ガンダムビルドブレイカーズ ReBreak 作:ウルトラゼロNEO
「リン、遅いなぁ……。今日はミッションに行く約束なのに」
「ユウヒさんも今日はログインするって言ってたけど遅れるみたい」
今日もGBBBBではいつもの面々が集まろうとしていた。しかし肝心のリンがまだログインしておらずロビー広場のどこにもいない。ユウヒも今日はGBBBBに来れるようだがまだログイン出来ていないようだ。
「ん……? あそこにおんのって」
2人でもミッションには行けるが下手に置いていこうものなら後で何を言われるか分かったものではない。どうしたものかと悩んでいると不意にタオは視界の端に見慣れたピンク髪のアバターを見つける。どうやらクランのスコアボードが表示されているモニターを見ているようだった。
「おーい、こっちやで!」
リンのアバターだ。そう思ったタオは手を振りながら呼びかけると、ゆっくりとした動作でこちらに振り返る。だが何故、自分に声をかけてきたのか分からない。そんな様子で一瞬、首を傾げるとゆっくりとツムギ達のもとに歩み寄ってくる。
「……って、あれ? プレイヤーネームが文字化けしとるな。ま、βテスト中やからそういう事もあるか」
冗談交じりに待たされていた事をからかいつつも、タオはリンも同じミッションを参加させようとコンソール画面を表示させるが、不思議なことに目の前のリンのプロフィール画面は文字化けしているのだ。とはいえ、以前もミッション中にノイズが走ったりした事があった為、タオは深くは考えず、そのままミッションメンバーに組み込むも目の前のリンは不可解そうに首を傾げたままだ。
「兎に角、全員揃ったことやし、今日なにをするかの発表やで。ズバリ対人戦や! 相手のチームと戦うんやで!」
気を取り直し、タオは今日行うミッション、いやガンプラバトルについて説明する。今まではNPC機を相手にしたバトルであったが、今日は何と対人戦を行うというのだ。
「まあ、今の僕らならクラン戦にもいけるかもしれへんけど~……。どや、2人ともワクワクするんとちゃう?」
ミッションを重ねて自信もついたのだろう。マイスター達が活躍するクランバトルへの意識を見せる中、タオはツムギ達の様子を伺う。
「折角、GBBBBに来たんだったら他のガンプラファイターとバトルはしてみたいよね!」
「……うん」
ツムギも対人戦に関しては異論はなく、寧ろ乗り気なのだろう。大きく頷きながら対人戦への意欲を見せるとリンは珍しく小さく頷くのみだ。
「あれ、なんかノリ悪いなぁ。リンならもっとノッてくると思ったんやけど」
「……そう?」
ツムギは兎も角、マイスターのニュースを見て、あれだけの意気込みを見せていたリンが消極的な反応を見せるのはタオどころかツムギも予想外だったのだろう。しかしそんな2人にもリンは意に介した様子はない。
「ひょっとして初めてやから不安なん? 意外とかわいいとこあるなぁ。でも安心してええで。ランク分けされてるから相手も初心者や。今の僕らなら余裕綽々やで!」
対人戦と言ってもちゃんと実力に応じたマッチングが行われるようだ。珍しく静かなリンに緊張していると思ったのか、安心させるようにタオが励ますと3人は対人戦へ向かう為、マイハンガーへ移動し、出撃するのであった。
・・・
バトルエリアに選ばれたのは月面基地だった。周囲には基地の建造物が並び、何よりバトルエリア自体も広い。相手チームを探し出し、バトルに持ち込むもよし、トラップを設置したりもよしと戦術が試される。
「よーし、初めての対人戦や。行くで、2人とも!」
「……うん」
クラン・ブレイカーズは初心者らしく小細工なしでのバトルを持ち込むようだ。早速タオがツムギ達に声をかけるなか、相変わらずリンの反応は薄い。
「なんやリン。やっぱり元気ないなぁ。緊張しとるん? ここは僕にどーんと任せとき! 今日はなんかイケる気がすんねん!」
「体調が悪いなら無理しないでいいよ。バトルよりもリンの方が大事だから」
今日、対人戦を選んだのもタオが調子の良さを感じていたのだろう。ツムギ共々、リンを気遣うが相変わらず通信越しのリンは不思議そうな顔を崩さない。
「いつものリンと違うからちょっとこっちの調子も狂うね」
「……いつも、の?」
とはいえいつものリンならば2人に気を使われても素直になれず突っぱねるような事を言うだろう。しかし今日はまともに会話のキャッチボールさえままならない。思わず苦笑してしまうツムギにリンは首を傾げる。まるでいつも、と言われたところで何の話か分からないとばかりに。
「せやで。この前もツムギに助けられても素直になれんかったし」
「この、まえ……?」
以前のHLV防衛ミッションでも突っぱねた態度を取っていたリン。中々素直になれない性分なのはもうツムギもタオも分かっている。しかしリンはその時の事さえも分からないとばかりの反応を見せ、いよいよ3人の雰囲気が怪しいものへと変わっていく。
「……なんかおかしいで。話が嚙み合ってへん気がするわ」
「うん、まるで別人みたいだ」
不穏な雰囲気が支配するなか、流石にリンの態度に違和感を感じ始めたのだろう。タオとツムギは通信越しに顔を見合わせるなか、何かに気付いたのかタオはハッと目を見開く。
「も、もしかして……君、リンじゃなかったり……する……?」
