半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
城を目指し、ティー、ウミリンゴ、キルキーが疾走する。
「そういえばあんた、『音』の発信源、分からなかったわけ?」
ウミリンゴが走りながらティーに問う。
「知ってどうすんの?」
「そりゃ直接殴りこんで色々聞き出す」
ウミリンゴは短絡的かつ直接的な解決を望んでいた。
ティーは頷くが、すぐに表情を険しくさせる。
「ああね~。それが、なんて言うか……音源が一か所じゃなくて、なんかこう……場所が転々としてて」
ティーは困惑気味に説明する。
聴覚に優れた彼でも、発信源が不規則に移動しているため特定できなかったのだ。
「移動系の能力持ちでもいるの?」
ウミリンゴが推測を口にする。
三人が駆け抜ける傍らには、無数の軍人と王直属兵の死体が転がっていた。
◇
一方、シロホン。
音ではなく、別の要因で操られ動いている軍人がいた。
シロホンはすれ違いざまに彼らに触れ、次々と『印』を刻んでいく。
「ったく……何が目的でこんな──……」
悪態をつきながらも印をつけて回り、手際よく敵の動きを封じていく。
その時、背後から何かが近づく気配を感じた。
シロホンは鋭く振り返る。
◇
「
一方、
その後ろを
「辛のことだからそんなに心配しなくても良いのでは?」
「でも他にすることないよ、私ら」
爪戯が冷静に言うが、凪が食い気味に答える。
正直、戦闘力の高くない凪には、今のところ明確な役割がない。
爪戯には特に理由がなかった。
「確かに辛について来ただけだけど……ってか王? ってあんたの親じゃないのか? 行かなくて良いの?」
爪戯がふと疑問を投げかける。
二人は辛について来ただけだが、凪に関しては、王の身を案じるのが自然なはずだ。
けれど凪は、驚くほど心配していない。
「いや──……本当の親じゃないんであの人──……」
「!?」
凪がさらりと衝撃の事実を告白した。
爪戯の顔に冷や汗が流れる。
「向こうも私のことどうでも良さそうだし」
凪は王の態度が冷淡であることを、まるで他人事のように告げる。
「ああ、そう……」
「何、その反応!」
爪戯の視線は、気まずそうに空へと逃げていた。
「いや、オレも
「んん~?」
爪戯の母・
使えないなら死ね、と言わんばかりの親だったのだ。
ゆえに爪戯は、凪の家庭環境についてどうこう言える立場ではなかった。
そんな緩いやり取りをしていると、不意に爪戯の目つきが鋭くなる。
能力の気配。背後から何かが飛来した。
咄嗟に凪を突き飛ばし、背後に氷壁を展開して盾にする。
後方……氷で壁を作ってみたけど……
「大丈夫?」
「掠っただけ」
氷壁を貫通し、爪戯の方を弾丸がかすめていた。
凪が立ち上がり、慌てて駆け寄る。
前みたいに火力でも上げられたら──……この場を早く離れ──……
爪戯は
氷を貫通するほどの威力なら、防ぎきれない。
次の瞬間、今度は前方から弾丸が飛来し、右腕をかすめた。
前から……!?
爪戯の目が見開かれる。
微かに鮮血が舞う。
狙撃手の姿が見えれば右眼も使えるけど……
爪戯は冷静に状況を分析する。
「あんただけでも逃げろ」
「逃げない!」
凪はしゃがみ込んだ爪戯に治癒をかけようとする。
爪戯と凪の前方、木々の影に軍人の姿があった。
左手を構えている。
「じゃあもう一発だけ受けるから、あとで治してもらうよ?」
爪戯は凪を背後へ押しやり、あえて一歩前へ出る。
乾いた音が響き、爪戯の右足を弾丸が貫くようにかすめた。
一撃貰うことになるけど、これで居場所は大体わかった。
そう確信し、即座に氷の
無数の氷が木々を粉砕した。
「……!?」
居ない!?
