「3ヶ月くらい前でしょうか。確か、季節外れに寒い日だった」
やっぱり彼女の趣味には合わない気がする、そんな豪勢で小綺麗なお風呂場。
東京の街並みを見下す窓ガラスの曇りを指でなぞりながら、カノンちゃんは教えてくれた。
「女子高生が2人、仲良く飛び降りたんです。位置的には──丁度、ここから」
「……あ、そのニュース……」
「全国区になりましたけど、凄く奇妙な話でした。人もテレビも新聞も、口々に言ったんです。「死ぬ理由が無い」、と」
覚えてる。
インタビューでは被害者2人の同級生が凄く困惑して、混乱してた。
才色兼備な委員長と転校生の美少女。
いつも一緒にいる人気者で、2人ともクラスの中心だったそうだ。
「少し伝手を使いましたが、彼らは何も偽っていませんし、何か意図的なものもありません。家庭環境、金銭トラブル、成績不振、痴情のもつれ……そういったものも何一つ」
「じゃあなんで……」
「そう考えると答えは出てこない。なら逆に考えてみませんか? 彼女達は、
「……心中?」
「そういうことです。彼女達はきっと、お互い以外がどうでもよくなるくらいに相思相愛に陥ってしまった。なら、心中は一番手っ取り早い手段であり、最良の目的に成り果てます。だって、老いることも引き裂かれることもなく、最も高い地点で人生を終えられるんですから。里風ミレイさんに、美月イヴさん。彼女達が永遠であることを祈っています」
「名前……どっかで、出てましたっけ」
「いえ。でも覚えておかないと悼むことも出来ないでしょう? 死ぬことを肯定するつもりはないですけど、人の恋路を蔑ろにするほど、私も野暮じゃありませんし」
そして彼女の視線はガラスの反射越しに私を見る。
顔に出てたのか、カノンちゃんは「あっ」と少し驚いたような顔をしてから、いくつかの補足を入れた。
「大丈夫ですよ。私はシオンさんと死にたいとも、それが最良だとも思ってません。それに、この事件についても私は何も関わってない、ただの部外者です」
「じゃあ、名前は……」
「自分で調べました。彼女達について、知りたかったので」
その表情は確かに哀悼の意志はあれど、まるで好きな小説を語る年頃の女の子のようだった。
いや、実際カノンちゃんが年頃の女の子なのは分かっているんだけど。
それでも、私は頭のどこかでカノンちゃんを
「まあ、それでこの部屋を契約してた人も怖気付いて手放しちゃったので、せっかくだから私が住んでるんです。趣味はあんまりですけど、住み心地はいいんですよ。それに、幽霊も出ませんし」
「おばけ、苦手なんですか?」
「いえ、別に。でも幽霊が出ないってことは、彼女達はこの世に未練がない、ちゃんと幸せになれたってことじゃないですか。それって……すごく、素敵だから」
「……うん。私もそう思う」
無垢に笑うカノンちゃんに、私はそう頷いた。
そんな顔が見れて、嬉しいと思ってしまった。