ガンダムビルドブレイカーズ ReBreak 作:ウルトラゼロNEO
GBBBBデビュー!
──空が嫌いだった。
見上げた先の青空は自分がどれだけちっぽけな存在であるかを気付かされて心が痛むから。
自分の中に巣食うどうしようもない孤独感。
空は茜色に染まり、やがてその色を失うように闇のような黒に染まろうとする。
それがどうしようもなく自分が今、1人である事実を突き付けられている気がしたのだ。
だからこそ今でも鮮明に覚えている。
「君、大丈夫?」
まだ空が茜色を残すなか、自分に向けて手を差し伸べてくれたあの優しい陽だまりのような存在を……。
・・・
ここは私立最正学園。歴史と伝統のある学園であり、部活動も盛んに行われいる活気ある学園でもある。放課後の時間帯、多くの学生が思い思いの行動をとり始めるなか、この学園に在学しているツムギは手早く荷物を纏めて帰り支度を整えようとする。特に部活動の類には所属しておらず、今日も今日とてGBBBBで集まる予定があるのだ。
「ノセっち~」
机から立ち上がろうとした時、不意に頭上に何者かの体重がかかり、ツムギのイチノセの苗字をもじったあだ名を呼ぶ女性の声と共に甘い香りが漂ってくる。
「ノセ〜。ノーセー。ノッセノッセ。ノォオセェエ〜〜〜!」
「ダル絡みやめてね?」
誰かがツムギの頭に寄りかかって体重を預けているのだろう。そのままグラグラとツムギごと身体を揺らすと、安定しない視界にツムギは顔を顰める。
「トオノ、どうしたの? なにかあった?」
「何かあったか聞きたいのはこっちの方なんだけど」
漸く離れたのか身体が自由になったのを感じる。
改めて向き直ってみれば艶のある赤紫色の髪を腰まで届くサイドテールに纏め、どこで出会えば思わず視線が吸い込まれそうな美貌を持った少女が「やっほー」と軽く手をあげながらその水色の瞳の視線はまっすぐツムギに注がれていた。
彼女の名前はトオノ・ナギサ。ツムギの幼馴染だ。しかしその可愛らしい表情もたちまち不満顔に変わる。
「最近、付き合い悪すぎない? 学校が終わったらすぐ帰っちゃうし。お姉ちゃん寂しい……。昔はよくナギサお姉ちゃんって慕ってくれてたのに……」
「存在しない記憶だ……」
今のツムギにとってGBBBBの存在は大きいのだろう。現実世界での交友関係を少々疎かにしているようだ。「よよよ……」とわざとらしく泣き真似をしているナギサだが、そもそもツムギはナギサを良い友人だと思ってはいても姉と慕った覚えはない。
「でもちょっと前まではさ。よく一緒に遊んでたじゃん。何だったらノセの方から誘ってくれてたのに……。そうやって飽きたら捨てるのね……」
「人聞き悪くない? いや……まあ確かに最近、トオノとは登校の時くらいしか一緒にいないけど」
幼馴染に間柄だけあって以前は頻繁に遊んでいたようだがツムギにとってGBBBBが生活の一部のようになってからは一緒にいる時間も少なくなってしまってその時間が多かった分、寂しさを感じているようだ。
「そんなにGBBBBって楽しい?」
「うん。結構知り合いも増えたりしてさ、充実してるんだ」
GBBBBについてはどこかでツムギから名前は聞いていたのだろう。そして熱中していることも。それは今もナギサの問いかけに即答で力強く答えたことからもその熱意が受け取れる。
「でもさぁ、これでもナギサさんはモテるんだけどなぁ? 良いのかいー? そんな雑な扱いしてー」
とはいえそれとこれとは話が別なのか、唇を尖らせながらこれまでの不満を表すようにぐりぐりと人差し指でツムギの柔らかな頬を押し当てる。
「トオノがモテるのはわかってるよ。俺も好きだもん。ただ今日は約束があって……。今度埋め合わせするから!」
ナギサと付き合いが長い分、その整った容姿だけではなく彼女の人柄も知っているのだろう。袖にする訳ではないが、約束の時間までもうあまり時間がない。ツムギは言葉も程々にリュックを背負って教室を後にする。
「……あぁいうことサラッと言うんだよなぁ」
廊下に顔を覗かせれば既にツムギの背中はどんどん小さくなってしまっている。勿論、好きという言葉は恋愛的な意味ではないというのツムギとの付き合いから分かるが、年頃にも関わらず平気で言ってのけるツムギに対して気恥ずかしそうにポリポリと指先で頬をかいてしまう。
