神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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火加減の向こう側

《兎の国》の農場を見て回ったあと、えびす天丼は城へ戻るため中央通りを歩いていたが、頭の中にはさっき見た畑や食材のことがずっと残っており、以前なら“回復アイテムの材料”くらいにしか思っていなかったものが、料理を覚え始めてからは見え方そのものが変わってきていることを自覚していた。

 

焼くだけで甘くなる根菜。

 

香りの強い香草。

 

魔力を含んだ特殊食材。

 

ただ集めるだけではなく、“どう使うか”まで考えるようになっている。

 

「……なんか、本当に料理ゲー始まってる気がするな」

 

そう苦笑しながら城へ入る。

 

通路を歩き、厨房へ近づくにつれて、少しずつ聞き慣れた騒がしさが耳へ入ってくる。

 

鍋の音。

 

包丁の音。

 

ヴォーパルバニーたちの声。

 

そして――

 

「火が強いですわー!!」

 

「うわっ!?」

 

聞き慣れ始めた声が飛ぶ。

 

「だから今のタイミングで強火は駄目ですのー!!」

 

「いや、でもこっち先に仕上げたくて……!」

 

「焦りますわよ!?」

 

「実際ちょっと焦げた!」

 

厨房へ入った瞬間、えびす天丼の視界へ飛び込んできたのは、鍋を前に慌てているヴォーパルバニーと、それへ全力で指示を飛ばしているエミィルの姿だった。

 

「……なんか大変そうだな」

 

思わずそう漏らす。

 

するとエミィルがこちらへ気づき、ぴたりと耳を立てる。

 

「おおっ! 戻りましたわね!」

 

「ただいま?」

 

「ちょうど良かったですわ!」

 

嫌な予感がした。

 

次の瞬間には、エミィルがずずいっと近づいてくる。

 

「修行再開ですわ!」

 

「やっぱりかぁ……」

 

思わず苦笑する。

 

だが、そこまで嫌ではない。

 

むしろ農場を見たあとだからこそ、少し試したい気持ちの方が強かった。

 

「今から何やるんだ?」

 

そう聞くと、エミィルが満足そうに耳を揺らす。

 

「火加減ですわ!」

 

「一番難しいやつ来たな……」

 

「料理で最も大事と言っても過言ではありませんの!」

 

そう言いながら、エミィルは調理台へいくつかの食材を並べる。

 

肉。

 

魚。

 

野菜。

 

そして、小さな鍋。

 

「素材によって火の入り方は違いますわ」

 

「それはまぁ、なんとなく分かる」

 

「でも、“分かる”と“扱える”は別ですの!」

 

ぴしっと耳を立てながら言い切る。

 

そのままエミィルは肉を持ち上げる。

 

「例えばこれ」

 

「厚みがありますわね?」

 

「うん」

 

「強火だけだと表面だけ焼けて中が駄目ですわ」

 

「逆に弱火だけだと時間がかかりすぎますの」

 

そう言いながら実際に火へ乗せる。

 

ジュッ、と音が鳴る。

 

香りが立つ。

 

だが、エミィルはすぐ火力を変える。

 

「最初に表面を焼いて旨味を閉じ込めて、そのあと火を落としますわ」

 

「……あー」

 

見ていると分かりやすい。

 

ただ焼いているわけではない。

 

火を“調整”している。

 

「やってみますの?」

 

「まぁ、せっかくだし」

 

えびす天丼も調理台へ立つ。

 

肉を置く。

 

火をつける。

 

焼き色を見る。

 

タイミングを見て火力を落とす。

 

……だが。

 

「むっ」

 

エミィルの耳がぴくっと動く。

 

「ちょっと遅いですわね」

 

「あ、やっぱり?」

 

「今ので少し硬くなりますわ」

 

「うわ、難しいな……」

 

そう言いながら肉を返す。

 

焼き色自体は悪くない。

 

だが、確かに少し火を入れすぎた感覚がある。

 

「焦ると駄目ですの」

 

「でも待ちすぎても駄目なんだろ?」

 

「その通りですわ!」

 

エミィルが嬉しそうに頷く。

 

「だから料理は面白いんですの!」

 

そのまま何度か繰り返す。

 

焼く。

 

調整する。

 

確認する。

 

同じ肉でも、火加減だけで仕上がりが変わる。

 

「……うわ、ほんとに違うなこれ」

 

「ですわ?」

 

エミィルが得意げに笑う。

 

「料理は感覚も大事ですの!」

 

「なんか釣りに近い気してきたな」

 

そう呟きながら肉を切る。

 

断面を見る。

 

さっきより良い。

 

火が通りすぎていない。

 

肉汁も残っている。

 

「……お、ちょっと良くなったか?」

 

「今のは悪くありませんわ!」

 

エミィルが珍しく素直に褒める。

 

その反応に、えびす天丼は少しだけ口元を緩めた。

 

単純だ。

 

だが、ちゃんと上達している感覚がある。

 

それが妙に楽しい。

 

「……こういうの、やっぱ嫌いじゃないんだよな」

 

そう呟きながら、えびす天丼はもう一度火の前へ立った。

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