ガンダムビルドブレイカーズ ReBreak 作:ウルトラゼロNEO
「こちらお願いします」
最正学園。その職員室ではツムギが担任にクラスで行ったアンケート用紙を纏めて提出していた。担任の礼の言葉を笑顔で答えながら職員室を後にする。
「ノセっち~」
このまま教室に戻ろうかと何気なく歩みを進めようとしたところナギサから声をかけられ、2人は自然と並びながら歩いて行く。
「ねねっ、ノセは今日GBBBBに行くの?」
「そのつもりだよ。まあ今日は特にクランで集まる約束はしてないけど」
人懐っこい無邪気な笑みを浮かべながらツムギの予定を尋ねる。半ばGBBBBに入り浸っている訳ではあるが、クランでの約束がなくとも今日もGBBBBにログインするようだ。
「じゃあさじゃあさ。ノセの時間を私にちょーだい! 一緒にGBBBBやろうよ~」
「良いよ。俺もトオノと遊んでみたかったし」
ツムギの腕に自身の腕を絡めながら、子供が駄々をこねるようにぶんぶん揺らすナギサ。こういったナギサの仕草は慣れっこなのか、されるがまま揺らされながらも予定を合わせる。
「やったね。今日の放課後にママと買い物に行く予定だから、その後になっちゃうけどまた連絡するよー」
ツムギに約束を取り付けられたことで揺らしまくっていた腕を漸く止め、2人は教室に戻るまで腕を絡めたままでいるのであった。
・・・
「……」
数時間後、GBBBBロビー広場。その中心には最早GBBBBの象徴ともいえるガンダムルークの立像がその存在感を発揮するなか、それを真正面から見える場所に1人、シーナの姿があった。何やら憂い帯びた表情を浮かべ、何をするでもなくそこにずっと立っていた。
「シーナさん?」
「あっ……ツムギさん」
いつも嫋やかなシーナには珍しいその姿にログインしたツムギは声をかける。ナギサとの約束までまだ時間はあるが何かミッションでもして時間を潰そうと思っていた。しかし何か考え事で頭がいっぱいだったようでツムギに声をかけて漸く現実に引き戻されたようで慌ててツムギに向き直る。
「すみません、ボーっとしていて……。気付くのに遅れてしまいました」
「いえ、俺もシーナさんを見かけて声をかけただけで用があった訳ではありませんから。……何かあったんですか?」
シーナには珍しい様子だが、謝られたところで大した話でもない。とはいえ先程のシーナが気になったのか、不躾を承知で尋ねてみる。
「……少し考え事をしていたんです」
考え事など誰しもがする事だろう。相談してもらえれば話に乗るが言いづらいのであれば、ツムギとしてもこれ以上の詮索をするつもりはない。しかしシーナは意を決したようにツムギを見据える。
「……もしアナタが大切な人から好きなことを諦めるように言われたら、どう思われますか? 例えば近しい人、家族とか……親しい友人とかそんな関係の方に」
それがシーナの悩みなのだろうか。何を諦めるように言われているのかは分からないが、それでもシーナからはその深刻さの度合いが見て取れた。
「すみません。突然、妙なことを言ってしまって……。こんなことゲームの中で話す話題ではありませんでしたね。失礼しました」
「いえ……。内容によるとは思いますが、でも俺は好きな事を諦めたくないです」
突然の問いかけ。それも中々にシーナを悩ませるような重い内容に面喰いながらも思考を張り巡らせようとするも、ここはあくまでGBBBBであり、そんな事を話す場ではないと切り上げようとするもすぐにツムギは先程のシーナの問いかけに答える。
「例えば俺はGBBBBが好きです。俺にとっての大切な人がGBBBBを理解せずに止めろと言われてもすんなりとは納得できません。別に必ずしも理解してもらう必要なんてありません。所詮趣味の遊びですしね。でも遊びだからこそ全力で、挑戦的でいられるこの場所を俺は手放したくない。例えそれが大切な人とぶつかる事になったとしても」
普段、人当たりの良い態度でいるツムギの真摯でまっすぐな言葉。彼の根底にあるのはその真っ直ぐさなのだろう。そんなツムギをどこか眩しそうに見つめながらも、シーナはふと観戦モニターでランダムに流される今、どこかプレイヤーが行っているプレイ映像を眺める。
「……考えてみれば、敵NPCも哀れなものですね」
