半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.101「明順応」

 (きゅう)の国、城内部。

 廊下を騒がしく走る足音が響く。

 大きな音を立てて襖を開けたのは、北王(ほくおう)だった。

 

「おい! 今外で──……」

 

 何が起きている? そう問いかけようとして、北王は言葉を飲み込んだ。

 目の前に居る王の容態が、明らかに悪化していたからだ。

 

 玖の顔を覆っている布の下から、鮮血が滴り落ちている。

 畳を赤黒い染みが侵食していた。

 

「古傷か」

「……」

 

 北王は身をかがめ、玖の背をさする。

 玖は俯いたまま、手で顔を覆い苦悶に耐えていた。

 

「あの少女から特定でもしたか」

 

 玖は痛みに耐えながらも冷静に分析する。

 あの少女とは(なぎ)のことだ。

 敵が凪の記憶を読み取り、この隠れ場所を特定したのだ。

 

「しっかりしろ」

 

 そう玖に声をかけながら、北王は思考を巡らせる。

 

 (かのと)の気配もある、来ているのか……。

 

 息子の気配を察知し、その身を案じる。

 

「北王君……場合によっては──……」

 

 玖は覚悟を決めた声で、北王に指示を出した。

 

 ◇

 

 城周辺の森の中。

 辛は警戒しながら歩を進めていた。

 

 気配を隠せる奴だから、はっきりとは分からないが……何故か(あいつ)に渡していた短剣を持っている。

 

 辛の思考は、かつての同僚・(くろ)に向けられていた。

 闇神である玄は気配を消せるため、直接探知することはできない。

 けれど、玄はなぜか凪が落とした短剣を所持している。

 あの短剣は辛が能力で生成したものだ。微かだが、自分の作った金属の場所なら辿れる。

 

 神側なのだとしたら、(ひのと)のことを聞けるかもしれない──……。

 

 元同僚である玄になら、弟の情報を聞き出せるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて辛は進む。

 ふと、背後の殺気に気づき振り返る。

 

 元同僚・(すい)が、音もなく刀で斬りかかってきていた。

 辛は瞬時に金属を生成し、白刃を受け止める。

 

「防いだか。だが、お前は俺が殺す」

 

 辛が一歩引いて距離を取る。

 翠が刀を構え直し、低く告げた。

 土煙が舞い、木の葉が散る。

 

 ◇

 

 シロホンの頭を光線が貫いた直後。

 ウミリンゴ、ティー、キルキーが無言のまま振り返る。

 そこには、頭部を欠損したシロホンが倒れていた。

 少しばかりの沈黙。

 

「ちょっと!! 何早速死んでるのよ!?」

「いつもの」

 

 ウミリンゴが叫び、ティーが軽口を叩く。

 すると、倒れていた死体がむくりと起き上がった。

 

「うるせぇ。良いからお前らもさっさと行け!」

 

 頭からは血が流れていたが、肉と骨が急速に盛り上がり、傷は瞬く間に塞がっていく。

 

「待って、まだ『印』を貰ってないわ! そのために戻ってきたのに」

「はあ? ……ちっ、貸せ」

 

 ウミリンゴがシロホンに歩み寄りながら叫ぶ。

 シロホンは舌打ちし、乱暴にウミリンゴの酒箱に触れた。一瞬で『印』が刻まれる。

 

 崖下では、心を無くし操られた状態の真白(ましろ)が、次弾の光線を放とうとしていた。

 

 轟音。

 土煙が舞い上がる中、飛翔する影が現れた。

 

 ティーは自身の能力で翼を作り出し、空へ舞い上がる。

 ウミリンゴはキルキーに抱えられて飛んだ。

 

「シロホン!」

 

 ウミリンゴが空から振り返り叫ぶ。

 

「行け。あいつの狙いはオレだ」

 

 地上に残ったシロホンが背中で答える。

 シロホンを残し、三人は城の方角へと移動した。

 

 姉を殺された恨みだったか──……。

 

