ガンダムビルドブレイカーズ ReBreak 作:ウルトラゼロNEO
「ノセーっ!」
「ごふっ!?」
ロビー広場に戻ってきたツムギ達。クラン・ブレイカーズだけではなく、ロビー広場でバトルを観戦していた多くのプレイヤーが熱烈に迎えるなか、ナギサはまるで犬がじゃれつくかのようにツムギの懐に突撃し、思わぬ行動にツムギの身体はくの字に曲がる。
「……」
そんな姿をロビー広場の人混みの外れから、ツムギによく似た姿の青年が微笑みながら見守っていた。
「──優勝おめでとう。決勝に相応しい、いい戦いだった」
そんなツムギ達に声をかけたのはマイスターであった。その背後にはアルティメイトフォースゼロのメンバーが控えている。
「負けたっていうのに、何でそんなスッキリした顔してんだよ」
「絶対王者とまで呼ばれていた方が敗北を喫することになったのです。悔しさもあるはずでしょうに、何故そこまで笑顔でいられるのですか?」
バトルトーナメントの決勝、ましてや伝説的な連勝記録を誇り、GBBBBのトップに君臨していたマイスター。それが負けたともなれば悔しさは誰よりも強い筈だ。にも拘わらずマイスターの表情は晴れやかで微笑すら見せている。そんなマイスターの態度を不思議に思ったマシマとシーナが疑問をぶつける。
「……フッ、待ち望んでいた存在に出会えたから、かな。この世界を託せる……そう思えるビルダーがやっと現れてくれたのだから」
「託す……? なんか大げさだね。まるで引退するみたい」
マイスターはツムギやクラン・ブレイカーズをまっすぐ見ながらどこか嬉しそうに話す。しかしその物言いは新チャンピオンの誕生を祝うにしては大袈裟な物言いであり、ミサは首を傾げる。
「みたい、ではないさ。私はガンプラバトルを引退するつもりだ」
あっけらかんと話しているが、その内容の衝撃は凄まじかった。GBBBBの頂点に君臨していた王者が引退すると言うのだ。ユカやユウヒ達などの一部は左程驚いていない様子だが、クラン・ブレイカーズのみならずそれを聞いていたプレイヤーの誰しもが驚き、今まさにGBBBB全体が揺れるのではないかという程、驚愕していた。
「ま、待ってよ! 引退って、どうして……」
「……やりたい事があってね。とはいえ、今すぐという話ではないよ。リリン君を救出という大仕事も残っているからね。その件に関しては引き続き、全力を持って君達に協力させてもらうよ」
負けたからといって引退までする必要はないだろうと引き留めようとするリンだが、マイスターはどこか遠くを見据えるように話す。GBBBBではなく、リアルでの話なのだろう。そう言われては誰も止める事は出来なかった。だがリリンの救出に関しては協力を約束してくれており、逆に言えばリリンの救出を最後に引退するつもりなのだろうか。
「ツムギ君、これを」
するとマイスターは一歩踏みだし、ツムギを見やる。腕を立て構え、袖に装飾されているクリスタルが輝くとそこから何かのデータがツムギへ送られる。
「これは……」
「……私からの優勝祝いだ。では、改めて……優勝おめでとう」
データ内容を確認したツムギはマイスターを見ると、笑みを見せたマイスターは改めてツムギ達の勝利を祝い、アルティメイトフォースゼロのメンバーと共にこの場を立ち去る。
「おめでとう、って言われたところで……頭の中が真っ白だぜ」
「ええ、マイスターがいないGBBBBなんて想像もできないと言いますか……」
GBBBBの象徴とも言えるマイスターの引退。それはGBBBB全体を駆け巡り、大きな話題を呼ぶ。ロビー広場全体がその話題で持ち切りな中、マシマとシーナは戸惑いを隠せずにいた。
「しかも、僕らに負けたことで引退を決意したんやったら……僕らがみんなからマイスターを奪ったって事になるんかな?」
マイスターは待ち望んだ存在が現れたと語っていた。その言葉通りなら今回のバトルが引退を決意するきっかけだったのではないか。そう考えると多くのプレイヤーに慕われていたマイスターを奪ってしまったとタオは気まずそうに話す。
「それは違うよ。確かにマイスターの存在は大きいけど、マイスターは俺達ならGBBBBを託せると思ってくれたんだ。だったら胸を張って、その想いに応えるだけだよ」
「そうだね。マイスターの代わりなんかじゃない。君達は君達のありのままでこのGBBBBを走って行けば良い。かつてのマイスターがそうしていたようにね」
タオの言葉を否定しながらツムギはマイスターの言葉を噛み締めるように強く手を握りしめる。強い決意を表すようなツムギの姿に頷いたユウヒはクラン・ブレイカーズのメンバーに微笑みかける。
