半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

104 / 105
No.104「殉ずる

 これまでの状況をおさらいしよう。

 (きゅう)の国の城周辺では、何者かの音で操られている軍人と、王直属の近衛兵が乱戦を繰り広げていた。

 

 ティーが放つ音波の逆位相によって操作を打ち消し、解決したかに思われた。しかし、音以外の能力で操られている者もおり、完全には止められなかった。その一人が、(くろ)によって意識を奪われた真白(ましろ)だ。

 

 それに加え、自らの意志で行動し、(かのと)を殺そうとする者も存在していた。

 (すい)は「金髪の男」の命令と、操られた真白を救うために辛を襲撃したが敗北。現在拘束されている。翠以外にも辛を狙った軍人はいたが、それらは爪戯(つまぎ)たちによって阻止された。

 一方、シロホンは真白との死闘に勝利した後、能力の『印』をつけて回り、操られた軍人たちの動きを封じている最中だ。

 

 そしてヤナギは、竜神リューの呪いによって岩の檻に閉じ込められており、ウミリンゴたちがその封を解くべく向かっている。

 

 この入り組んだ戦況を整理した(なぎ)は、腕を組んで苦い顔をしていた。

 

「成程わからん」

 

 一言ぼやく。

 状況が複雑すぎて、彼女の理解が追いついていない。

 

「なんとなく、王狙いってより、戦わせること自体が目的に見える」

 

 爪戯が右手を口元に当てながら呟く。

 

「ん? あの人狙いの襲撃じゃないの?」

 

 凪が首を傾げる。

 軍人を操り、近衛兵と戦わせている。王もすぐ近くにいる。どう見ても狙いは王のように思えるが。

 

「神と悪魔って対立してるし、悪魔側の邪魔が入る可能性は容易に想像できるよね? だから邪魔が入る前に、こう……神達本人が一斉に奇襲でもした方が確実かなって」

 

 爪戯の言い分は理にかなっている。

 神も人間とはいえ、能力者としては最上位の存在だ。わざわざ一般の軍人を操ってまで襲わせるより、自分達で直接手を下した方が早いはずなのだ。

 

「なるほど~?」

 

 凪は要領を得ない様子で空返事をした。

 正直、神の真の目的が分からないからだ。

 

 二人は森の中を歩む。

 そんな二人を狙う影が、密かに迫っていた。

 

 影が異様に伸び、鋭い刃の形状へと変化する。

 次の瞬間、駆けつけた辛が金属の剣を生成し、その影を斬り弾いた。

 

 翠との交戦を終えた辛が、間一髪で間に合ったのだ。

 凪と爪戯が振り返る。

 

「辛君!?」

 

 凪が叫ぶ。目の前には辛と──もう一人、玄の姿があった。

 

「帰って来るなって言っておいたのに」

 

 玄は悠々とした態度で口を開いた。

 彼の足元から伸びる影が、生き物のように自在に蠢いている。

 そして左手には、凪が落としたはずの短剣が握られていた。

 

「でもまあ、これを持っていたおかげかこっちに来てくれた」

 

 玄は短剣を少し掲げながら言う。

 

「君の相手はオレがする」

 

 辛は、凪に渡した短剣に残る自身の『シン』の気配を辿り、玄のもとへとやって来た。

 しかし、それは玄にとって想定済みの行動だったようだ。

 

「あ……あれは」

 

 凪も短剣の存在を認識した。

 無くしたと思っていた短剣を、なぜ玄が持っているのか驚きを隠せない。

 

「でもその前に、教えて欲しい的な? 何故に仲良いのか不思議ゆえ」

 

 玄は緩い口調で淡々と語りだす。

 凪は怪訝そうに首を傾げた。

 

「君の母親を殺したのって、そいつですよね」

 

 そう言いながら、玄は爪戯を指さした。

 爪戯の頬に、一筋の冷や汗が流れる。

 衝撃の真実。

 凪の顔が一瞬、凍りついた。

 

「玄!」

 

 辛が叫んだ。

 玄は右手を下ろすと、核心を突いたまま言葉を続ける。

 

「あ、もしかして辛君……知ってた的な?」

 

 玄の発言に、辛の動きも止まる。

 凪が、恐る恐る辛の様子を窺った。

 

「……うん、そうだよ」

 

 重い口を開いたのは、爪戯だった。

 木々がざわめく。

 

 別に良いけど。(()()()())オレは困らないし。

 

 爪戯はかつて羽片(うかた)で、凪に対してそう嘯いていた。

 

「だってオレ、殺し屋だし」

 

 爪戯は白状した。その表情は無だった。

 淡々と事実を語る。

 爪戯は殺し屋一家の一員。

 凪の目が見開かれる。

 

「どうして……?」

 

 凪は俯き、両手で拳を強く握りしめる。

 

「辛君も、知ってて黙っていたの?」

 

 辛と爪戯の背中を見ながら、凪が震える声で呟く。

 

「二人して騙していたの? 嘘吐き(うそつき)

 

 正直な気持ちの吐露──

 

「……ってなるとでも思った?」

 

 誰もがそう思われた瞬間、凪はまっすぐに前を見据えて言い放った。

 

「私、そこまで短絡的じゃないので」

 

 凪のまさかの反応と言い分に、爪戯も辛も目を見開き驚愕する。

 

