半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
森の中、生い茂る緑の空間を青い空が染め上げる。
城へと歩みを進めるのは
その後ろでは、影に捕まれ引きずられる
「あんたって、
強引に連行されながら、「ってか私っていつもこんな……」と自虐的に突っ込みつつ、凪は玄へと問う。
玄は「出荷よ~」と呑気な口調で、悠々と歩いていた。
「そうだね。って言っても、能力者の寄せ集めなんだけどね」
玄が言うには、軍と言っても一枚岩の組織ではなく、都合の良い寄せ集めに過ぎないらしい。
そして、ふと思い出したように口にする。
「最初に会った時は、返事くれないし表情掴めなくて、なんだこいつって思ったね」
玄の言葉に、「なんかちょっと分かる」と思わず賛同してしまう凪であった。
玄は少し俯いた。
「でも、あの感じが、前闇神に似てて──……」
今の闇神は玄である。そして前闇神──ラウロスのことを、玄は懐かしむように思い出していた。
と同時に、辛との過去の記憶も蘇る。
「あとはまあ……妖退治に失敗してやられそうなところを、助けてもらった的な?」
その昔、玄は辛に命を助けられた過去がある。
「だからちょっと、キミらを試してみたくなって」
試す。凪の母親を殺した犯人を暴露することで、彼らの絆を試したのだ。
凪は、この人は本当は辛君と戦いたくないのではないか、と考えていた。
そして口にする。
「だったらなんで辛君と戦ったの? こっち側につけそうなのに」
「それは出来ない」
凪が言い放ったが、すぐさま玄はきっぱりと否定した。
「オレは前闇神の為にも、奴らに従うしかない」
玄は顔を上げ、まっすぐ前を見据えて言う。
凪はその言葉を聞いて思考する。
いや……事情も状況も何も知らないから、何とも言えないけど──……。
自身の持つ断片的な情報と玄の状況を照らし合わせるが、情報が足りない。
「オレも一つ聞いて良い? 的な?」
そう言いながら顔を少し後ろへ向け、玄は凪に問う。
「自分の母親を殺したあいつを問い詰めたりしないの、的な? な~んか仲良く二人で駆けつけちゃってさ~」
玄は凪達の仲を試した。結果、仲違いは起きず、それどころか二人して辛のもとへと駆けつけた。
凪が
「どうせ奴は何も知らん」
凪はきっぱりと言い切る。
前に辛と戦った時も、爪戯は依頼主を知らなかった。
凪からすれば、末端の実行犯である彼に母親のことを問い詰めても無意味だと理解していた。
玄は「そーなん?」と軽く返した。
◇
城の中へ。
玄は堂々と正面から乗り込んだ。
後ろには影で縛られた凪。
「さあ……譲ってもらおうか?」
態度は堂々としていたが、顔の表情は相変わらず緩い。
中央には、
しばしの間。
先に口を開いたのは、王である
「何度も言わせるな、学習しろ」
「ですよね~~~~~!」
玖の冷徹な言葉に被せるように、玄が言い放つ。
最初から交渉が成立するとは思っていないのだ。
「でも前回と違って、今ここに居る貴方様は本体ですよね?」
前回とは、塩神と石神が襲撃した件である。
その時の玖は分身体であった。
「簡単には逃げられないと思うんですよね~」
「無駄でしょ」
玄は左手で後ろにいる凪の肩を掴むと、空いている右手を高く上げて言い放つ。
すかさず凪が突っ込む。
「あと、今なら犠牲少なくて済む的な?」
「口調も態度も交渉する気ないでしょ!?」
緩い表情、軽い口調。
張り詰めた空気の中でも、凪の的確な突っ込みが絶えない。
「……何度も言わせるなと、言っている」
玖は布で顔を覆っていてその表情は読めないが、言葉には明確な怒りが込められていた。
直後、分厚い氷の壁が玄と凪の間に突然形成された。
玄は凍結から逃れるため、前へと踏み込んで距離を取る。
影の拘束から解放された凪は、反動で後ろへと尻餅をついた。
「氷……!!」
思わず声に出た。氷ということは……と考えながら振り向く。
「無事そうじゃん!」
「!」
爪戯が現れた。
玄が氷の方へ視線を移す。
すると氷が砕け散り、その奥から辛が姿を現した。
