四駆八駆の沼荒野からセカンディルへ戻る道中、えびす天丼は歩きながら何度もインベントリを開いては閉じるという動作を繰り返し、手に入れた素材の並びと性質を頭の中で何度も組み替え続けていた。灰色鉄鉱は量があり骨格として扱いやすく、銀色鉄鉱は魔力強靭という特性からして武器の出力そのものに関わる補強材として機能する可能性が高く、さらに沼棺の化石という異質な素材は説明からして通常の鉱石とは違う挙動を持つことが想像できるため、そこにリバースラッシャーの牙と濁流の魔核を組み合わせれば、単純な数値の更新ではなく武器の性質そのものを変えることができるのではないかという確信に近い感覚があった。
「……今の延長は、いらないな」
そう呟きながら思い出すのは、これまで使ってきた短弓の感触であり、軽く扱いやすいという利点は確かにあったものの、釣りでも戦闘でも“あと一歩届かない”場面が増えていたことをはっきりと自覚していたため、ここで選ぶべきは安定ではなく変化であると自然に結論が出る。
「……どうせやるなら、変えるか」
そう決めると足取りに迷いはなくなり、そのままセカンディルの武器屋へと向かい、扉を押して中へ入ると、店の奥で作業をしていた店主が顔を上げてこちらを見る。
「いらっしゃい、今日は何だ?」
「弓作りたい、素材はある」
そう言ってインベントリから素材を取り出して並べると、店主はそれを一つひとつ手に取りながら重さや質感を確かめるようにして目を細め、やがて小さく息を吐くように口元を緩める。
「……お、いいもん持ってきたな」
「何作れそう?」
そう返すと、店主は軽く頷きながら顎で前を示し、視界に表示が展開される。
【作成可能武器】
・沼棲みの短弓
・濁流強化弓
・魔核共鳴弓
表示された三つの選択肢を見ながら、えびす天丼は腕を軽く組み、その場で即決するのではなく一度情報を整理することを選ぶ。どれも素材の組み合わせ的に意味があるのは分かるが、ここで選ぶ方向によって今後の戦い方が変わることを理解しているため、軽く流すわけにはいかない。
「ざっくりでいい、違いは?」
そう聞くと、店主は一つずつ指でなぞるようにしながら説明を始める。
「沼棲みの短弓は軽さ重視で取り回しがいい、今の弓の上位って感じで安定して使えるが、火力はそこまで伸びない」
「今の延長か」
「そうだな」
次に視線を移す。
「濁流強化弓は攻撃寄りだ、水の流れに乗るような貫通が乗るから中型以上には効くが、その分扱いが少し難しくなる」
「火力型か」
「そんな感じだ」
そして最後に店主は少しだけ間を置く。
「魔核共鳴弓は一番火力が出るが、扱う側の精度に依存する、引きと放つタイミングで威力が変わるタイプだ」
「……操作で変わるやつか」
「合えば強い」
そこまで聞いた時点で、えびす天丼の中では答えはほぼ決まっていた。安定を取る理由は今の段階では薄く、濁流強化弓も魅力的ではあるが、それはあくまで“強い武器”の範囲に収まる。
「……それなら」
視線を上げる。
「魔核共鳴弓でいい」
店主がわずかに口元を上げる。
「迷わねぇな」
「どうせやるならな」
「いいだろう、調整は少し時間もらうぞ」
「どれくらい?」
「今日中には仕上げる」
「分かった、待つ」
そう言って素材を預けると、えびす天丼は店内の壁に掛けられた武器や弓を見ながら時間を潰す。並んでいる弓はどれも形状や張りの違いがあり、それぞれに用途があることが分かるが、その中でも今回作る弓は明らかに別枠であることが分かる。
「……癖強そうだな」
小さく呟きながら、自分がそれを扱えるかどうかを考えるが、不安よりも楽しさの方が先に来る。
しばらくして、店主が奥から戻ってくる。
「できたぞ」
差し出された弓を受け取る。
【魔核共鳴弓】
見た目はこれまでの短弓よりもやや長く、中央に埋め込まれた核が淡く光っており、全体として鈍い銀色の質感を持っている。
「どう?」
そう軽く聞くと、店主は腕を組んで頷く。
「形にはなってる、あとはお前次第だ」
「まぁそうなるよな」
弓を持ったまま外へ出る。
街の外れにある空き地へと移動し、周囲に人がいないことを確認してからゆっくりと弓を構える。
矢をつがえる。
引く。
その瞬間、これまでの弓とは明らかに違う感覚が手に伝わる。
「……溜まるな」
張った分だけ力が積み上がっていく。
どこで放つかで結果が変わるのが分かる。
「……試すか」
狙う。
放つ。
矢が飛ぶ。
これまでより速い。
深く刺さる。
「……強いな」
もう一度つがえる。
今度は少し浅く引く。
放つ。
威力が落ちる。
「……分かりやすいな」
つまり操作次第。
「……面白いじゃん」
思わず口元が緩む。
最大まで引く。
呼吸を整える。
放つ。
矢が空気を裂く音が変わる。
着弾。
深く突き刺さる。
「……これ、当たりだな」
そう呟きながら弓を下ろすと、その重みがただの装備更新ではないことを実感させる。
「……これなら、次いけるな」
弓を背に収める。
次にやることは決まっている。
この武器を実戦で使うこと。
「……試しに行くか」
そう言って、えびす天丼は街の外へと歩き出した。