湖喰いのルミナスガルを釣り上げたあと、えびす天丼は湖畔へ腰を下ろしながら巨大な魚体を改めて見上げつつ、これまで釣ってきた魚とは明らかに違う存在感を放つその姿に視線を向けていたが、淡く発光する鱗と鋭く並んだ牙は“魚”というよりモンスターとしての異質さを強く感じさせ、ネームドモンスターという表示が出た理由も自然と納得できるものだった。
「……いや、ほんとにでかいなこれ」
そう呟きながらロッドを地面へ置き、インベントリを開いて魚を確認しようとした瞬間、ルミナスガルの身体がわずかに動く。
「……ん?」
次の瞬間。
湖畔へ叩きつけられていた巨大な尾が地面を強く打ち、水しぶきと土を巻き上げながらルミナスガルが勢いよく跳ね上がる。
「うわっ!?」
反射的に後ろへ飛び退く。
その直後、さっきまでえびす天丼がいた場所へ鋭い牙が突き刺さる。
「……ちょ、まだ終わってなかったのかよ!?」
ルミナスガルは完全に沈黙していたわけではなかった。
むしろ、釣り上げられた直後からまだ暴れる力を残していたらしく、湖畔へ半身を乗り上げたまま鋭い眼でこちらを睨みつけてくる。
その瞬間、視界の端へ新たな表示が現れる。
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【ネームドモンスター《湖喰いのルミナスガル》との戦闘が開始されました】
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「……いや、釣ったあと戦うのかこれ!?」
思わず声が漏れる。
だが驚いている暇はない。
ルミナスガルはそのまま身体を大きく捻り、巨大な尾で地面ごと薙ぎ払うように攻撃を仕掛けてくる。
「っ……!」
咄嗟に横へ転がる。
直後、尾が地面を抉り、湿った土と石が吹き飛ぶ。
「……普通に強いな!?」
急いで立ち上がりながら短剣を抜く。
釣り用装備しかしていない。
重装備でもなければ高火力武器もない。
だが逃げ場もない。
湖畔は狭く、背後は湖。
「……やるしかない、か」
ルミナスガルが再び突っ込んでくる。
速い。
巨大な魚体とは思えない速度で地面を滑るように移動し、そのまま鋭い牙で噛みつこうとしてくる。
「……そっちは危ないって!」
横へ飛んで回避。
牙が白い岩を噛み砕く。
そのまま短剣を振り抜き、横を通り過ぎたルミナスガルの胴体へ斬りつける。
金属を擦るような音。
硬い。
「……鱗、かなり硬いなこれ……!」
完全に通らないわけではない。
だが浅い。
ルミナスガルはすぐに方向を変え、水を撒き散らしながら再び突っ込んでくる。
「……落ち着け、動き見ろ」
焦るな。
相手は速い。
だが一直線に来ることが多い。
そう考えながら動きを観察していると、ルミナスガルが身体を低く沈める。
次の瞬間。
水弾が飛ぶ。
「っ!?」
反射的に腕で庇う。
衝撃。
ただの水じゃない。
弾丸みたいな勢いで飛んできた水が肩を打ち、体勢が崩れる。
「……水まで飛ばしてくるのかよ……!」
距離を取る。
ルミナスガルが湖へ半身を戻す。
その動きを見た瞬間、えびす天丼は小さく眉を寄せる。
「……水の中の方が動き速いな」
湖に近いほど相手の動きが良くなる。
なら、岸側へ引っ張る必要がある。
そう考えた瞬間、ルミナスガルが再び突っ込んでくる。
今度は真正面。
「……来るよな、やっぱり!」
引きつける。
ギリギリまで待つ。
そして飛び込んできた瞬間、横へ滑り込むように回避しながら短剣を振る。
狙うのは鱗ではない。
口元。
柔らかそうな部分。
刃が牙の隙間へ入り込み、ルミナスガルが大きく身体を震わせる。
「……やっぱりそこか!」
そのまま距離を取る。
ルミナスガルが怒ったように暴れ、水しぶきが周囲へ飛び散る。
だが分かった。
硬い鱗より、口元や腹側の方が通る。
「……なら、やりようあるな」
呼吸を整える。
ルミナスガルが再び突っ込んでくる。
速い。
だが慣れてきた。
動きが単調というわけではない。
それでも、勢い任せに飛び込んでくる瞬間だけは変わらない。
避ける。
斬る。
距離を取る。
再び来る。
水弾。
回避。
少しずつ削る。
時間はかかる。
だが確実にダメージは入っている。
ルミナスガルの動きが徐々に荒くなる。
「……そろそろ、か?」
次の突進。
えびす天丼はギリギリまで引きつけ、真正面から踏み込む。
「……これで終わってくれよ!」
噛みつきに合わせるように身体を捻り、そのまま口元へ短剣を突き込む。
ルミナスガルの身体が大きく跳ねる。
暴れる。
だが、次の瞬間。
力が抜けたように動きが止まり、その巨体が湖畔へ崩れ落ちる。
静かになる。
水音だけが残る。
しばらくその場で息を切らしながら立ち尽くき、えびす天丼はようやくロッドと短剣を下ろす。
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【ネームドモンスター《湖喰いのルミナスガル》を討伐しました】
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「……いや、釣ったあとに戦闘あるのは聞いてないって……」
そう言いながらその場へ座り込み、大きく息を吐く。
腕が重い。
肩も痛い。
だが、それ以上に妙な達成感が残っていた。
釣りだけじゃ終わらない。
戦闘だけでもない。
このゲームは、本当に色んな要素が繋がっている。
「……でも、これはちょっと面白いな」
そう呟きながら湖を見上げると、静かな水面は何事もなかったかのように淡い光を揺らしていた。