「あ、カノンちゃんだ!」
「珍し、誰か一緒とか」
「もしかして新しい娘連れてきてくれたの!?」
それが当たり前みたいにカノンちゃんは入店し、それが当たり前みたいにスタッフさんが出迎えている。
多分、これが日常の光景なんだろう。
さっき言ってた「大っぴらに来れない」みたいな発言を思い出し、私はハッとした。
「……もしかして、カノンちゃんがお金持ってるのって……?」
「違いますよ。このお店、私が出資してるんです。でも、こういうお店って18歳未満が入ったら怒られちゃいますから。大っぴらに来れないっていうのはそういうことです」
いつの間にか用意していたチョコレートの詰め合わせをスタッフさんに渡しつつ、くすっと笑うカノンちゃん。
そのままの流れで、私達は店の奥のVIPルーム?らしき個室へと通された。
「ここ、よく来るの?」
「はい。ここなら誰かと話せますし……家だと、一人になっちゃうので」
少し寂しそうな、強がったような笑みを浮かべながらの彼女の呟きに、なんて言えばいいのか分からなくなる。
そんな空白を一瞬挟んでから、ゆっくりと部屋の扉が開いた。
「おまたせ、オーナーちゃん!」
現れたのは、私と同い年くらいの、多分大学生の女の子。
普通に大学帰りなのか、私服にカバンもそのままっていう、すごいラフな感じ。
キャバクラって、こんな感じなのかな、なんて考えてるとカノンちゃんは教えてくれた。
「私の希望なんです。綺麗なドレスとか、そういうのだと……「サービス」が、強すぎて」
「そゆことそゆこと。……ってヤバ、そうだ。今更だけど、ご一緒いいですか?」
「……あ、はい。どうぞ……」
「ありがとうございま〜す! あとごめんね、オーナーちゃん。もう1人呼んだんだけど、今忙しいからちょっと時間掛かっちゃうかも」
「なるほど。大丈夫ですか? シオンさん」
「あ、私は全然……」
ふわふわの柔らかいボブカットの彼女(アベルという源氏名らしい)はカノンちゃんの隣に座ると、軽い自己紹介を済ませた。
カノンちゃんの方へ目をやると、いつになく落ち着いて見える。
「ご飯、何食べたい?」
メニューを開きながら、アベルさんはカノンちゃんと、私の方に尋ねてきた。
取り敢えず大きめのシーフードピザと、カノンちゃんの好物だという串揚げの盛り合わせ、プチシューなんかを頼んで、それからドリンク。
フードといい、キャバクラという以前にメニューそのものにかなり力が入っていて、綺麗な写真と一緒に沢山の名前が並べられている。
「ごめんなさい、こういうとこ初めてで……オススメとかってありますか?」
「オススメかぁ。今日、飲みます?」
「いえ、カノンちゃんもいるし……」
「ならノンアルのサングリアとかどうですか? さっぱりしてて飲みやすいやつなんですけど、赤も白もあるんで、お好きな方どうぞ!」
「だったら、それの白で」
「了解です! オーナーちゃんはいつものでいい?」
「はい。お願いします。……少し、お手洗いに」
多分注文を打ち込んでるであろうアベルさんを尻目に、カノンちゃんは席を立ち、部屋を出る。
初対面のキャバ嬢と2人きり、気まずいというか、何を話せばいいのか分からない。
どうしようかと迷っていると、打ち終えたアベルさんが口を開いた。
「これはキャバ嬢っていうより、オーナーちゃんの知り合いとしてなんだけどさ」
「……?」
「あの子、シオンちゃんに告ったでしょ?」
「え……なんで……?」
「あの子さ、ここに誰かと来たの初めてなんだ。オーナーちゃんにとって、キミは特別なんだろうと思って」
そしてテーブルに置かれた水ではなく、カバンから取り出した麦茶をぐっと呷ると、彼女は話を続ける。
「多分どっかで知ると思うし、本人から言えないこともあると思うから、今教えてあげる。オーナーちゃんの話」
「カノンちゃんの……」
「そう。あの子がここを買ったのは……3年前。丁度アタシが働き始めた時かな。前のオーナーが結構黒い人で刑務所行っちゃって」
「ほらこれ」と差し出してくる古いネットニュース。
脱税、出資法違反、金融商品取引法違反……
守銭奴、ってやつだろうか。
「ここも処分するか〜、なんて話になってた時、まだ中2のあの子が来て、おっきなスーツケースに入った馬鹿みたいな量の現金に物言わせて、お店全部買っちゃったの」
「……意味、わかんないですね」
「ホントにね。そこから毎週……週に3、4回くらいこのVIPルーム来て、ご飯食べたり、勉強とかして……そうそう、あの子さ、ご両親海外なんだ。だから中学入った頃からずっと一人暮らしなんだよ」
あ、「家だと一人」って、そういうことか。
中1からずっと、数年間一人暮らし……そりゃ、寂しいよね。
「でも……やっぱオーナーちゃんなら危うい娘連れてくるよね〜」
「危うい……え、私……?」
「うん。オーナーちゃんドストライクの早死顔。ほら、オーナーちゃん自身もだいぶメンタル病んでるからさ。あの子多分、自分と同じくらいの“壊れかけ”じゃないと上手く行かないんだよね」
壊れかけ。
揶揄3割、憐憫7割。
そんな言葉が、私の胸を貫いた。
「悩み、多いんだ?」
アベルさんはそう問いかける。
大学で心理学を専攻してると教えてくれた。
「そろそろ戻ってくるだろうし、最後に教えてあげる」
「カノンちゃんについて、ですか?」
「そう。このお店の由来にもなってる、オーナーちゃんの一番好きな言葉」
テーブルに頬杖を突きながら、彼女は言った。
「「美人薄命」」