【カオス・リンクエイド】参加用設定集   作:るるの

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プロローグ

 第零戦術施設「クレイドル」。

 

 そこは、この宇宙に満ちる「魔素」を人為的に制御し、対アシュド用兵器としての人間を鋳造するための、巨大な無機質の集積地である。

 

 建物の外壁から内部の廊下、個室の隅々に至るまで、徹底して色彩が排除されていた。視覚情報による精神的な揺らぎを「不純物」として嫌うその設計は、壁一面を死んだ魚の腹のような、あるいは乾いた骨のような白で塗り潰している。

 

 空気は常に魔素循環装置によって管理され、湿度は45%、温度は22度。一分の狂いもないその空間では、塵一つ、音一つさえもが管理者の意図の下にある。

 

 ここで育った7歳の私──個体識別番号「L-00(エル・ゼロ)」にとって、世界とは「プロセス(工程)」の連続だった。

 

 「L-00(エル・ゼロ)、心拍数110。許容範囲内。次のフェーズへ移行せよ」

 

 頭上のスピーカーから降り注ぐ、感情を排した合成音声。それが私の世界における「神の託宣」だった。

 

 起床。

 栄養剤の摂取。

 魔素の適合試験。

 論理演算による戦術シミュレーション。

 

 そして、「カード」という薄い板状の媒体に、己の精神指向性を無理やり流し込み、爆発的な力を「形式(ルール)」へと固定する訓練。

 

 私の視界には、常人のそれとは異なる景色が映る。  空間に浮遊する微細な魔素の粒子が、青白い数式の羅列となって流れ、世界を構成する法則を暴き出していく。

 

 誰を愛し、何を憎むかといった「感情」は、この演算世界においては何の役にも立たない。  私は、ただ効率的に、ただ精密に、魔素を汲み上げるための「導管」として完成されることを求められていた。

 

 冷たい床を、裸足のまま歩く。

 

 足の裏に伝わる硬質な感触は、私が「物」であることを再確認させてくれる。  体温という余剰エネルギーは、この施設の管理設定においては無駄なコストでしかない。私は、自分の心臓がなぜ脈打つのかさえ、その物理的なプロセス以上には理解していなかった―――

 

 

 

 ある日、その絶対的な静寂の中に「異物」が混じった。

 

 廊下の角を曲がろうとした私の聴覚に、重厚な革靴が硬い床を叩く、不規則なリズムが飛び込んできた。施設の職員たちの、計算された滑らかな足音とは違う。それは地面を踏みしめ、重力を無理やり従わせるような、意志の強い響きだった。

 

 私は反射的に足を止め、影に身を潜めた。  「逸脱」は罰の対象だが、その時はなぜか、計算機のような私の脳が「この事象を観測すべきだ」と指令を出した。

 

 「……アシュドの侵攻が激化している。もはや通常のリンカーでは結界の維持すらままならん。太平洋側の第3防衛線も、昨夜ついに沈黙した」

 

 低く、地鳴りのように響く声。

 

 少し離れた位置に、黒いスリーピースのスーツを隙なく着こなした男が立っていた。

 アーサー・V・グレイワード。国際境界管理機構(IAA)の最高責任者。かつて「初代リンカー」として戦場を駆けた英雄。

 

 彼の左頬から首筋にかけては、ひび割れた陶器のような、不気味なモノクロの痣が這い回っていた。それは魔術の代償として現れる不治の障害「色彩消失症(カラーレス)」の痕跡だ。

 

 「『カードゲーム』という形式は、奴らの圧倒的な暴力を人類が理解・干渉できる檻として機能している。だが、アシュドはその檻そのものを食い破り始めている。ルールという言語を通さない攻撃は、我々の現実を塵のように分解する……」

 

 彼の傍らで、施設長が卑屈な笑みを浮かべながら揉み手をしていた。

 

 「ええ、ですからこそ、この第零施設で作られた『完璧な調整体』が必要なのです。閣下。L-00(エル・ゼロ)を見てください。彼女は感情というノイズを完全に排し、魔素を純粋な論理として扱える。彼女こそが、人類の盾となるべき最高傑作です」

 

 「……盾、か」

 

 アーサーの言葉には、自嘲のような、あるいは深い、深い海の底から漏れ出す溜息のような響きが混じっていた。

 

 大人たちが視察のために強化ガラスの向こうへ消えていく。

 私は壁に背を預け、彼らの会話から得られた情報を処理しようとした。

 

 「人類の盾」。

 「最高傑作」。

 

 それは私に与えられた新しいプロセス名に過ぎない。

 そう結論づけようとした私の視界の端に、一つの「計算外」が飛び込んできた。

 

 視察団の最後尾。アーサーの足元に従っていた「それ」が、ふと足を止めて私の方を振り返ったのだ。

 

 それは、四本足の生命体だった。

 

 施設の冷酷な照明を反射して、黄金色の毛並みが波打つように光る。図覚のデータとしてしか知らなかった、ゴールデンレトリバー。

 

