半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
『親に捨てられたオレを拾ったのが、闇神だった──……』
幼い日の
それがかつての闇神、ラウロス。
◇
現在。城内にて。
辛に蹴りを入れられた玄が、わずかに距離を取って体勢を立て直そうとしていた。
……加減しすぎた、倒しきれなかった。
辛は自らを青い炎で包み、その身を焼く熱と闘いながらも冷静に分析していた。
一撃で制圧しきれなかった。
「ったくズルいよね、能力沢山ってのは」
玄は痛がる素振りも見せず、飄々と言い放つ。
辛が地を蹴る。
火で光源を保ち、影を封じながら肉薄する。
どうせ後ろにしか伸ばせないなら……。
強力な光の前では、玄の影は辛に向かって伸びることができない。だからこそ、玄は影を後方へと伸ばした。
後ろに回避!
「!!」
辛の眼が見開かれた。
玄は背後の壁を影で破壊し、自身の身体を影で引き上げるようにして城の外へと飛んだのだ。
後ろの壁を破壊して、そのまま外に逃げる気が……。
結界の中から二人の戦いを見ていた
辛は一瞬動きを止めたが、すぐさま思考を切り替える。
瓦礫を越え、玄のあとを追う。
「……!」
玄の目が見開かれる。
簡単に逃がすわけないか。
玄はそう考えながらも、青に染まる空の中を飛翔し、後退を続けていた。
迫るのは、青い炎を纏った辛。
「辛……!」
結界の中から、
「……お前、前回も今回も殺す気ないだろ」
辛と玄は、空中で緩やかに落下しながら向かい合っていた。
その刹那、辛が鋭く言い放つ。
地面への着地と同時に、玄は再び後方へ回避。その直後、辛の重い蹴りが玄の居た地面に突き刺さる。
「さあ?」
玄は態度はぐらかした。
「何故こんなこと……」
「そうだなあ……」
辛が体勢を立て直し、問う。
次の瞬間、予想外の蹴撃が飛んだ。
玄の飛び蹴りが、辛の懐へ深く突き刺さる。
速い! 防ぐ暇が……!
辛は反応がわずかに遅れ、吹き飛ばされた。
轟音と共に土煙が舞う。
木々がなぎ倒され、木の葉が激しく散った。
「……」
辛は土煙が舞う中、ゆっくりと上体を起こし、ダメージを受けた腹に手を当てていた。
傷を負うほどに、病むほどに強くなる……奴のもう一つの能力──……。
長期戦は不利。
辛は思考する。
これが玄の持つ、もう一つの能力だ。
闇使いは病み使い──……。
ダメージが蓄積し、長期戦になるほど玄の身体能力は向上し、有利になっていく。
隙をつくしかない。
辛は痛みに耐えながらそう結論づけた。
視界を覆う土煙の中を、玄がゆっくりと歩み寄ってくる。
「正直に言うとね、キミの弟のところへ神二人を手引きしたのはオレなんだ」
辛と
「…………」
「でも、あの場にキミもいるのは計算外だったって言うか……」
玄は言い訳をするように言葉を続けた。
「でもあの二人は、キミを殺さなかった──……」
◇
丁が攫われた後のこと。
左眼を布で覆い隠した金髪の男が、ウルとレインに激しく詰め寄っていた。
「何故あの半人半妖を殺さなかった?」
玄は身を潜め、その様子を窺っていた。
「連れて帰るのが任務のはずだよ? 殺害しろなんて聞いてない」
男の詰問に、レインが平然と反論する。
レインの傍らで、ウルが口を開いた。
「レイン君はお優しいので、無駄な殺しはしないのですよ~」
「うざっ」
ウルの言葉にすかさずレインが嫌悪を示す。
「掟は絶対だ……禁を犯したものを生かす義理はないだろ」
男は掟の絶対順守を主張した。
玄は三人のやり取りを影の中から見つめながら思考していた。
雨神は……苦痛から解放させる為にトドメを刺したりはするけど、必要と感じない殺しは極力避ける傾向にある。
水神……人殺しを楽しむ性格だけど、今回は辛君を殺さなかった……?
レインが性格的に無駄な殺しを避けるのは理解できたが、どういう訳か、あのウルまでもが辛を殺さなかった。
このことがきっかけで、玄は後にこの二人と手を組むことになる。
◇
現在。玄の思考。
だから前回はあの二人と組んだ。こいつらなら、殺さないと思ったから。
辛が殺されないと確信して、玄は
「言う通りだよ、オレには出来ない。出来るわけない」
玄の脳裏によみがえるのは、死の淵で辛に助けられた記憶。
……でも──……。
「
玄の瞳から、完全に光が失われていた。
ある日のこと。金髪の男に呼び出された玄の目の前には、青く光る珠が置かれていた。
「闇神は我々に逆らった。だから罰として幽閉した」
男が冷酷に言い放つ。
右眼が、玄をねっとりと捉えている。
「闇神の『シン』だ。貴様が次の闇神となり、我々に従えばいつか解放してやろう」
そう男に脅され、玄は闇神の力を引き継いだ。
そして今回の事件。
音神と協力して軍人を操り、襲撃を仕掛けること。
そして、辛を殺すことも絶対の命令として下された。
やりたくなくても、やるしかない。
玄の頭には、前闇神ラウロスから差し出された温かい手が、あの日の救いの光景がこびりついて離れない。
「キミに刃を向けるしかなかった!」
玄は苦悩を振り払うように、影を鋭く変形させつつ構える。
「そうか」
辛は低く一言、それだけを言った。
土煙が完全に晴れ、なぎ倒された木々が姿を現す。
けれどそこに、辛の姿はどこにもなかった。
あれ!? 居ない!?
玄の目が見開かれた。
「だったらオレに倒されろ」
声は下から響いた。
次の瞬間、地面を割り、玄の真下から火のブーストを全開にした辛が飛び出した。
強烈な推進力を乗せた右膝が、玄の顎を完璧に捉えて打ち抜く。
地面から!? 気配隠してたのにどうやって位置把握を……いや、そういや辛君の作った短剣持ってるから……
玄は脳を揺らされ、ふらつき倒れながらも冷静に敗因を悟っていた。
辛は土の能力で地中を進み、真下からの死角を突く一撃を狙った。
だが、それには地上にいる標的の位置を正確に把握する必要がある。玄は闇の能力で気配を完全に隠せるはずだった。
しかし、玄の手には凪が落とした『辛の生成した短剣』が握られていた。
辛は自らの金属が放つ『シン』の繋がりを辿るだけで、容易に玄の現在地を特定できたのだ。
ってか
悲痛な過去を語っていたのに、容赦なく下から顎を砕かれた理不尽さに、玄はそんな疑問を抱きながら地面へ仰向けに転がった。
辛は脚の火を静かに収束させ、気絶したかつての同僚を見下ろして立ちすくんだ。