「……り、ん?」
まさかと思いつつも確認してみれば、リンは自分の名前さえ聞いたことがないとばかりにその名を口にするのみだ。流石に調子が悪かったり緊張していたりしていても自分の名前まで忘れることはないだろう。
「うわ、僕やってもうた!? 勘違いしてたわ!」
「でも……何からなにまでリンと同じだよ」
ここまでで導かれる事柄は一つ。今、同じバトルエリアにいるこのリンは自分達が知っているリンとは別人である事だろう。その事に同じバトルに組み込んでしまった事もあってタオは慌てているとツムギはフォローするようにモニター越しにフレールを見やる。そう、今、共に出撃しているリンはアバターどころか、そのガンプラも同じガンダムフレールなのだ。
「えっと……それじゃあ君、名前は……?」
「名前……。……リ、リン……」
とはいえいつまでもリンと呼び続ける訳にもいかないだろう。改めて名前を聞いてみると、名前もすぐに出てくることはなくまるでリンの名を反復するように答えた。
「リ、リン……? リリンでええんかな? 名前まで似てるってホンマにとんでもない偶然もあるもんやね」
(……それだけで済ませられるのかな。少なくともフレールはリンのガンプラだ)
その返答を名前と受け取ったタオだったが、ツムギはわずかに顔を顰めながらモニター越しにフレールを見やる。アバターが仮に似るのはあり得るかもしれないが、ガンプラは少なくとも本人が組む。それがカスタマイズともなれば方向は似ることがあってもまるでコピーしたかのように同じガンプラを使用する事というのは殆どありえない事だろう。
「改めてやけど僕はタオ!」
「ツムギだよ。巻き込むことになっちゃってごめん」
初対面ともなれば挨拶しなくてはならないだろう。改めて自己紹介をするタオとツムギ。リン改めリリンはそんな二人を覚えるかのようにジッと見つめていた。
「バトルは……どうしよう。対人戦なら途中でやめられないし……──!」
そもそもこのバトル自体、リリンが不本意だったならばいけないことだ。とはいえこれがNPCが相手のミッションなら途中リタイアも出来るが対人戦はそうもいかない。どうしたものかとツムギが頭を悩ませていると不意に3人のコックピット内でそれぞれ敵機を知らせる警報を鳴り響かせる。
「──君達が今日の対戦相手かな? 見たところ、まだ初心者のようだが」
そう、これは対人戦。このバトルエリアにいるのはツムギ達だけではない。センサーが知らせる方向を見やればそこには三機のガンプラが月面基地の高台からこちらを見下ろしていた。
その中でもリーダー格であろうカオスガンダムの頭部が印象的な黒いガンプラのファイターがオープンスピーカー越しに声をかけてくる。対人戦にも関わらず半ば初期位置で何やらもたついている様子を見ればそう言ってしまうのはおかしな話ではなく、何より経歴の分からないリリンはともかくツムギ達はまだ初心者といってもいいだろう。
「あ、あれ……? 僕の見間違いやなかったらあの人ら、"フリーダムフリート"やない?」
「ふりーだむ、ふりーと?」
リーダー格のガンプラはブラックロータスの名を冠していた。高台に陣取っていたが、そこから降り立って真っ向からクラン・ブレイカーズに対峙するとタオはそのガンプラ達に覚えがあるのか、クラン名と思われる名を口にすると初めて聞くのかリリンはその名を復唱する。
「このゲームの中でもトップクラスのクランや。僕らみたいな初心者とマッチングする筈あらへん……」
タオの話では目の前のブラックロータス達はマイスター・アインと同じくトップクラスのクランであるようだ。しかしそれはおかしな話だ。出撃前にタオはバトルはランク分けされていると言っていた筈だ。
「……って設定が変わっとる!? ランクフリーバトルになっとるやん!」
「ふむ……どうやらマッチングエラーでもあったようだな。まあ折角の機会だ。お相手しようではないか」
不思議に思ったタオがオプション画面を開いてみれば、バトル設定がタオの設定していたものではなかったらしい。その様子を遠巻きに見ていたブラックロータスのファイター……カオスは手違いがあった事を察しつつも何かの縁とばかりに仰々しく手を大きく広げながらかかってこいと言わんばかりだ。
「うわぁー!? こんなん無理や! 相手が格上すぎるぅ────!」
「……さっき任せときって言ってなかった?」
「言うたけども! やけども……」
完全にパニックになってしまっているタオにリリンが指摘する。しかしそれはあくまでランク分けされているバトルだと思っていたからこその発言だろう。
「……じゃあ、頑張ろ」
「トップクラスのクランなんだ。胸を借りるつもりでいこうよ!」
だがタオに比べてリリンは気にした様子もなく戦闘態勢に入るとツムギも同意する。流石にツムギもこんなことになるとは思っていなかったが、それよりも今はトップクラスのクランが誇るガンプラとバトル出来ることへの喜び方が上回っているようだ。
「……えぇい、こうなったら自棄や! 当たって砕けるで!」
既にストライクブレイザーとフレールはバーニアを稼働させ、戦闘に向かって行ってしまった。その後ろ姿を眺めながらタオもまた腹を括ってフリーダムフリートとのバトルに臨むのであった。