シーナの視線に誘われて観戦モニターを眺める。だが彼女の口から出たのはプレイヤーへの感想などではなく、そのプレイヤーと戦うNPC機達だった。
「プレイヤーに倒されるためだけにプログラムに従って動くだけの存在なんて……」
「シーナさん……?」
「いえ、何でもありません」
NPC機に注目する事などあまりない。シーナの発言からしても思い詰めているのは事情を知らないツムギでも手に取るように分かることだ。どこか心配するツムギにシーナは取り繕ったような笑顔を見せるもどこか視線をさ迷わせる。
「あの……ツムギさん。少しお話するお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
やがて意を決したようにシーナはツムギを見つめる。ツムギ自身もシーナの様子は気になるところではあるし、ここまでくれば乗り掛かった舟という奴だ。頷くと2人はロビー広場で話すのも気が引けるとクラン・ブレイカーズのクランルームへ移動する。
・・・
「こんなお話をここでするのはルール違反かもとは思ったのですが……。すみません、リアルのお話です」
幸い、クラン・ブレイカーズのクランルームには他のクランメンバーの姿はなかった。2人はそのままテーブルに向かい合うように座るとシーナから話の内容を打ち明けられる。
「以前にリンさんからお嬢様と聞かれたこともありましたが、実際に我が家は地元で代々続く、いわゆる旧家と言われる類のものなのです。一人娘である私は小さい頃から家を継ぐように教育をされてきました。自由は少なかったですが、そのこと以外では苦労なく生活させてもらってきたのです」
シーナがわざわざ身の上を明かす程の内容なのだと自然とツムギの表情が引き締まるなか、シーナは話を続ける。
「だからなのでしょうか……。物事に対して淡白な人間になっていたんですよね。それが……学校の授業でネットゲームというものが紹介されて。後学の為にとたまたま目についたGBBBBを始めてみたのです。性に合ったのでしょうか。生まれて初めて自分の意思でやりたいと思うようになりました」
GBBBBとシーナの出会いは偶然だった。しかしそれが今、彼女の中で大きな存在になる程に変化していったのには左程時間はかからなかったようだ。
「いつもは自分の立場もあって、中々周りと馴染めないことも多いのですが、この世界では皆さんのように自然体でお付き合い頂けるので居心地も良くて……。ただどうしても自由な時間を作るのが難しく、これまで誘われてもクランへの参加は敬遠していたのですが……」
今一旧家など話されても実感はツムギにはないが、それでもシーナが現実で周囲に一線を引かれて接しられている事、そしてだからこそGBBBBでの居心地の良さに惹かれている事は理解できた。特に後者は自分の大好きなGBBBBだからこそ我が事のように嬉しく思える。
「皆さんとのプレイは楽しくて無理を承知で参加させていただいたんです。……それがリアルの方で少し問題が起きていまして、その対処でログインする状況も中々取れない状況で、この先の見通しも微妙なんです」
敬遠していたクランへの参加を決める程、そして今もそのメンバーである程、彼女がクラン・ブレイカーズを大事に思っていた事は純粋に嬉しかった。しかしやはりその立場上、中々うまく立ち回れないこともあるようだ。
「……でもとりあえず今はこの時間を楽しませて頂こうかなと思っています。もしどうすることもできなければ、またその時に改めてご相談させていただいても……よろしいでしょうか」
「それは勿論。シーナさんの望む言葉を言えないかもしれないですけど、聞くだけでも出来ますから」
悲観するだけではなく、シーナは今、この瞬間のGBBBBを楽しむ姿勢は変わらないようだ。今も聞き役に徹していたツムギはシーナの言葉に頷く。誰かに悩みを聞いてもらう……。それだけでも少しは胸が楽になるだろう。
「……ありがとうございます。優しいんですね、ツムギさん。あ、すみません……。この話、皆さんには内緒にしておいてくださいね。勝手なお話で申し訳ないですけれど」
そんなツムギの想いを察しながら漸く微笑みを浮かべながらシーナは席を立つ。ツムギもつられるように立ち上がると、やはり時間が取れないのだろう。シーナは最後にペコリと頭を下げ、ログアウトするのであった。