神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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攻略組と寄り道勢

《兎の国》の食堂で騒ぎながら食事を終えたあと、えびす天丼とサンラクは厨房の隅にある長椅子へ並んで腰を下ろしていたが、周囲では相変わらずヴォーパルバニーたちが忙しそうに走り回っており、皿の運ばれる音や料理の匂いが絶えず流れているせいで、不思議と会話しやすい空気ができていた。

 

「……いやでも、マジでびっくりしたわ」

 

サンラクが机へ肘をつきながらそう漏らす。

 

「まさかお前が兎の国まで来てるとは思わねぇって」

 

「それはこっちも同じなんだけど」

 

えびす天丼も苦笑しながら返す。

 

「ていうか、普通にNPCと馴染みすぎじゃないか?」

 

「まぁ、色々あってな……」

 

サンラクの背中では、エムルが満足そうに腹を撫でていた。

 

「むふー……食べましたわぁ……」

 

「お前ほんとずっと食ってるな」

 

「ヴォーパルは燃費悪いんですわ!」

 

「それ絶対言い訳だろ」

 

そんなやり取りを聞きながら、えびす天丼は少し笑う。

 

高校でも普通に話していた。

 

休み時間にだらっと話したり、帰り道でゲームの話題になることもあった。

 

だから声を聞けばすぐ分かる。

 

だが、こうしてゲーム内で実際に会うと妙に感覚が違う。

 

特にサンラクは見た目のインパクトが強すぎて、声を聞いても一瞬脳が追いつかない。

 

「……その鳥面、やっぱり慣れないな」

 

「お前まだ言う?」

 

「いや、写真で見るのと動いてるのとでだいぶ違うって」

 

「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

「どこをどう変換したらそうなるんだよ」

 

サンラクが笑う。

 

そのあと、ふと真面目な声になる。

 

「で、お前今どこまで進んでんの?」

 

「あー……」

 

えびす天丼は少し考える。

 

進行度だけで言えば、そこまで先へ進んでいるわけではない。

 

街を回って、釣りをして、料理して、寄り道して。

 

むしろ寄り道の割合の方が圧倒的に多い。

 

「サードレマ着いて、樹海窟探索してたら湖見つけて、そのまま今」

 

「寄り道の密度おかしくない?」

 

「俺もそう思う」

 

苦笑しながら返す。

 

するとサンラクが椅子へ深く座り直す。

 

「まぁでも、お前そういうプレイ好きそうだよな」

 

「戦闘だけずっとやるよりは好きかもな」

 

「だろうなぁ……」

 

サンラクは納得したように頷く。

 

逆にサンラクはかなり戦闘寄りだ。

 

しかも今のサンラクは、既に《墓守のウェザエモン》討伐を終えている。

 

攻略サイトや掲示板でも毎日のように話題になっている、あのユニークモンスターだ。

 

「ていうか、お前今レベルいくつなんだ?」

 

「78」

 

「は?」

 

思わず声が出る。

 

「いや待て待て待て」

 

えびす天丼が思わず身を乗り出す。

 

「そんな上がるのか!?」

 

「まぁ、色々あってな……」

 

「いや絶対“色々”で済む内容じゃないだろ」

 

「細けぇこと気にすんな」

 

「気になるわ!」

 

そう返しながら、えびす天丼は改めてサンラクを見る。

 

ウェザエモン討伐。

 

その時点で既におかしい。

 

しかもレベル78。

 

普通にプレイしていて届く数字じゃない。

 

「……お前、もう攻略組どころじゃないだろ」

 

「いや、上にはまだいるぞ」

 

「その台詞、レベル78が言うと怖いんだけど」

 

「慣れろ」

 

「無茶言うなぁ……」

 

そう返しながら苦笑する。

 

だが、不思議と嫌味には感じない。

 

サンラクは昔からこういう奴だった。

 

変な方向へ全力で突っ込み、そのまま訳の分からない場所まで行く。

 

そして本人は割とケロッとしている。

 

「……絶対変なボスとか倒しまくってるだろ」

 

「まぁ多少は」

 

「多少でウェザエモン討伐行かねぇんだよな」

 

「結果論だ結果論」

 

「絶対違うだろ……」

 

そんな話をしていると、エミィルが料理を持って近づいてくる。

 

「お話ばかりしてると冷めますわよ!」

 

「お、ありがと」

 

置かれた皿から湯気が立つ。

 

香草の匂い。

 

焼いた肉の香り。

 

「……うわ、普通にうまそう」

 

「普通じゃありませんわ!」

 

エミィルが耳を立てる。

 

「わたくしが仕上げましたもの!」

 

「はいはい」

 

サンラクが慣れた感じで返す。

 

その様子を見て、えびす天丼は少し目を丸くした。

 

「……結構仲良いんだな」

 

「まぁ、色々あってな」

 

今度はサンラクが同じことを返してくる。

 

「お前もそのうち慣れるぞ」

 

「いや、慣れるかなぁ……」

 

そう言いながら料理へ手を伸ばす。

 

口へ運ぶ。

 

「……あ、うま」

 

思わず声が漏れる。

 

火加減が絶妙だ。

 

しかも、ただ味が濃いわけじゃない。

 

素材ごとの香りがちゃんと残っている。

 

「だろ?」

 

サンラクが少し得意げに言う。

 

「ここの飯、普通にレベル高いんだよ」

 

「いや、ほんとに高いなこれ」

 

そう返しながら食べ進める。

 

ゲームの食事。

 

だが、ただバフを得るためのシステムとは思えない。

 

味。

 

香り。

 

食感。

 

ちゃんと“料理”として成立している。

 

「……このゲーム、変な方向に作り込みすぎなんだよな」

 

えびす天丼がそう呟くと、サンラクが笑う。

 

「今さらそこ気づいたのか?」

 

「いや、最近特に思うようになった」

 

釣り。

 

料理。

 

探索。

 

そしてユニークシナリオ。

 

どれも単なるおまけ要素じゃない。

 

ちゃんと一つ一つが深い。

 

「……なんか、攻略急ぐのもったいなく感じるんだよな」

 

そう漏らすと、サンラクは少しだけ驚いたようにこちらを見る。

 

だが次の瞬間には、いつもの調子で笑った。

 

「お前、完全にこのゲームハマってんな」

 

「……まぁ、それは否定できないかも」

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