ガンダムビルドブレイカーズ ReBreak 作:ウルトラゼロNEO
「私の負けだ……。好きにするがいい」
カオスデビルガンダムも撃破され、辛うじて離脱したブラックロータスも既に大破しており、これ以上何も出来ないだろう。その声色からも観念しているのが伺える。
「……聞かせてくれ、カオス。お前はGBBBB開発側の人間だったんだな?」
ふとマイスターはスピーカーを通じてカオスの過去について問いかける。
「GBVと呼ばれるコンピュータウイルスの作成、それにマザーAIとシステムへの侵入、改変……。何れも外部の人間では困難な犯行だ。GBBBBのセキュリティは容易く突破できるようなものではないからな」
「となれば犯人はGBBBBについて熟知した内部の人間と考えるのが自然……か」
いくらカオスが高いスキルを持ち合わせていても、半ば一個人でGBBBBという巨大な箱庭を相手取ることはそう簡単に出来るはずはない。一連の出来事を振り返って話すマイスターにカオスは彼の中の推理を読み当てる。
「そう、その通りだ。私は元々GBBBB開発スタッフのひとりだった」
自らの口で明かされたカオスの素性。ツムギ達からすればマイスターの読みも筋は通っていたが驚きのものではあったが、それが改めてカオスの口から肯定され、より驚いてしまう。
「カオスもこの世界を創ったひとりだったってこと!? じゃあ何でそれを壊すようなことをしたの……」
「……私はガンプラとガンプラバトルを愛している。その想いは、誰にも負けない自信があった」
だからこそ何故、そんな立場にいた人間がその世界を壊すような真似をしたのか、リンには理解できなかった。そんな疑問を解消するようにカオスは静かに語り始める。
「人の手で作られ、人の手で運営されるこのシミュレータこそが最高だと信じていたのだ。だからこそ許せなかった。AIを採用し、ガンプラバトルを人の手から切り離そうとするGBBBBの運営がな。それ故、私は運営と袂を分かち、理想のGBBBBを取り戻す為に戦い続けてきた……」
「そこまでAIを毛嫌いするなんて……どんな事情があるか知らないけど……!」
「しかし、それも終わった話だ。事ここに至っては、最早この世界に私の居場所など残ってはいまい」
カオスの理想から遠ざかってしまったGBBBB。だとしてもこんな事をしでかす正当な理由になどならない筈だ。リンは怒りを滲ませるが、既にカオスには反論する気も何か行動を起こす気もないようだ。
「カオスさん」
そんなカオスに対してストライクブレイザー・リブレイクはそのマニュピレーターを差し伸べたのだ。
「……何のつもりだ?」
「アナタも、仲間だから」
ツムギの行動が理解できず、顔を顰めるカオス。下手な同情とでも思ったのだろうか。そんなカオスにツムギの行動の理由をリリンが伝える。
「私が、仲間だと……?」
「……人か、AIか。GBBBBの運営がどちらに委ねるのが正解なのかは俺には分かりません。でも、やり方を間違えたとしてもカオスさんなりのガンプラとGBBBBへの想いを否定したくないんです。その想いはきっと本物だと思うから」
カオスもGBBBBに反旗を翻しただけあって、リリンの言葉に解せないという反応を見せるが、ツムギはツムギなりの考えでカオスの想いを受け入れたのだ。
「私さえも、受け入れるというのか……?」
「そう。どんな想いも肯定するのがGBBBBだから」
信じ難いといった反応を見せるカオスにリリンは微笑みかける。
「勿論、勝手な理由で世界を滅ぼされちゃ堪らないけどね」
「流石に厳罰は免れないだろう。しかし、お前が真にガンプラを愛する者ならば……」
釘を差すように冗談交じりに話すリン。マイスターもここまでの事態を引き起こしたのもあり、お咎めなしとはいかないだろうがそれでもまだそのガンプラを愛する想いが揺るがないのならやり直せるだろうと語る。
「……ああ。また立ち上がれるさ」
マイスターの脳裏にはかつてミサや奏海高校ガンプラチームと共に打ち倒した巨大な四脚の悪魔の姿が過る。彼もまた過ちは犯したが、マイスターはまた立ち上がれると信じていた。
