私は、死にそうなあなたが好き。   作:あるふぁせんとーり

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第3話/氷室シオン

「いいじゃん、シオンは。顔が良いだけで生きてけるんだから。……私から、奪わないでよ」

 

 

 大喧嘩の末に消えた友達は、最後にそう言った。

 

 勝手に好きになられて、勝手に告白されて、浮気ってことにされて……

 

 なのにそれが否定できなくて、友達付き合いが億劫になった。

 

 

「あなたは完璧な才能を持ってるけど、少しだけ不器用なのね」

 

 

 一ヶ月で辞めた事務所の社長は、そう笑って送り出してくれた。

 

 「ごめんなさい」という言葉で別れてしまった。

 

 やっと見つけた出来ることは、好きなことじゃなかった。

 

 

 勉強が苦手になった。

 

 やらなくても、評価されちゃうから。

 

 

 本が苦手になった。

 

 駄目な私を、責めてるように思えちゃうから。

 

 

 人が苦手になった。

 

 好かれるより、嫌われる方が怖いから。

 

 

「一人暮らし? いいじゃないか」

 

「だね。せっかく大学生になるんだし」

 

 

 色々噛み合って、たまたま良い大学に受かって。

 

 プラスじゃなくていいから、マイナスじゃないならいいからと、今いる場所をリセットしたくて、一人暮らしを始めた。

 

 何か変わるかと思って髪を染めて、穴を開けるのが怖いピアスの代わりにイヤーカフを着け始めた。

 

 当たり前のように、無意味だった。

 

 空気を読むのが苦手で、気の利いたことも言えなくて、案の定大学生のノリというのが肌に合わなかった。

 

 

「『最近どう? 大学の方は』」

 

「うん、楽しんでるよ、ママ。一人暮らしもね」

 

 

 事務所では「演技」と褒められたけど、嘘吐きなだけ。

 

 心配かけたくないんじゃなくて、心配をかけられる自分が嫌いだから。

 

 多分顔だけで通った深夜のコンビニバイトと散らかってる癖にやたら静かな部屋と、単位を取るためだけの大学の往復。

 

 後は趣味のない自分を誤魔化して、生活に足りてない騒音を補うためのギャンブル。

 

 そんな生活が、数年続いてた。

 

 どこかで見かけた「死んでないだけ」という言葉が、すごく目障りに思えた。

 

 

 

 

 あの日、5限の行政法が終わった脚で、私は街を彷徨っていた。

 

 冷蔵庫に何も無い気がして、買い物も面倒で、適当に済ませたかったから。

 

 かといって歩き回るようなバイタリティもなくて、結局目についた適当な居酒屋の暖簾をかき分けた。

 

 

「お造りと、川海老の唐揚げと……桜えびのお茶漬け。後は……カシスソーダを、とびきり強く」

 

 

 お酒はちょっと好きで、結構嫌い。

 

 美味しいけど、酔わせてくれないから。

 

 案の定、金曜日の店の中は仕事終わりのサラリーマンやらが中心で、同世代はほとんどいない。

 

 まして、年下なんて尚更。

 

 そんなことを考えながら、私は運ばれてきたお造りを1枚ずつ口に運んでいた。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 声に釣られて顔を上げると、珍しい、ある意味場違いなお客さんだった。

 

 あの紺色を基調としたジャンパースカートの制服は、近くの有名なお嬢様校の物。

 

 顔立ちも綺麗で、いかにもお嬢様然としたお淑やかそうな娘。

 

 

「すいません、オススメなんてあったりしますか?」

 

 

 よく響き、心地よく耳に残る声。

 

 珍しいこともあるな、なんて考えながら、私は目の前の皿に意識を戻した。

 

 財布の中が空っぽなことに気がついたのは、それから30分くらい後のことだった。

 

 

「あ、どうしよ」

 

 

 そんな言葉を零し、天井を見上げる。

 

 忘れてた、昨日3万負けたの。

 

 静かに、頭の中だけが少しパニックになって、もう少し考えて、それからスマートフォンを取り出した。

 

 「連絡手段」じゃなくて「人質」として。

 

 こういう風にしないと、自分が逃げそうで怖かったから。

 

 

「取り敢えず、店員さんに話して──」

 

 

 その時丁度、彼女が目に入った。

 

 なんでかは分からない。

 

 でも気付けば、私は彼女の肩を叩いていた。

 

 

「お姉さん、私のスマホ、預かっててもらえませんか?」

 

 

 

 

 それから色々あって、告白と脅迫のハーフみたいなことされて、私は今、こうしてキャバクラで晩ご飯を済ませて、帰り道を歩いている。

 

 

「聞きましたか? 私の話。アベルさんから」

 

「……少しだけ」

 

「なら安心してください。彼女は嘘を吐くような人じゃありませんから」

 

 

 そして少し息を吸い込んでから、カノンちゃんは口を開いた。

 

 

「私はシオンさんに一目惚れしました。少し怖くて、綺麗で、とても可愛くて、そして、すごく……死にそうだったから」

 

「……なんで、それが好きなの?」

 

「「好きに理由はいらない」……なんて、陳腐な答えは言いません。ちゃんとした人は、少ししか頼ってくれない。死んだ人は、もう頼ってくれない。なら……「壊れかけ」が、一番私に依存してくれるでしょう?」

 

 

 カノンちゃんは、すごく聞き取りやすくて、リラックスできる声をしてる。

 

 すごく愛らしくて、親しみやすい顔をしてる。

 

 すごく優しくて、安心できる雰囲気をまとってる。

 

 

「もう一度言いますね──」

 

 

 だから、それを拒めないのは当たり前だ、って。

 

 自分に、そう言い聞かせる。

 

 

「──シオンさん、私と一緒になりませんか?」

 

 

 私は彼女の差し出した手に、抗えなかった。




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