 シロホンは宿での襲撃を思い返す。

 真白の姉・あかねは、結果的にシロホンの手によって死んだ。

 真白はその仇として、執拗にシロホンを狙っている。

 

 悪いが生かしてもらった以上、死んでやるわけにもいかなくてな。

 

 シロホンは不死身だが、かつてあかねに血を分け与えられ、救われた過去がある。

 その命を、簡単に捨ててやるわけにはいかない。

 そう決意し、崖を蹴って下の真白へと迫る。

 真白は無表情のまま光線を放ち、崖を狙った。

 

 一直線に飛んでくるシロホンの動きを読み、左横から偏差射撃のような光線を浴びせる。

 

 簡単には近付けさせないか。

 

 シロホンはそう思いながらも回避しきれず、光線に身体を貫かれ、横の木々の中へと吹き飛ばされた。

 鮮血が宙を舞う。

 

 だが、その一瞬。

 崖にはシロホンの『印』が刻まれていた。

 能力『呪い』。媒介は『印』。

 付けた印の種類によって効果は変わる。

 

 シロホンは吹き飛ばされながら地面にも触れ、同様に『印』をつけていた。

 崖と地面に『爆』の文字が浮かび上がり、そして──

 

 起爆!!

 

 崖は大きな音を立てて崩落し、爆発的な土煙が舞い上がった。

 真白の周囲を、視界を奪うほどの濃密な粉塵が覆う。

 

 草むらで音が鳴る。真白は反射的にその方向へ光線を飛ばす。

 シロホンへ再び光線が迫る。

 けれど、光線は空気中に充満した物質によって屈折し、拡散し、その威力を喪失した。

 

 シロホンは()の国にて、辛の話を聞いていたのだ。

 

『真白の攻撃なら、粉塵などで焦点をずらしてやれば良い』

 

 辛は本を広げて、論理的な対抗策を教えていた。

 シロホンが書庫で本を漁っていたのも、光対策の知識を得るためだった。

 

 一瞬隙さえできれば……あとは印をつけて動きを封じる!

 

 シロホンが煙の中から肉薄する。

 対して真白は、自身を強烈な光で包んだ。

 

 閃光。

 

 目が、視界が完全に眩む。

 「明順応」によって視界を奪われたシロホンに対し、真白は一歩引いて距離を取る。

 

 だが──その足音を、シロホンは捉えていた。

 

 真白の位置を正確に把握し、踏み込み、右手を振る。

 真白の首と鎖骨辺りに、ペタリと『封』の印が付いた。

 

 糸が切れたように真白は大人しくなり、その場に倒れ込んだ。

 

「あの蝙蝠ほどではないが、耳は良い方なんでな」

 

 シロホンがため息交じりに呟く。

 あの蝙蝠──ティーは聴覚に特化した悪魔だ。

 だが、シロホンもまた音楽家。人並み以上に耳は良い。

 

 煙は段々と晴れていき、静寂の中に木の葉が舞っていた。

 シロホンは足元の真白を見下ろす。

 

 もっと罵倒されたりするかと思ったが、ティーの言うように心がない……いや、オレだけを狙っていたから全くないわけではないのか……?

 

 再び真白と対峙した時、姉のことについて憎悪をぶつけられる覚悟で居た。

 けれど今の真白からは、何の感情も感じられない。

 

「……」

 

 シロホンは無言で向き直る。

 

 操作していた『音』の方も気になるし、終わってからで良いか。

 

 軍人を操作していた音は、今ティーによって打ち消された。

 けれど、その音源となっている能力者の正体が気にかかる。

 真白と姉の件は後回しにし、先にやるべきことを優先する。

 

 ……オレも急ぐか。少し能力を使いすぎた──……。

 

 シロホンは走り出した。

 不死身の再生能力を使いすぎたことに、一抹の不安を抱えつつ。

 

 その様子を、物陰から見つめる「二つの影」があったことに、気が付かずに。

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