そんな時、ドムストラグルとアータルナイトが降り立ってきた。これまでにない規模の戦闘だったこともあって、歴戦の彼らのガンプラもかなりの損傷が目立っている。
「敵機体は全て機能を停止した。この要塞は完全に無力化された」
「カオス……。お前は今回の主犯として、運営に引き渡す」
マイスターが2人の無事に安堵するなか、アータルとライムは厳しい眼差しをカオスに向ける。カオスの想いはそれはそれ。まず彼には責任を取らせる必要がある。
「……先程、ウイルスで制御していた機体の拘束を全て解いた。またワクチンプログラムもデビルガンダムが破壊された時点で自動配信される様に手配済みだ。後はお前たちの好きにするがいい。……私の負けだな。しかし勘違いするな。私はAIに敗れたのではないぞ」
自身の敗北を受け入れたカオス。その言葉を信じるならば、これですべてが解決に向かうだろう。とはいえあくまでAIには敗れていないと語っている。
「シンギュラリティ……技術特異点……。人の想いを理解し、受け止め、それを叶えた……。最早、お嬢さんはAIではなく……人間だ」
「私が……人間……?」
リリンを道具、人形と称していたカオスがリリンを人間と認めたのだ。これには普段は物静かなリリンも目を見開いて驚いている。
「無駄口はそこまでだ。行くぞ」
とはいえ、いつまでもここで話し続けるわけにはいかない。ライムはカオスを拘束すると、アータルと共に運営に引き渡す為、移動していく。
「……どうやら、これで一件落着のようだな」
「はい! 流石に疲れましたね……」
カオスも連行され、これで事態も収拾する事だろう。半ばこの一週間、気を張り過ぎていたこともあり、マイスターとツムギは疲労感を滲ませながら帰還していく。
「さっ、帰ろ! みんな待ってるよ!」
リンもリリンに声をかける。リリンの帰還。何よりも待ち望んでいた時が訪れたのだ。
「……うん」
しかしリリンは頷いたものの、その表情は決して明るくはなく、沈み込んでいた。それに気付かぬままリリン・カーネーションはフィールドから去っていく。
・・・
「……アキナ」
バトルも終わり、フィールドからどんどんガンプラの姿が消えていくなか、リプレイスのコックピットを開いたアオバは中を覗き込む。そこには塞ぎ込むように体を丸めて座るアキナの姿が。
「……アキナはウイルスで操られてた。だからお咎めはそこまでは大きくないと思う」
「……でも、GBBBBをぶっ壊れても良いって思ってたのには変わりないよ」
アキナをフォローするようにアオバは話す。何事もないという訳はないだろうが、それでもアキナは一連の出来事の主犯達に比べればまだマシだろう。しかしアキナは両腕で顔を覆ったままアオバを見ようともしない。
「……私、もう何もしない。ガンプラバトルも……ガンプラも辞めるよ」
「逃げるの? そうしたいならお姉ちゃんは引き留めないけど」
振り絞るように発した言葉。しかし返ってきたのはアオバの冷徹な声であった。
「ごめんね。お姉ちゃんも捻くれてるから、ガンプラもバトルも辞めるから許してください。大好きなものから離れるからこれ以上責めないでって言ってるように聞こえちゃったんだよね。自分を不遇な立場に追いやれば罰を受けたつもりになってない? それは“罰を受けた自分”を作って甘んじてるだけだと思うんだけど」
「わ、私は自分なりに償いたくて……」
アオバの淡々とした冷たい言葉の数々はアキナの胸を刺す。反射的に顔を上げたアキナだが、こちらを見据えるオッドアイを見て、身じろぎしてしまう。
「……ガンプラもバトルもどっちも続けなよ。覚醒の使い手を自分の手で倒せるくらい強くなるつもりでさ。勿論、少なからず周りの目もあるし辛い事もあるだろうけど、そっちの方が余程、償いになると思う。楽しまないで終わらすのは卑怯だよ」
アオバはまだアキナがガンプラもバトルも好きなのは知っている。だからこそGBBBBで過ごす日々の方が彼女にとっての償いになると思ったのだ。
「……大丈夫。お姉ちゃんはずっと傍にいてあげる。お姉ちゃんだけはアキナの味方だから」
まだ迷いがあるのが見て取れるアキナにアオバはコックピットの中に入り込みながら、アキナの手を取る。
「……ごめ、ん……っ……。ごめんな、さい……!」