しかし、そこに人影はない。居るはずの狙撃手の姿が消えている。
動揺する間もなく、今度は爪戯の左側から弾が飛ぶ。
左肩を抉り、赤が飛ぶ。
「爪戯君!!」
凪が悲鳴を上げ、爪戯の方を見る。
能力で移動した? 弾道を変えられる能力? それとも複数人?
ダメだ、相手が撃ってから反応したのでは遅い……。
爪戯は痛みに耐えながら思考を巡らせる。
「探知でもできれば──……」
右手で左肩を押さえ、苦悶の声を漏らす。
凪が駆け寄る。
『任せろ! とTさんがおっしゃっていますが、どうしますか?』
ぬっと、爪戯の足元の地面からキルキーが顔を出し、暢気に告げた。
あまりに唐突な登場に、爪戯の目が点になる。
◇
軍人は、爪戯たちの左側の木々に紛れ込んでいた。
失敗しただけでなく、
そろそろトドメと行くか。
軍人は、以前の辛殺害任務に失敗した爪戯と、その一族を憎んでいた。
あろうことか、殺害対象だった辛と行動を共にしていることが許せないのだ。
軍人の首には、古びた鍵がぶら下がっていた。
軍人は右手を構える。
鍵が小さく揺れる。
──その微かな金属音を、ティーが聞き逃すはずもなかった。
次の瞬間、軍人の左わき腹を鋭利な氷が貫いた。
爪戯の氷だ。
な……何故居場所が……!?
軍人には理解できなかった。
完全に気配を消し、死角に潜んでいたはずの自分の居場所が、なぜバレたのか。
ここは一度退いて態勢を……!
そう判断し、首の鍵を手に取る。
しかし、その刹那、キルキーの刃が襲い掛かる。
鍵を握ろうとした手に刃が直撃し、軍人は鍵を取り落とした。
『やはり、
キルキーが冷ややかに告げる。
その鍵は、かつて
こうなっては……
「辛殺しに失敗した、お前だけでも!!」
軍人は最後の力を振り絞り、左手を爪戯へと向ける。
だが──
鮮血が舞った。
軍人の額に、ぽっかりと穴が開く。
「姿さえ見えれば、右眼が使える」
爪戯は右眼を見開き、冷酷に言い放った。
軍人は即死し、音もなく地面へと転がった。
草むらから、ティーとウミリンゴが顔を出す。
「よくやった褒めて遣わす」
ティーがいつもの調子で軽口を叩く。
『最後トドメを刺すのが遅れてすみません』
キルキーが地面から現れ、丁寧に頭を下げる。
鍵を落とさせた後、即座に絶命させなかったことを詫びたのだ。
「いや全然大丈夫」
爪戯が答える横で、凪が「治癒!」と叫び、治療を開始した。
「ってか、何? 何をどうやって……?」
凪が治療の手を動かしながら、不思議そうに首を傾げる。
「オレが音を駆使して敵の位置を探知、それをキルキーに伝えてもらった」
ティーが得意げに答える。
自身の出す音波と、相手の発する微かな物音を感知し、居場所を特定したのだ。
「敵の最後の反撃は、右眼でダメージを返した」
爪戯も淡々と付け加える。
「最後……そういえば『辛殺し』がどうとかって言ってたけど……」
凪は不安そうに呟いた。
「多分辛達を家に招いたときのアレのことかと」
「?」
「どういうことよ」
爪戯の説明に、ティーは首を傾げ、ウミリンゴが追求する。
「辛を殺したい奴がいるってこと。しかも今ここに……多分だけど」
爪戯が推理を口にする。
辛を殺したい何者かが、この軍人を差し向けたのだ。
「じゃあ私達だけでもヤナギのところに向かうから、そっちはそっちでなんとかしなさいよ!」
ウミリンゴが割り切って言う。
凪は治療を終えると、まっすぐに前を見据え、辛の身を案じた。
……辛君。
その頃、辛の目の前では──かつての同僚・