「GBBBBも世代交代ってことだね。彩渡商店街チームもそうだったけど……」
《──お疲れさん。それと優勝おめでとう》
ツムギとユウヒの言葉にクラン・ブレイカーズがそれぞれの想いで頷くなか、感慨深そうに話すミサ。するとカドマツから通信が入る。
《バトルトーナメントを通じて、みんなの熱い想いを沢山集める事が出来た。後はこれをデータの形にしてリリンのアクセスルートに突っ込んでやるだけだ》
「漸くリリンを助けに行けるってこと!?」
元々はリリンの為に開催したバトルトーナメントだ。どうやら上手く作用したようでカドマツからの報告にリンは嬉しそうに反応する。
《その為の準備をこれから始めるところだ。準備が整ったら、また連絡する。その時は頼むぜ》
「任せといて! 今度こそリリンを目覚めさせるんだから!」
後はカドマツ達を信じて、リリン救出作戦の日を待つだけだ。リリン救出の強い意志を見せるリリンに笑みを見せながらカドマツは通信を終える。
「……えっ」
するとミサはふとメッセンジャーに何かの連絡が来ている事に気付き、呆気にとられる。
「……行ってきなよ、ミサ義姉さん。それ、アイツからでしょ?」
「う、うん……。行ってくる!」
そんなミサに何か気付いたのか、ユカはミサにさり気なく声をかけると、ミサはすぐさまこの場を離れていく。
「ホンット、世話が焼けるんだよね。ミサ義姉さんも大変だよ」
「ふふっ……ですがユカも肩の荷が降りるのではなくて?」
「……そーだねぇ。漸くこの日が来たかって感じかな」
やれやれと言わんばかりに肩を竦めるユカの隣でクスクスと笑うシオン。そんなシオンに頷きながら、ユカはミサの背中を見送るのであった。
・・・
「──先程は急な話で驚かせてしまったね。すまない、ミサ君」
アルティメイトフォースゼロのクランルーム。マイスターしかいないこの部屋に入室してきたミサをマイスターが迎える。先程、ミサのメッセンジャーに連絡したのはマイスターだったようだ。
「気にしないで。それより、私1人に話したいことってなに? まさかその仮面を外して正体を明かしてくれるとか?」
マイスターと2人きりの空間。話しているミサの声もどこか柔らかい。そんなミサはマイスターにおどけながら話す。
「……そうだな。もう良いだろう」
するとマイスターはミサに頷いたのだ。自分で言ったこととはいえ、思わぬ発言に驚くミサを他所にマイスターはその仮面を外し、素顔を露にする。
「ミサ」
ユカと同じ特徴的な真紅の瞳。その瞳とマイスターとしての声色ではなく、聞き馴染みのある僅かに低い声色で自分の名前を呼ぶその姿にミサの鼓動が跳ね上がる。素顔を晒したことでどこか不安そうにも見えるその姿は紛れもなくミサが知るアマミヤ・イチヤだったのだ。
「……本当にイチヤなの? なりきりとかじゃなくて? そ、そうだ。私とイチヤが知ってること話してよ!」
「えっ。あぁ……アップルパイにアップルが入ってるけど、ペチャ「あぁん?」……えー……うーん」
信じきれないのか、ミサからの思わぬ発言に戸惑いながらも何とか絞り出そうと何気なく話そうとするイチヤだが、途端にミサに凄まれて頭をフル回転させる。
「急に言われてもな……。あー……ミサがロボ太に店番を──」
ミサの地雷を踏まない範囲で考えているイチヤだが、中々浮かぶものではないのだろう。頭を悩ませるイチヤだが、その途中で視界が揺れる。見れば、ミサがイチヤの懐に飛び込んでいたのだ。
「……おかえり」
「……ああ。ただいま。待たせてごめん」
イチヤの存在を確かめるように強く抱きしめるミサにイチヤもその背中に手を回す。しばらくお互いの存在を確かめるように抱きしめ合っていた。
「……色々と話さなきゃいけないよな」
「そうだよ! イチヤが連絡絶ってしてたとこってマイスターだったの?」
アマミヤ・イチヤとの、そしてアマミヤ・イチヤとしての再会。どれだけこの日を待っていた事か。ふと呟くイチヤにミサは疑問をぶつける。
「……そうと言えばそうだな。カドマツが運営に誘われた後に俺の方にも連絡が来たんだ。ガンプラバトルシミュレータに纏わるウイルス事件に関わって来た俺の意見と力を貸してほしいって」
イチヤもまたGBBBBの運営側に誘われてマイスターの立場にいたようだ。連絡を絶っていたのもカドマツと同じような理由だろう。
「それだったら私も一緒に協力したのに!」
「そう言ってくれるとは思ってたけどダメだ。ガンプラバトルは楽しむものであって、ウイルスとかそんなものは本来俺達とは無関係にあるべきなんだ。アレはただ心をすり減らせるだけだ。だからミサにはやるにしても純粋にGBBBBを、ガンプラバトルを楽しむだけにしてほしかった」
