神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

4 / 34
引き上げたもの

ファステイア外、いつもの川辺。

 

今日も釣りである。

 

いや別に言い訳じゃないが、これはちゃんとしたプレイだ。戦闘してない=何もしてない、ではない。むしろ今の俺にはこっちの方がやることが多いし、やれることも増えてきている。

 

昨日のこともある。

 

「……今日は逃がさない」

 

あの引き。

 

あの重さ。

 

あれを逃したままで終わるのは、ちょっと気に食わない。

 

竿を構えて、糸を垂らす。

 

水面は穏やかで、風も弱い。光の反射も少なく、視認性はいい。

 

条件は十分。

 

数秒待つ。

 

揺れ。

 

小さい。

 

見送る。

 

焦る必要はない。昨日みたいに無理に引いても意味がない。

 

さらに待つ。

 

もう少し強い揺れ。

 

「……今」

 

引く。

 

手応え。

 

軽い。

 

「……まあ普通か」

 

小型だろう。問題なく引き上げる。

 

インベントリに収まるのを確認して、すぐに次へ移る。

 

同じ位置に固執しない。少しだけ流れの縁にずらす。

 

糸を垂らす。

 

待つ。

 

何も起きない。

 

さらに数秒。

 

揺れ。

 

浅い。

 

見送る。

 

もう少し待つ。

 

水面の一点だけ、わずかに歪む。

 

「……来たな」

 

昨日の感覚に近い。

 

いや、それよりも明確だ。

 

竿を持ち直す。

 

来る。

 

ぐっと引き込まれる。

 

「うわ、やっぱ重いな」

 

手応えが明らかに違う。

 

竿がしなる。

 

だが、昨日のような一方的な引きではない。

 

「……耐えてるな」

 

巻く。

 

少し寄る。

 

すぐに引き返される。

 

「おいおい、普通に強いなこれ」

 

無理に引かない。

 

張りを維持する。

 

引かれたら受ける。緩んだ瞬間に巻く。

 

繰り返す。

 

少しずつ距離が縮まる。

 

水面の揺れが大きくなる。

 

「もうちょい……!」

 

一気に引く。

 

水面が割れる。

 

跳ねる。

 

魚。

 

だが、普通じゃない。

 

硬質な鱗が光を弾き、口は異様に大きく開いている。そこに並ぶ牙がはっきりと見える。

 

視界に表示が出る。

 

【牙魚バイトフィッシュ】

 

「……はい出た」

 

魚型モンスター。

 

まあ、予想通りではある。

 

そのまま引き上げる。

 

地面に叩きつけた瞬間、びちりと跳ねる。

 

次の瞬間、動きが変わる。

 

ただの跳ねじゃない。

 

完全に“攻撃”の動き。

 

「だろうな」

 

横にずれる。

 

足元をかすめて通過する。

 

「うおっぶね」

 

距離を取る。

 

短弓を構える余裕はない。

 

ナイフを抜く。

 

「まあこうなるよな」

 

牙魚バイトフィッシュが地面を滑るように移動する。

 

来る。

 

低い軌道。

 

「軌道変えてきたな」

 

半歩下がる。

 

さらに横に動く。

 

回避。

 

そのまま振る。

 

刃が当たる。

 

浅い。

 

だが、確実に入っている。

 

「……なるほどな」

 

リアリティを増した分、描写はともかくただ殴るだけではダメージが出ないのが今時のフルダイブアクションゲームだ。適当に殴るだけでダメージが出るクソゲーと、内臓に至るまでガチで作り込んでいるためにちゃんと急所や耐久が存在するクソゲーとピンキリのため、一応試してみたがシャンフロはそこらへんしっかりと作り込んだ神ゲーのようだ。

 

刃が入った部分から赤いポリゴンが飛び散る。

 

血ではない。

 

だが、ちゃんと“効いている”感覚はある。

 

牙魚バイトフィッシュが跳ねる。

 

一回。

 

間を置かずに二回。

 

「二連かよ」

 

下がる。

 

かわす。

 

タイミングをずらしてくる。

 

「完全に戦闘用の動きだなこれ」

 

ただの釣り対象じゃない。

 

明確に戦う前提で作られている。

 

来る。

 

避ける。

 

入れる。

 

その繰り返し。

 

「地味に面倒だな」

 

でも、読める。

 

跳ねる前にわずかに溜めがある。

 

その瞬間を狙う。

 

踏み込む。

 

ナイフを差し込む。

 

今度は深い。

 

体が大きく震える。

 

「効いてるな」

 

さらに一歩引いて、次に備える。

 

来る。

 

かわす。

 

入れる。

 

動きが鈍る。

 

明らかに。

 

「……よし」

 

最後に一撃。

 

牙魚バイトフィッシュの体が弾けるように崩れ、ポリゴンとなって消える。

 

その場に光が残る。

 

「ドロップか」

 

拾う。

 

【バイトフィッシュの硬鱗】

【バイトフィッシュの牙】

【濁り油袋】

 

「……ちゃんと素材あるな」

 

死体から剥ぎ取るタイプではなくドロップアイテムだけ落ちるタイプ。一時期リアルにしすぎて犯罪沙汰になった事件があったし、そこらへんの配慮だろう。

 

あの時は「ゲームが価値観を歪める」と反ゲーム派の批判が凄かったなぁ。何処ぞの知識人ぶったタレントが「娯楽に負ける教育しか出来ないなら子供なんて作るな、親も教師も小学校からやり直せ」なんて過激な発言をしたことで色んなところにヤバいくらい飛び火しまくっていた記憶がある。

 

確かその頃はスリリング・ファームでトウモロコシを育ててたなぁ、全部巨大モンスターに踏み潰されてキレてたなぁ懐かしい。

 

そのとき、レベルアップの表示が出る。

 

「……お、上がった」

 

初めてのレベルアップ。

 

釣りから戦闘で上がるとは思わなかった。

 

「……こういうのもあるのか」

 

川を見る。

 

さっきと同じ水面。

 

でも、もう同じには見えない。

 

「普通に危険だなこれ」

 

釣りなのに。

 

でも。

 

「……悪くない」

 

竿を持ち直す。

 

やれることは確実に増えている。

 

糸を垂らす。

 

次に来るのが普通の魚か、また牙魚バイトフィッシュかは分からない。

 

それでも。

 

「……面白いな」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。