玄と玖の顔に、驚きの表情が浮かぶ。
◇
ここへ至る前。少し前のこと。
毒によって倒れた辛のもとへ、
傍らには爪戯が控えていた。
「……治療はするが、正直これ以上戦って欲しくない」
父・北王の、偽らざる素直な言葉だ。息子をこれ以上、理不尽な危険に晒したくはなかった。
「……」
沈黙する辛に、北王は口を開く。
「別にお前が戦う必要もないんだろ?」
辛が自ら戦う必要はない。厄介事は別の者に任かせればいい。
その言葉に、辛がゆっくりと口を開いた。
「……あいつ、オレを殺す気が無いんだ……でも、何に縛られているのか、なんで従ってんのか分からないが……こちらに刃を向けてくるというのなら」
辛には、玄が何故自分に刃を向けるのか、その真の理由を知り得ない。
けれど、刃を向けてくる割には殺意がないことを、直感で感じ取っていた。
「
辛は息を切らし、毒の残滓と闘いながらも力強く言い放った。
「奴の弱点ならさっきので分かった。次があるなら活かせと、言ったのはあんただろ?」
かつて辛は、弟の
しかし、北王に責められることはなく、「次があるなら活かせ」と教えられた。
北王も、その言葉を思い出していた。
こうして北王は完璧な解毒を施し、辛は再び戦場へと駆けつけたのであった。
◇
玄が応戦の態勢に入る。
左手を操作し、足元の影を蠢かせる。
この場に来てた北王医師が、何かした的な?
解毒のカラクリに考えを巡らせながらも、玄の視線は鋭く辛へと向けられていた。
「影を操ると言っても、強い光源には逆らえないんだろ……?」
辛は静かに、けれど力強く言い放つ。
身体に青い炎を纏い、自らが強烈な光源を作り出していた。
あの時、影で防がなかったから気づいたか……。火で自ら光源を……!
玄は、辛がマグネシウムの閃光弾で影を掃った時、辛の一振りを影の盾で防がなかった。
否、防げなかったのだ。身をかわして避けた。その一瞬の違和感から、辛は玄の能力の決定的な弱点を見抜いていた。
この状況では、強制的に逆行してしまう。
思考する玄の足元の影は、強烈な光を放つ辛へ向かっては伸びない。
光源から逃れるように、背後へと逆行する漆黒。
辛は左脚に纏った炎を
でも……だからって、簡単に負けてあげるわけにもいかなくてね。
一筋の汗をかきながら、玄は紙一重で辛の蹴りを躱す。
そのまま辛の懐へと入り込み、カウンターを繰り出そうとする。
だが、辛は伸ばした左脚の炎を再ブーストさせた。
空中で無理やり軌道を変え、下から強烈に蹴り上げ、玄の肘をかち上げた。
土埃が舞う中、玖は玉座の前で静かに構えていた。
「ったく、無事だな?」
傍らには、いつの間にか北王が現れていた。
「結界を張った。ここに居ればしばらくは大丈夫だろ」
玖と北王を包み込むように強固な結界が張られ、身の安全が確保された。
「あと勝手で悪いが、お前が散布した毒は、こちらで解除・解毒させてもらった」
北王は事後報告気味に言う。
辛が戦えるようにするため、玖の散布した対妖用の毒を強引に無力化したのだ。
とは言え……「火」の能力を使う以上、長くは──……。
北王は結界の中から、燃え盛る息子の身を案じる。
辛は半分が妖であるせいで、妖の弱点である「火」の能力を使うと、自傷ダメージが伴うのだ。
◇
一方、その頃。
凪は爪戯と共に、急いで城から離脱していた。
少しずつ戦場から離れて行く。
「辛君、置いて来て大丈夫?」
凪が身を案じて言う。
「巻き込みたくないから離れて欲しいってさ」
爪戯が、辛からの言伝を淡々と伝えた。
……まあ、あの黒髪の人もあまり戦いたくないみたいだったし……。
そう考えながらも、凪は次の行動を心配した。
「しかし私達は、これからどうすれば」
凪の声に重なるように、ドスドスと地面を荒々しく踏み鳴らす足音が近づいてきた。
「あーもう!! 私になんてこと頼むのよ!!」
ウミリンゴが頭を抱えながら、凪達の近くを早歩きで横切っていく。
「探知能力なんて持ってないっての!!」
ヤケクソ気味な叫びが森に木霊し、凪は思わずビクッと身構えた。