半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

111 / 111
No.111「再登場」

 城から少し離れた森の中。

 

 軍人数名を捕獲し、拷問にかけて遊んでいたのは水神ウル。

 笑顔で軍帽を取ると、それを人差し指でくるくると回しながら「頑張って」と血まみれの軍人に声をかけていた。

 

「おい! 何遊んでやがる!! 早く魂回収しろ! 合流すんぞ!!」

 

 そんなウルに怒気を強めて声をかけたのは、赤い服の人物。

 後ろで髪を三つ編みにまとめ上げている。

 

「他のやつらも集まって来てんぞ!!」

 

 さらに苛立たしげに言い放つ。

 事実──別の場所では鮫神が、撃神(うちがみ)の地下室で回収した燦秋(さんしゅう)を背負って歩を進めていた。

 

 ウルは笑顔のまま、一瞬動作を止めた。

 そして口を開く。

 

「先、行ってて下さい☆」

「話聞いてねえな!?」

 

 ウルの言葉に、三つ編みの人物は呆れたように声を荒げるだけだった。

 

 ◇

 

 誰もこんなオレを救わないと思っていたから、純粋に嬉しかった。

 

 (くろ)の独白。

 路地裏でラウロスに差し伸べられた手が純粋に嬉しかった、そんな過去。

 

 だから救いたかったし、殺したくなかった。

 

 自分を助けたラウロスを、今度は自分が助けたかった。

 そして、命を救ってくれた(かのと)を殺したくなかった。

 玄はずっと、その板挟みの葛藤の中で行動していた。

 

「……」

 

 玄は仰向けに倒れ、傍らでは辛が立ちすくんでいる。

 

「ねえ……」

 

 玄は辛の気遣いに気がついたのか、重い口を開いた。

 

「話聞いてた!? オレ、キミを殺さないといけないって言ったんだけど!? どうしてそうなる!?」

 

 玄は辛を殺すよう命じられた。けれど辛の回答は「オレに倒されろ」という強烈な膝蹴りだった。

 玄的には、辛に倒れたフリをしてくれと言いたかったのだ。

 

「標的と戦闘後、返り討ちに遭ったとでも言うことにして……ことが終わるまで寝てろ。そもそも……」

 

 辛なりの不器用な気遣い。

 そして最後は言葉を濁した。

 玄はゆっくりと上体を起こした。

 辛は視線を合わせようとしない。

 

「……なんかさ~、三人の仲を試すようなこと言ったけど、アレで仲違いするようなら、それはそれでよかったって言うか」

 

 玄がぽつりと口を開く。

 

「そしたら二人を殺して、混乱に乗じて辛君だけを逃がすとか出来そう……みたいな~?」

 

 玄は右手を口もとに当て、悪びれる様子もなく緩い表情で軽く言った。

 

「……」

 

 辛は無表情だったが、「流石にそれはないだろ」と言いたげな冷たい空気を発していた。

 すぐさま玄は辛へと向き直る。

 辛も玄と視線を交わした。

 

「でも駄目なんだよ。オレが闇神に執着してなかったとしても──……」

「……」

 

 辛は黙って玄の話を聞いていた。

 

「鍵神って奴が、キミを殺せ殺せって煩くてね。(すい)にキミが妖だと伝え、殺すよう(けしか)けたのも鍵神」

 

 左眼を布で隠す金髪の男──鍵神。

 軍の裏で暗躍し、異常なまでに辛の死を望んでいる。

 

「だから仮にキミを逃がせたとしても、今キミの命を取り逃がしても、また殺せって言いそうって言うか……」

「……」

 

 玄は大量に汗をかきながら、辛へ切実な事実を告げた。

 玄は辛を生かしたいが、鍵神の存在が絶対的な障害となる。

 

「なんでそいつ、そんなにオレを殺したいんだ?」

 

 辛の純粋な疑問。

 

「さあ……? 掟がどうとかなんとか……」

 

 玄が首を傾げる。

 玄は神の座について日が浅い。その真の理由をよく知らなかった。

 

「この世には、()()()()()()()()()()がある」

 

 突如、空から声が響いた。

 二人は声のする上空へと視線を移す。

 

何人(なんぴと)も、その禁を犯すことは許されない。らしいよ……」

 

 城の方角、妖の背に乗り飛翔する存在。

 

「まあ、殺すより有効活用(実験体に)したい派もいるけどね」

 

 そう言いながら現れたのは、雨神レイン。

 

 妖用の毒のせいでなかなか此処まで来られなかったけど……どういう訳か解除されてやっと来られたな……。

 

 レインはそんなことを思いながら小さくため息をついた。

 (きゅう)によって散布されていた対妖毒により、妖に乗って移動するレインは足止めを食らっていた。

 けれど北王(ほくおう)が毒を解除したため、近づくことが可能となったのだ。

 

「あいつ……」

「雨神!」

 

 辛と玄が警戒を強める。

 

「あ、そうだ。キミ達の話、少し聞こえたんだけどさ」

 

 レインは少し高度を落とす。

 彼が乗る妖の背には、不気味に大きな箱が括りつけられていた。

 

「キミの言う前闇神──……もうこの世にはいないよ」

 

 レインの十字の瞳が、真っ直ぐに玄を捉える。

 玄の眼が見開かれた。

 

「お前!!」

 

 辛がすかさず声を上げた。

 

「何? キミは知っているんだ?」

 

 レインは辛へ視線を移し、言葉を投げる。

 

「……」

 

 辛はどう説明したら良いか分からず、沈黙する。

 

「……? えっ……どういう?」

 

 玄が顔面を蒼白にさせ、冷や汗を流しながら口を開いた。小さく「デジャヴ」と呟きながら。

 

