私は、死にそうなあなたが好き。   作:あるふぁせんとーり

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第2話/氷室シオン

「あ、カノンちゃんだ!」

 

「珍し、誰か一緒とか」

 

「もしかして新しい娘連れてきてくれたの!?」

 

 

 それが当たり前みたいにカノンちゃんは入店し、それが当たり前みたいにスタッフさんが出迎えている。

 

 多分、これが日常の光景なんだろう。

 

 さっき言ってた「大っぴらに来れない」みたいな発言を思い出し、私はハッとした。

 

 

「……もしかして、カノンちゃんがお金持ってるのって……?」

 

「違いますよ。このお店、私が出資してるんです。でも、こういうお店って18歳未満が入ったら怒られちゃいますから。大っぴらに来れないっていうのはそういうことです」

 

 

 いつの間にか用意していたチョコレートの詰め合わせをスタッフさんに渡しつつ、くすっと笑うカノンちゃん。

 

 そのままの流れで、私達は店の奥のVIPルーム?らしき個室へと通された。

 

 

「ここ、よく来るの?」

 

「はい。ここなら誰かと話せますし……家だと、一人になっちゃうので」

 

 

 少し寂しそうな、強がったような笑みを浮かべながらの彼女の呟きに、なんて言えばいいのか分からなくなる。

 

 そんな空白を一瞬挟んでから、ゆっくりと部屋の扉が開いた。

 

 

「おまたせ、オーナーちゃん!」

 

 

 現れたのは、私と同い年くらいの、多分大学生の女の子。

 

 普通に大学帰りなのか、私服にカバンもそのままっていう、すごいラフな感じ。

 

 キャバクラって、こんな感じなのかな、なんて考えてるとカノンちゃんは教えてくれた。

 

 

「私の希望なんです。綺麗なドレスとか、そういうのだと……「サービス」が、強すぎて」

 

「そゆことそゆこと。……ってヤバ、そうだ。今更だけど、ご一緒いいですか?」

 

「……あ、はい。どうぞ……」

 

「ありがとうございま〜す! あとごめんね、オーナーちゃん。もう1人呼んだんだけど、今忙しいからちょっと時間掛かっちゃうかも」

 

「なるほど。大丈夫ですか? シオンさん」

 

「あ、私は全然……」

 

 

 ふわふわの柔らかいボブカットの彼女(アベルという源氏名らしい)はカノンちゃんの隣に座ると、軽い自己紹介を済ませた。

 

 カノンちゃんの方へ目をやると、いつになく落ち着いて見える。

 

 

「ご飯、何食べたい?」

 

 

 メニューを開きながら、アベルさんはカノンちゃんと、私の方に尋ねてきた。

 

 取り敢えず大きめのシーフードピザと、カノンちゃんの好物だという串揚げの盛り合わせ、プチシューなんかを頼んで、それからドリンク。

 

 フードといい、キャバクラという以前にメニューそのものにかなり力が入っていて、綺麗な写真と一緒に沢山の名前が並べられている。

 

 

「ごめんなさい、こういうとこ初めてで……オススメとかってありますか?」

 

「オススメかぁ。今日、飲みます?」

 

「いえ、カノンちゃんもいるし……」

 

「ならノンアルのサングリアとかどうですか? さっぱりしてて飲みやすいやつなんですけど、赤も白もあるんで、お好きな方どうぞ!」

 

「だったら、それの白で」

 

「了解です! オーナーちゃんはいつものでいい?」

 

「はい。お願いします。……少し、お手洗いに」

 

 

 多分注文を打ち込んでるであろうアベルさんを尻目に、カノンちゃんは席を立ち、部屋を出る。

 

 初対面のキャバ嬢と2人きり、気まずいというか、何を話せばいいのか分からない。

 

 どうしようかと迷っていると、打ち終えたアベルさんが口を開いた。

 

 

「これはキャバ嬢っていうより、オーナーちゃんの知り合いとしてなんだけどさ」

 

「……?」

 

「あの子、シオンちゃんに告ったでしょ?」

 

「え……なんで……?」

 

「あの子さ、ここに誰かと来たの初めてなんだ。オーナーちゃんにとって、キミは特別なんだろうと思って」

 

 

 そしてテーブルに置かれた水ではなく、カバンから取り出した麦茶をぐっと呷ると、彼女は話を続ける。

 

 

「多分どっかで知ると思うし、本人から言えないこともあると思うから、今教えてあげる。オーナーちゃんの話」

 

「カノンちゃんの……」

 

「そう。あの子がここを買ったのは……3年前。丁度アタシが働き始めた時かな。前のオーナーが結構黒い人で刑務所行っちゃって」

 

 

 「ほらこれ」と差し出してくる古いネットニュース。

 

 脱税、出資法違反、金融商品取引法違反……

 

 守銭奴、ってやつだろうか。

 

 

「ここも処分するか〜、なんて話になってた時、まだ中2のあの子が来て、おっきなスーツケースに入った馬鹿みたいな量の現金に物言わせて、お店全部買っちゃったの」

 

「……意味、わかんないですね」

 

「ホントにね。そこから毎週……週に3、4回くらいこのVIPルーム来て、ご飯食べたり、勉強とかして……そうそう、あの子さ、ご両親海外なんだ。だから中学入った頃からずっと一人暮らしなんだよ」

 

 

 あ、「家だと一人」って、そういうことか。

 

 中1からずっと、数年間一人暮らし……そりゃ、寂しいよね。

 

 

「でも……やっぱオーナーちゃんなら危うい娘連れてくるよね〜」

 

「危うい……え、私……?」

 

「うん。オーナーちゃんドストライクの早死顔。ほら、オーナーちゃん自身もだいぶメンタル病んでるからさ。あの子多分、自分と同じくらいの“壊れかけ”じゃないと上手く行かないんだよね」

 

 

 壊れかけ。

 

 揶揄3割、憐憫7割。

 

 そんな言葉が、私の胸を貫いた。

 

 

「悩み、多いんだ?」

 

 

 アベルさんはそう問いかける。

 

 大学で心理学を専攻してると教えてくれた。

 

 

「そろそろ戻ってくるだろうし、最後に教えてあげる」

 

「カノンちゃんについて、ですか?」

 

「そう。このお店の由来にもなってる、オーナーちゃんの一番好きな言葉」

 

 

 テーブルに頬杖を突きながら、彼女は言った。

 

 

「「美人薄命」」

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