 犬は、怯える様子のない私の元へ、迷いのない足取りで近づいてきた。  職員たちが私を見る時の「実験材料を検分するような目」とは、根本的に違う。もっと純粋で、もっと圧倒的な、剥き出しの好奇心。

 

 彼は私の目の前で止まると、膝に濡れた鼻先を押し当て、「ふんっ」と熱い鼻息をかけた。

 

 「あ……」

 

 私の指先が、微かに震えた。

 計算外だ。この生物の体温は、施設の管理設定よりも明らかに高い。

 

 彼は私の困惑を無視するように、ざりざりとした大きな舌で、私の手の甲を勢いよく舐めた。  唾液の湿り気。動物特有の、少し土っぽい、日向のような匂い。

 

 私は吸い寄せられるように、その黄金の首元に手を伸ばした。

 

 柔らかい。  信じられないほどに、柔らかい。

 

 指先を沈めると、そこには施設のどこにも存在しない、暴力的なまでの「熱」が隠されていた。  トクン、トクン、トクン。  一定のビート。施設の電子メトロノームよりもずっと速く、ずっと力強い。命の重みが、直接私の手のひらを叩いている。

 

 「温かい……。これが、命の、プロセス……?」

 

 その瞬間、私の中で何かが決壊した。

 

 これまで魔素の計算式としてしか世界を見ていなかった私の脳に、定義不能な信号が流れ込む。  私は夢中でその温もりに顔を埋めた。犬の力強い心音を、自分の鼓動だと錯覚するほど強く抱きしめる。

 

 冷たい「導管」でしかなかった私の中に、初めて「慈しみ」という名前の付かない火が灯った。  私という「道具」が、初めて「生きているもの」に触れ、自分がこの熱を持った「人間」であることを突きつけられた、運命の数秒間だった。

 

 「何を……何をしている、L-00(エル・ゼロ)!」

 

 戻ってきた施設長の怒声が、静寂を切り裂いた。

 

 「許可なく隔離室を出るとは何事だ! 貴様のプロセスに『逸脱』は許されないと言ったはずだ!」

 

 施設長が私を乱暴に引き剥がそうと一歩踏み出す。私は犬を庇うように、その小さな体を縮こまらせた。

 

 だが、その怒声を制したのはアーサーだった。

 

 「……待ちなさい」

 

 彼はゆっくりと私の方へ歩み寄った。犬は嬉しそうに尾を振り、主人の足元へと戻っていく。

 

 アーサーは私と同じ目線になるよう、その場に片膝をついた。間近で見る彼の瞳は、かつての戦火を閉じ込めたような、暗い光を宿している。

 

 「……名前は、あるのか」

 

 「……L-00(エル・ゼロ)、です」

 

 私が淡々と答えると、アーサーの表情が、耐えがたい苦痛に耐えるかのように歪んだ。  彼は震える手を伸ばし、私の銀髪にそっと触れようとして──、寸前でそれを止めた。

 

 「すまない……。本当に、すまない」

 

 その言葉は、私に向けられたものというより、彼自身の魂の奥底から溢れ出した、取り返しのつかない後悔のようだった。

 

 「君を戦うための道具としてしか扱えぬ、この愚かな世界を許してくれ。……一人の父親として、私は君に、こんな未来を背負わせたくはなかった」

 

 その瞬間、異変が起きた。

 

 彼の指先が、私の髪を微かにかすめた。  それだけで、A-LIDとの適合率が飽和状態にあった私の脳が、アーサーの精神と「リンク」してしまったのだ。  意図しない接続。不完全な同期。  彼の深層心理に沈殿していた『崩壊状態の記憶』が、濁流となって私の中に流れ込んでくる。

 

 「あ……あああぁっ!」

 

 視界から色が消える。  無機質な施設が、ノイズと共にバラバラに解体されていく。

 

 気づけば私は、血の匂いとオゾンの香りが混じり合う、黄昏色の異空間──

反現実(ホロウアース)」の戦場に立っていた。

 

 目の前にいたのは、巨大な二足歩行の狼だった。  肉体は不気味なモノクロームのグラデーションで覆われ、現実世界の存在とは思えないほど輪郭がブレている。だが、その瞳と爪だけが、毒々しいまでの極彩色で発光し、世界の理を拒絶していた。

 

 それは、カードという「ルール」がまだ未完成だった時代の、アシュドの真の姿。

 

 狼の爪が、宙を裂く。  その先には、一人の少女がいた。

 アーサーの愛娘、ルナ。

 

 『お父様、助けて──!』

 

 少女の叫びは、狼の耳を裂くような咆哮にかき消された。

 初代リンカーであったアーサーは、己の魂を直接魔素に変え、光り輝く槍となって飛び出す。だが、遅すぎた。

 

 アシュドの爪が、少女の喉元を撫でる。

 切られたのは肉体ではない。彼女という存在を定義する「魂の糸」だ。

 

 瞬間に、少女の輪郭が砂のようにパラパラと崩れ始めた。

 色が奪われ、声が奪われ、存在そのものが「翻訳不能なエラー」として処理されていく。

 修復不可能なノイズ。それが、リンカーにとっての死──「崩壊状態」の真実だった。

 

