神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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兎の国

湖畔へ表示されたユニークシナリオのウィンドウを見つめながら、えびす天丼はしばらく無言のまま考え込んでいたが、《ユニークシナリオ》という単語の時点で普通のイベントではないことは明らかで、しかも“条件を満たしました”という表示からして偶然ではなく、自分の行動によって発生したシナリオであることも理解できる。

 

普通なら少し警戒する場面だった。

 

だが、不思議と嫌な感じはしない。

 

むしろ、この湖を見つけてからの流れが全部ここへ繋がっていたような感覚すらある。

 

「……まぁ、ここで断るのももったいないよな」

 

そう呟きながらYESへ触れる。

 

次の瞬間。

 

湖面が淡く発光する。

 

静かだった湖へ光の波紋が広がり、その中心から青白い光が立ち上がっていく。

 

「おおっ!」

 

エミィルが嬉しそうに耳を跳ねさせる。

 

「開きましたわ!」

 

「……いや、開いたって何が?」

 

そう聞いた直後、湖面の中央に巨大な円形の光が浮かび上がる。

 

門だった。

 

水面そのものが変質したように揺れ、青白い光の奥にどこか別の景色が見えている。

 

「……これ、入るのか?」

 

「もちろんですわ!」

 

エミィルは躊躇なくぴょんっと飛び込み、そのまま光の中へ消えていく。

 

「……ほんと勢いで行くなこの兎」

 

苦笑しながらも、ここまで来て止まる理由もない。

 

えびす天丼は弓を背負い直し、軽く深呼吸してから光の門へ足を踏み入れる。

 

視界が白く染まる。

 

身体が浮くような感覚。

 

次の瞬間。

 

ふわり、と草の匂いが鼻を抜ける。

 

「……うわ」

 

目を開けたえびす天丼は思わず足を止める。

 

そこに広がっていたのは、これまでいた樹海窟とはまるで違う景色だった。

 

巨大な草原。

 

色鮮やかな花畑。

 

そして、遠くに見える無数の建物。

 

だが、その建物は普通ではない。

 

切り株の中。

 

巨大な木の幹。

 

土の丘。

 

自然そのものを利用するように作られており、その周囲を大量のヴォーパルバニーたちが走り回っている。

 

「……いや、思ったよりちゃんと国だな」

 

そう漏らしながら周囲を見回す。

 

視界のどこを見ても兎だらけだった。

 

荷物を運んでいる兎。

 

畑を耕している兎。

 

鍋を持って走っている兎。

 

しかも全員、普通のモンスターとは違って服を着ている。

 

「ようこそですわ!」

 

エミィルが得意げに胸を張る。

 

「ここが《兎の国》ですの!」

 

「……すごいな、ほんとに文化圏あるんだなここ」

 

そう呟いていると、近くを通ったヴォーパルバニーたちがえびす天丼へ視線を向け始める。

 

「人族ですわ!」

 

「しかもエミィル様と一緒ですの!」

 

「招待されたんですの!?」

 

ざわざわし始める兎たち。

 

完全に注目されている。

 

「……なんかめちゃくちゃ見られてるな」

 

「当然ですわ!」

 

エミィルが耳をぴんっと立てる。

 

「人族がここへ来るなんて滅多にありませんもの!」

 

そのまま歩いていくと、草原の奥に他より一回り大きな建物が見えてくる。

 

巨大な白樹をそのまま利用したような建造物で、入口周辺には鎧を着たヴォーパルバニーたちまで立っている。

 

「……城、みたいな感じか?」

 

「その通りですわ!」

 

エミィルはぴょんぴょん跳ねながら入口へ向かう。

 

衛兵らしきヴォーパルバニーたちが敬礼するように耳を下げ、そのまま道を開ける。

 

「料理番エミィル様、ご帰還ですわ!」

 

「お客様を連れてきましたの!」

 

そのまま中へ入る。

 