「舐めないで」

 

 凛としたその言葉に、玄すらも目を見開いた。

 思わぬ展開だ。

 

「そりゃ、爪なんとかさんの家に行った時は襲われたし~、辛君も大怪我させられたから……その頃なら信用も何もなかったけど」

 

 凪はふっと緩い表情に戻り、語りだす。

 爪戯も辛も、黙ってその言葉を聞き入れていた。

 

「でもその後は、色々助けてもらったし……」

 

 凪は此処までの道中、爪戯に何度も命を救われたことを思い返していた。

 

「それで十分だし、真実を知ろうとしないで一方的に恨むのは、ちょっと良くないかなって思ったばかりだったし」

 

 凪の頭には、シロホンとヒユの確執が浮かんでいた。

 彼らの間に生まれていた深い溝は、ヒユが事情も知らず、一方的にシロホンを悪と決めつけたことによるものだった。

 その過去を知った今の凪には、一方的に爪戯を責める気にはなれなかった。

 

「だから私は二人を恨んだりしない。そうせざるを得ない事情や状況があったんじゃないかと思えるから──……」

 

 凪は右手を胸に当て、堂々と告げる。

 その瞳は自信に満ちていた。

 

「……オレは知っていたというより、あの時気配で勘付いた」

 

 辛がようやく口を開く。

 爪戯が仲間になってすぐの頃のことだ。

 

『殺し屋なら何か知ってんじゃないかなって! もう一度よく思い返して? みて! ほら!! 人相書きとかないの!?』

 

 凪が尋ねた時、爪戯は肩をすくめ、降参のポーズで苦笑を浮かべていた。

 

『いやいや~、こんな世界だよ? 人殺しなんて星の数ほどいるじゃん? 特定無理だって』

 

 彼らのやり取りを黙って見ていた辛は、何も言わずに視線を地面へ落としていた。

 

 この時の爪戯から発せられた微かな気配の変化を、辛は察知していたのだ。

 

「といっても半信半疑だったから、言えなかった……」

 

 辛には確信がなかった。証拠もない。

 羽片に滞在していた時も、そう考えていた。

 

「何かで切り裂かれたと聞いて、違うかとも思ったが……右眼の能力も考慮すると、よく分からなくなって、さらに言い出せなくなった」

 

 辛は一筋の冷や汗をかきながら、俯き気味に白状する。

 

「それで()()()なら記憶や心を読めるから、読み取ってもらって……」

 

 辛は此処へ来る直前、あの人──デュオラスに自身の考えを読みとってもらった。

 そしてデュオラスは、さらに爪戯の心も読んだ。

 

『君の最初の勘は合ってるよ』

 

 デュオラスの答え。

 それが、辛の中で爪戯が凪の母親の死に関与していると確定した瞬間だった。

 

「確定したけど、今色々起きてるせいもあって、完全に言うタイミング逃した、と」

 

 凪は腕を組みながら、ジト目で辛を見る。

 辛は小さく「すみません」と言いながら、申し訳なさに頭を下げた。

 

 爪戯も、静かに口を開く。

 

「依頼されていったんだ……」

 

 あの日。凪の母の命日。

 

『一緒に来てもらうよ? 抵抗するなら殺しても構わないってさ。大人しくしてくれると助かる』

 

 爪戯は目の前に正座している女性──凪の母にそう告げた。

 殺し屋への依頼として、彼女を捕らえに来ていたのだ。

 

 凪の母親は全てを察し、静かに覚悟を決めたようだった。

 

『ならば死にましょう。あの方の足枷にならない為に──……』

 

 風が舞い、彼女自身の身体を引き裂いていく。

 凪は、襖の奥から切り裂かれる母親の姿を見ていた。

 

 爪戯には、その瞬間何が起きたのかわからなかった。

 ただ、彼女が自ら命を絶ったのだということだけは分かった。それだけだった。

 

「依頼……」

 

 凪の表情が少し険しくなる。

 

「その依頼したの神達(あんた達)じゃないの!? あんた色々知ってる風だし!」

 

 凪は右手で拳を作ると、玄へ向かって叫んだ。

 対する玄は、緩い表情を作ったまま、ただ立ちすくんでいた。

 

 ってかこの人、なんで待ってくれてるんだろう?

 

 爪戯は当然の疑問を抱いていた。

 敵として現れた玄が、攻撃もせずにこちらのやり取りが終わるのを、律儀に待っている。

 不思議に思うのは当然だった。

 

「あ~~~~、良い感じに仲違いして欲しかったのにな~」

「!?」

 

 玄は緩い表情のまま本音をこぼす。

 真相を暴露することで三人の仲が修復不可能になるのを予想していたのに、大きく外れたことにがっかりしたらしい。

 

 次の瞬間、辛の表情が鋭くなる。

 異能の気配。

 

 辛は瞬時に判断し、剣を振るう。

 迫り来る玄の影を斬り裂いた。

 

「良く反応できました」

 

 玄の操る影が地面から無数に突き出し、辛を空へと押し上げる。

 辛は器用に刃で影を受け流しながら、後退する。

 

「でもオレから聞き出したいなら、力尽くでやってみな的な?」

 

 玄は満面の笑みで、開戦を宣言した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。