元へ集まってきた。さながら天狗の代表だ。文も肝が冷えたようで、額にはじんわりと汗が滲んでいる。

 あんな屈託のない殺意を純粋な笑顔から繰り出せる存在が、まともな訳がないのだ。

 

「アレは己の力をぞんざいに扱っているというか、純粋だから質が悪いですね」

 

 文の部下である哨戒天狗、(もみじ)が隣でぼそりと呟いた。

 

「元々はあんたの仕事でしょーが、でも──」

 

 悪態を付きながらも、頭はまわるのが文だ。文は部下たちに難癖をつけて、自分だけは幾何紗の向かう先を追いかけた。きっと幾何紗の下で特大スクープが撮れるに違いない。そう、ほくそ笑みながら。

 

 

 

 

 

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