内部は外以上に異様だった。

 

豪華なのだ。

 

木造を基調にしているのに作り込みが細かく、長い絨毯や装飾品まで並んでいる。

 

「……いや、想像以上だなこれ」

 

そう呟きながら奥へ進んでいくと、大きな扉の前でエミィルが立ち止まる。

 

「カシラがお待ちですわ!」

 

「……カシラ?」

 

「この国の長ですの!」

 

そう言った直後、重々しい音と共に扉が開く。

 

その先にいたのは、一匹の巨大なヴォーパルバニーだった。

 

真っ白な毛並み。

 

長く伸びた耳。

 

そして、普通のヴォーパルバニーとは比較にならない圧倒的な存在感。

 

玉座へ座っていた巨大なヴォーパルバニーが、ゆっくりとえびす天丼へ視線を向ける。

 

しばらく無言のまま見つめたあと、その巨大なヴォーパルバニーは低く笑った。

 

「ほう……」

 

静かな声なのに、妙に響く。

 

「我が名はヴァイスアッシュ」

 

「ヴォーパルバニーの長にして、《兎の国》を束ねる者よ」

 

その視線が真っ直ぐえびす天丼へ向く。

 

「貴様が、湖の主を釣り上げた人族か」

 

「……どうも」

 

思わず軽く頭を下げる。

 

ヴァイスアッシュはしばらくえびす天丼を見つめたあと、小さく目を細める。

 

「しかも、ただ釣っただけではないそうだな」

 

その瞬間、エミィルがぴょんっと前へ飛び出す。

 

「カシラ! この方、ただルミナスガルを釣っただけじゃありませんの!」

 

耳をぴんっと立てながら、エミィルは興奮した様子で話し始める。

 

「ちゃんと実力で釣り上げて、そのあと暴れたルミナスガルとも戦って勝ったんですの!」

 

「しかもその場で解体して、火入れまでしてましたわ!」

 

「焼き加減も良かったんですのよ!? 素材の味をちゃんと活かしてて――」

 

「エミィル、落ち着け」

 

「落ち着いてられませんわ!」

 

周囲のヴォーパルバニーたちがざわつき始める。

 

「主を料理したんですの!?」

 

「しかもその場で!?」

 

「すごいですわ……!」

 

「ヴォーパル魂を感じますわ……!」

 

「……ヴォーパル魂って何?」

 

思わずそう漏れる。

 

ヴァイスアッシュは楽しそうに鼻を鳴らした。

 

「獲物を狩り、食らい、糧とする」

 

「それを恐れず、敬意を持って扱う者こそ、我らヴォーパルに通じる魂を持つ」

 

「……いや、そんな大層な感じじゃないんだけどな」

 

「謙遜するな、人族」

 

ヴァイスアッシュがゆっくり立ち上がる。

 

その瞬間、空気が変わる。

 

近くで見ると、普通のヴォーパルバニーとは比較にならない圧がある。

 

「湖喰いのルミナスガルは、ただの魚ではない」

 

「それを実力で釣り上げ、討伐し、さらに料理までした」

 

「その胆力、技量、そして食への姿勢――見事であった」

 

そう言われ、えびす天丼は思わず苦笑する。

 

「……まぁ、せっかく取れたならちゃんと食べたかっただけなんだけどな」

 

その言葉を聞いた瞬間、周囲のヴォーパルバニーたちがさらにざわつく。

 

「食への姿勢が高いですわ……!」

 

「やはりヴォーパル魂……!」

 

「いや、そこまで言われると逆に恥ずかしいな……」

 

そう返すえびす天丼を見ながら、ヴァイスアッシュは満足そうに笑った。

 

「貴様は既に、《兎の国》へ招かれる資格を得ている」

 

その瞬間、視界の端へ新たな表示が現れる。

 

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【ユニークシナリオ《兎の国からの招待》が進行しました】

 

【新たな交流先《兎の国》が解放されました】

 

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