 「ルナ……ルナぁぁぁぁ!」

 

 アーサーの慟哭が、私の心臓を直接握りつぶす。

 少女が消え去った後に残ったのは、空っぽの虚空と、愛する者を救えず、ただ自分だけが「色彩消失(カラーレス)」という呪いを刻まれて生き残った男の、底なしの絶望だった。

 

 「あ、ああ、あ、あぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 私の内側で、これまで築き上げてきた完璧な計算式がすべて瓦解する。

 

 他者の抱えきれないほどの巨大な悲しみが、私の空っぽな魂の中に流れ込み、激しい熱を帯びて変質していく。

 崩壊していく世界、迫りくる狼の影、そして──。

 

 唐突に、視界が白転した。

 

 「……っは……っ!」

 

 激しい呼吸と共に、私は飛び起きた。

 全身が冷や汗で濡れている。心臓が早鐘を打っている。

 そこにあったのは、施設の冷たい床でも、狼の咆哮が響く戦場でもなかった。

 

 西日に照らされた、少し埃っぽい教室。

 使い込まれた木の机と椅子が並び、黒板には誰かが書き置きした他愛もない連絡事項が残っている。

 

 「ワンっ!」

 

 湿った感触が目元を覆った。

 ぺろぺろと、遠慮なく私の顔を舐め回す感触。

 

 「……ふふ、もう、やめてよ。コロ」

 

 私は目元を隠していた犯人の頭を、優しく撫でた。

 そこにいたのは、あの黄金色のレトリバーではない。この「第13特務隔離学級」、通称『パンドラ』の寮でいつの間にか飼われるようになった、茶色い毛並みの人懐っこい雑種犬だ。

 

 コロは私の膝の上に前足を乗せ、何かを催促するように尻尾を振り回している。

 

 「……また、あの時の夢」

 

 私は窓の外に広がる、アーカラディア学園の景色を眺めた。

 夕焼けの茜色。それは、あの絶望の記憶の中で見た、どんな極彩色よりも穏やかで、美しい色だった。

 

 制服のスカートを払い、私はゆっくりと立ち上がる。

 壁に立てかけてあった、一振りの「鞘」を手に取った。

 

 重厚な装飾が施された、抜かれることのない棺。──『冰刀・零彼岸』。  かつてアーサーから引き継いでしまった「他者の崩壊」を、代わりに背負うと決めたあの日、私の手の中に生まれた意思の形。

 

 不意に、廊下から騒がしい足音と声が聞こえてきた。

 

 一つではない。

 

 迷い、焦り、あるいは傲慢なまでの期待。

 それぞれが異なるリズムを刻む、個性的で、どこか危うさを孕んだ複数の足音。

 

 「……新しいプロセスの、始まりね」

 

 私はコロの頭をもう一度撫でると、重厚な教室のドアへと歩み寄った。

 

 この扉の向こうには、私と同じように「世界というルール」からはみ出してしまった者たちが集まってくる。

 上層部が「使い捨ての防波堤」と呼ぶ彼らは、私にとっては初めて得た「家族」であり、守るべき「熱」だ。

 

 私はドアノブに手をかけ、一呼吸置いた。

 そして、精一杯の善意を、あの日犬の温もりに触れて芽生えた人間的な感情を込めて、扉を開く。

 

 視線の先には、逆光の中に佇む新しい「リンカー」たちの姿があった。

 

 「ようこそ、第13特務隔離学級へ」

 

 夕暮れの教室。

 扉の向こう側で、新しい物語が今、静かに繋がり始めた―――




☆本日のカード☆
黒の艶と白の輝きが美しいモノクロームの鞘。『冰刀(ひとう)零彼岸(ぜろひがん)
使い手はもちろん私、白露(しらつゆ) レイ。ちなみに私よりも大きいよ。

構築カードのゾーンでコストは4。【唯一】持ちの【開戦】カード。
私のマナレベルは3だから、初手から出せるね。

効果は、自分に【幽乱】【幽閉】を付与するよ。
2つ同時付与はズルい? …いいでしょ。

でも…そんな良い効果でもないよ。
簡単に言うと【幽乱】は、自分より崩壊率が高い仲間がいると状態異常カード「混沌」を手札に加える。状態異常だよ、状態異常。絶対に良い効果じゃない。
逆に【幽閉】は、自分が一番崩壊率が高いと自分の崩壊率が軽減されなくなるの。

崩壊状態まっしぐら。

崩壊状態になると心を打ち砕かれて戦えなくなるの。
私は動けるけどね。だって「絶望」こそ、私の色だから…

ひとまず私のカードの話はここまで。
続きは次回、次回。

ということで次回は13組のみんなと対面かな?
楽しみにしてる。私とカードゲーム、しよ?

…あ、コロ。台本持ってかないで……

…こほん。それじゃ……

コロ、おすわり。追いかけっこジャナイヨ……
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