半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

109 / 111
No.109「止無し」

『親に捨てられたオレを拾ったのが、闇神だった──……』

 

 幼い日の(くろ)に、静かに手を差し伸べる者がいた。

 それがかつての闇神、ラウロス。

 

 ◇

 

 現在。城内にて。

 (かのと)と玄が対峙する。

 辛に蹴りを入れられた玄が、わずかに距離を取って体勢を立て直そうとしていた。

 

 ……加減しすぎた、倒しきれなかった。

 

 辛は自らを青い炎で包み、その身を焼く熱と闘いながらも冷静に分析していた。

 一撃で制圧しきれなかった。

 

「ったくズルいよね、能力沢山ってのは」

 

 玄は痛がる素振りも見せず、飄々と言い放つ。

 辛が地を蹴る。

 火で光源を保ち、影を封じながら肉薄する。

 

 どうせ後ろにしか伸ばせないなら……。

 

 強力な光の前では、玄の影は辛に向かって伸びることができない。だからこそ、玄は影を後方へと伸ばした。

 

 後ろに回避!

 

「!!」

 

 辛の眼が見開かれた。

 玄は背後の壁を影で破壊し、自身の身体を影で引き上げるようにして城の外へと飛んだのだ。

 

 後ろの壁を破壊して、そのまま外に逃げる気が……。

 

 結界の中から二人の戦いを見ていた(きゅう)が、冷静に戦況を分析していた。

 

 辛は一瞬動きを止めたが、すぐさま思考を切り替える。

 瓦礫を越え、玄のあとを追う。

 

「……!」

 

 玄の目が見開かれる。

 

 簡単に逃がすわけないか。

 

 玄はそう考えながらも、青に染まる空の中を飛翔し、後退を続けていた。

 迫るのは、青い炎を纏った辛。

 

「辛……!」

 

 結界の中から、北王(ほくおう)が息子の身を案じてその名を呟いた。

 

「……お前、前回も今回も殺す気ないだろ」

 

 辛と玄は、空中で緩やかに落下しながら向かい合っていた。

 その刹那、辛が鋭く言い放つ。

 

 地面への着地と同時に、玄は再び後方へ回避。その直後、辛の重い蹴りが玄の居た地面に突き刺さる。

 

「さあ?」

 

 玄は態度はぐらかした。

 

「何故こんなこと……」

「そうだなあ……」

 

 辛が体勢を立て直し、問う。

 次の瞬間、予想外の蹴撃が飛んだ。

 

 玄の飛び蹴りが、辛の懐へ深く突き刺さる。

 

 速い! 防ぐ暇が……!

 

 辛は反応がわずかに遅れ、吹き飛ばされた。

 轟音と共に土煙が舞う。

 木々がなぎ倒され、木の葉が激しく散った。

 

「……」

 

 辛は土煙が舞う中、ゆっくりと上体を起こし、ダメージを受けた腹に手を当てていた。

 

 傷を負うほどに、病むほどに強くなる……奴のもう一つの能力──……。

 長期戦は不利。

 

 辛は思考する。

 これが玄の持つ、もう一つの能力だ。

 

 闇使いは病み使い──……。

 

 ダメージが蓄積し、長期戦になるほど玄の身体能力は向上し、有利になっていく。

 

 隙をつくしかない。

 辛は痛みに耐えながらそう結論づけた。

 

 視界を覆う土煙の中を、玄がゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「正直に言うとね、キミの弟のところへ神二人を手引きしたのはオレなんだ」

 

 辛と(ひのと)の前に突如現れた水神ウルと雨神レイン。彼らを手引きしたのは、他でもない玄だったという。

 

「…………」

「でも、あの場にキミもいるのは計算外だったって言うか……」

 

 玄は言い訳をするように言葉を続けた。

 

「でもあの二人は、キミを殺さなかった──……」

 

 ◇

 

 丁が攫われた後のこと。

 左眼を布で覆い隠した金髪の男が、ウルとレインに激しく詰め寄っていた。

 

「何故あの半人半妖を殺さなかった?」

 

 玄は身を潜め、その様子を窺っていた。

 

