無縁塚で、独りごち 〜この難易度Lunatic幻想郷で〜   作:胡桃の中の団子

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誤字脱字あるかもしれませんが、その場合は一応すぐにでも修整します、、、


1-4 首がないのかあるんだか

 幾何紗は豆腐小屋の片隅で、体育座りになって手を伸ばしていた。ひび割れた天窓から射し込む光を捕まえようとして──諦める。あぁ、あの少女は美しかった。美しすぎてあの場にいることが(はばか)られるような思いだった。

 

「ありとあらゆる確率をねじまげる程度の能力」

 

 美しくも残酷な世界を探訪して得た、己への知見。何かを疑う、何かを信じる、何かに恐怖する、何かに反抗する。そのいずれの瞬間にも、自身が感じた通りに世界が動いてしまう。例えば、ゴブリンに魔弾を飛ばすとあまり狙っていないのにも関わらず勝手に当たる、というように。  

 

 故に幾何紗は絶望した。じゃあ、私がこの世界に於いて、関係を持とうとしてしまうと……。ありとあらゆる事象も思った通りに変化してしまうのではなかろうか、と。

 

 だが霊夢はその絶望すらも一言で蹴散らしたのだ。「だってあたしは博麗の巫女だから」。しかもそれが腑に落ちるのだ。彼女こそ真に美しく何かを成すに相応しい。

 

 きっと幾何紗が僅かな妄信でナニかを起こしたとしても──。

 

 彼女ならば、博麗 霊夢ならば、全てを受け止めてくれるのかもしれない。

 

「それでも」

 

 幾何紗は自嘲した。

 

「私には、手を伸ばす勇気がないのかも」

 

 少なくとも、今は。

 

 その少なくとも。というところが幾何紗を幾何紗足らしめているのかもしれない。これは絶望であり、同時に希望の意味合いも孕んでいるからだ。

 

 幾何紗は会話した内容を愛おしそうに反芻(はんすう)しながら、静かに反省会をした。

 

 

 

 

 

 *

 

 一人で反省会を済ませた頃、太陽が元気よく頭のてんこつから差し込んでいた。

 

「世間はお昼時なのかな」

 

 なんとなく魔弾を何重にも展開して、的を用意して放ってみる。的を生きたナニかではなく、ちゃんと木材に布を巻いた的にしたのには訳がある。

 

 どうやら幾何紗はマッドバイオレンスらしいのだ。弱肉強食なこの世において、弱者をどう扱おうが別に良くないかとも思うのだが。

 だって、放っておいたら誰かに自分の情報が知れ渡るかもしれないし、畜生ならば何かを盗んでいく不貞もいる。命乞いの裏ではいつ寝首を掻こうと企んでいるかは分からない。

 

 言語もまともに発せないような知能の妖怪ならば、適当に間引いて残虐に扱うほうが効果的なのだ。そうすると文字通り誰も寄ってこなくなる。

 

 そこらへんの扱いを、たとえば文なんかは上手くこなすのだろう。己の威信を守りながら。

 

 だが幾何紗は不器用なので、そこらへんのことは上手くできない。

 

「エイヤーサーホワーッ!」

 

 

 前世の記憶にある上裸のカンフーマスターのモノマネをしながら、その拍子に弾幕を繰り出した。

 

 やはり、というべきか。大まかに狙っていても一念さえすれば、全ての弾幕がまるで的に吸い寄せられるように飛んでいく。もしこれが弾幕ごっこならば、このチカラの作用はどう働くのだろうか。どこかで活きのいい妖怪に頼んでみる必要があるだろう。

 

 幾何紗は片腕を天に掲げて吠えた。

 

 おそらく幾何紗の弾幕は、願いさえすれば狙ったものに対して残らずホーミングするという特質がある。これは間違いない。

 

 ただ、そのホーミングは万能かと言われればそうじゃないような気もする。

 もしも、幾何紗が自身の見立ての通りの能力を持っているならば、対象が避けるという行為を行えば、避けられるという一念が過るはず。その時点で幾何紗の能力発動条件は破綻して、弾幕はヒラヒラとどこかへ飛び立ってしまうだろう。

 

 幾何紗のメンタルの問題、気の持ちようだと問われれば間違いない。だが、はじめから最後まで絶対に避けられないと信じることなんて、不可能なのではなかろうか。

 

 来たるべき時のために、薄っすらでも練習に励んでみるものの、的の方が直ぐ様ぐちゃぐちゃになる。

 

 これがまだ的だからよいが、もしも人間や傷つけたくない相手なら──。

 

「ゾッとする」

 

 手のひらを表にして、ふっと力を込めてみた。たったそれだけで手のひらに妖力の塊が集ってくる。

 

「ある程度強いということは、忌避されることにも繋がる、か」

 

 孤独が嫌いなわけではなかった。

 

「でも、ずっと一人は寂しいよ」

 

 その時、ガサガサと物陰から慌てたような物音がした。恥じらいであまりにも顔が赤くなった。

 

