神ゲーなのに、今日も釣り日和   作:ひよこ大福

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跳梁跋扈の森

ファステイアを出てから、どれくらい歩いただろうか。

 

街道を外れ、背の高い草と木々が増え始めたあたりで、周囲の空気がはっきりと変わった。風が通る音は同じなのに、その中に混ざる“別の気配”がある。葉が揺れる理由が風だけじゃないと分かる程度には、この世界にも慣れてきている。

 

「……ここからか」

 

跳梁跋扈の森。

 

名前だけならただの厨二っぽいネーミングだが、実際に足を踏み入れてみると意味はすぐに理解できる。視界が悪い。地面は柔らかく、足音も読みにくい。そして何より、どこから何が来てもおかしくない。

 

弓を使う自分にとっては、あまり歓迎できる環境ではない。

 

「……やりにくいな」

 

だが、それでも引き返す理由にはならない。

 

むしろ、ここで戦えないなら先はない。そういう場所だと直感的に分かる。

 

湖沼の弓を構える。

 

弦に指をかけ、軽く引く。抵抗は素直で、余計な力がいらない。だが緩いわけでもなく、ちゃんと“武器として成立している張り”がある。

 

「……いいな」

 

この弓は当たりだ。

 

それだけは、もう確信している。

 

一歩、森の中へ踏み込む。

 

足元の落ち葉が沈む感触を確かめながら、無意識に重心を低くする。こういう場所では、立ち方一つで反応速度が変わる。

 

葉が擦れる。

 

風じゃない。

 

「……いるな」

 

視線を動かす前に、耳で位置を探る。音の出方、揺れ方、その微妙な違いで大体の方向が分かる。

 

正面、やや右。

 

次の瞬間、草をかき分けて現れる影。

 

【ゴブリン】

 

「……来るか」

 

考える時間はない。

 

弓を引く。

 

狙いは胴。頭を狙う余裕は、この距離と速度じゃリスクが高い。

 

放つ。

 

矢が当たる。

 

だが止まらない。

 

「やっぱ一発じゃ無理か」

 

分かっていたことだが、実際に確認すると距離感が一段階変わる。つまり、“二手先”まで考えないといけない。

 

距離が詰まる。

 

横へ動く。

 

振り下ろしを外す。

 

すれ違う瞬間、ゴブリンの動きを視界の端で追いながら、体はすでに次の行動に入っている。

 

振り返る。

 

弓を引く。

 

近距離。

 

この距離で外せば、そのまま殴られる。

 

「ここは当てる」

 

放つ。

 

当たる。

 

体勢が崩れる。

 

そこで初めて、距離を詰める判断をする。

 

ナイフを抜く。

 

踏み込む。

 

振る。

 

手応え。

 

浅くはない。

 

赤いポリゴンが弾け、ゴブリンが崩れる。

 

「……こんなもんか」

 

一息つく。

 

だが、そこで気を抜くほど甘くはない。

 

今のは“見えていた戦闘”だ。最初から位置も動きも把握できていたから成立した。

 

この森は違う。

 

「……見えないのが前提だな」

 

そのまま歩く。

 

数分。

 

空気が変わる。

 

「……一体じゃないな」

 

今度は明確に分かる。音の数、揺れの範囲、気配の分散。

 

囲まれている。

 

足を止める。

 

不用意に動くと位置がズレる。

 

「……来るなら来い」

 

その瞬間、三方向から同時に飛び出す。

 

【ゴブリン】

 

三体。

 

視界の中で、それぞれの動きが明確に違う。

 

正面の個体は一直線。右は回り込み。左は間を置いている。

 

「……役割分けてるな」

 

ただ突っ込むだけじゃない。

 

“崩しに来てる”。

 

弓を引く。

 

一番近い個体。

 

迷う理由はない。

 

放つ。

 

当たる。

 

だが止まらない。

 

「削りきれないか」

 

横へ踏み出す。

 

振り下ろしを外す。

 

通り過ぎる個体を無視する。

 

その動きに引っ張られた瞬間、もう一体が来る。

 

「タイミングずらしてきたな」

 

弓を引き直す。

 

距離は近い。

 

だが、この弓なら間に合う。

 

放つ。

 

当たる。

 

体勢が崩れる。

 

「一つ」

 

残り二体。

 

位置を把握する。

 

左と後方。

 

「まだ終わらないな」

 

横から来る個体の動きは単純。

 

振り下ろし。

 

半歩下がる。

 

外す。

 

踏み込む。

 

ナイフを振る。

 

手応えは浅い。

 

「……やっぱ硬いな」

 

削りきれない。

 

無理に押せば囲まれる。

 

その瞬間、背後の気配が動く。

 

振り返らない。

 

前に出る。

 

距離を作る。

 

弓を引く。

 

振り向きざまに放つ。

 

当たる。

 

崩れる。

 

「あと一つ」

 

最後の個体。

 

低く構える。

 

踏み込みが速い。

 

「下から来るか」

 

横へずれる。

 

突進を外す。

 

すれ違う。

 

振り返る。

 

弓を引く。

 

距離は十分。

 

ここで焦る理由はない。

 

「……これで終わりだ」

 

放つ。

 

矢が刺さる。

 

ゴブリンが消える。

 

「……ふぅ」

 

大きく息を吐く。

 

そのまま動かず、周囲の気配を探る。

 

静かだ。

 

少なくとも今は。

 

「……これが普通か」

 

一対一で終わらない戦闘。視界の悪さ、位置取り、判断速度。その全部が噛み合って初めて勝てる。

 

さっきの動きを頭の中でなぞる。

 

どこで遅れたか、どこが正解だったか。

 

「……面白いな」

 

難しい。

 

だが、ちゃんとやれば勝てる。

 

そのラインが絶妙だ。

 

湖沼の弓を持ち直す。

 

軽い。

 

扱いやすい。

 

距離を支配できる。

 

「……やれるな」

 

森の奥を見る。

 

まだ先がある。

 

まだ敵もいる。

 

「……行くか」

 

えびす天丼は、跳梁跋扈の森の奥へと足を進めた。

 

戦いながら、この世界に順応していくために。

 

————————————

 

PN:えびす天丼

 

LV:8

 

JOB:レンジャー

 

所持金:6,600マーニ

 

HP:34

MP:15

STM:40

 

STR:12

DEX:22

AGI:21

TEC:23

VIT:14

LUC:18

 

スキル

・短弓術Lv.4

・回避Lv.4

・釣りLv.5

・簡易採取

・簡易調理

 

装備

頭:無し

胴:湖沼鱗の軽装

腕:湖沼鱗の軽装

脚:湖沼鱗の軽装

足:湖沼鱗の軽装

武器:湖沼の弓

 

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