半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
森の中、岩の前。
ティーは竜神リューを追うことを決めた。
「? 追いかけないのか?」
『……』
振り返り、ヤナギの精霊キルキーに問う。
『先に行ってて下さい』
キルキーは岩から目を離さず、静かに言った。
ティーは深くは追及せず、能力で作った翼を広げ、空へと駆け出した。
ティーの気配が完全に消えたのを見計らって、キルキーは目前の岩に向かって口を開いた。
『もう一度、斬りかかりましたが……硬度計測、続行しますか?』
岩の中──主たるヤナギへ問う。
「ん~……もう大丈夫かな」
岩の中から響く、余裕のあるヤナギの返答。
反撃のための情報は、十分に得た。
◇
一方、
二人の間に風が吹き、木の葉が舞った。
「さて……行くか」
「あ、でも……場所分かる?」
「……」
シロホンは凪から血を少しもらい受け、渇きを癒すと、ゆっくりと立ち上がって言った。
そして、二人の間に気まずい沈黙が訪れた。
「……多分」
「ええっ!?」
シロホンが適当な方角へ歩き出した。
凪は「って、待ってよ!」と叫び、慌てて後を追う。
◇
破壊された城の一室。リューと対峙するのは
爪戯は右眼でダメージを返したが、身代わりに阻まれ相手には届いていない。
「ついでに腹ごしらえも、しておこうかなと」
リューが無慈悲に言い放つ。
「はあ?」
すかさずウミリンゴが声を上げる。
その中で、爪戯は必死に思考していた。
しかしどうする? 右眼は……使えそうにない……。
ここに来るまでに一度使い、先ほど花神の身代わり相手に二度目を使った。
右眼の
「う~ん、お腹空いたからね」
爆発の余韻が残る中、ウミリンゴの怒声に対して、リューが子供に説明するように口を開いた。
「丁度此処に、
リューは右手を顔の前へと持って行くと、不気味に微笑みながら言った。
「お腹が空いたら『食べる』のは、普通のことだよね」
捕食者の眼。
爪戯とウミリンゴの背筋が凍り、冷や汗が流れる。
とっさに爪戯は右手を前に突き出した。
「簡単にやられるわけないよ?」
そう言いながら鋭い氷の礫を形成し、一斉に投げつける。
「う~ん」
そう呟きながら立ちすくむリューの後ろで、花神は肩の力を抜いて立っていた。
リューは一瞬、フッと微笑む。
氷はリューに命中した。しかし、そのすべてが硬質な音を立て、肌の上で砕け散った。
効かないか……。
爪戯は絶望的な状況を冷静に見ていた。
リューは微笑んだまま、両手を広げて立っていた。
リューの後ろで、花神が彼を見てため息をつく。
どんな攻撃も防げる「盾」の能力──……ほんと、便利な奴。
花神の、竜神に対する評価。
どんな強力な攻撃であろうと、この「盾」がある限り、彼の肌に傷一つすらつけられない。
「う~ん……目には目をで、どう?」
そう言いながらリューは右手をかざす。
冷気が放たれ、空中に鋭利な氷が形成されていく。
爪戯とウミリンゴの眼が見開かれた。
こいつ、岩だけじゃなく氷も作れるのか!
リューは二人へ向けて、無数の氷の礫を投げつけた。
爪戯はウミリンゴを庇うように前に立ち、自身の氷で盾を作って防ごうとするが、貫通した氷片が身体に裂傷を作っていく。
次の瞬間。草むらから飛び出る影があった。
ティーだ。
大きく息を吸い込み、口から強烈な音波を放つと、迫り来る氷が空中で粉々に砕け散った。
「……!?」
爪戯の目が見開かれ、ウミリンゴは頭を抱えるようにしてしゃがみ込んだ。
音で氷を破壊したってところかな……音の出どころは──……。
リューは前を見据えたまま瞬時に思考し、結論を出す。
「う~ん、そこかな?」
そう言い、振り返ることなく背後へ向けて氷の槍を飛ばす。
リューの後ろの上空を、ティーが飛んでいた。
ティーは素早く旋回し、氷の槍をギリギリで躱す。
岩以外も作れるのか……。
ティーは状況を分析しながら、空からリューを見下ろした。
その時、一瞬、ティーの大きな耳が遠くの『音』を察知した。
そして思考を続ける。
物理的な音の攻撃だと防がれるなら──……。
「……」
『歌』ならどうだ……?
物理的な音波は盾で完全に防がれる。なら、精神や肉体に作用する歌によるデバフならどうだ、と言わんばかりに戦法を切り替えた。
ティーは、淀みない声で怪しい子守歌を歌い始めた。
その歌を聞いた瞬間、花神の目が虚ろになる。
「なんか……眠く……」
花神は抵抗できず膝をつき、首を垂れていく。
だが、その前に立つリューは全く効いていない余裕の表情。
「本当に雑魚いな~~~~」
「んにゃと!?」
歌の流れる戦場、リューの軽口に花神は朦朧としながらも力なく突っ込む。
「仕方ないなあ……」
そう言い、リューは一呼吸置いた。
口を開き、特定の音を出す。
『音』には──……『音』で!!
リューの前の、爪戯とウミリンゴの目が見開かれる。
音が、消えた!?
この不自然な無音の状況を、ティーは上空から分析する。
逆位相で打ち消したか……効かない気はしてたけど……。
音は波であり、全く逆の波形をぶつけることで打ち消すことが出来る。
軍人の洗脳を解いた時と同じ原理を、リューは咄嗟に用いて歌を消して見せたのだ。
ティーは、それが防がれると分かっていながらも歌い続けていた。
でもまあ……多少の足止めと……。
ティーが思考する中、上空から猛スピードで近づく影があった。
空中の足元に木の板を展開し、それを力強く踏み鳴らす。
その澄んだ木琴の音を自己バフとし、尋常ではない速度へ加速する。
位置を知らせるだけの音が出せれば十分……! あいつ、耳は良い方だしな。
ティーは歌うのをやめ、少し横へ移動して射線を空けた。
影は地上の木の板を蹴り、はるか上空へと飛び出す。
木琴の音で身体能力を強化──……。
影──シロホンが、上空で再び木の板を展開し、足場とする。
それを全力で蹴り下ろし、真下の対象へと重力以上の速度で迫る。
そのまま、殴る!
音速を超えんばかりの急降下。シロホンの全体重と音のバフを乗せた強烈な踵落としが、リューの頭頂部を直撃した。
凄まじい轟音。
地面はクレーターのように割れ、周囲に無数の岩が吹き飛ぶ。
爪戯は咄嗟にウミリンゴを庇うように氷の盾を展開し、飛んでくる石礫を防いだ。
シロホンは直撃の反動を利用して岩を蹴り、軌道を変える。
少し離れた地に、華麗に着地して見せた。