一見、冷淡にも聞こえるアオバの言葉の数々だが、それも全てアキナを想った言葉なのだろう。現にアキナを見る今のアオバは表情はとても柔らかく慈しんでいた。そんなアオバを見て、アキナは大粒の涙を流しながら謝罪の言葉を口にすると、アオバの胸で涙を流し続けるのであった。
・・・
「……君はやっぱり強いな」
一方、ボロボロのブレイカーエストレーモ・ヴェロが膝をつくなか、フィールドの横たわるゼノギアは隣に座るタツヤに観念したように話しかける。
「……何でこんなことしたんだ?」
「私は元々、大それた人間ではない。興味深い事があればそれが知りたくて仕方がなくなる。それが世の理に反するものでもね」
ポツリとタツヤはゼノギアに理由を尋ねる。親友がこのような事態に加担していたのを今でも信じたくはなかった。しかしそんなタツヤにゼノギアはくつくつと笑う。
「……覚醒が使えるだけで人は集まって来る。灯りに引き寄せられる蛾のようにね。だが、彼らが見ているのは覚醒だけでその使用者は二の次だ。おかしいと思わないか? 何かも分からないシステムに疑問を持たず、群がって来る者達を」
「……進学先、うまくいかなかったのか?」
どこかウンザリしたように話すゼノギアにタツヤは一つの推測を立てる。少なくとも自分といた頃はこのような考えは持っていなかった筈だ。ともすれば進学先やそこで発展するガンプラバトルでの人間関係に難があったのではないか。
「……君がいない世界は色褪せ、常に何かが欠けたような世界だっただけさ。その代わりになるもので埋めたくなる程にね」
「覚醒はお前の心を埋められたのか?」
「まさか。私も驚いたよ。この世界を掌握してでも閲覧したデータの中には確かなものは何一つとしてなかった。全く無駄なことをしてしまったものだ」
GBBBBを掌握しても覚醒に関する知識はそれ程得られなかった。リスクのわりに収穫がなかった事にゼノギアは落胆する。
「……俺が覚醒のその先を目指したからか」
「勘違いするな。君と離れ、覚醒そのものは使えてもその限界を感じていたね。どの道、私は知りたい事、興味深い事には手段は選ばないタイプだ。それがたまたまこのタイミングでこのような事に加担したに過ぎない」
ふと何気ない日々での会話を思い出すタツヤ。己の責任を感じてしまいそうになるタツヤにゼノギアはびしゃりと言い放つ。
「……事が済んだら会いに来てくれよ。待ってるから」
「……このような事をした私をか?」
「そりゃそうだけど……。でも、それでもお前は俺の友達だからな。見捨てられないよ」
ゼノギアも咎を受ける事だろう。タツヤの言葉に信じ難いような反応を見せるゼノギアにタツヤは自分でも困ったように笑いかける。
「……本当に眩しい奴だ」
観念したようにため息をつくゼノギア。その姿にタツヤはふと笑みを漏らすなか、ゼノギア達を連行する為の手続きの為、一度、ブレイカーエストレーモ・ヴェロへ向かっていく。
「あーあ、もっとやれる筈なのに」
ゼノギアが身動き一つしないなか、彼に声をかけてきたのはカルパッチョだった。
「君も変わらんな」
「そりゃそうでしょ。まぁ流石に派手にやり過ぎたけど、それで大人しくなるようなアタシじゃないし! いつかリベンジしてやるんだから! ニシシシシ!」
このような状況にも拘らず、いつもと同じ憎たらしい態度のカルパッチョに対して、呆れ交じりの反応を見せるゼノギアに寧ろ誉め言葉とばかりにカルパッチョは笑う。
「……面白い奴だな、君は」
「今更? ……全部終わったらさ。リアルで会ってみない? あのタツヤって奴だけ現実にいる訳じゃないんだし」
「フフッ……それも良いな。何だかんだで君との時間も悪くなかった」
ふとカルパッチョを認めるような発言をするゼノギアにカルパッチョは思いがけない提案をする。まるでタツヤに対抗意識を燃やすようなカルパッチョの言葉に心底、笑みを見せながら寝転がっていたゼノギアは体を起こす。
「……では、また会おう」
ゼノギアはマスクを外して、カルパッチョを見る。相変わらず端正な顔立ちにカルパッチョは頬を染める中、それ以上にゼノギアが自分から素顔を晒した事が嬉しくなり、連行されるまでの間、2人は並んで座りながら身を寄せ合うのであった。