「『シン』は、()()()()()()()取り出すんだよ? キミが闇神の『シン』を持っているということは、()()()()()()だよ……」

 

 レインの告げる、あまりに無慈悲な事実。

 辛は蝶神から「神の世代交代」について聞いていた。

 そして、実際に殺され『シン』を取り出された少年を目撃したこともある。

 ゆえに、前闇神の末路という答えにたどり着いていたのだ。

 

「それ以上は……!」

 

 辛は金属生成で空中に足場を形成すると、それを蹴って飛び上がり、レインに肉薄する。

 だが、レインは焦る様子もなく冷静に口を開いた。

 

「キミには一度、矢を撃ち込んだよね」

 

 レインはかつて羽片(うかた)で、辛の身体に一撃、矢を撃ちこんだ。

 そして辛は、半分が妖だ。

 レインの「妖操作」の能力が作動する。

 

 辛は空中で自由を奪われ、そのまま地に倒れこんだ。

 

 身体の、自由が利かない……。

 

 辛は全く力の入らない身体をなんとか動かそうとする。けれど、指一本動かない。

 

「……」

 

 玄は、完全に放心状態だった。

 レインが虚空から弓を形成する。

 

 既に死んでいる……? オレは、なんのために──……。

 

 玄の顔に、深い絶望が浮かぶ。

 恩人のためにと、己を殺して神に従ってきた。今までしてきた悪事は、全て無駄だった。

 

 レインは放心状態の玄へ向け、静かに弓を構える。

 矢が放たれ、無抵抗の玄に命中した。

 胸から肩をかすめ、鮮血が飛ぶ。

 

 闇神……どうして置いて行ったんだよ。

 

 玄の悲痛な思いが虚空に消える。

 玄と辛は、ただ地に伏すことしかできなかった。

 

「……」

 

 レインは無言で二人を見下ろしていた。

 その後ろ、城の中──玄によって破壊された壁の穴から、北王が顔を出す。

 

「……! 辛!」

 

 倒れこんだ息子の姿を見て、名を叫ぶ。

 北王の傍にいる玖も、事態の悪化に冷や汗を流す。

 

「……雨神」

 

 すると、北王たちの背後から、不吉な影が現れた。

 鍵神だ。

 

「早く殺せ──……」

 

 鍵神がそう口にした瞬間、北王の左肩から右肘にかけて、突如として深い裂傷が走った。

 

「!!」

 

 玖は布で顔を隠していたが、その肩が大きく揺れ、明らかに驚いた様子を見せる。

 北王の血が舞う。

 

「オレの眼は誤魔化せないぞ」

 

 そう言いながら、鍵神は布から覗く右眼で北王を捉え、右手を前に突き出していた。

 不可視の裂傷は、鍵神の能力によってつけられたものだと判断できた。絶体絶命。

 

 ──だが、次の瞬間。

 轟音と共に、城の天井が木端微塵に吹き飛んだ。

 

 巨大な瓦礫が降り注ぎ、土ぼこりが周囲を埋め尽くす。

 

 !? 次はなんだ!? 上から……!?

 

 玖は驚愕に息を呑む。

 次から次へと現れる乱入者たち。

 

「ふふふ~ん」

 

 もうもうと立ち込める煙が晴れて行く。

 

「やっと再登場だぜ!!」

 

 楽しげに弾んだ声が、崩壊した城内に響き渡る。

 結界の中で、玖はそれを見た。

 

「おらぁ! 呼んで来てやったぞ! 感謝せい!!」

 

 それはモドキの声だった。

 シャチに四つ足が生えたような奇妙な形態のモドキ。

 そしてその背の上には、長柄の槍を肩に担いだアヴェルスが、不敵な笑みを浮かべて乗っていた。

 

「後でお仕置きな」

「ヒエッ……」

 

 アヴェルスは満面の笑顔だったが、その言葉には物騒な殺気がこもっていた。

 

「吸血鬼……」

 

 対峙する鍵神が、忌々しげに低く呟いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4878/評価:8.73/連載:89話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:07 小説情報

魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話(作者:考える人)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 中学三年の夏、ごくごく一般的な少年である渡谷(わたがや) 雪春(ゆきはる)は、怪しい男の勧誘を受け、まるでフィクションのような世界――魔法や異能が存在する世界へと飛び込むことになる。異能を学ぶ学園に入学した雪春が望むのは、もちろん漫画やラノベの主人公のような存在になること。夢にまで見た世界が実在していたことで、浮かれ切った雪春はそうなれると信じて疑わなかっ…


総合評価:36602/評価:9.08/連載:109話/更新日時:2026年08月04日(火) 20:02 小説情報

ポケモン現代入り(作者:ささみ)(原作:ポケットモンスター)

▼ よくあるポケモン現代入り系作品です。それ以上も以下もないよ。


総合評価:14814/評価:8.44/連載:84話/更新日時:2026年08月10日(月) 14:00 小説情報

禪院全「全ては僕の為に」(作者:羂索ハードモード)(原作:呪術廻戦)

一九七七年、冬。▼呪術御三家が一つ、禪院家に、一人の『化け物』が産声を上げた。▼その名は禪院全。生まれながらにして規格外の呪力を宿し、父の歪んだ野心という名の呪いを背負わされた少年。▼彼が与えられた生得術式は、他者の術式を根こそぎ奪い取り、己の糧とする禁忌の力――【簒奪呪法】。▼奪うも与えるも思いのまま。才能に恵まれず虐げられる者たちに術式を『禅譲』しては狂…


総合評価:27495/評価:9.01/連載:55話/更新日時:2026年07月26日(日) 12:00 小説情報

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:13104/評価:8.09/連載:42話/更新日時:2026年08月09日(日) 17:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>