跳梁跋扈の森の奥へ進むにつれて、周囲の気配がはっきりと変わっていく。
それまで当たり前に感じていたゴブリンの存在が、ある地点を境に途切れていた。風に揺れる葉の音は変わらないのに、その中にあったはずの生き物の気配だけが消えている。
「……ここだな」
足を止めて周囲を見渡すと、この先に何かがいるせいで他のモンスターが寄り付かない状態になっているのだと自然に理解できる。森の構造から見ても、ここが関門である可能性は高い。
「……倒さないと通れないやつか」
一度戻るという選択も頭をよぎるが、今の自分がどこまで通用するのかを確かめる意味でも、このまま進む方がいいと判断する。
「……やるか」
踏み込んだ瞬間、足元の土がわずかに盛り上がるのを視界の端で捉え、考えるより先に体を横へ流す。直後に地面が弾け、土と根を巻き上げながら巨大な影が現れ、さっきまで自分がいた場所を抉り取るように通過する。
【貪食の大蛇】
「……想像よりでかいな」
距離を取りながら全体を把握すると、その大きさ以上に問題になるのが速度と攻撃範囲の広さだと分かる。まともに受ければ一撃で終わる以上、防御を考える意味はなく、回避前提で組み立てるしかない。
大蛇が体をしならせた瞬間、横薙ぎが来ると判断し、必要な回避距離を見積もって後方へ大きく跳ぶ。直後に風圧が叩きつけられ、その攻撃範囲の広さを改めて実感する。
「……間合いがシビアだな」
安全圏は存在するが狭い。それでも位置を正確に保てば対応できると判断し、次に削り方を考える。
弓を構えて胴体に一射を放つと、矢は命中するものの鱗に弾かれる感触がはっきりと伝わり、このままでは削り切るのに時間がかかりすぎると判断する。
「……硬いな」
ならば狙いを変える必要がある。
視線を上げたとき、自然と頭部、その中でも目に意識が向く。防御の薄さという意味では明らかに有効な部位だが、その一方で動き続ける以上、狙いを固定して撃つだけでは当たらない。
「……動きに合わせるしかないな」
弓を引きながらもすぐには放たず、大蛇の動きを観察する。体のしなりと頭部の軌道、その切り替わる瞬間にわずかな隙が生まれるのを見極め、そのタイミングに合わせて狙いを重ねる。
「……そこだ」
放たれた矢は大蛇の進行方向と噛み合うようにして目へと突き刺さり、頭部の動きをわずかに鈍らせる。
「……通るな」
弱点は確定したが、その直後に大蛇が口を開いたまま突進してくる。進路を外すように体を流しても、そのまま軌道を変えて追従してくる動きから、逃げ続けてもいずれ捕まると判断する。
「……逃げ切れないか」
ならば流れを変えるしかない。
進路を読みながら頭部が通る位置を予測し、そこへ合わせて弓を構え、タイミングを決める。早すぎれば外れ、遅れれば噛み砕かれる。
「……ここだ」
放った矢が突進の軌道と重なり、再び目に命中した瞬間、大蛇の動きが一瞬止まる。
その隙を逃さず前へ踏み込み、ナイフを抜いて開いた口の奥へと狙いを定める。
「……ここなら通る」
振り抜いた刃に、これまでとは明らかに違う手応えが返る。だが同時に大蛇の体が大きくうねるのを見て、追撃は危険だと判断して即座に距離を切ると、尾が振られてさっきまでいた場所が抉られる。
「……近接は一瞬だな」
それでも確実に削れていると分かる。
同じ流れを繰り返す。
目で動きを止め、口内で削る。
判断を誤れば終わるが、成功を重ねれば確実に削れる。
繰り返すうちに大蛇の動きに乱れが出始め、反応が鈍くなっていくのを見て削り切れると判断する。
「……削れてるな」
最後は狙いを合わせるのではなく、位置を先に決めてそこへ誘い込む形で弦を引く。
「……終わらせる」
放った矢が目に突き刺さり、大蛇が大きく仰け反る。その隙に踏み込み、開いた口の奥へと刃を振り下ろすと、今までで最も深い手応えが返る。
その一撃を境に大蛇の動きが止まり、次の瞬間には全身が崩れてポリゴンとなって弾けた。
「……はぁ……倒したか」
張り詰めていた意識が一気に緩み、その場で動けなくなる。
【貪食の大蛇を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【レベルが上がりました】
「……これがボスか」
息を整えながら周囲を見ると、さっきまで感じていた圧が完全に消えている。
「……通れるな」
えびす天丼は、そのまま森の奥へと歩き出した。