ミサが言うようにウイルス絡みであれば話してもらえればミサも協力しただろう。だが、イチヤは首を横に振る。ガンプラバトルを愛しているからこそ、ガンプラを武器にウイルスと戦うような真似を愛する存在にさせたくはなかったのだろう。
「……ガンプラバトルは俺に色んなものを与えてくれた。ミサとの出会いもそうだし、色んな人達と俺を繋いで、俺に多くを教えてくれた。そんなガンプラバトルに恩を返したくて……これから続く多くのガンプラバトルをする人達にウイルスとか関係ない純粋な面白さを感じてもらいたくて……そう思って、俺はここに来たんだ。まあ、ここまで寄り道するとは思ってなかったし、結果的にカオスを止める事が出来なかったんだが」
イチヤなりにガンプラバトルへの想いからマイスターとしての立場を選んだようだが、それでも思いは強くてもGBVの蔓延からカオスの凶行を止められなかった不甲斐なさをどこか嘆いていた。
「だが、ツムギ君達が現れて考えが変わっていったんだ。例え俺がいなくたって、その世界で発生した問題は今、そこに生きる者達がきっと解決する事だろうって。彼等を見て、そう思えたんだ」
今を懸命に走り続けるツムギ達新世代のビルダー達。若さゆえの我武者羅なその姿にイチヤも考え方が変わっていき、ツムギ達を信じてマイスターの引退という道を選んだようだ。
「……イチヤの考えは分かったよ。でも……でも、バカだよ! 私にとってイチヤに会えない時間がどれだけ寂しかったか!」
「……そうだな。ミサを悲しませるつもりはなかった。カドマツやモチヅキさんみたいに上手くやれれば良いんだけど、どうにもできなくて……謝ることしかできないけど、本当にごめん」
イチヤの考えには理解はしたが、それでも不満は大きいのだろう。イチヤもまたミサの怒りは真っ当だと思い、深々と頭を下げる。
「許さない」
頭を下げたイチヤの耳に届いたのはミサの冷たい言葉だった。その声にイチヤの身体が強張るなか、ふとイチヤの顔に手を添えられ、そのまま持ち上げられると、ミサはそのままイチヤに抱き着く。
「……これからはずっと、ずーっと一緒にいてくれなきゃ許さないんだから」
「……ああ。そのつもりだ」
それでもミサはミサなりにイチヤを許したのだ。懐にいるミサの身体に手を回し、イチヤは再び彼女を抱きしめる。
「……引退した後、宇宙技師の道を進もうと思ってるんだ。GBBBBの合間にずっと資格は取って来たし、俺達の“ともだち”を……ロボ太を迎えにいきたい。辿り着けるかは分からない……。諦めたくないんだ。最後まで」
「……そっか。うん。じゃあ、私もイチヤを支えるよ。私だってロボ太に会いたいもん」
引退した後の話を明かすイチヤ。宇宙に流されるロボ太に会いに行くのならば、確かにGBBBBに居続ける事は出来ないだろう。そんなイチヤにミサは改めてパートナーとして彼を支えていく決意を示す。
「……リアルでも会えるよね」
「勿論だ。もう……隠し続ける必要もないと思うから」
GBBBBで再会できたことは嬉しいが、それでもイチヤにはリアルで直接会いたい。頷いたイチヤにミサは心から嬉しそうに、そして愛おしそうに彼を抱きしめる力を強めるのであった。
・・・
後日、彩渡商店街近くの見晴らしのいい高台にはイチヤの姿があった。近くには彼が乗っている大型バイクの姿もある。イチヤはそこで何かを考えるように目を瞑る。
『──今日と言う日は始まりだ。別々の道を行くためのな』
『けど忘れんなよ。俺の中にお前達がいるように、お前の中に俺達がいれば、同じ道を歩いている。立ち止まることがあっても、背中を押してくれる筈だ』
『なあに心配すんな。お前の手には未来を掴む手があるんだ。ただ真っ直ぐ前だけ見てくれれば、そのうちに俺達の道は重なるさ』
『また会おうぜ、イチヤ』
ここでかつてイチヤとミサにとってとある大切な兄貴分、姉貴分のような存在達と別れた。その時の事を思い出しているのだろう。
「……俺は1人じゃない。1人でやろうとする道はもう選ばない……って言ったら喜んでくれるよな」
ゆっくりと目を開いたイチヤはふっと微笑む。今の彼にはもう柵はないのだろう。晴れやかに澄み渡る空を仰ぐ。
「イチヤー!」
そんなイチヤを呼ぶ声が聞こえる。見てみれば、そこにはミサの姿が。久方ぶりのリアルでの再会に目一杯気合をいれてお洒落をしてきたようだ。イチヤを見て、待ちきれず走って来るその姿に微笑みながらイチヤはミサの元へ向かうのであった。