神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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一週間

気づけば、一週間が経っていた。

 

「……もう一週間か」

 

ファステイアの外、いつもの川辺。

 

最初に来たときと同じ場所に座り込んで、竿を垂らす。

 

水面は静かだ。

でも、その静けさにも慣れてきた。

 

――最初の日は、何も分からなかった。

 

釣り竿を買って、川に来て、魚を一匹釣って。

それだけで終わった。

 

でも、二日目からは少し違った。

 

餌を変えると釣れる魚が変わること。

時間帯で反応が違うこと。

場所によって、かかる魚の種類が違うこと。

 

「……意外とちゃんとしてるな」

 

誰に言うでもなく、呟く。

 

三日目には、採取も少し広げた。

 

川沿いの草。

少し離れた場所の低木。

岩場の近くの鉱石っぽいもの。

 

【雑草】【薬草】【小石】【粗い鉱片】

 

少しずつ、拾えるものが増えていく。

 

四日目には、街で売ることも覚えた。

 

「……これ、地味にいいな」

 

小型魚をまとめて売ると、それなりの金額になる。

採取素材も、数を揃えればちゃんと価値になる。

 

戦わなくても、金は増える。

 

それでいい。

 

五日目。

 

調理の回数も増えた。

 

焼き魚だけじゃなく、簡単な組み合わせも試す。

 

【焼き魚】

【簡易スープ】

 

「……ちゃんと変わるな」

 

効果は大したことない。

でも、確実に“できること”は増えている。

 

六日目。

 

少しだけ、行動範囲を広げた。

 

川から少し離れた場所まで行ってみる。

途中でモンスターを見かけるが、距離を取れば問題ない。

 

弓も使っていない。

 

「……ああいうのは、まだいいか」

 

無理に関わる必要はない。

 

そして七日目。

 

「……まあ、こんなもんか」

 

インベントリを開く。

 

【小型魚×12】

【薬草×9】

【雑草×14】

【粗い鉱片×5】

 

所持金も、最初よりは増えている。

 

「……悪くない」

 

戦闘は、一度もしていない。

 

でも、困ってもいない。

 

川に視線を戻す。

 

糸を垂らす。

 

水面が静かに揺れる。

 

遠くで戦闘音が響く。

派手な光が、空に散る。

 

たぶん、あいつは今もどこかで戦っている。

 

強い敵と、正面から。

 

「……すごいな」

 

素直にそう思う。

 

でも、自分は違う。

 

竿に伝わる、わずかな違和感。

 

タイミングを合わせて、引く。

 

――釣り上げ成功。

 

【中型魚×1 入手】

 

「……お」

 

少しだけ、嬉しい。

 

最初の一匹よりも、ちゃんと分かる。

 

「ああ、今のはデカかったな」

 

誰に言うでもなく、呟く。

 

こういうのがいい。

 

少しずつ分かっていく感じ。

できることが増えていく感じ。

 

急がなくていい。

戦わなくていい。

 

それでも、このゲームはちゃんと面白い。

 

川の流れを見ながら、もう一度竿を握る。

 

「……もう少しやるか」

 

ファステイアでの一週間は、そんな風に過ぎていった。

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