 幾何紗は物音に対して鋭く低い声で「動くな」と命令し、殺意を(みなぎ)らせて音鳴る方へと歩いていく。

 

「動いたら殺すけど、動かなかったら情状酌量の余地ありだからね〜」

 

 優しく慈悲を示してやると、物音は姿を現した。かと思えばそれはボール一つ分くらいの大きさで宙を舞いながらこちらに突貫してくる。

 

「お、おどろけーッ!!」

 

 何かと思えば変な表情をした顔だった。確かに多少は驚いたが、ちょっと無理がある脅かし方じゃなかろうか。

 

「あのさぁ……」

 

 その手の類はもう見飽きたのだ。少女の顔が幾何紗に怯んで引っ込んでしまう前に、ガッツリと抱きしめる。アメフト選手が大事にボールを抱きかかえるアレだ。

 

「一ポイントかな!」

 

 少女の顔がワイシャツの裏でモゴモゴと足掻く様は何ともシュールだ。どうせこの手の妖怪は顔だけな筈がないので、少女の顔の顎を人差し指で回したりして遊んでみた。

 

「どぼぉかやゔぇてくだざぅいいいいい」

 

 そうしてしばらく顔をいじっていると、とうとう胴体部分がやってきて目の前で正座した。

 

 その胴体部分を見てようやく思い出した。彼女は頭の片隅にある東方projectにわか知識に薄っすらとインプットされている、確かろくろ首の……。

 

 そこまで想起したところで、少女の胴体はまるで大人にあざとくお願いごとをするかのように手を合わし始めた。

 

 とうとう幾何紗を神と崇め始めたのだろうか? 幾何紗は胸を張って堂々とした。

 

「苦しゅうない」

「ち、違うぞ! お願いだから頭を返せ……てください」

「そしたら逃げるでしょ」

「最早わたしはあんたから逃げることもできないんだが」

「ちょっと対処を間違えちゃったかな。捕まえるより逃げたところに魔弾をぶつけにいかないと、検証にならないもんね」

「あの、わたしを実験用のモルモットか何かだと思ってない、いませんか?」

「あ痛っ!?」

 

 

 お腹の一番柔らかいところを噛まれ、思わず顔を手放してしまう。しかもそいつは逃げることに対して躊躇がなく手際もよかった。

 

 泥を目元にサッと掬い上げられ眼を瞑る。

 

「オラァッ!!」

 

 

 だが幾何紗の執念はそれを上回った。

 幾何紗は眼を瞑ったまま、少女が放物線を描きながら走ることを見越して直前の視界を頼りに魔弾を放りなげた。少女がずる賢いことを見越してノールックの偏差撃ちだ。

 直感で直撃させてしまうと思ったので、無理やり魔弾の軌道を真下に逸らした。

 

 鈍い爆発音がした。そしておもむろに眼を開ける。

 ……すると少女が遠くの方で唸っていた。クレーターの下敷きにはなっていないようだ。よかった。一先ず獲物を確保したことに安心した。

 

「ひどい、残酷よ……」

 

 胴体部分から数メートル飛んでいる赤髪を拾い上げる。半分涙目だった。

 

「私はまだ、あなたに何も危害は加えてないんだけど。それよりもこのクレーター、あなたのせいで穴が空いたから補修してくれない?」

「いや本当に今まさにバリバリ危害を加えられているのですが」

「? あなたが逃げるからでしょ? 私が捕まえたと思った時点であなたは逃げられないのに」

「やめてください。もう降参です。でも殺さないでくれ……ください」

「ハッハッハ!! 大丈夫! 殺すつもりだったら直撃させてるから」

「ひぃいぇ……。も、申し訳ございませんでした」

 

 本当に観念した様子なので顔を胴体に返してやる。少女は土下座した。

 

「命、命だけは」

「ふふ、そんなわけないじゃないの」

 

 その命乞いがなんだか物凄く不憫だった。幾何紗は全くもって、鼻っから殺すつもりはなかったのだ。

 なんだかそれを決して笑ってはいけないのだが、面白おかしかった。バレないように、代わりににっこりとはにかんであげた。きっと彼女の瞳には思慮深い聖女のような銀髪の少女が映っているに違いない。

 

 この機転の利き方はどんな知恵者でもできますまい。

 

 鼻を鳴らしながら満足そうに頷いた。……あれ、赤髪の少女が震えている。そこまで寒い気温でもあるまいし。

 

 そう考えていた矢先、ふと思い出したことがある。

 

 この口元を隠した赤髪の少女は、こんな辺鄙(へんぴ)なところにいる筈のない少女だ。名前は忘れてしまったが、妖怪でありながら里に出没する不思議なやつだったような気がする。

 

 それを踏まえて、とりあえず豆腐小屋に少女を招いて話を聞いてみることにした。少女の周りに水たまりが出来ていた。いや、春の湿気た空気のせいかもしれない。

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