半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.116「逆位相」

 森の中、岩の前。

 ティーは竜神リューを追うことを決めた。

 

「? 追いかけないのか?」

『……』

 

 振り返り、ヤナギの精霊キルキーに問う。

 

『先に行ってて下さい』

 

 キルキーは岩から目を離さず、静かに言った。

 ティーは深くは追及せず、能力で作った翼を広げ、空へと駆け出した。

 

 ティーの気配が完全に消えたのを見計らって、キルキーは目前の岩に向かって口を開いた。

 

『もう一度、斬りかかりましたが……硬度計測、続行しますか?』

 

 岩の中──主たるヤナギへ問う。

 

「ん~……もう大丈夫かな」

 

 岩の中から響く、余裕のあるヤナギの返答。

 反撃のための情報は、十分に得た。

 

 ◇

 

 一方、(なぎ)とシロホン。

 二人の間に風が吹き、木の葉が舞った。

 

「さて……行くか」

「あ、でも……場所分かる?」

「……」

 

 シロホンは凪から血を少しもらい受け、渇きを癒すと、ゆっくりと立ち上がって言った。

 そして、二人の間に気まずい沈黙が訪れた。

 

「……多分」

「ええっ!?」

 

 シロホンが適当な方角へ歩き出した。

 凪は「って、待ってよ!」と叫び、慌てて後を追う。

 

 ◇

 

 破壊された城の一室。リューと対峙するのは爪戯(つまぎ)とウミリンゴ。

 爪戯は右眼でダメージを返したが、身代わりに阻まれ相手には届いていない。

 

「ついでに腹ごしらえも、しておこうかなと」

 

 リューが無慈悲に言い放つ。

 

「はあ?」

 

 すかさずウミリンゴが声を上げる。

 その中で、爪戯は必死に思考していた。

 

 しかしどうする? 右眼は……使えそうにない……。

 

 ここに来るまでに一度使い、先ほど花神の身代わり相手に二度目を使った。

 右眼のストック(シン)は、もうない。

 

「う~ん、お腹空いたからね」

 

 爆発の余韻が残る中、ウミリンゴの怒声に対して、リューが子供に説明するように口を開いた。

 

「丁度此処に、()()()があるから……」

 

 リューは右手を顔の前へと持って行くと、不気味に微笑みながら言った。

 

「お腹が空いたら『食べる』のは、普通のことだよね」

 

 捕食者の眼。

 爪戯とウミリンゴの背筋が凍り、冷や汗が流れる。

 とっさに爪戯は右手を前に突き出した。

 

「簡単にやられるわけないよ?」

 

 そう言いながら鋭い氷の礫を形成し、一斉に投げつける。

 

「う~ん」

 

 そう呟きながら立ちすくむリューの後ろで、花神は肩の力を抜いて立っていた。

 リューは一瞬、フッと微笑む。

 

 氷はリューに命中した。しかし、そのすべてが硬質な音を立て、肌の上で砕け散った。

 

 効かないか……。

 

 爪戯は絶望的な状況を冷静に見ていた。

 

 リューは微笑んだまま、両手を広げて立っていた。

 リューの後ろで、花神が彼を見てため息をつく。

 

 どんな攻撃も防げる「盾」の能力──……ほんと、便利な奴。

 

 花神の、竜神に対する評価。

 どんな強力な攻撃であろうと、この「盾」がある限り、彼の肌に傷一つすらつけられない。

 

「う~ん……目には目をで、どう?」

 

 そう言いながらリューは右手をかざす。

 冷気が放たれ、空中に鋭利な氷が形成されていく。

 

 爪戯とウミリンゴの眼が見開かれた。

 

 こいつ、岩だけじゃなく氷も作れるのか!

 

 リューは二人へ向けて、無数の氷の礫を投げつけた。

 爪戯はウミリンゴを庇うように前に立ち、自身の氷で盾を作って防ごうとするが、貫通した氷片が身体に裂傷を作っていく。

 

 次の瞬間。草むらから飛び出る影があった。

 ティーだ。

 

 大きく息を吸い込み、口から強烈な音波を放つと、迫り来る氷が空中で粉々に砕け散った。

 

「……!?」

 

 爪戯の目が見開かれ、ウミリンゴは頭を抱えるようにしてしゃがみ込んだ。

 

 音で氷を破壊したってところかな……音の出どころは──……。

 

 リューは前を見据えたまま瞬時に思考し、結論を出す。

 

「う~ん、そこかな?」

 

 そう言い、振り返ることなく背後へ向けて氷の槍を飛ばす。

 リューの後ろの上空を、ティーが飛んでいた。

 ティーは素早く旋回し、氷の槍をギリギリで躱す。

 

 岩以外も作れるのか……。

 

 ティーは状況を分析しながら、空からリューを見下ろした。

 その時、一瞬、ティーの大きな耳が遠くの『音』を察知した。

 

 そして思考を続ける。

 

 物理的な音の攻撃だと防がれるなら──……。

 

「……」

 

 『歌』ならどうだ……?

 

 物理的な音波は盾で完全に防がれる。なら、精神や肉体に作用する歌によるデバフならどうだ、と言わんばかりに戦法を切り替えた。

 ティーは、淀みない声で怪しい子守歌を歌い始めた。

 

 その歌を聞いた瞬間、花神の目が虚ろになる。

 

「なんか……眠く……」

 

 花神は抵抗できず膝をつき、首を垂れていく。

 だが、その前に立つリューは全く効いていない余裕の表情。

 

「本当に雑魚いな~~~~」

「んにゃと!?」

 

 歌の流れる戦場、リューの軽口に花神は朦朧としながらも力なく突っ込む。

 

「仕方ないなあ……」

 

 そう言い、リューは一呼吸置いた。

 口を開き、特定の音を出す。

 

 『音』には──……『音』で!!

 

 リューの前の、爪戯とウミリンゴの目が見開かれる。

 

 音が、消えた!?

 

 この不自然な無音の状況を、ティーは上空から分析する。

 

 逆位相で打ち消したか……効かない気はしてたけど……。

 

 音は波であり、全く逆の波形をぶつけることで打ち消すことが出来る。

 軍人の洗脳を解いた時と同じ原理を、リューは咄嗟に用いて歌を消して見せたのだ。

 ティーは、それが防がれると分かっていながらも歌い続けていた。

 

 でもまあ……多少の足止めと……。

 

 ティーが思考する中、上空から猛スピードで近づく影があった。

 空中の足元に木の板を展開し、それを力強く踏み鳴らす。

 その澄んだ木琴の音を自己バフとし、尋常ではない速度へ加速する。

 

 位置を知らせるだけの音が出せれば十分……! あいつ、耳は良い方だしな。

 

 ティーは歌うのをやめ、少し横へ移動して射線を空けた。

 影は地上の木の板を蹴り、はるか上空へと飛び出す。

 

 木琴の音で身体能力を強化──……。

 

 影──シロホンが、上空で再び木の板を展開し、足場とする。

 それを全力で蹴り下ろし、真下の対象へと重力以上の速度で迫る。

 

 そのまま、殴る!

 

 音速を超えんばかりの急降下。シロホンの全体重と音のバフを乗せた強烈な踵落としが、リューの頭頂部を直撃した。

 

 凄まじい轟音。

 地面はクレーターのように割れ、周囲に無数の岩が吹き飛ぶ。

 

 爪戯は咄嗟にウミリンゴを庇うように氷の盾を展開し、飛んでくる石礫を防いだ。

 

 シロホンは直撃の反動を利用して岩を蹴り、軌道を変える。

 少し離れた地に、華麗に着地して見せた。

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