「連れて帰るのが任務のはずだよ? 殺害しろなんて聞いてない」

 

 男の詰問に、レインが平然と反論する。

 レインの傍らで、ウルが口を開いた。

 

「レイン君はお優しいので、無駄な殺しはしないのですよ~」

「うざっ」

 

 ウルの言葉にすかさずレインが嫌悪を示す。

 

「掟は絶対だ……禁を犯したものを生かす義理はないだろ」

 

 男は掟の絶対順守を主張した。

 玄は三人のやり取りを影の中から見つめながら思考していた。

 

 雨神は……苦痛から解放させる為にトドメを刺したりはするけど、必要と感じない殺しは極力避ける傾向にある。

 水神……人殺しを楽しむ性格だけど、今回は辛君を殺さなかった……?

 

 レインが性格的に無駄な殺しを避けるのは理解できたが、どういう訳か、あのウルまでもが辛を殺さなかった。

 このことがきっかけで、玄は後にこの二人と手を組むことになる。

 

 ◇

 

 現在。玄の思考。

 

 だから前回はあの二人と組んだ。こいつらなら、殺さないと思ったから。

 

 辛が殺されないと確信して、玄は羽片(うかた)で意図的にあの二人と手を組んだのだ。

 

「言う通りだよ、オレには出来ない。出来るわけない」

 

 玄の脳裏によみがえるのは、死の淵で辛に助けられた記憶。

 

 ……でも──……。

 

前闇神(あの人)の為にも、従うしかないんだ」

 

 玄の瞳から、完全に光が失われていた。

 

 ある日のこと。金髪の男に呼び出された玄の目の前には、青く光る珠が置かれていた。

 

「闇神は我々に逆らった。だから罰として幽閉した」

 

 男が冷酷に言い放つ。

 右眼が、玄をねっとりと捉えている。

 

「闇神の『シン』だ。貴様が次の闇神となり、我々に従えばいつか解放してやろう」

 

 そう男に脅され、玄は闇神の力を引き継いだ。

 そして今回の事件。

 

 音神と協力して軍人を操り、襲撃を仕掛けること。

 そして、辛を殺すことも絶対の命令として下された。

 

 やりたくなくても、やるしかない。前闇神(あの人)はオレの恩人だから。

 

 玄の頭には、前闇神ラウロスから差し出された温かい手が、あの日の救いの光景がこびりついて離れない。

 

「キミに刃を向けるしかなかった!」

 

 玄は苦悩を振り払うように、影を鋭く変形させつつ構える。

 

「そうか」

 

 辛は低く一言、それだけを言った。

 土煙が完全に晴れ、なぎ倒された木々が姿を現す。

 けれどそこに、辛の姿はどこにもなかった。

 

 あれ!? 居ない!?

 

 玄の目が見開かれた。

 

「だったらオレに倒されろ」

 

 声は下から響いた。

 次の瞬間、地面を割り、玄の真下から火のブーストを全開にした辛が飛び出した。

 強烈な推進力を乗せた右膝が、玄の顎を完璧に捉えて打ち抜く。

 

 地面から!? 気配隠してたのにどうやって位置把握を……いや、そういや辛君の作った短剣持ってるから……()()()把握したのか……。

 

 玄は脳を揺らされ、ふらつき倒れながらも冷静に敗因を悟っていた。

 辛は土の能力で地中を進み、真下からの死角を突く一撃を狙った。

 だが、それには地上にいる標的の位置を正確に把握する必要がある。玄は闇の能力で気配を完全に隠せるはずだった。

 しかし、玄の手には凪が落とした『辛の生成した短剣』が握られていた。

 辛は自らの金属が放つ『シン』の繋がりを辿るだけで、容易に玄の現在地を特定できたのだ。

 

 ってかオレ(ひと)の話聞いてた?

 

 悲痛な過去を語っていたのに、容赦なく下から顎を砕かれた理不尽さに、玄はそんな疑問を抱きながら地面へ仰向けに転がった。

 辛は脚の火を静かに収束させ、気絶したかつての同僚を見下ろして立ちすくんだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。