「GBBBBねぇ……」
ナギサはガンプラどころガンダムシリーズにも疎い。だからこそGBBBBに対してもツムギから齎される情報以上のことは知らない。しかしツムギがあれ程までに熱中しているのであれば興味が湧かないといえば嘘になるだろう。ナギサも帰り支度を済ませると学園を後にする。
・・・
「ここ……で合ってるんだよね」
ナギサが向かう先は自身の家ではなかった。スマートフォンに表示させている地図アプリの案内をもとに訪れたのはブレイカーズ3号店であった。
「あの……GBBBBについて聞きたいんですけど。その……始めてみたくて」
「GBBBBですか? それだったら……店長ー?」
ここに来る途中で多少下調べはしたがGBBBBはトイショップと連携してガンプラのスキャンなどを行っているようだ。GBBBBで分からないことがあっても教えてもらえるだろうと高を括ったナギサだが、どうやらGBBBBを始めようとしているらしい。店内でたまたま近くを通りかかったパートであろうミドルエイジ位の女性店員に声をかけると、店員は説明は出来るだろうがあまり詳しくは知らないのだろう。適任がいるとばかりに店の奥の方へ向かって呼びかけると「はーい」の返事と共に美しい桃色の髪の人物がやって来る。
「GBBBBについてですね。ガンプラのスキャンでしょうか?」
「あっ、いえ……。ガンプラは持ってないんですけどGBBBBって始められるんですか? その……興味本位だから詳しく知らないし、何も持ってないんですけど」
ユウヒだ。店員から軽く説明を聞いてナギサの対応を引き継ぐ。とはいえナギサも半ば思いつきでGBBBBの世界に飛び込もうとしているので詳しくは分からず、説明している途中で何の準備もない事に気付いて不安を感じ始めているようだ。
「ガンプラがないとゲームのミッションは出来ませんがログインだけなら出来ますよ。当店もGBBBBのβテストが始まった当初は体験会も行っておりましたので貸し出し用の機材もありますし、あちらの作業ブースで少々お待ちください」
一先ずガンプラがなくてもGBBBB自体には行けるようだ。お手本のような接客の態度を崩さず、ユウヒは手で作業ブースを指し示すとコクリと頷いたナギサがそちらに向かっていくのを 横目にバックヤードへ向かう。
作業ブースに足を踏み入れたナギサ。普段、プラモデルの類に触れていないせいか、塗料の臭いが鼻孔を刺激するなか、ふとナギサの視界の端にあるものを捉える。そこにあったのはこのブレイカーズを利用している客達が制作したであろう個性の光るガンプラの数々がショーケースに飾られていた。
「……ノセ、ここに来てるんだ」
誘われるように眺めているとその中にはツムギの手掛けたガンプラもあった。ガンプラの足元には作品名と手掛けた作者の名が記される小さいカードが置かれているなか、素人目から見ても丁寧に作られたそのガンプラにナギサは目を奪われていた。
「なにかございましたか?」
だがそれもユウヒの声で現実に引き戻される。振り返ってみればGBBBB世界へ向かうために必要な機材を一式持ってきたユウヒがいた。
「知り合いの作品があったので」
「知り合い? もしかしてツムギ君の?」
知り合いと言われてユウヒがナギサの先に展示されているガンプラの作品達を見やり、同年代からツムギの存在を導き出し、名前を挙げる。
「はい。彼が楽しそうにGBBBBについて話してるから興味が出ちゃって……。ガンプラも……正直、ガンダムについても詳しくないのに変な話ですよね」
「変とは思いませんよ。ガンプラだってデザインが好きだからガンダムの内容知らなくても買う方もいます。入り口は何でも良いんですよ」
GBBBBの興味を持ったものの自分はGBBBBどころかガンプラやガンダムシリーズにも疎い。ふと自嘲したように笑うナギサだがユウヒはあっけらかんとした様子で答える。
「じゃあ早速スマホの方にアプリをインストールしてもらってアバターを作りましょうか。もしかしたら向こうでツムギ君に会えるかもしれませんし」
気を取り直して他の客の邪魔にならないよう隅の机に移動したユウヒはナギサのGBBBBデビューをフォローするのであった