跳梁跋扈の森を抜けた瞬間、それまで肌に張り付いていたような緊張感が一気に剥がれ落ちるのを感じた。
背後にはまだ森の気配が残っているが、前方に広がる景色は明らかにそれとは別のものだ。踏み固められた地面、整えられた道、そしてその先に見える建造物の影。
視線を上げると、段差のある地形に沿って広がる街が見える。
「……あれがセカンディルか」
思わず足を止めて全体を見渡す。
ファステイアと比べて規模が違うのは一目で分かる。建物は石造りが中心で、低いものから二階建てのものまで混在しており、計画的というよりは拡張を重ねて出来上がった街という印象を受ける。
「……ちゃんと“次の街”だな」
そのまま歩き出し、門をくぐる。
中に入った瞬間、音が一気に増える。
人の声、足音、店の呼び込み、何かを叩く音。ファステイアにも人はいたが、ここは密度が違う。視界に入る人数だけでなく、流れそのものが生まれている。
「……人、多いな」
軽く周囲を見渡す。
装備の差もはっきりしている。軽装のままの者もいれば、明らかにここで装備を整えている途中の者、そして一段上の装備を身につけている者もいる。
「……中継地点って感じだな」
ここで準備を整えて次へ進む。
そういう位置づけの街なのだと理解できる。
だが、今の自分の目的は決まっている。
「……釣り具だな」
通りを歩きながら店を見ていくと、目的に合った店はすぐに見つかった。入口に吊るされた魚の模型と、壁に立てかけられた竿が目印になっている。
「……ここか」
扉を開けて中に入る。
木の匂いと、少し湿った空気。壁にはロッドが並び、カウンターにはリールや小さなケースが整然と置かれている。
「いらっしゃい」
店主が軽く声をかけてくる。
「釣り具、見てもいいですか」
「ああ、好きに見てくれ」
店内を見て回る。
まず目に入るのはロッド。
長さやしなりがそれぞれ違い、用途ごとに分けられているのが分かる。一本手に取ると、軽さとバランスの良さがすぐに伝わる。
「……ルアー用か」
「そうだな、それは投げて使うやつだ」
店主が言う。
「ルアーって、やっぱり専用の方がいいですか」
「餌釣りとは別物だ。投げて巻く釣りになるからな」
差し出されたリールを受け取り、回してみると滑らかに動く。
「……扱いやすそうですね」
「最初はそれくらいがいい」
その言葉を聞き、無理に上位のものを選ぶより、扱えるものを選ぶべきだと判断する。
「じゃあ、これお願いします」
ロッドとリールを選ぶ。
視線をカウンターに移すと、小さなケースに並べられたルアーが目に入る。形も色も違い、明らかに役割が分かれている。
「ルアーって、結構種類ありますね」
「動きと沈み方が違う。魚によって効くやつが変わるな」
いくつか手に取って確認する。
軽くて水面近くを動くもの、少し重く沈むもの、細長く動きに変化をつけやすいもの。
「……最初はどう選べばいいですか」
「無難なのはその辺だな」
店主がいくつか選んでくる。
癖が少なく、扱いやすいもの。
「……じゃあ、それもお願いします」
ルアーを数種類選ぶ。
試しながら覚える方がいい。
そこでふと、棚の端に置かれている冊子が目に入る。
「それは?」
「魚図鑑だな」
手に取る。
ページを開くと、魚のイラストと簡単な説明が並んでいる。
「……これ、役に立ちますか」
「小さい魚は大体まとめて表示されるが、中型以上になるとちゃんと個別に記録される。釣った魚の名前や特徴も分かるようになるぞ」
「……ああ、それいいですね」
今まではサイズ感でしか判断できなかったが、名前や種類が分かれば意味が変わる。
「それもください」
店主が頷く。
まとめて代金を支払い、受け取る。
【ルアーロッドを入手しました】
【スピニングリールを入手しました】
【ベーシックルアーを入手しました】
【ミノー型ルアーを入手しました】
【シンキングルアーを入手しました】
【魚図鑑を入手しました】
店を出て、魚図鑑を開く。
まだほとんど空白だが、それでもこれから埋まっていくことを考えると悪くない。
「……中型から名前出るのか」
今まで曖昧だった部分がはっきりする。
釣る意味が増える。
「……いいな、これ」
ロッドを軽く握り直す。
これまでとは違う釣りになる。
待つだけじゃなく、自分から動かして釣る。
「……やること増えたな」
だが、それがいい。
街の外を見る。
セカンディルの先には、まだ知らない水場があるはずだ。
「……試すか」
えびす天丼は、新しい釣り具と魚図鑑を手に、次のフィールドへ向けて歩き出した。