神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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攻略組の視点

えびす天丼と別れたあと、サンラクは《兎の国》の食堂で椅子へ深く座り直しながら、大きく息を吐いていた。

 

目の前ではエムルが追加で持ってきた肉料理を頬張っている。

 

厨房の奥ではヴォーパルバニーたちが忙しそうに走り回っており、いつも通りの騒がしさが広がっているが、サンラクの頭の中ではさっきの出来事がまだ整理しきれていなかった。

 

「……いや、なんなんだあいつ」

 

思わずそう漏れる。

 

するとエムルが肉を咥えたまま首を傾げる。

 

「む?」

 

「えびす天丼サンですわ?」

 

「そう、そのえびす天丼」

 

サンラクは鳥面の奥で頭を押さえる。

 

「なんであいつ、普通にユニーク踏んでんだよ……」

 

しかも、ただ踏んだだけじゃない。

 

樹海窟の奥で湖を見つけ、ネームドを釣り上げ、そのまま討伐して料理までしている。

 

意味が分からない。

 

攻略掲示板に流したら絶対荒れる。

 

「ふふーん!」

 

エムルがどこか誇らしげに耳を揺らす。

 

「えびす天丼サン、ヴォーパル魂高いですわ!」

 

「その基準まだよく分かんねぇんだよな……」

 

そう返しながらも、サンラクは少し笑う。

 

だが、驚いたのは事実だった。

 

高校の頃から、えびす天丼はああいうタイプだった。

 

目立ちたがりではない。

 

むしろ競争にはそこまで興味がない。

 

だが、一度興味を持ったものには妙に深く入り込む。

 

寄り道を始めると止まらない。

 

そして、その寄り道の途中で変なものを引き当てる。

 

「……いやでも、普通ユニーク引くか?」

 

思わず呟く。

 

サンラク自身、《墓守のウェザエモン》討伐まで行っている以上、普通ではない側のプレイヤーだという自覚はある。

 

だが、それでも今日のえびす天丼はかなり異常だった。

 

攻略を進めていたわけでもない。

 

強敵を探していたわけでもない。

 

ただ釣りをしていた結果、ユニークシナリオへ辿り着いている。

 

「寄り道でそこ行くの、才能だろもう……」

 

「む?」

 

エムルがきょとんとする。

 

「サンラクサン、楽しそうですわ?」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

サンラクは椅子へ背を預ける。

 

正直、嬉しかった。

 

同じゲームをやっている友人と、偶然ゲーム内で再会した。

 

しかもその相手が、想像以上にこのゲームへハマっている。

 

「最初は絶対、生産だけちまちまやるタイプだと思ってたんだけどなぁ……」

 

そう呟く。

 

実際、えびす天丼は戦闘狂ではない。

 

効率厨でもない。

 

だがその代わり、探索や生活要素への食いつきが異様に良い。

 

釣り。

 

料理。

 

食材。

 

農場。

 

たぶんあいつは、このゲームの“世界”そのものへハマっている。

 

「……まぁ、このゲームそういう沼あるしな」

 

サンラク自身も、それは理解していた。

 

普通のVRゲームなら背景で終わる部分まで、シャンフロは妙に作り込まれている。

 

NPCの反応。

 

街の生活感。

 

料理の味。

 

装備の癖。

 

そういう部分が無駄に細かい。

 

だからこそ、一度ハマると抜け出せない。

 

「でも、えびす天丼サン料理上手でしたわ!」

 

エムルが尻尾を揺らしながら言う。

 

「エミィルお姉ちゃん、かなり褒めてましたわ!」

 

「へぇ?」

 

少し意外だった。

 

昔から料理していたイメージはない。

 

だが、考えてみれば釣りとの相性は悪くないのかもしれない。

 

自分で釣った魚を調理する。

 

そういう流れは、あいつが好きそうだった。

 

「……まぁ、料理ハマり始めたら長そうだな」

 

「長いですわ?」

 

「お前まだ知り合ってそんな経ってないだろ」

 

「でも分かりますわ!」

 

エムルは自信満々だった。

 

「えびす天丼サン、火加減の顔してましたわ!」

 

「火加減の顔って何?」

 

「料理にハマる顔ですわ!」

 

「分かんねぇ……」

 

サンラクは思わず笑ってしまう。

 

そのまま椅子から立ち上がる。

 

「サンラクサン、どこ行きますの?」

 

「んー……ちょっと装備整理して、そのあとログアウトかな」

 

今日は情報量が多すぎた。

 

ウェザエモン討伐後も色々あったが、まさかここでえびす天丼と会うとは思っていなかった。

 

しかも、普通にユニーク進めている。

 

「……あいつ、そのうちまた変なの見つけそうだな」

 

そう呟きながら歩き出す。

 

するとエムルが楽しそうに笑った。

 

「きっと見つけますわ!」

 

「だろうなぁ……」

 

否定できない。

 

むしろ、妙に納得できてしまう。

 

攻略組とは違う。

 

だが、ああいうタイプのプレイヤーが一番シャンフロを楽しんでいるのかもしれない。

 

そう思いながら、サンラクは《兎の国》の通路をゆっくり歩き始めた。

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