私は、死にそうなあなたが好き。   作:あるふぁせんとーり

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第6話/氷室シオン

「可愛い寝相。猫か、赤ん坊みたい」

 

 

 朝、10時半。

 

 いつもの癖で頭の上に被せていた枕が取られ、明るくなった視界に彼女の瞳が覗き込む。

 

 私は身体を起こし、ゆっくりと背を伸ばした。

 

 

「……おはよ、カノンちゃん」

 

「はい、おはようございます」

 

 

 笑いながら応えたカノンちゃんは既にメイクも済ませ、制服に着替えている。

 

 一瞬、「早いなぁ」、なんて考えて、すぐに自分が遅れていることに気が付き、また少し嫌になった。

 

 

「シオンさん、すごく薄着で寝ちゃったから。風邪、引いてませんか?」

 

「ううん、大丈夫。こう見えて……っていうのも変だけど、昔から、病気だけはしないから」

 

「そう。それなら何よりです」

 

 

 穏やかなまま、この2日間で見たデフォルトのまま、カノンちゃんは頷く。

 

 それを見て、私は少しほっとした。

 

 「健康(それ)」は、彼女の興味を損なっちゃうんじゃないかって思ったから。

 

 そうじゃなくて、嬉しかった。

 

 

「せっかくだし、今日は買い物でも行きませんか? せっかくシオンさんが来てくれたんだし、家具とか食器とか家電とか、全部買い換えちゃいたいんです」

 

「いいけど……なんで?」

 

「今のままじゃ、「私が使ってた」部屋にシオンさんがいるだけ。それじゃあ、ちょっと味気無い。だから、「私が使ってた」じゃなくて、「2人で使う」部屋にしたくて」

 

 

 言い終えたカノンちゃんは一瞬の間を挟んで、「……あ、お金は全部私が出しますから」と少し慌てて訂正する。

 

 「ありがとう」って言葉が口をついて出た。

 

 

「……ところで、今日って日曜だけど。カノンちゃん、なんで制服なの?」

 

「ああ、これは……こっちの方が、楽なので。誰かと遊びに行くようなこともないですし」

 

「そっか。……だったら、服も買いに行かない? 私で良かったら、選ぶからさ」

 

「シオンさんが、私に? ……ぜひ、お願いします」

 

 

 私の言葉に、カノンちゃんは欲しかった笑顔をくれた。

 

 早く出かけたくて、私は旅行カバンに収まった私物の中から適当に組み合わせた。

 

 

 

 

「────!」

 

「────、────!? ────!」

 

「────、────────!!」

 

 

 久々、本当に数年ぶりに訪れたショッピングモールというものは賑やかで、うるさくて、やかましくて、うんざりしそうで……自分がどんな人間なのかを、これでもかと思い知らせてくる。

 

 多分、カノンちゃんがいなかったら、今後一生来ることはなかったんだろうな。

 

 

「あれ、もうお疲れですか?」

 

「疲れたっていうよりは……嫌になる、感じかな」

 

「それは他の人が? それとも……そう感じる、自分が? ……ふふっ、冗談です。だってシオンさんは、私に付き合ってくれてるんですから」

 

 

 極々自然に指を絡めながら、緩やかだけど迷いのない足取りで進むカノンちゃん。

 

 少し小さなこの手を握ってるだけで、誰かの視線を気にしなくてもいいような気がした。

 

 

「どこから見ますか? 日用品か、家具か、家電か……あ、全部部屋まで送らせるので、荷物は増えませんよ」

 

「私だったら……家電、かな。それに合わせて家具選んで、最後に日用品って感じで……服は、その後でもいい?」

 

「はい。楽しみは最後までとっておくタイプなので、私」

 

 

 そうと決まったら、カノンちゃんはトントン拍子で全部進めていった。

 

 2人で選んで、ピンと来たのがあったらそれ。

 

 なかったら、取り敢えず一番いいものを。

 

 数十万、あるいは数百万なんて買い物を、彼女はまるでコンビニでお昼でも買うかのように、パッとスマホをかざして終わらせた。

 

 

「こればっかりは、現金だと不便ですから」

 

 

 そんな風に笑いながら、支払うのは全部カノンちゃんなのに、彼女は子供がお菓子を紛れ込ませるように数万円のゲーム機を紛れ込ませ、少しいいご飯を食べるみたいな調子で気軽にハイエンドへと引き上げる。

 

 金銭感覚が真っ向から違うんだろうな、とか考えてたら、ペットボトルの自販機がまた値上がりしたと零していたり、ちゃんと学生らしい感覚もあるみたいで、そこが少し不思議だけど、すごく彼女らしかった。

 

 

「ふふっ、いい買い物でした。お昼のお寿司も美味しかったですし」

 

「そうだね。……回らないの、久々に食べたな」

 

「それじゃあ、用事も全て終わったことですし……コーディネート、お願いしますね?」

 

 

 こっちを見上げる期待に満ちた彼女の瞳に、私は少し緊張した。

 

 あの時の付け焼き刃で彼女を満足させられるか、喜んでもらえるか、あの笑顔を、私に向けてもらえるか。

 

 

「また緊張してる」

 

 

 私の首元に指を添えて、カノンちゃんは言った。

 

 

「大丈夫ですよ。シオンさんが選んでくれたもの、シオンさんの好きなものなら──私も、好きになれますから」

 

「……応えられる、かな」

 

「……あ、でも、これだけはお願いします。「お揃いは嫌だ」、と」

 

「えっと、それって……」

 

「だってそうでしょう? たとえ欠けてたとしても、違う欠け方をしてるから、私達は埋め合うことが出来るんです。だから私は、私と違うシオンさんが好きだし、シオンさんと違う私が好き。……期待、してますね?」

 

 

 ああ、意地悪だ、カノンちゃんは。

 

 こうして笑って、全ての主導権を持った上で、少しだけ、こっちに渡してくる。

 

 それでお互い様っていう顔をして……

 

 それで、私のやることを決めてくれる。

 

 きっと、これからも、全部。

 

 たった2日の付き合いで、私は今、全てを彼女に差し出したくなっている。

 

 そんな自分を肯定しながら、私は最寄りのブティックへ、カノンちゃんの手を引いていった。

 

 

「そう言えばシオンさん、いくつくらいですか? 身長」

 

「177。前測った時、だけど」

 

「私が155だから……だいたい20cm差。クラスの子が聞いたら、多分キャーキャー言いますよ」

 

「そう……なのかな」

 

 

 カッコつけて、決めきれなくて、山のように買ってもらったのは、ここだけの話。

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