神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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鳥面と料理番

《兎の国》の厨房で料理修行を始めてからしばらく経ち、えびす天丼は大量の食材と格闘しながらエミィルの指示を受け続けていたが、最初は勢いだけで押し切ってくるタイプだと思っていたエミィルは、料理に関してだけは驚くほど細かく、火加減や切り方、素材ごとの扱い方まで徹底的に見てくるため、気づけばこちらもかなり真面目に取り組まされていた。

 

「そこですわ!」

 

「今ちょっと火が強かったですの!」

 

「……いや、分かってても難しいなこれ」

 

そう言いながら鍋の火加減を調整する。

 

魚を焼く時とは違う。

 

複数の素材を同時に扱うと、どこへ熱を入れるかで仕上がりがかなり変わる。

 

しかも、エミィルはその変化を全部見ている。

 

「香草入れるのがちょっと早いですわね」

 

「うわ、そこも見てるのか」

 

「当然ですわ!」

 

耳をぴんっと立てながら、エミィルは得意げに胸を張る。

 

「料理は流れが大事なんですの!」

 

「……なんか、だんだん言ってること分かってきたのが悔しいな」

 

最初はただの料理ミニゲームみたいな感覚だった。

 

だが実際にやってみると、火の通り方や素材の状態が細かく変化しており、雑にやるとちゃんと失敗する。

 

逆に、丁寧に調整すると明確に結果が良くなる。

 

その感覚が妙に面白い。

 

「……これ、意外と奥深いんだな」

 

「ふふん、やっと分かってきましたわね!」

 

エミィルが満足そうに耳を揺らす。

 

そのまま次の料理へ取りかかろうとした瞬間だった。

 

食堂側の入口が勢いよく開く。

 

「腹減ったですわー!」

 

元気な声が響く。

 

「エムル、お前さっき肉食っただろ……」

 

続いて聞こえた声に、えびす天丼の手が止まる。

 

聞き覚えがある。

 

というより、毎日のようにVCで聞いている声だった。

 

「……え?」

 

思わず入口を見る。

 

そこへ入ってきたのは、一人のプレイヤーだった。

 

入口へ入ってきた鳥面のプレイヤーを見た瞬間、えびす天丼は思わず動きを止める。

 

写真やスクショでは見たことがあった。

 

だが、実際に動いているところを見ると想像以上だった。

 

ほぼ半裸みたいな装備。

 

異様な鳥面。

 

しかもその格好で普通にヴォーパルバニーと並んで歩いている。

 

「……いや、実物だとだいぶヤバいなその格好」

 

思わずそう漏れる。

 

その瞬間、鳥面がぴたりと止まった。

 

ゆっくりとこちらを見る。

 

数秒の沈黙。

 

「……お前、なんで兎の国いるんだよ」

 

鳥面の奥から、呆れた声が飛んでくる。

 

「それ、こっちのセリフなんだけど」

 

えびす天丼も思わず返す。

 

厨房のヴォーパルバニーたちが不思議そうに二人を見る。

 

「お知り合いですの?」

 

エミィルが首を傾げる。

 

「まぁ、ちょっとな……」

 

サンラクが鳥面のまま頭を押さえる。

 

「いや俺はエムル経由で普通に来てるけど、お前なんで兎の国入ってんの!?」

 

「なんかユニークシナリオ出た」

 

「は???」

 

鳥面越しでも分かるくらい反応が大きい。

 

「お前もうユニーク踏んだの!?」

 

「いや、俺もよく分かってないんだけど……」

 

そう返した瞬間、エミィルがぴょんっと飛び出す。

 

「この方、ルミナスガルを釣り上げて、そのあと討伐して料理したんですの!」

 

「…………は?」

 

サンラクの動きが止まる。

 

「いや待て待て待て」

 

鳥面の奥から真面目な声が出る。

 

「何の話?」

 

「湖の主ですわ!」

 

「いや知らん!」

 

「樹海窟の奥にいたんですの!」

 

「そんなのいたの!?」

 

明らかに知らない反応だった。

 

えびす天丼が逆に驚く。

 

「え、知らないのか?」

 

「知らねぇよ!?」

 

サンラクが頭を抱える。

 

「お前俺より先に変なの見つけるなよ!?」

 

「いや、たまたま探索してたら見つけたんだって」

 

「しかもネームド討伐までしてるじゃねぇか!」

 

「なんか釣ったあと戦闘始まった」

 

「意味分かんねぇって!」

 

その勢いのままサンラクが鍋を見る。

 

「……で、今何してんの?」

 

「料理修行」

 

「なんで?」

 

「エミィルに捕まった」

 

「捕まえてませんわ!」

 

エミィルが耳を立てる。

 

「立派な修行ですの!」

 

「いやでも結構本格的なんだよなこれ……」

 

そう返しながら鍋を見る。

 

話している間にも火は進む。

 

香草の匂いが立ち始め、スープの表面が少し揺れる。

 

「あっ」

 

「む?」

 

エミィルが耳を跳ねさせる。

 

「サンラクサンと喋ってて火加減見てませんでしたわね?」

 

「……やば」

 

慌てて鍋へ戻るえびす天丼。

 

その様子を見て、サンラクが吹き出す。

 

「何やってんだお前……」

 

「いや、お前が急にいるからだろ!」

 

「俺もお前がここいると思わねぇよ!」

 

そんな二人のやり取りを見ながら、エムルとエミィルは揃って楽しそうに笑っていた。

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